オチの無い街

子供の頃から僕は口ベタで、おとなしいと言われ続けていたけど、それにはちゃんと理由がある。
僕の住む街にはオチがあるからだ。
僕はただ友達とちょっとした事を話したいと思ってるだけなのに、僕が話し終わると、決まってみんな「オチは？」と聞いてくる。
オチって言われても何がオチなのか僕にはわからない。
こないだも漫才師をやってるお父さんと話していて「オチは？」って聞かれて、僕はもう絶望的な気分になった。
オチって一体なんなんだろう。
もう僕はこの街では暮らしていけない、そう思ってオチの無い街にある大学に行く事にした。
本当の理由は両親には言わなかったけど、お姉ちゃんだけには伝えた「オチの無い街で暮らしたい」って。

今こうしてオチの無い街で暮らしてみた率直な感想は、この街は厳密には『オチの少ない街』であるという事だ。
基本的には僕が話し終わっても「オチは？」と聞いて来る人はいない。
しかし僕と同様オチのある街から来た人間や地元の人間の中でも賢しい奴は「オチは？」と聞いてくる。
オチとは完全には離れられないのかとがっかりしたけど、その一方で発見もあった。
TVの中ではこの街でもオチがある事に、そして同時に自分がオチとは何かわかっている事に、さらに振り返ってみると、僕はどうやらオチをTVの中のだけの物で、現実の世界には無いと無意識に思い込んでいたらしい事だ。
これは僕の父親が漫才師である事ときっと複雑に関係しているんだろう。

お父さんのお陰で何不自由なく生きてこれたし、こうして親元を離れて大学に通う事もできるんだけど、しかしそれによる不利益もそれなりに被ってきたと思う。
あいつの息子の割には面白くないな、なんてのははっきり言って日常茶飯事で、親戚ですらそう言うから、僕の絶望感の深さは推して知るべしと言う物だ。
それはこの街でも同じで、なぜならどうやらお父さんの名前は全国に轟いているようだからだ。
それに気付いてからはなるたけその事は黙っているんだけど、この街の人間ときたら、オチのある街出身と聞くと、「何か方言しゃべってみてよ」などと言う。
僕はこの街に移り住んですぐに標準語で話すようになって、でもオチのある街に帰れば、向こうの言葉で話すんだけど、だからって急に方言でなんか話せない。
挙句の果てには「何か面白い事言って」などと言い出す始末で、呆れ果てるばかりだ。

さらに言えば、この街のオチの無さは決定的に罪深いと感じるようになった。
特にTVのネタ番組のオチの無さには驚くばかりだ。
時にはボケすら無い事もあって、そんな時思う、この街はなんかダメだって。
大学を卒業したら、僕はこの街を離れるだろう。
だが一体どこへ行く？
オチのある街には馴染めず、オチの無い街には居心地の悪さを感じる。
いっそ外国にでも行こうかとも思ったが、恐らく僕にはヒューモアーやエスプリなどと言ったものを解する事はできないだろうから、止めておいたほうがいいだろう。
僕はこれからどうしたらいいんだろう。
当然の事だけど、この話にオチは無い。
僕はオチの無い街に暮らしている。

※この話は島田紳助氏のTVでの発言を下敷きにして書きました。