「福島瑞穂の迷言」という都市伝説について(事務所コメント付)

突然ですが、皆さんは次のようなコピペを目にしたことがありますか?


何年か前の「朝まで生テレビ」での再現。
その日のテーマは「警察官の拳銃使用について」。
司会の田原総一郎と福島瑞穂の会話。

福島「警察官の拳銃使用は絶対反対。犯罪者と言えども
人権はある訳ですしぃ〜、犯人には傷一つ付けてはいけない。
例え凶器を持った凶悪犯と言えども警察官は丸腰で逮捕に向かうべき」
田原「そんな事して、警察官が殺されたら?」
福島「それは警察官の職務ですしぃ〜〜」
(「ええっ〜」と言う驚きの声がスタジオ中に響き渡る)

その声にまずいと思ったか福島が続ける。
福島「それに犯人がそんなに抵抗するんだったら無理して逮捕する
必要は無いと思うんですよぉ〜、逃がしても良い訳ですしぃ〜」
田原「じゃっ、逃がした犯人が別の所でまた人を殺したら?」
福島「それはそれで別の問題ですしぃ〜」
(他のパネリストの「おい、おいっ」という声と共にスタジオ中に 失笑が漏れる。)
それ以降、福島に発言を振らなかったのは司会の田原総一郎の良識か?


このコピペは結構いろんなところで見かけますし、鵜呑みにしている人もかなり多いようです。たとえば2ちゃんねるなんかでは、このコピペを元に「社民党って頭悪すぎ」「本当に東大卒?」「これで弁護士?」「これだからバカ女は」みたいなコメントが頻繁にやりとりされているし、ブログなどでも「わが国を憂う!」「これでは捨民党だ!」みたいなニュアンスでこのコピペを槍玉に挙げている人が少なくない。「拳銃使用 福島 田原」でググるとかなりの数です。


ただ、このコピペ、色々気になるところがあるんですよね。例えば「何年か前の」というのはいつのことなのか、「再現」といいつつスタジオの反応までクリアに描かれているのはなぜなのか(そもそも「朝生」ってスタジオが大きく反応するような番組だっけ?)、これだけ話題の映像がキャプチャー画像とか動画とかで出回らないのはなぜなのか、などなど。そんなわけで、まずはこのコピペがいつ誕生したのかを調べてみました。



ヒントになると思ったのは、このコピペの最初に「599 名前: 名無しさん@4周年 03/07/19 10:25 id:h3NMxlu1」という部分が一緒に貼ってあるのをよくみかけたこと。「名無しさん@4周年」という名前が自動入力されていることから2003年の「ニュー速+」板に狙いを定め、関連しそうなログを手当たりしだいチェックしてみました。そしてみつかったのが「【社民】辻元前衆院議員を逮捕 秘書給与詐取の疑い 土井党首の元秘書も★5」というログ。この599番目の書き込みに、例のコピペが書き込まれているのがわかります。それより上にはありません。また、「★5」となっているとおり、この社民党ディスのスレは1〜4までの前スレがあるのですが、それらのなかにはこのコピペが登場していません。



◆「【辻元前衆院議員を逮捕 」
◆「【社民】辻元前衆院議員を逮捕 秘書給与詐取の疑い 土井党首の元秘書も★2」
◆「【社民】辻元前衆院議員を逮捕 秘書給与詐取の疑い 土井党首の元秘書も★3」
◆「【社民】辻元前衆院議員を逮捕 秘書給与詐取の疑い 土井党首の元秘書も★4」



しかし、★5のスレで初めて登場して以降、このコピペが繰り返し用いられるようになります。



◆「【社民】辻元前衆院議員を逮捕 秘書給与詐取の疑い 土井党首の元秘書も★7」
◆「【社民】辻元前衆院議員を逮捕 秘書給与詐取の疑い 土井党首の元秘書も★8」
◆「【社民】辻元前衆院議員を逮捕 秘書給与詐取の疑い 土井党首の元秘書も★9」



念のため、そのほか1999年の「社民党福島瑞穂罵倒スレ」、2001年の「今度は社民党福島瑞穂がドキュン発言!」、「朝まで生テレビ名言迷言スレッド」、2003年4月の「【福島瑞穂】朝日、毎日などが防衛庁に言いがかり★6【ホームラン】 」などなどなどなど、この手の話題で福島瑞穂を罵倒しそうなスレをいくつもチェックしてみました。しかし、このコピペ、ないし同趣旨の発言内容を指摘する書き込みは見当たらず。



