とりあえず生きていく方法

★私の人生のあらゆる意味での神はマドンナですが(マドンナについては、いっぱい書きたいですが、とりあえずマドンナの素晴らしさを知りたい人はコンフェッションズ・ツアーのDVDをご覧ください。マジ入信確実だよ! 「マドンナ」って入れ墨入れたいぐらいです)、美容において何を信じるか、というのは女同士でもけっこう意見の割れるところです。ブランド信奉派、伊勢丹1F派、通販派、ノーファンデ派、ナチュラル無添加派、ドラッグストア派……。狂信的な信者同士のディスりあいもあったりするようですね。


 ちなみに私が美容で信じているのは大高博幸さんで、基礎化粧品は通販派、ノーファンデ派(このへん一部西村しのぶを信じてますね。せっけんシャンプー使ってますし……)なわばりは基本ドラッグストアという感じなのですが、数ヶ月前美容院で読んでいた雑誌で大高先生がおすすめの美白美容液を挙げて「薄いホクロが消えた」とおっしゃっていたので携帯メモして購入しようとしたところ、これが11g/11200円(※ちなみにアンプルールのラグジュアリーホワイトコンセントレートです)というシロモノで、い、1グラム千円! とさすがにひるんで、でも買ったんですが(このあたりが信者というものです)さっき、その美容液がなくなりました……。どうする、俺、どーする!? 追加するか? ま、また1グラム千円……。でもおそろしいことに、確かに薄いホクロがさらに薄くなってる部分があるんだよ! お、押すよ、購入ボタン!


 大高さんの好きなところは、なんといってもポジティブなところ。amazonの本の紹介にも書いてありますが「美人に生まれていればな、とため息をつくあなた。今のため息でシワが一本増えたと思いなさい!」って、ドキッとしませんか。私は母によく「いい化粧品ない?」と聞かれるんですが、こういうのがあるよ〜と言うと決まって「あんたには効いても、母さんのトシじゃ効きめがあるかわからんしねぇ……」って言われるんですよ。これ、キィーッとなる。泣きたくなります。そんなこと言ったらなにもかもおしまいじゃんか。大高さんは母さんより年上だよ!


 美容って、悪いところを数えていくと本当に落ち込むしキリがないんですよね。特に蛍光灯の下で拡大鏡を観たら毛穴とかシミとかもう書きたくもない言葉の数々が現象として立ちあらわれてくるし、からだだって裸で鏡の前に立つと……立つと……た、立ちたくない、あんまり……。からだのことはともかく、肌に関しては、私は小学生の頃から25歳までニキビがひどくて、もう一生キレイな肌になるのは無理だと思っていたし、たとえニキビが治っても跡が残るんだと絶望的な気持ちになっていました。あらゆるニキビ対策コスメは試したし、それでも全然治らなかったし、でも治したいものだから化粧品カウンターに行っては「ラインで使った方が効果ありますよ〜」という販売員の魔の言葉に従って、月収15万のクセにランコムやクリニークでライン買い(洗顔、化粧水、乳液などなどシリーズで全部買いすることです。数万は平気で飛ぶよ!)して、でも治らなくてという繰り返しでした。化粧品売り場を通るのが、もうものすごくいやだった。肌が汚くて悩んでいるのは誰が見てもわかるし、それで声かけられて餌食にされて買わされて、食費まで切り詰めて生活してるのにまったく効果がないんだからもう、恨み節ですよ。化粧品というものは効果のないもの、ニキビに関しては何をやってもムダ! というのが深く深く心に刻み込まれて、鏡を見るのがいやだった。「キレイになりたい」という言葉は、希望じゃなくて強迫観念みたいなものでした。「キレイになりたい」と思ったとたん、化粧品カウンターで何万円も飛んでいき、使ってみるたび「全然変わってないな」という深い絶望に陥るという繰り返しだったから。


 その頃の私の願いは、美人になりたいとかではなくて、ただもうキレイな肌になりたい、化粧を楽しいと思えるようになりたい、美容というものを考えるときにいやな気持ちになりたくない、みんなと楽しくコスメの話とかしてみたいという、そういう願いだった。


 その願いが叶ったのは、会社を辞めて、同棲もやめて完全に一人の生活になってからだった。集団生活がストレスだったらしく「毎日学校、バイト、会社に行く」「家族(や他人)と暮らす」という生活をやめたとたん、体調が劇的に変わり、今まで持病だと思っていた症状がまったくなくなり、ニキビがスーッとひいた。ライターになったとたんこれですよ。驚いたし、なにより嬉しかった。ニキビの跡だらけの肌でも嬉しかった。それは他人から見れば全然キレイな肌ではないかもしれないけど、少なくとも自分にとっては「今までで一番キレイな肌」だったから。


 そこで初めて美容に対して冷静に、ポジティブな気持ちを持つことができた。跡の凹凸を消すのは難しいし、そういうエステに行くお金はない。ただ、赤黒くなっている色ムラは美白化粧品でマシにならないか? と思い、当時爆発的にヒットしてた「オバジC10」(今はさらに濃い20が出てますね)を買った。夏に実家に帰ったら母に「あんた、何したと!?」と顔を見るなり言われた。私のニキビ跡は、かなり消えていたんです。


