そして、アメリカのビッグ・スポーツビジネスは崩壊するかも?

上記に関連して、アメリカでも「テレビ」の地盤沈下はすさまじい勢いで進んでいる。アメリカの最後のテレビの牙城である「スーパーボウル」が、今度の日曜日にあるのだが、広告業界の「アカデミー賞」ともいえる「スーパーボウルの広告」枠が、相当に売れ残っているとの話がある。そのため、普通なら最低30秒の枠のところを、ビールメーカーの「ミラー」が、「1秒」のCMをやるらしい。スーパーボウルでビールと並ぶスポンサーである「自動車会社」が、今年はまるっきり出さないから、もう本当にどうしようもなくなっているらしい。(出典:This Week in Tech)

ドラマがYouTubeやHuluで見られるようになり、ニュースはもうとっくにネットにかなわないこのご時世、テレビの最後の牙城は「リアルタイム中継」であり、そのトップにあるのがスポーツ中継。ネットでもリアルタイム中継はできるが、例えば先日のオバマの大統領就任式でも、リアルタイムのネット中継は、あまりのトラフィックをさばききれず、途中でフリーズしたケースが多くて苦情が多かった。まだまだ、大量の人に一時に流すような使い方だと、テレビのほうが安定した技術である。

アメリカのスポーツ・ビジネスは、こうしたテレビの広告と深い依存関係がある。草の根的なものは違うが、フットボールや野球などについては、トップ選手の高い年俸も、かなりの部分テレビ広告に支えられていると思ってもそれほど間違いはないだろう。

そして、スーパーボウルを頂点とした「トップ級」のビッグ・ビジネスは、それが単にネットやIPTVに移行するだけ、という話にはならないような気がしている。本当にそのスポーツが好きな人は、ネットでも衛星テレビでも見るだろう。しかし、スーパーボウルの場合、必ずしも普段からフットボールを見ない人でも、「お祭り」だから見る。職場のみんながトトカルチョやってるから見る。CMが話題になるから見る。見ておかないと営業先のお客さんとの話ができないから見る。ハーフタイム・ショーでの突発事件を見逃したら話題についていけないから見る。要するに、「みんなが見るから見る。」そういった「浮動票」視聴者までも取り込めるからこそ、広告の「集中効果」が大きく、スーパーボウルはビッグ・ビジネスになる。

しかし、ちょうど「若者が車に興味を失っている」と同じように、このテレビによる「集中効果」がなくなることで、「浮動票」的なスポーツファンが、スポーツに興味を失っていく、ということが徐々にこのアメリカでも起こるのではないか、という気がしている。他に楽しみのない、真ん中へんの人たちは最後まで残るだろうが、カリフォルニアやニューヨークのような場所では、「みんなが見るわけじゃないから見ない」という「興味の分散」がスポーツでも起こるんじゃないだろうか。

業界でも、スポーツはいつも「映像コンテンツの最後の切り札」として、IPTVやネット映像でも期待が大きいが、果たしてそうだろうか?

いや違う、景気が回復すれば、広告景気は元に戻る、という短期的な変動だけのことかもしれない。断言はできない。いずれにしても、今回の「スーパーボウル不況」が、どうもバブル気味に見える「アメリカのスポーツ・ビジネス」の長い凋落の最初の第一歩なのか、単なるちょっとしたくしゃみなのか、興味深い。もし前者だとすると、「日本の野球界からいい選手はどんどんメジャーに行ってしまう」ということを心配しなくていい日がやがて来るのかもしれない。いや、そうだとするとその流れは日本も同じだから、そのとき日本の野球界はもっと深刻な状況かもしれないが・・・