自分は大統領と同じなんだ、と言えることのすごさ
以前から取り上げている友人の子(現在5歳)の話。こことここ参照。
わたしとの関係をもうちょっと詳しく書いておくと、実際にはわたしの親友なのはこの子の祖母で、彼女はわたしより一回り以上年上なのだけれど、10年近い付き合いをしている。いまわたしが住んでいるのは、彼女の持ち家(ていうかサブプライムローンで今苦しんでいるところなのだけれど)の一部分で、内部的には繋がっていて一つのベッドルームみたいな感じなのだけれど、独自のドア、トイレ&バス、キッチンを持つひとつのアパートみたいな感じにもなっている。
彼女がこの家を買ってわたしがここに移り住んだのは2年ほど前なのだけれど、その時ハウスメートだったのが彼女の娘であり、問題の子どもの母親でもある女性。年齢的にはわたしは母娘の間で、どちらかというと娘の方に近いので友人付き合いしている。現在娘は近くの別のアパートに住んでおり、子どもは両方の家を行き来しながら育てられている。なんで娘でなく他人のわたしを同じ家の中の部屋に住ませているのかと思うかもしれないけど、母と娘が一緒に住んだら喧嘩が絶えなくてストレスがたまるので、近所であっても別の空間の方が良いという理由。
で、子どもの話になるわけだけど、わたしはその子が生まれた時からずっと近くにいて、その子にとっては「家族ではない、一番近い大人」みたいな立場。親ではないので面倒な世話をする責任はまったく無く、自分の都合がいい時に一緒にアニメ見たりゲームしたりするだけという理想的な状況。最近ニンテンドーDSを買ったのはかれと一緒に遊ぶためだったりする(ちなみに、Wi-Fi対戦するときは絶対に手は抜かない。わたしの強さを分からせなければいけない(笑))。そんなおいしいところ取りであってもベビーシッターの役割くらいにはなっている。
ところでかれの父親なのだけれど、これがどうしようもないギャングくずれの黒人男性で、麻薬売買で捕まってずっと刑務所にいる。シングルマザーとその母親によって育てられているということ。ただ母親は白人で、その他の家族もみんな白人のなか、自分だけは黒人だという意識を昨年頃になって持ったようで、わたしに「一番近くにいる白人ではない人」として特別な感情を抱いている。
それでやっと本題だけど、そのかれが昨日「バラック・オバマのバッジちょうだい」って言いながら部屋に入ってきた。
わたしはバッジをいろいろ作って販売しているのだけれど、かれの一家はみんなオバマ支持者なのでおばあちゃん(わたしの友人)からわたしがオバマのバッジを持っているという話を聞いて、もらいに来たのだ。その際の会話。
「どうしてオバマのバッジが欲しいの?」
「だってオバマが好きだから。次の大統領になるんでしょ?」
「まだ分からないけど、なったらいいね。」
「オバマって黒人なの?」
「オバマのお父さんは黒人で、お母さんは白人だよ。あなたと同じだね。」
「じゃあオバマはどっちなの?」
「あなたと一緒だよ。あなたはどっちなの?」
「ぼくと一緒なのか、分かった。」
かれはこれで納得したようだ。そしてわたしがかれのシャツにバッジをつけてあげると、かれは「ぼくはバラック・オバマだ!ぼくはバラック・オバマだ!」と叫びながら出ていった。
政治家は人種や性別ではなく、本人の資質と政策で選ぶべきだとわたしは思う。
でも黒人の子どもや黒人と白人の親を持つ子どもが大統領を見て、「自分は大統領と同じなんだ、大統領は自分と同じなんだ」と思える日がくることが、どれだけすごいことなのか、どれだけかれらの世界を大きく広げることができるのか、わたしたちはまだ全く知らない。また、白人の子どもたちが、黒人の大統領を当たり前の現実として見ながら育つことが、どれだけかれらの意識に影響するのか、これも全く分かっていない。大統領だけでなく、政治で、経済で、文化で、メディアで、偉大な白人男性の物語ばかりを見せられてきたこれまでの世代が、そのためにどれだけ想像力を狭く貧しくしてきたことか。
女性だからクリントンを選ぶとか、黒人だからオバマを選ぶとか、そういう考え方はやっぱりおかしいだろう。でも、クリントンが女性であることや、オバマが黒人であることが、今回の選挙において全く関係ない、無視されるべきことだとは思えない。政治の中身なんて分かりようがない幼い子どもにとって、それが全てかもしれないのだから。