BL小説は衰退しました。(続・BL小説で新人が少ない/育たないというのは本当か?)
前回BL小説で新人が少ない/育たないというのは本当か - __ScrapBook of Plumberで
- 新刊BL(形態替え、新装版等含む)の半分は10年以上のベテランが書いている
- BL小説は新人のデビュー率、生き残り率が低い
という結論に至ったわけですが、いくつかの疑問が残りました。
- 他の月のBLの状況はどうなのか?
- BL以外のジャンルの状況はどうなのか?
その後、他ジャンルの状況を見てみましたのでまとめてみたいと思います。
比較対象のジャンルは、ミステリとラノベ。
このジャンルを選んだのは、単にジャンル勘的なものがあったのと、エンタメ系としてある程度類似度が高いだろうという推測によります。余裕があれば少女小説とかもやりたいので誰か監修お願いします。
手順としては、前回と同様、新刊リストから作家を抽出し、NDLサーチおよびAmazonの情報からデビュー作を特定、デビュー年別(発行年−デビュー年)に作品数をカウントします。
なお、「デビュー年」の定義としては単著の単行本が発行された年としました。雑誌などまで遡ると初出の根拠を探すのが一気に困難になるためです。
ミステリの新刊は某方面から2010年11月〜2011年10月の新刊リストを入手できましたので、その中からサンプル数を確保するため9月・10月分を抽出。ラノベはラノベ読みの後輩にお願いして11月分を抽出してもらいました。
BL・ラノベ・ミステリのデビュー作品年傾向比較
まずは結果から、というわけで早速3ジャンル比較グラフ。
各ジャンルのサンプル数は、BLコミック(57)、BL小説(65)、ミステリ(74)、ラノベ(77)。
一見して、BL小説(ピンクの線)が他とかなり異なる傾向を示しているのが分かります。
以下、ジャンル別に見ていきます。
ラノベは異常に新人が多い
途中の縦線は積算割合が50%に達したラインです。ジャンルの新人の活発さの指標になるかな?と思い入れてみました。
予想はできたことですが、20011年デビューの新人だけでまさかの27%。1ヶ月の発行点数77冊のうち実に21冊。4冊に1冊以上が今年デビューの新人ということになります。
確かにラノベの新人は多いですし、1冊出したら続けざまに出す印象がありますが、それにしてもすごいと思います。
一転して活動1年を超えるとがくっと減り、それでも活動2年までで50%ラインを越えます。次に減るのは4年以上。だいたい3年前後に生き残りラインがあるようですね。
ミステリは出てしまえば息が長い
こちらは打って変わって10冊に1冊は30年以上活動している作家、という結果。
デビュー年ごとの作品数にはあまり変わりがありません。なんとなく5年ごとに何かの波があるようには見えますが。
デビューして作品が世に出でしまえば、それ以降はわりと安定というところでしょうか。逆に言えばデビューするまでのハードルは他ジャンルに比べて高そう。読者もそれほど新人にガツガツしてないですしね。
ただし、デビュー後にもある程度ふるいにはかけられると思うので、10年前に比べれば新規デビューが減っている可能性はあります。各年の割合が少ないので、もう少しサンプルを取らないと有意な差は見えてこないかもしれません。
10年前のゼロ年代の波とか20年前の新本格ブームとか、少なくとも今回の調査の範囲ではそれほど有意な特徴は示していないようです。
BL小説の近年の新人の少なさは異常
で、BL。
BLコミック(青のライン)のデビュー0年付近の傾きは比較的ラノベに近いラインを描いています。
5年前後で大きな谷間があり、その後はミステリに似てくる感じ。頭に山があって、がくっと下がるのは、ある程度活発な、読者受けによりフィルタリングが為されるようなジャンルの傾向であるということが推測されます。(生き残り率はさておき、BLコミック新人作家のデビュー数は常にそこそこあるな、という印象です。)
一方、BL小説(ピンクライン)は他のジャンルとは明らかに違う傾向を示しています。
一番の山が10〜15年目にあるという歪つなグラフ。100%ラインはミステリと10年以上違うのに、50%ラインでは数年しか開きがありません。しかも近年5年以内のデビューは頭打ち。この中でさらに生き残るとなると……気が遠くなります。
再度比較
再度重ねあわせたグラフ。
7年目までで見ると、ラノベどころか、ミステリ小説の新人割合>BL小説の新人割合、という結果に。
新人作家の入らないジャンルの行く末は……?
