入管法違反だから社会から隔離すべき、とは思わない

カルデロン一家問題。別にいいじゃん。日本にいたって。

例えば、日本人が殺人や強盗といった犯罪を起こしても、実刑を受けないことは結構ある。
傷害や窃盗だと起訴すらされないことも珍しくないし、出所すれば普通に生活している。
例えば、平成19年に検挙した人のうち74833人が前科持ちなの。*1この人たちは今まで町で普通に暮らしてたの。君の近所にも必ずいる。

実際裁判所で傍聴すればわかるけど、10件20件盗みに入ってる人や、今まで2回も3回も刑務所に入ってる人が毎日のように審理を受けているの。

つまり、そういう犯罪に手を染めた人(ほとんど日本人)が、そこらじゅうで生活してるわけ。気づいていないだけで。


他方、カルデロン一家の犯した犯罪は入管法違反であって、行政犯というカテゴリに入る。
行政犯とは国の行政目的のために設けられた犯罪で、立法されない限り違法だということが自明でない点で、殺人や窃盗といった自然犯・粗暴犯と異なる。*2
もちろん、行政犯だから破ってもいいというわけではない。破れば個人的法益は害されずとも出入国の管理という公益が害されるからだ。

といっても、直接、他人に危害を及ぼす犯罪でないことは確かである。

社会から隔離すべきか否か、という観点からすると、圧倒的に殺人・強盗・窃盗といった自然犯の方が危険で、隔離しなければならない。*3
他方、入管法違反はどうか。他に多数の犯罪を犯してるならともかく、1度や2度違反しただけでは、一般的に法律を軽視して窃盗や傷害といった犯罪を起こしかねない人格だとはとても評価できない。
むしろ、長らく平穏に暮らすことで、他害性の低さが裏付けられているのである。*4
実際、入国して以来カルデロン一家が入国関係以外で犯罪を起こしたという話は聞かない。
つまり、日本にいても犯罪で迷惑をかけるおそれは低いのである。

ところが、在特会の面々は、カルデロン一家を隔離せよと叫んでいる。
身近に前科者がいくらでもいるのにあんな無害な一家を糾弾するなんて、なにそれ。
日本社会から隔離するだけの必要性、ほんとにあるの？
体のためにと禁煙しながら紅茶花伝ミルティーをガブ飲みする、
あるいは部屋のワタボコリ1個も許せないのに風呂が大嫌い、みたいなもので、外国人を排斥したいだけに見える。そんなことしても犯罪は減らないし体に良いわけないって。

私の隣人にするなら、ああいう攻撃的な人たちの集団より、カルデロン一家の方が断然いいと思うし、議論する相手としても、カルデロン一家の方がいい。敵対しても自宅まで押しかけて怒鳴ったりしないからだ。*5

以上から、カルデロン一家は日本に再来日して、幸せに暮らしてほしいと思う。
もし近所にガラの悪い人たちが押しかけるようなら、かわいそうな人達だと思ってあげてください。


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*7

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*1:17ページ。http://www.moj.go.jp/HOUSO/2008/hk1_1.pdf

*2:無免許運転、無許可営業、脱税が、それを規制する法律が無い国では違法じゃないことを想像すればいい。

*3:脱税犯と傷害犯、お友達にするならどっち？

*4:モトケン氏が指摘しているように、不法入国といえども、長らく平穏に暮らせばむしろ遵法意識が高いという評価に傾くのである。http://motoken.net/2009/04/13-144438.html

*5:隣人にしたくない例　http://www.zaitokukai.com/modules/wordpress/index.php?p=93

*6:念のため繰り返すと、行政犯だから罰するなというのではない。海外に追放せよ、という主張が、他害のおそれを理由としてるのなら極めて的外れだと言いたいのである。

*7:もちろん、前科者に気をつけろという趣旨でもない。罪質を問わず前科＝危険とすることに一考を促したいのである。むしろ、前科者がこれだけ存在するのに自身がそうそう犯罪に巻き込まれていないという事実に注目してほしい。

*8:国の出入国管理権を害する犯罪という罪質からすると、強制送還が制度上本筋であることは認める。仕方が無い。ただし、送還しないという選択肢も法律上予定されている。在留特別許可という。不法入国の一般的抑止の観点からは、これを認めないで送還するべきということになる。しかし、長年平穏に暮らしてきたという実績と子の福祉を考慮すると、許可を与えるべきという方向に傾く。私は、後者でいいと思う。入国審査は犯罪を起こしかねない人を弾くという機能を持っており、結果的に犯罪を起こしていないのであれば遡及して違法性を追及する必要は無いと考えるからだ。なお、不法入国の予防としては、従前通り強制退去を原則とする運用で構わないと考える。長く平穏に暮らせば在留が認められることもある、という先例が一般予防を無にするとまでは思えない。長年暮らすまでも無く強制送還されるリスクの方がよっぽど高いからだ。