2023年振り返り

2022年振り返りというものを書いていたようで*1はてなブログからリマインドが来たこともあり、2023年振り返りを書いてみる。

仕事

2023年の仕事は引き続きエンジニアチームのマネジメントが中心で、ハイライトとしてはコロナ渦以来できていなかったオフサイトをボストンで開催できたこと。いつも画面越しにしか見たことがなかった同僚たちとリアルで会うことができてよかった。一度会っておくと、その後の仕事もやりやすい気がする。あと海外でオフサイト企画に携わったのは初めてだったけれど、参加してもらった人達の満足度は高くできたようでよかった。また、普段は英語で仕事をしているわけだけど、その英語はギリギリなんとかなっているレベルという自己評価をしていて、「ギリギリ」という状態から抜け出すためにも、主に発音をもうすこし良くしたい。

プライベート

プライベートでは旅行に良く行った年となった。アメリカにいる間に、ということでこれまで行ったことのなかった東海岸にも行けてよかった。ニューヨークは騒がしすぎて個人的にはあまり好みではなかったけれど、ワシントンの整然とした雰囲気と、ボストンの歴史を感じさせる街並みは良かった。ヨーロッパも日本よりは近いので、行ったことのなかったベルリンと懐しいロンドンにも行けた。2023年は総じて旅行三昧の年となった。2024年はもうちょっとペースを落しても良い気がしている。

散財

今年のベストバイはやはりウォシュレット。まだまだ海外での普及率は高くないけれど、TOTOの中の人によるとアメリカでは徐々に伸びてきているらしく*2Amazon.comでも普通に買える。設置も簡単なので、海外在住の人は迷わずにさっさと買ってしまうのが吉だと思う。それ以外で、PCを新調したのが思いの他良かったので後日、別記事で紹介したい。夏前頃はSteamDeckでお茶を濁そうとしていたけれど、やはりパワー不足だったので、素直に初手でデスクトップPCを買うべきだった。

人生

来年は50歳の大台に乗ってしまうこともあり、残りの人生をどう過ごすかを考えるタイミングに来ていることを感じる。去年も書いた通り、いずれは日本に帰るつもりなのでそのタイミングをいつにするか、ということも要素としては大きく、来年にかけて考えていきたいところ。

今回の年末年始は再びロンドンに来ています。ロンドンびいきなので、年越しのロンドンも最高です。2024年もよろしくお願いいたします。

2022年振り返り

個人的な2022年の最大の出来事はアメリカへの移住です。

2018年にイギリスから日本に戻ってきて、しばらくしたらコロナになってどこにも行けなくなり、日本で粛々と働いてました。その後、コロナもぼちぼちピークを過ぎてきたかな、という2021年末ぐらいから、もう一度ぐらい海外チャンスがないものか、と思い始め、周りの方々と相談した結果、2022年に日本事業からUS事業に移ることとなり夏にアメリカ移住することにとんとんと決まっていきました。

今回のアメリカへの引越しで3回目の海外引越し、かつカリフォルニアは2回目、ということで引越しと生活の立ち上げは手慣れたもので順調に進められました。一方、前回、前々回に比べると、いろいろな意味でしがらみや持ち物が増えて、居住国を変える、ということに対するコストがずいぶん増えたなぁ、という印象を持つに至っています。

今回の渡米でも何年か過ごした後には、また日本に戻るつもりなのですが、そこからさらに4回目というのはないんじゃないかと考えています。居住国を変えない範囲で、というのはありかと思いますが、様々な規制が増えた結果、国を跨ぐことのコストがあがっている現実を感じますね。

仕事のほうは、引き続き役割はそれほど変らずにエンジニアリングのマネジメントを主体としています。こちらは、もともと会社自体のグローバル化が進んでいた、ということもあり、それほどの飛躍なくなんとかなっているんじゃないかと思います(少なくともいまのところは)。ただ、こちらでの同僚はアメリカでキャリアを積んできた人がほとんどなので、仕事の仕方も合わせていく必要があり、いろいろ試行錯誤しているところです。2023年はもうちょっと手探り感から脱出できていると良いですね。