 だから私は若い頃に戻りたいなんて一度も思ったことがないし、生まれたてのベイビースキンな時代を除いて、自分の中では今が一番肌がキレイだから、今が一番いい。シワができても、シミができても、もうあんな脅迫的な暗い気持ちに取り憑かれるのは絶対にいやだから、自分が好きで、心地よい美容だけを試して、ときどき新しいのを買ってみたり、かわいい化粧品を使ってみたりして楽しむことだけ、決めている。お値段も、身の丈に合った感じで……という感じではありますが、唯一奮発しているのが今このラグジュアリーコンセントレート!(結局美白ものに弱い)い、1グラム……もう考えるのやめましょうね。


 美容について「マイナス部分をなんとかする」という考え方をすると、絶対良くない。何してても「どーせ毛穴開いてるし……」とか、好きな人に顔ジーッと見られてるときでさえ「鼻の毛穴の黒ずみが……」とか思ってたら、どんな美容法をやったとしても表情が絶対にこわばってしまうと思う。何もうしろめたいことなんてないのに、いつも何か弱点や欠点をかばっているみたいな、ビクビクした感じになってしまう。これは本当にそう思ってるから書くけど、森三中の三人中二人が熱烈に愛されて求婚されたのは、二人にそういうビクビクした部分がなくて、楽しく笑って暮らしていたからで、そういう部分に世間の基準で言う美人とかブスとかまったく関係ない。「一緒にいて楽しい」って、関係ないでしょ? 私は美男に興味がないからよけいにそう思う。


 とりあえず、今の状態のマイナスを数え上げるのではなくて、今の状態を普通、と思ってそこから「ここをアゲていく」という考え方をしたほうがいいと思う。もちろん、自分でそう思ってても邪魔はたくさん入る。意地悪な美容部員はたくさんいるし、エステやネイルサロンのような場所でさえ脅迫のように「この肌、このままじゃヤバいですよ! もっとまめに来てくれないと!」みたいなことを言う人もいます(はっきり言うけど、ゲスいよね。人のキレイの基準はそれぞれなのに、他人に自分の価値観を押し付けてるのと同じだよ)。でもそういう脅迫的な考え方をしてたら、生きていけないよ。だって誰だってトシをとるんだし、芸能人やモデルのようにどんな手を使ってでもシワやシミを取るなんてことをしない限りは、容姿は変わっていくものだ。「どうせフケてシワやシミだらけになる」とあきらめるのでも、「シワやシミになったら大変! あれもこれもそれも全部買わなきゃ!」となるのでもなくて、「日焼け止め毎日塗るのめんどくさいし、日傘でも買おうかな。かわいいやつ」ぐらいのテンションで、美容とつきあっていけないものか、と私は思うのです。


 どうせ今さら、ものすごい美人になんてなれないし、ものすごい若返ったりもできないし(いや、できる手段はあるかもしれないけど、そこまでする気もないしね)、自分の中でそれなりに気分良く過ごせて、化粧品を使ったり選んだりするのが「楽しい」状態であれば、それで十分のような気がする。ときには若く美しい人に嫉妬したり、恋愛や何かの場面で容姿について深い傷を負う場合もあるだろうけど、今のところは、ドラッグストアの安い化粧水でローションパックしたり、コラーゲンバー食べてみたり(これおいしい。フラコラコラーゲンバー/資生堂です)開いた毛穴を数えるのはやめて、あした着る服を考えたり、そういうふうに過ごしたほうが人生には光がさしてくるように思う。


 きれいな、女性アナウンサーが自殺した翌朝8時、私のところには母から電話がありました。「あんなことがあったやろ。なんか、不安になってねぇ。生きとるならいい」。出社前にそれだけ言って母はいつも通り会社に行きました。どんなささいなことでも死ぬ理由になり得ることを、母も私も知っている。東電OL事件よりも、あの事件は、私にとっては自分に近い近い事件で、だから母から電話があったときはどきっとした。


 たかが美容だし、たかが遊び、たかが食事、たかが仕事で、でもそのつまんないことに苦しんで死ぬこともあるし、そのつまんないことに救われることもあって、だから、どんなにつまんない小さいことと思われることにも目を向けてそこに救いをさがしたほうがいい。フラコラコラーゲンバーがうまいとか、ディズニーランドが楽しいとか、ちょっと外を歩いてみようかとか。


 母の会社では、一人で子供を二人育てている女性がいて「ときどき夜、これからどうなるんだろうって考えると怖くて怖くてたまらなくなりますよ〜」と言うので、母が「私だってこれから老後とかどうなるのか考えたら怖くてほんと泣くよ! 夜は『佐賀のがばいばあちゃん』の言う通り、暗いことは考えんほうがいいよ!」と言ってなぐさめあったそうで、私はその話がとても好きです。私にも夜、先のことを考えて怖くてたまらなくなるときはあるし、たぶん誰にでもあるでしょう。でもそういうふうにして、人に言ったりとりあえず夜明けを待ったりして死ぬタイミングをうまく、うまくかわしていくことが生きていくために大事なことなのだと思う。マドンナは、いつでも私を救ってくれるから、私の神なのです。あのDVDを観たら、ぜったいに生きていたくなる。人生の快楽のすべてを啜り尽くして死んでやるという気持ちになれる。もっと踊りたい、歌いたい、音楽を浴びて、その快感を知りたい、と思う。あそこにたくさん登場するさまざまなタイプの美しい人たちのようにくっきりとした輝きを放ってから死にたいと思う。ミラーボールの光りの中でな!