痩せていくブログと深海魚

先日、Twitterにて「はてなブログが最近使いづらいなぁ」とつぶやいたところ、いろいろな反応があって面白かった。

使いづらいという意味は、別にどこも悪くはなっていないのだが、よくもなっていない、ということだ。私はこのはてなのブログの他に、英語ブログ用にTypepadを使っている。過去に日本とアメリカのブログをいくつか試したり捨てたりして、最終的に現在の形に落ち着いたのが4年ほど前。両方とも有料アカウントである。

Typepadもしばらくあまり改良がなかったが、FacebookやTwitterとの連携がウェブ業界では標準になったこともあり、昨年おおきなバージョンアップがあって、種々の改良がほどこされ、とても使い易くなった。FacebookもTwitterも、Googleなどにしても、少しずつインターフェースに変更が加えられていて、それが時々問題になることもあるが、大きなトレンドとしては徐々に使い勝手は向上している。

一方、気がついてみると、はてなは私が使い始めた2004年頃と全くインターフェースが変わっていない。それほどオオゴトも最先端も望まないが、せめてTwitter連携を自動的にできるとか、他のウェブサイトを引用するときの手間が省けるとか、そういうバージョンアップができないものなのか?という素朴な疑問であった。他でできるちょっとしたことができない、という比較の問題なのかもしれないが。

なら、引っ越せばいいじゃないか、とも思うが、AMNの広告をどうするかを含めた、種々の契約関係やデザインを見直す必要があり、URLも変わってしまうし、かなり手間がかかる。本業でやっているワケでもないので、そこまで手がかけられない。独自ドメインにしておけばもうちょっと簡単だったろうが、このブログを始めたころは、こんなおおごとになるとは思っていなかった。

Twitterでの反応では、「楽天はもっとひどい。放置プレイ状態」といった声も聞かれた。楽天がどうかは使っていないのでわからない。はてなの場合、それほど人数がたくさんいるわけではなく、種々の新しいサービスやブクマの方に人手がとられて、ブログはあまり手が回らないのかな、などとも想像する。

それは、穿った見方をすれば、すでに流行が終わり、おじさんおばさんしか使わない、かつ儲からないブログはほっとけばいい、という状況になってる、のかもしれない。いまだに多くのネット企業がブログサービスを続けていて、乱立状態であるように私からは見えるので、そりゃぁ儲からないだろう。これは日米ともに同じだが、アメリカのほうが早く始まった分、統合も早く進んで主要プレイヤーが固定化して、それなりにお金がまわる状態になったのではないかと思っている。

ブログは完全に終わったわけではない。いっそ、完全に終わってしまえば話は早いのだが、まだまだ使っている人も多く、私にとってもブログはやはり、長文を書いて公開する、個人メディアとしては他に代替手段がない。数年前には、ブログがTwitterもFacebookも包括した複合的な役割を果たしていたのだが、だんだんと新しいサービスのほうが個別の用途には便利になって、(私の「メディアと通信の分離・融合モデル」で言う)通信に近い領域が分離していき、メディアに近い部分だけが残った、「痩せた」状態になっていると思う。

こうした「痩せていく」状況は、例えばテレビや新聞などのマスメディアでも同じ。マスメディアの落日論は盛んだが、完全になくなってしまうのではなく、どうしても商業マスメディアでなければできない機能と、ネットやユーザー生成コンテンツで代替できる部分が分離して、「痩せて」いる状態だと思う。

アメリカだと、こういった「痩せた」サービス、特に有料ブログのような「お客がついていて日銭がはいってくるサービス」というのは、ロールアップの対象になりやすい。ロールアップとは、乱立した同種の企業をいくつも買い集めること。大手が買収する場合もあるし、もっとライフサイクルの後ろのほうにある老いたものならば、深海魚(深海で何もせずじっとしていて、たまたま上から餌が落ちてくるとぱくっと食べる)のような、地味でしたたかな専業業者が担当する。例えばわが通信業界ならば、その昔のパソコン通信がそうだったし、今でも割引国際電話とか、プリペイド携帯とかがこういう業態で存続しているし、たぶん「固定電話事業」も、将来的には転々と転売された後、最終的には「深海魚さん」たちが最後まで看取ってくれるだろう。

日本で産業の世代交代がなかなか進まないという話は、補助金漬けの旧世代業界についてよく取りざたされる話だが、動きの早いネット業界では、5年もたてば、健全な「世代交代」が進まないといろいろ困るのである。始めたら辞められないのでは、実験的な新しいサービスは相当の覚悟がないとなかなか始められない。ウェブのデザイン業界に詳しい方からは、「買収統合したからといってインターフェースはよくなりません。両方がごっちゃりくっついた、誰も使わないものができあがってしまいます」とのご指摘もいただいており、全くそのとおりだと思うが、経営の観点からいうと、「痩せたサービス」は、それなりに統合するすることが、そのサービスのユーザーにとっても、産業全体の健康からいっても、健全なのではないかと思う。

その意味では、グーグルはなんでもベータとかいっちゃって始めてもすぐやめちゃうとか、NTTデータがブログサービスをやめたときに批判されたりしたが、その時の言い訳の是非は置いといて、大きな流れとしては、「このサービスにはこれ以上手間かけられない」と思ったらサッサとやめてもらったほうがいい。ユーザーが他に引っ越すための配慮さえしてくれれば。

「痩せて」しまって、成長しなくなって、もう大衆メディアにはもてはやされないようになったサービスでも、では儲からないかというとそうではない。痩せてしまった後にも残っているユーザーというのは、他に行きようがないか、またはそのサービスのメリットを認めているかどちらかの、実はすごくいいお客さんなのだ。

世代交代というのは、サッサと前のものを捨てることではない。どうやって長く健康に生きるか、ということだ。痩せたサービスでも、ちゃんとお金と手間をかけて、メンテできるようになってほしいというユーザーの希望があり、またユーザーの希望があるところにはビジネスのチャンスがある。

p.s. 個人的には、はてなさんは応援しているし、頑張ってもらいたいと思っている。ただ、どこが頑張りどころかは部外者である私にはわからない。もしブログが頑張りどころでないならば、それなりに対処してほしいと思う。