ちなみにカリフォルニアのこの年末年始は梅雨みたいに雨が多く、こんな気候だったかな? と思ってしまうぐらいの様子です。

雨の間のカリフォルニアらしい天気

プロスポーツチームを志向するNetflixの脱ルールのカルチャー「No Rules Rules」

今年読んだ本は今年のうちにレビューしてしまおうシリーズの第三弾「No Rules Rules」です。

No Rules Rules

自分が初めてNetflixを知ったのはDVD郵送レンタルサービスだったころで、当時と今ではビジネスモデルはまったく変わってしまっています。ピボットしながら外部環境の変化を上手く活かしてイノベーションと成長に繋げ続けた源泉となったのはその企業カルチャーで、「No Rules Rules」ではカルチャーの詳細や背景、どのような効果を生んでいるかについて書かれています。

中でも特に有名なものは「有給や経費を自分の判断で行使することできる」「市場トップの報酬を支払う」の2つだと思います。

有給・経費については従業員を信頼し、判断のスピードをあげ、結果としてビジネスを成長させるための仕組みです。できる人にはどんどん権限を移譲して自ら判断し成果を出してもらう。成果が出ない人には、チームから外れてもらう、つまりNetflixを辞めてもらう、という考えです。(ちなみに成果が出ない = 失敗しない、という単純なものではなく総合的に判断されるようです。) ちなみに、有給や経費は自分の判断で使うことができるとは言え、"best interests in Netflix"(Netflixのためになっているか)が満されているか、ということが事後にチェックされるようです。

報酬については、最高の報酬を出すことでトップタレントを引き付けるための仕組みです。定期的な昇給プロセスについても、市場価値で決めるため期ごとのパフォーマンスでは決めないポリシーとしており、パフォーマンスによって上げたり下げたりはせず、市場価値が上がれば上げる、上がっていなければ上げない、としているようです。

このようなカルチャーの元で、現場に権限移譲しempowermentする。そのためには、しっかりと従業員が会社の戦略とalignし、依存を減らす (Highly aligned, loosely coupled)ことが大事とされています(このあたりソフトウェアアーキテクチャの議論に通じるところがありますね)。また誰かがなにか失敗した際は、その人を責めるのではなく必要なcontextを共有できなかったことを問題とし改善を進めます。現場への権限移譲を進めることは一般的になってきていると思いますが、そのためにcontextでリードする、という考え方は参考になります。Netflixでは、全社でのalignを深めるためにCEOのReedが全VPとの1時間の1on1を毎四半期するために年500時間、全Directorとの30分の1on1を毎年するために年250時間、計750時間費やしている、とのことです。ここまで時間的コストをかけているのはすごいですね。

Netflixが志向しているのは、プロのスポーツチームのような組織で、最高のメンバーを育て最高のチームを目指しており、その状態を"High talent density"と表現しています。 そのためにもいわゆる“Brilliant Jerk”には居場所はない、としており、“難しい人”が1人入るとチームの生産性が30-40%低下するような状況ではその人は真っ先にリストラされることになるのでしょう。

これらのカルチャーはアメリカの解雇が容易にできる雇用契約(Employment-at-will)とセットとなっていると思われ、年間に辞めさせられる人は8%という数字が出ていました。自分から辞める人は3-4%で、計12%程度の離職率という業界標準的な数字となっているようです。この数字が多いか少ないかはいろいろな解釈が可能かと思います。(後半で日本やフランスのような解雇が難しい労働法の国に進出した際の話も出てくるのですが、このあたりの機微については特になにも記載がなかったのは残念でした。)

これらのようにNetflixのカルチャーはプロのスポーツチームのような状態を志向した一つの振り切ったモデルになっていると思います。これを見習うにせよ、見習わないにせよ、会社として目を見張る結果を出していることは事実であり、知っておくことは価値があると思います。(同時に一部だけ断片的にコピーするのは良くない結果を招くだけとも思いますが..)