そんなわけで、調べた限りではどうやら2003年07月19日10:25の書き込みがこのコピペの元と考えてよさそうです。で、このコピペが誕生した直後、「★★流行らして欲しいコピペはここに書け★★ 」というスレにコピペが張られてたりして、色々なところに広がっていく模様が観測できます。また、その過程では、「【政治】社民党・福島幹事長、辻元問題で警視庁を批判 」や「【政治】社民党・福島幹事長、辻元問題で警視庁を批判 - 秘書給与詐欺事件★2 」などのスレにコピペしている「o60w5vtD」の人のように、あちこちのスレに貼りまくる熱心な人も何人か観察できます。以降、現在では福島瑞穂関連のスレがたつと、必ずといっていいほどこのコピペが貼られるようになっています。



最初の書き込みが特定できたと思われるので、2003年7月以前に福島瑞穂が出演し、司会が田原総一郎であった回を調べてみました。「朝生過去のデータ」からチェックしたところ、福島瑞穂が出演した各会のテーマはご覧のとおりです。


1998年2月「激論!少年達はなぜキレるのか?!」
1999年8月「激論!日本が"自立"する時」
2000年9月「今、女の時代か?!男と女の大論争」
2001年5月「激論! "歴史教科書問題"とは何か!?」
2002年7月「激論!小泉政権の中間総括」
2003年7月「激論!若者の暴走・獣性と無責任大人で日本沈没?」

福島瑞穂の出演は計6回。これ以前には、1996年7月12日放送「激論!日本異常事態宣言・若者編」というテーマの回に出演していますが、この回の司会は田原ではなく梶原しげるなので除外。それ以前は「何年か前」と呼ぶにふさわしくないので除外。で、コピペの元には「その日のテーマは『警察官の拳銃使用について』」という書き込みがされていましたが、見てのとおり「警察官の拳銃使用について」というテーマはありません。仮に2003年より前にこのコピペがあったとすれば、コピペにとっての「何年か前」というのはそれよりさらにさかのぼることになるわけですが、「朝まで生テレビ! 総目録」などを見てもやはりそういうテーマはありません。さらに念のため、過去の「朝まで生テレビ」の実況スレを一通りチェックしてみましたが(参照)、それらしき実況も見当たらず。もちろん2003年の7月まで、似たような発言を批判する趣旨のコメントも見つけられません。


なお、このコピペはしばらくすると次のようなコピペに発展します。


福島瑞穂 「警察官の拳銃使用は絶対だめです。犯罪者にも人権があります。例え凶器を持った犯人にでも警察官は丸腰で確保すべきなんです。」
田原総一朗 「それで警察官が殉職したら?」
福島 「それは警察の職務ですよ。」さらりと簡単に言う。
会場 「ええ!!??っ」という驚愕の声が響き渡った。福島も気まずくなり、
福島 「それに犯人が抵抗したら無理して逮捕する必要ないと思うんですよ。逃がしてもいい訳ですしぃー。」
田原 「じゃ、その犯人が別の殺人事件起こしたら?」
福島 「それは、それで別の問題ですしぃー」
福島 「ですから、日本はスイスのような平和中立国を目指すべきなんですぅ。」
田原 「スイスは国民皆兵制で、一般家庭に自動小銃が有る国だよ。」
福島 「いえ、例えばスウェーデンみたいな中立国もあるわけですしぃ…」
田原 「スウェーデンはナチに協力して中立を守った国だし、今では武器輸出大国だよ。」
福島 「えーと、ベルギーのように歴史的に中立を貫いた国もあるんですぅ。」
田原 「ベルギーみたいに何度も外国軍に蹂躙されてもいいの?」
福島 「・・・・」


番組名や時期が隠され、代わりに後半部分に別のコピペが一緒に付け加えられています。このほか、いくつかの派生コピペも生まれていきます。



さて、とりあえずここまで調べた上で、福島みずほ事務所とテレビ朝日に上のような調査趣旨のコメントを沿え、「これは実際にあった発言か、それとも流言蜚語か。もし実際にあった発言であれば、何月何日にどのような文脈であった発言なのか。返事はブログで取り上げてよいか」という問い合わせのメールを送ったところ、福島みずほ事務所から以下のお返事をいただきました。掲載の許可をいただいたので、公開します。


荻上チキさま
このたびはご連絡をいただきありがとうございます。
お返事が遅くなり、申し訳ありません。
お問い合わせいただいた2件ですが、こちらでも発言についての問い合わせが多くありましたので、テレビ朝日に問い合わせたところ、調査したが見当たらないという回答をいただきました。
ぜひブログで取り上げていただいきたいと思います。
福島みずほ事務所

