個人的には、クラウドにおいて仮想化を使うことは非常に有用だとは思っていますが、必ずしも必要な要素だとは思っていません。最近は特にプライベートクラウドという名で仮想化を使ったパッケージソリューション=クラウドといったようなイメージがアピールされているようですが、クラウドの真価は単にインフラを仮想化することではなく、ハードウェアからソフトウェアまでのIT基盤をどこかのスタックに依存しないサービス化することにこそあると思っています。
仮想化はハードウェアをサービス化する部分で「1つのやり方」として最も広く受け入れられつつありますが、唯一のやり方というわけではありません。Googleのようにファイルシステムやデータベースなどまでを開発することにより、独自のソフトウェアとコモディティ化されたハードウェアの組み合わせというやり方も1つのやり方です。ただ、Googleのやり方は誰もができるやり方ではないために、アプリケーション環境には一切変更を加えないOSの仮想化がこの数年の普及をもたらした理由といえるでしょう。
クラウドを実現するためには、まずハードウェアの障害や故障によってサービスの停止が発生しない仕組みが必要です。この点については、仮想化はかなりいい場所にまで到達しつつあると思います。VMwareのFTなどは制約条件がもう少し緩和されていけば、理想に近づくのではないでしょうか。すでに標準化がかなり進んでいるハードウェアはそう言う意味で何を使っても良いとは思いますが、ハードウェアベンダー側もまたクラウド的な使われ方を前提としたラインナップを提供しようとしています。エンタープライズサーバは信頼性を高めることを目的として様々な可用性向上のための仕組みが組みこまれてきていますが、「クラウド的な使われ方」では費用対効果として一定の性能と信頼性さえ得られればよいと割り切り、ハードウェアを単体として使用するのではなく群体として使うことになります。サーバ単体で冗長化設計するのではなく、群体としてのサーバがサービスを提供するという考え方こそクラウド的です。
米国Dellは、これまで「Yahoo!」や「Facebook」クラスの巨大インターネット・サイト向けに設計/提供してきた特殊設計の高密度サーバを標準製品ラインアップに加え、プライベート・クラウドを構築する企業などに提供する計画を進めている。
2007年に設立された同社の「Data Center Solutions division(以下、DCS部門)」は、巨大なサイトやデータセンターを抱える企業を対象顧客としている。DCS部門のエンジニアは顧客企業に長期出向し、顧客が運営する検索エンジンやSNS、その他のWebアプリケーションに最適なシステムを設計する。省コスト、省電力のサーバをオーダーメードで提供するわけだ。
もちろん、こうした“特別扱い”ができる顧客は、例えばAsk.comやMicrosoftのAzure部門クラスの、年間に何万台ものサーバ・マシンを購入するような規模の企業に限られる。だが、同社幹部はインタビューのなかで、「そうした状況がまさに変わろうとしている」と述べた。
Dellは今年下半期、こうしたカスタム・サーバの一部を標準製品のラインアップに追加し、一般の企業に対しても販売を開始する構えだ。ターゲットは、自社データセンターに「プライベート・クラウド」基盤を構築しようとしている企業、あるいは中堅規模のインターネット企業である。
この製品群は、新たなブランド名「CloudEdge」のもとで市場に投入される見込みだ。
http://www.computerworld.jp/news/hw/173789.html
しかしこれだけではクラウドとしてはまだ不十分です。ソフトウェアを一切修正しなくて良いところが仮想化の利点でもありましたが、クラウドではソフトウェアもまたサービスとは切り離されて抽象化される必要があります。ハードウェアの障害はもちろん、ソフトウェアのエラーが発生したとしてもサービスを停止させないことが実現されてはじめて、クラウドといってもよいIT基盤となるのではないでしょうか。ハードウェアが仮想化によって抽象化されつつあるように、次のステップとしてソフトウェアの抽象化のブレイクスルーはいつか来るはずです。x86/64のような標準化された規格があるわけではなく、無数ともいえる仕組みが用いられているソフトウェアを「実用的なレベルで」抽象化することはかなり難しいとは思いますが(Javaはかなりいいところまでいっている様な気もしますが、まだまだ不十分だとも思います)、それでも意外なところから道は開け、デファクトスタンダードとなる切り口が出てくるのではないでしょうか。MapReduceなど、その兆しはすでに色々とあります。汎用的・実用的なソフトウェア抽象化ミドルウェア?が登場する時はそんなに遠い未来の話ではないのではないかと考えています。