これらのようにNetflixのカルチャーはかなり強烈なもので、なかなか真似をするのは難しいのですが、一つフィードバックのガイドライン(5A Feedback guidelines)はどこでも役に立ちそうなので紹介します。

  1. Aim to assist (その人のためになることを目的とする)
  2. Actionable (アクションに結びつけることができるようにする)
  3. Appreciate (フィードバックをする際に敬意を持つ)
  4. Accept or discard (フィードバックを受け入れるか受け入れないかは、受けた側が判断する)
  5. Adapt (結果を得るために、その場のカルチャーに合わせたフィードバックを行う)

立場に関わらず正直なフィードバックをお互いにすることで、より良い状態を目指す、というのは成果を出すために大事なことで、この5A Feedback guidelinesは汎用性が高く有用なものだと思います。

Netflixのカルチャーについては、採用ページにも詳細が載っていますので、こちらからもどうぞ。

Staff EngineerとSenior Engineerの違いを知る「Staff Engineer」

今年読んだ本は今年のうちにレビューしてしまおう、の第二弾「Staff Engineer」です。

Staff Engineer

すこし前にTwitter界隈でIndividual Contributor(以下、IC)の話が話題になってましたが、そのICとしてのキャリアの先にある、日本ではあまり馴染みのないStaff Engineerについての本です。ちなみに本の内容は全て https://staffeng.com/ でも読むことができますので、紙が不要な人はこちらからどうぞ。

Staff Engineerは、会社ごとに、またおそらく部署ごとでも様々なバラエティのある役割の定義があり、この本は著者での経験に基づく記述と、各社のいろいろなStaff Engineerの人たちからのインタビューから構成されています。 著者の経験によると、Staff Engineerの典型例として、一つ、もしくは複数のチームをリードするTech Lead, 特定領域のアーキテクチャに責任を持つArchitect, 複雑で難易度の高い問題解決を担うSolver, シニアリーダー(経営層)のビジョンを実現するためのRight Handの4つが紹介されています(Staff archetypes)。その他、Staff Engineerとしてどのように活躍するか、Staff Engineerになるためにはどうすればよいか、Staff Engineerになるために転職する方法などについて記述されています。

個人的にもっとも興味深かったところはSenior EngineerとStaff Engineerの違いです。

多くの会社では、"Career level"という概念があります。これは、多くの人が到達する上限で、ほとんどの会社ではStaff engineerの下に位置するSenior Engineerとされています。つまり、Staff engineerになることは平均的なことではない、とされています(Getting the title where you are)。具体的には、Senior Engineerに期待されていたこと、例えば、コードを書くなどは、Staff Engineerには付属的なタスクとなります(What do Staff engineers actually do?)。 このあたりの話は、ICの役割をあくまでも手を動かすこと、と捉えていると期待値のギャップに繋がっていきそうです。

実際にCircle CIのCompetency Matricを見てみるとStaff Engineerの"Delivery / Self-organization / Reliability, delivery accountability"の項目では

Ensures expectations with their team and external stakeholders are clarified between all parties involved.

というような外部ステークホルダーの期待値の明確化が含まれています。このシート全体を"stakeholder"を検索すると、15箇所中13箇所がStaff Engineer以上に含まれており、チーム外とのコミュニケーションや期待値マネジメントが各所に入ってきています。

ここ最近では徐々にICのままでもキャリアを進められるように環境が整備されてきていると思いますが、その際にはStaff Engineerに求められる役割はなにか、という理解が世の中的にも浸透していくと、エンジニアとしても経営としても見通しが立てやすくなるんじゃないかと思います。