テツモグラはいつももがいてます

はてなダイアリー「鉄道旅行とは巡ること」からの移行ブログです。鉄道を含む交通機関関連がメインだけれど実際には雑多ネタ。

鉄道会社及び沿線住民の「愚直な活動」がマスコミからも鉄道ファンからも注目されない悲しい現実

特急「北陸」の運行終了、及び急行「能登」の定期運転終了日、上野駅も金沢駅にも相当の人が詰め掛けたようだ。金沢駅での様子は昨日のTV朝日「報道Station」生中継で、上野駅での様子は朝日新聞や日刊スポーツ、あるいは読売新聞など各紙の公式サイトを見て、だいたい理解することが出来た。金沢駅ではそうでもなかったみたいだが、上野駅では規制ロープから身を乗り出して撮影する人、後ろから押されて転倒する人、もみ合いになって額から出血する人も中にはいたそうだ。上野駅には鉄道ファン・にわかテツ合わせて約3000人も集まったそうだから、何も起こらなかったらそれこそ本当に奇跡だよ。
asahi.com(朝日新聞社):「北陸」「能登」ラストラン 上野駅にファン3000人 - 社会 asahi.com(朝日新聞社):「北陸」「能登」ラストラン 上野駅にファン3000人 - 社会
で、マスコミも多くの鉄道ファンも「北陸」及び「能登」の廃止で騒ぐ中、こんなことがあったそうだ。

本日、クラブツーリズムの団体様が国吉駅を訪れました。

南房総へのバスツアーに、国吉駅を組み込んでいただき、40名を超えるお客様が国吉から大原まで、いすみ鉄道にご乗車いただきました。
「国吉駅初のできごとです!?」(いすみ鉄道 社長ブログ2010年3月7日付)

いすみ鉄道といえば、経営再建のため社長を公募し、元外資系航空会社旅客航空部長が新社長に就任されたことで一時有名になった会社だ。その社長が日記で言うには、今までだと観光客は通過するだけだった国吉駅に観光バスが来て、そこから客が乗車して大原駅まで行った、とのことだ。だがこのことを大手各紙はあまり大きく取り上げていないようだし、鉄道ファンの多くもあまり気にしていない様子。実はこれ、ものすごく重大なことなのだが。

愚直で地味な活動であっても、沿線住民も協力して盛り上げれば観光客を呼ぶことは出来る、という事実

「私はいすみ鉄道の社長です。いすみ鉄道に観光のお客様を増やします。今まで、国吉を通り過ぎるだけだった観光のお客様を国吉駅に途中下車させます。この駅までお客様を連れてきます。でも、そこから先は、皆様方の仕事ですよ。お客様が駅から出て、町の中を歩きだす仕掛けを作るのは、皆様方の仕事です。」
〜「いすみ鉄道 社長ブログ」2010年3月7日付より、原文のまま転載

昨年7月、国吉駅前で地元住民50人ほどを集め、社長はそう語ったそうである。その後、支援グループが発足し、駅周辺の環境整備活動が行われ、「無人駅」だったという国吉駅にムーミングッズのショップができ、苅谷商店街の街灯には黄色いフラッグが新たに取り付けられた。それら一連の活動は確かに、「らき☆すた」で有名となった鷲宮町や「ゲゲゲの鬼太郎」で街おこし活動を続ける境港市などの事例と比較して、観光客にインパクトを与えるような派手なものではないかもしれない。いや、はっきり言って「地味」で「目立たない」活動である。でもそこには境港市や鷲宮町などと同じく、そこに住む人、あるいはそこで商売をする人々の協力という大きな後押しがあった。そしてそれが、クラブツーリズムの観光ルートに組み込まれ、観光客が国吉駅から大原駅まで乗車したという結果に繋がった。
いつもチェックさせていただいているブログ「とれいん工房の汽車旅12ヵ月」。その2010年2月20日付記事において、ブログの管理人であるもりくち氏が福岡・柳川の掘割を残すため活動された故・広川伝氏を例に挙げて、「最近の地域経済論では、こういう愚直な活動というのはあまり日が当てられないような印象もあります」とコメントしておられた。ではこのいすみ鉄道の事例は、果たして「愚直」で片付けることが出来るだろうか?
メイドトレインはどこへ行く。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月 メイドトレインはどこへ行く。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月

三岐鉄道北勢線の「朝市電車」が示すもの

同じ6日には三岐鉄道北勢線で「朝市電車」の運行があった。

 三重県桑名市といなべ市を結ぶ三岐鉄道北勢線を6日、農産物を販売する「移動朝市電車」が走った。2往復半した同電車に乗り合わせた人たちは、揺れる車内で新鮮な野菜などを次々に買い求めた。
雑記帳:「移動朝市電車」車内で農産物販売…三岐鉄道(毎日jp「ニュースセレクト」2010年3月6日付配信記事)

三岐鉄道北勢線はダイヤの見直しや駅の統廃合、パーク&ライド駐車場の整備、路線各駅発のコミュニティバスの運行開始などで乗客が増えつつあるが、それでも年間の赤字額は5億円近いのだそうだ。じゃあ「金がないなら何も出来ない」のかというとそうではない。共催した農産物直売所「ふれあいの駅うりぼう」の運営者は農業組合法人うりぼう、すなわち農業従事者で主に構成される組合法人である。この企画列車も沿線で農業を営む人々が何らかの形で(商品提供とか販売とかで)関わっていた。要は路線存続のため沿線住民が、それも大多数が積極的に行動を起こすこと、そこが重要なのだ。3月7日付エントリーに、蒲郡線の現状を目の当たりにして「イベントじゃない、もっと根本的なところ突かなきゃ」と書いたのも、「これだけやっといてまだ動いているのは住民の一部どまりか」と愕然としたから。でなきゃ短距離でも乗ってるはずでしょ。
愚直で地味で目立たない活動であっても構わない。路線存続のために多くの沿線住民が何らかの形で協力しているということが重要であって、企画の派手さとか奇抜さとかは二の次でいいんじゃないかな。そしてマスコミも鉄道ファンも、鉄道そのものを追うだけではなく、路線存続のため地道に活動を続ける人たちの存在にも目を向けるべきじゃないのかな……と最後を締めくくったところでお開き。
あぁ、いすみ鉄道といえばもう一つ、養成費用の自己負担を条件とする運転士候補生を募集したことが話題となりましたな。これ、叙勲相当の名誉ですよ。つまり、費用を負担してまで「いすみ鉄道の運行に協力しに行った」って事で。