BL小説といえば――実態はさておき――世間的な印象としてはまだまだ「若い子の読むもの」でしょう。ミステリは全年代、むしろ印象としてはおじさんの読むもの、かもしれません。しかし、ジャンルとしてのBLは、既にミステリ以上に活発度が低いといえます。少なくとも、新人作家の数という数字上では。
そもそも新人作家の数をジャンルの活発さの指標にしてよいのか?という疑問は残ります。しかし、他ジャンルの経験上、新人作家と新規読者がある程度連動するというのが自分の見解です。(人気作家がデビューすると多くの新規読者が入ってくる、逆もしかり。)
この経験論が正しいとすれば、新人作家が出てこないと新規読者が増えず、ジャンルとしての衰退が進む(そしてさらに新人作家が出なくなる)と考えられます。作家がベテランになればなるほど、自然と玄人向けの作品が増える、というのもあります。
また、この11月が他の月に比べ、特にベテラン作家の率が高かった可能性もあります。これは12月以降のデータを取ってみれば明らかになるでしょう。自分の心象としては、通常営業だったな、という感じです。出来れば過去(3年前とか5年前とか)のデータも取ればいいのでしょうが、いかんせん面倒くさ(ry
まとめ
- BL小説の近年の新人の少なさ、生き残り率の悪さはやっぱり異常
- ラノベの新人率も異常
- BL小説はもしかするとミステリ以上に枯れているのかもしれない
別に活発なジャンルだからBLを読んでいる、というわけでは無いですが、ここまで明らかにジャンルとしての衰退が見えると悲しい物がありますね。新人探求はジャンル読みの楽しみでもありますし。
あえて悪い言い方をすれば、現状のBL小説は黄金期であった15年前の遺産でようやく食い繋いでいる状態。作家も読者もどんどん高齢化し、この先どうなるのか……。
実際、新刊といっても文庫落ち多いですしね、最近。レーベルによっては新作と文庫落ちの数が同じくらいだったり。しかもそれが下手な新作より面白いという。シリーズ物とかが毎月出ると読んじゃいますしね……。仕方ないのかなぁ。
あとBLの新人は1冊出したきり、というのも多いですね。読者としても1冊じゃ判断できないので、ラノベみたいにだだっと2,3冊出してくれると、判断もしやすいし、印象にも残ると思うのですが。
新風としては、ちょっと期待だった海外翻訳BL(参考)も7月以降音沙汰が無いですし。。
ちなみに個人的に最近注目のジャンルはサブカル系BLコミックと乙女向け官能文学です。「ティアラ文庫総解説」よろしくお願いします。(まさかの宣伝)
おまけ雑感
- 作家のPNはラノベ、ミステリ、BLの順で特定性が高い
BL作家はNDLで著者名検索するとすごい勢いでノイズが乗ってきますwBL作家はPNでさえも隠れているというのか……。
- NDLサーチは結果データが多いとレスポンス遅すぎる
最終的には著者名、DBはNDL-OPACのみ、最古のレコード1件のみ、という検索条件で投げてたのですが、赤川次郎とかだとこの条件でも120秒のタイムアウトに引っかかる。おかげで手動検索した部分がかなりあります。API経由じゃなくサイトの方で検索するとそんなに遅くないので、APIになんかボトルネックがあるのかなぁ。。
そもそも一旦著者標目引けよという発想は聞かなかったことに(ry
- NDLサーチはたまに古い順ソートをミスる
デビュー年に2作出している作家さんだと、古い順ソートを指定したのに新しいほうが先頭にソートされる、ということがかなりありました。発行年でしかソートしていないのかな?