問い合わせた2件とは、「拳銃使用」云々という部分と「日本はスイスのような平和中立国を目指すべきなんですぅ」以降の部分のことなんですが、そのような発言はないとのこと。コピペの検証と、本人事務所やテレビ朝日がこのようなレスポンスをしてくれたことからも、この発言はネタ、デマの可能性が極めて高いと思います。無論、コメントが誤りで動画が出てきた場合に限り別なのでしょうが、テレビ朝日も否定しているのでその可能性は極めて低く、これまでも動画はずっと出てこなかったのだからこれからも出てこないのではないかと。というわけでこのコピペはガセビアと確定してよさそうです*1。



以上コピペについて検証してみましたが、せっかくなので以下にこのコピペをめぐって行われてきたコミュニケーションについて気になった点について吟味してみようかと。



まず気になるのは、コピペを元に「これだから○○は」みたいな大雑把なラベリングに基づく中傷ネタとして盛り上がるだけでなく、このようなコピペを取り上げて国のあり方を憂うというようなポーズ、あるいは「真実」を知らない人を嘲笑するというポーズをとる人が非常に多いこと。例えばあるサイトでは、例のコピペをさらに改変した「愛知県安城市のイトーヨーカドー幼児殺害犯について」バージョンを取り上げて教育問題などを憂いているんですが、本人が自身のリテラシー教育や調査能力を省みていないのはきわめてアイロニカル。また、「虚像」や「イメージ」で語ることが、「ピントのずれた批判につながる危険性をはらんでいる」ことを指摘するはずのエントリー自体が、ソースが曖昧な発言を批判したうえで「批判するならするで、まずは現状をちゃんと確認しましょうね」と呼びかけているケースも。


それから、「デマではないか」という懐疑が示されたときによくあるパターンとして、「福島ならありうる」「たとえそれがデマがあってもイメージによってそれが真実と思えるから社民党のせい」という発言や「いちいち調べないと自由に文章を書いてはいけないのか」という反応も結構多く見受けられます。もちろん私は、前者はスケープゴートを正当化してしまうロジックなのでまずいと思うし、後者は根拠なき中傷や差別を拡大再生産するくらいなら黙ってもらったほうがよいと思っています。それと、コピペの利用は、基本的には政治コミュニケーションではなくむしろ人気度コミュニケーションみたいなものなので、必ずしも常に政治的である必要はないと思うのですが、しかし選挙期間などにこのコピペが結構出回っていたり、ポピュリズム状況では人気度≒政治的信頼度と重ねがきされることも多くあるので、その真偽および効果には注意を払う必要もあるでしょう。


このほか、懐疑が示された際、結構な頻度で「これがウソだという証拠はない」という反論(?)や「自分は生で見たんだ!」と主張する書き込みが登場しています。その際も具体的に日時などを指定した書き込みがされることはなく、あっても次のような形のものが多かったように思います。


514 名前: 名無しさん@6周年 2005/10/19(水) 20:49:53 id:UTVEH2aE0
コイツの拳銃非使用の発言はリアルタイムで見たっけなあ。
もう8〜9年近く前の話じゃないか?
マジで抹殺してくれんかね


コミュニケーションを一元的に見た場合、このような反応は社民党バッシングによって継続されている「ネタ的コミュニケーション」を断絶させないために自己生成されているが如くで、それなら「動画マダー」と動画を待ちわびつつ、しかし動画はいつまでたっても投下されないのだから、延々とコミュニケーションを続けることができるのかもしれない。であれば、社民党バッシングにコミットしていた人のうちおそらく大部分の人は、仮にこのエントリーを読んだとしても、「それがたとえデマでも、とりあえず社民や福島瑞穂はキライである」というように自らの認識を新たにはしないのかもしれません。なぜなら、それが事実であるか否かは端的に意味を持たず、別のネタを探せば事足りるからです。個人的にはそういう態度も問題かなあと思うけれど、それはそれでいたしかたないとも思います。


ただ、その判断にデマが使われるのか、それとも具体的政策などが論点となるのかでは、結構大きな違いがあると思うので、とりあえずあまりコピペとかで議論を進めないほうがいいのではないかなあと思う次第。特に他人の評価が関わっている場合は。



このほか、思うところ多々あれど、長くなったので別の機会に触れたいと思います。要するに、ソースが不明のコピペには全般的に気をつけましょうということでここはひとつ。



※コピペを貼っていたサイトを荒らす人が出てきてしまったので、参考サイトへのリンクをはずしました。


つづき
福島瑞穂コピペ検証、暫定まとめ。
さらにつづき
続・「福島瑞穂の迷言」というコピペについて

*1:「今のところソースないから、コピペコミュニケーションは危ういかもよ」に訂正。