ニコニコ動画が衰退するとき

前エントリの続き。

2ちゃんねるのFLASH・動画板も、ニコニコ動画ほどではないものの、前エントリで挙げた閲覧者と製作者にとってプラスな仕組みをある程度満たしていました。

擬似同期性
スレッドにFlash作品のリンクが貼られてから数時間から数日というスパンで感想が累積する
コメント数の偽造
途中まではID強制ではなかったため、実際は少数からの書き込みだったかもしれないけれど盛り上がって見えた
荒らし耐性
これは無かった
閲覧からコメントまでがワンストップ
貼られたFlashを見て元スレに戻ってすぐ書き込みができる

しかし、FLASH板は衰退しました。ある時期ほどの作品投下は今では見られませんし、付けられる感想もめっきり減りました。
理由はいくつか挙げられています。

* 職人が技術を求めすぎてユーザーが付いてこなくなった
* Flash作品を商品化したせいでユーザーが離れた
* 需要と供給が多様化した為、所詮2ちゃんねるの一部であるFLA板のみでは賄えなくなり、板から職人が離れてしまった
* JASRACの爆撃により以前のような黒作品が作りにくくなった(※おそらくこれは非職人が挙げたもので、実際は今も昔も作りにくさは変わらない模様)
* YouTubeやニコニコ動画に需要を持っていかれた
* 板にコテハンで書き込みづらい空気ができあがり、イベント以外で投下する職人が減った
* 動画コンプレックスによる諸問題

他。
FLASH・動画板Wiki - FLA板終わったな

あとはID強制化、一部イベントの板離れ*1、のま猫騒動くらいかな。


衰退したのは複合的な要因であるとは思うのだけれど、閲覧者も製作者も次第に質の高さを求めていったという、クォリティ志向みたいなものが衰退の根っこにあるような気がしています。

初期には簡易に作ったFlashでもそこそこの数の肯定的なコメントが付きました。
でも、より良い作品にはより多くのコメントが付きます。閲覧者にとってみれば、より良い作品が見られるにこしたことはありません。製作者は、もっと良いものを作ればもっと多くのコメントが得られます。かくして投下される作品のクォリティは高くなっていきました*2。

よりクォリティが高いものを作るためには、製作時間が多く必要です。気楽に出せるわけではないので、イベントに作品が偏るようになりました。下手なものを出せば貶されるか、そもそもコメントしてもらえなかったりするので、Flashを始めるハードルは高くなりました。
そして、FLASH板に次第に人が集まらなくなっていった。


そもそもなぜ一時期にしろ2ちゃんねるのFLASH板という場所で盛り上がりを見せたのか。それは、Flashがお手軽で気楽に映像を作れて見せられるソフトだったからだと思います。気軽に見せ合えたから人が集まり、「これなら自分でもできるかも」と作る人が増えた。
しかし、次第にお手軽さ、気楽さというメリットはFlash板上では失われていきました。アニメを作るならちゃんと絵が描けて中割りをしっかりつけて作らなきゃ、VJ的な作品を作るなら音ときちんと合わせてエフェクトに凝って作らなきゃ、と。


一般的に良いものが求められるのは摂理であるし、良いものであればあるほど賞賛されるのも当然のことではあるのですけどね。ある場において作品が作られ、閲覧され、また作られ…と繰り返されていくうちに、閲覧者も製作者も意識が少しずつ変わっていき、創造の場としてはしなやかさが失われていくことがある、そうFlash板を眺めていて感じました。

で、やっとニコニコ動画の話

いやまあ、FLASH板のような流れにならなきゃいいなあ、というだけの話です。
例えば
ニコニコ動画(RC2)‐アイドルマスター 蒼い鳥 (M@STER VERSION) ピアノ独奏
こんな凄いのが出てくると、今後投稿されるピアノ演奏動画は大変だなあ、とか思うわけ。


でも、ニコニコ動画はFLASH板と違うところも多い。
仕組みとしてより洗練されているし
閲覧者、製作者の規模が絶対的に違いすぎるし
投稿ジャンルの奔放さもあるし
マッシュアップという新しい文化もある。



このエントリを書いている途中でメルト曲群を聞いて、どこまでも行け!とも思ったのでした。

ニコニコ動画(RC2)‐初音ミク が オリジナル曲を歌ってくれたよ「メルト」

ニコ動の初音ミク「メルト」は音楽ではなくドラマ - 異聞録

*1:上に書いた話とからめると、年末にFlash紅白合戦を運営されていた方々が会社を立ち上げてslashupというFlashイベントを板から切り離しで行うようになりました。それまでの紅白Flash合戦は、作品をスレッドに投下して公開する方法を取っており、公開日は平時より数千レス多い書き込みがありました。一方その後のslashupでは自社掲示板の専用スレッドで告知する方式となり、Flash板と自社掲示板合わせてもイベントの話題で一日百レスも行かないオーダーになりました。作品がスレッドに投下されそのままレスを付けられる、という仕組みが採用されていたから、多くのレスが付き「盛り上がって」見えたのだと思います。

*2:中間〜上位層のクォリティの話。初心者層のクォリティは昔も今も相変わらずです。