「GPLによりproprietary(企業所有)コードの公開を強制させられる」というFUD(嘘)を一掃する

http://www.groklaw.net/article.php?story=20031214210634851

groklaw.netはPamela Jonesという弁護士補助員が営んでいるフリーソフトウエア関連の法律ブログ。以前、SCO対NovellでLinux/Unixの「知的所有権」をめぐる訴訟では技術コミュニティーに法律を分かり易い文で説明して活躍した。弁護士ではないためか、普通ドライな法律分析には見られない率直な態度でドラマの背後にある人間関係や感情までも解説してくれるのでとても読みごだえがある。米国でのFOSS関連の法律問題に関心のある方にはお勧め。Oracle対Googleもカバーしている。

今回は「間違ってGPLコードを取り込んでしまうと、社内機密コードまで公開させられる」というFUDを(Fear Uncertaingy and Dread=恐怖心を与える噂)を一掃している。(これは米国でのGPLの話なので、日本にどう適応するかわからないけど、御本家の話は参考になると思う)

その理論は至って簡単: GPLは(名前のLが示す通り)ライセンスであって契約ではない。そして、単なるライセンスには非公開コードを公開させる執行力がない。これだけだ。法律のバックグラウンドが無い人でも簡単に理解ができる仕組みだ。(当事者に本当に分ってもらおうとしているFSFのライセンスと、当事者から真実を隠そうとする、あるいは自分を守ろうとするだけの一般的な法律的文書の違いだ)

非公開コードの公開を強制するような力をもっているのは契約なのだ。上の噂と危惧は契約とライセンスを混乱しているところから来ている。こういう混乱が広がるにはそれなりの理由はある: 商用クローズトソフトの多くがライセンスでなく契約によって使用許可を与える形態を取っているからだ。契約にはライエンスよりも強い強制力があり、実際(購入後に)無茶苦茶な条件を使用の前提にする製品が多くある。こう見ると、強制力の限られているライセンスに基くGPLソフトの方が安心できるものだと言える。

以下、Pamelaの解説から要点を抽出する。なお訳者は法律の知識が無く、内容には一切責任は持てない。

  • GPLはライセンスであり契約ではない
  • 契約は州毎の契約法にもとづく
  • ライセンスは著作権法に基づき連邦政府が施行する
  • この二つは別物。ペナルティーも違ってくる
  • ライセンスは所有物の使用を許可するもの
  • 契約は義務の交換。 違反の場合には法的救済が適応されうる。

FSFでGPL違反を扱っているEben Moglenによると:
「GPLは真の著作権ライセンスである。 一方的な許可であり、被許可者に許可者へ義務は伴わない。…」 GPLに違反している場合は配分する権利が失効する。つまりありうるペナルティーは著作権違反だけなのだ。

仮にGPLを含んだ独自(proprietary)プログラムを(バイナリとして)リリースした企業があったとする。これに対する著作権保有者の法的救済は:

  • 配布を停止させること
  • 今迄発生した著作権違反の配布に対する賠償

だけだ。(これでも十分な強制力なので契約のような執行力を求める理由もないようだ)

Pamela:
GPL違反者には選択肢がある。 GPLの部分を書き換えるか、独自コードをGPLをして公開すれば違反を回避できる。もし、どちらも拒むとしたら、法廷はさらなる配分を停止する差し止めを命ずることができる。しかし、独自コードの公開を強制することはない。
もし仮に事故でGPLコードが独自コードに混入してしまっても全てが終るわけではない。だれも報復としてコードを奪ったりはしない。管理できるリスクであり、解決できる問題だ。GPLはライセンスだからだ。



企業で「知的所有権」戦略を行なっている者からGPLは如何わしいという意見を聞いたことがある。FOSSに慣れ親しんできて者として「そんな考えかたもあるのか」と正直驚いだ。買った後で読むこともできないようなボックスに詰め込まれ、後に一方的に変更できる条件に同意させられる「契約」の方がよほど如何わしと感じてきたからだ。「特定のユーザの権利を否定するなら再分配する権利を失う」これのどこが胡散臭いのか理解できない。
常に自分の利益の最適化だけを追求する環境の人には、直接の金銭的な利益と無関係にユーザの権利を保証するという意図が理解できないのだろう。理解できない意図の背後には隠れたアジェンダがあると疑うのは人間の常だ。proprietaryとFOSSの間の文化的な壁だ。

GPLが怪しいと思う人へ:

  • ユーザの権利の保証を重んじるソフト開発者は多くいる。これに裏はない。まず動機を把握してほしい
  • その上で、GPLの文面を読んで理解してほしい。モチベーションがわかれば難しいコンセプトではないから
  • ユーザの自由度を制限することにより希少性を作り利益を上げるのだけがソフトのビジネスモデルではない
  • ユーザの自由度を保証することを戦略として展開しているビジネスもある。(これについては別ポストで…)