ブラマヨが現役最強芸人である理由(しゃべくり007書き起こし)

 しゃべくり007におけるブラックマヨネーズが尋常じゃなく凄まじかったので、後世の人々にブラマヨの偉大さを伝えるために一部書き起こす。近未来、核戦争が起こって人類が笑いを失っているとしても、この記事を読んだ未来人たちよ、どうか「漫才」という文化を新たに創り出していってほしい。2009年の12月、ブラックマヨネーズという漫才コンビがいた。よっさんと、小杉。まさしく奇跡の二人だ。

 今から書き起こすくだり、よっさんと小杉の掛け合いがアドリブであるっていうのが本当に信じがたい。漫才としてほとんど完璧に仕上がっていて、これはつまりブラックマヨネーズという二人が生まれながらにして漫才師であるっていうことに他ならない。全ての二人の台詞があまりにも完璧すぎるので、一言ずつ振り返っていこう。

 まず前段として、今回は小杉のことをもっと知ろう、というようなテーマ。そこで小杉は、1歳、8歳、16歳当時の写真を持ってくるのだが、その写真をきっかけにして話が盛り上がるわけでもない。しゃべくりメンバーたちが、何故こんなにどうしようもない写真を持ってくるのだ、というような感じで小杉ひとりを責め立てる。この時点で、小杉対ほか全員、という構図が成立しているところは重要だ。

 追いつめられた小杉は、メンバーたちにこう言い返す。

でもね! 俺の8歳初めて見たでしょ!?
その時間が欲しかったんすよ!
俺の8歳見て欲しかったんすよ!

 まず、ここがすごい。そもそも今回の、小杉のことをもっと知ろう、というのは小杉を追いつめるためのフリでしかない。芸人の、しかもはんにゃやしずるではない芸人の昔の写真を見て話が盛り上がるわけがないということは全員が分かっていて、まあ言ってみれば彼らは全員、そういうコントを演じているわけだ。番組スタッフを含めて。

 小杉の上の台詞がすごいのは、そのコントの設定を崩してないってとこである。普通の芸人であれば、ましてやツッコミならば、コントを演じてるというボケに対して、例えば「トークが盛り上がる8歳の写真なんて持ってるわけないやんけ!」とかって真っ当な正論を言うべきなんだけど、小杉は絶対にそうしない。コントの設定には取りあえず乗っかる、という前提の上で生まれた逃げ道として「自分の8歳を見てほしかった」という方向に持って行く。

 この時点でかなりすごいんだけど、この小杉の方向性の提示に対しての、よっさんの返しがまたすごい。

そんなん言うたら俺かて、8歳見て欲しかったけど我慢してんねんから…

 要は小杉の方向性に自分も乗っかってるわけだけど、この乗っかりはちょっと真似できないすごさがある。さっきも書いたように、構図としては既に小杉対ほか全員ということになっているわけで、しかも小杉の逃げ道は明らかにおかしいわけだから、普通だったら間違いなく「お前の8歳なんて誰が見たいねん」って行くところを、よっさんはそうしない。発言内容それ自体は常識的に考えて完全におかしいんだけど、話の流れと、小杉との対立構図というのは崩してない。

 よっさんの、というかブラックマヨネーズの漫才が病的なところっていうのが実はここで、ブラマヨの漫才におけるよっさんのボケっていうのは分裂症患者の思考回路に近い。毒電波が入ってくるから窓のすき間をアルミホイルでふさぐような。確かに理屈としては通ってはいるんだけど、その理屈に対しての行動に整合性がない、という意味で、よっさんのボケは分裂症なのだ。

 実際この時点で、MC陣の対応は二つに分かれている。上田は常識側からの視点として「何で8歳を見て欲しいんだよ」と遠巻きから突っ込むが、話の流れに乗る立場を取った名倉は、よっさんに対して「なあ?」と同意を表明している。ただ、もうこうなると、二人の掛け合いは二人だけの世界へ突き進む。自分も8歳を見て欲しかったと言うよっさんに対して、小杉は怒る。

じゃあお前ディレクターに8歳見させて下さいって頼んだんかい!
俺は頼んでんねん!
(略)
俺はディレクターに8歳見させて下さいっていう壁乗り越えてんねん!
壁も乗り越えんと何8歳欲してんねん! カスコラァ!

 壁乗り越えてんねん、とか、8歳欲して、っていう小杉のツボを突いた言語感覚もさることながら、この小杉の罵声がすごいのは、言ってること自体は正論、ってところだ。努力しないと欲しいものは手に入らない、という当たり前のことを言っている。でも入り口がおかしいわけだから、正論であっても笑いは起きる。そして、そんな小杉に対してよっさんは、また別次元の、思いもよらぬ方向から攻めていく。

お前最近ちょっとテレビ出てるから調子に乗りすぎやねん!
冷静になって見てみろ!
(小杉「何や!」)
8歳の写真をテレビに出してくれっていうのは、俺らまだ2段階早い!

 この台詞の何がすごいって、「俺ら」って単語である。よっさんの中で、8歳の写真をテレビに出すということが、二人共通の目的になっているのだ。しかもそこには段階があるらしい。8歳の写真をテレビに出す、という本来存在しない願望が、このよっさんの忠告によっていきなりリアリティを与えられる。さらによっさんは小杉を追及する。

もっと行ってからや! 早すぎるお前は!

 その追及に対しての小杉の返しがまたすさまじい。小杉は顔を真っ赤にして、よっさんにこう言い放つ。

早めの8歳成し遂げて妬いてんのかい!

 これはもう、真骨頂としか言うほかない。こんな掛け合いは絶対にブラックマヨネーズの二人にしかできるわけがない。8歳の写真をテレビに出す、という本来存在しない願望を小杉が提示し、そこにまつわるリアリティをよっさんが補強し、さらに別の視点から小杉がリアリティを補強していく。そして漫才は大オチへ向かう。よっさんは、勝ち誇ったように、小杉に忠告する。

焦ったのお、お前…。
もう8歳出したか、焦ったのお、お前!
3年後や…。
(小杉「おーう」)
3年後、俺がテレビで出す8歳見てビックリすんなよ!

 そして、小杉は突っ込む。この流れで初めて、極めて真っ当に、よっさんの頭をはたく。

何の話やねん!

 さらに、その後の小杉のつぶやきがすごい。

どういう8歳持ってんねんお前…。

 明らかに、一番はじめに間違っていたのは小杉であり、8歳の写真を見せたのはよっさんではなく小杉だったにも関わらず、よっさんが間違っていることになっている。よっさんがしたことは、間違いを突き詰めただけだ。まっすぐに、正直に。よっさんは自らの人間性を軸としてただ正しくあろうとしただけなのに、それがボケになっているという、これはもうブラックマヨネーズの漫才でしかあり得ない世界だ。

 天才、って表現するのもおこがましくて、漢字二文字で表現するならば、奇跡って言葉がふさわしいだろう。明らかに、人間業じゃない。芸人にしか生み出すことのできない奇跡が、世の中には確かにあるのだ。