文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (下)

文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (下)

文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (下)

読了。非常に面白い。環境保護を訴えるのが趣旨だが、企業や政府を責めるのではなく個人の行動を変えなければ、環境保護を実現できないと主張しているのが納得できる。環境保護を重視するのが、企業の利益にもかなうのだという点をいかに企業経営者に納得させるか、それが大事だという。天然資源を採掘する業界は、石油・鉱山・石炭と大まかに3種類あるが、それぞれ環境保護に対するアプローチが異なっているのが興味深い。石油業界は比較的環境保護に対しては先進的だが、反対に鉱山はかなり時代遅れとなっている。この違いの背景には、石油が垂直統合されている場合が多く(採掘からガソリンスタンドまでを同一企業が保有している)、消費者の反応が直接飛んでくるのに対して、鉱山で採掘される資源(金・銅・亜鉛・鉄鉱石などさまざま)はユーザーは企業であり最終消費者には複雑な流通経路を通じて届けられるという違いがある。そのため環境を破壊するような操業を行っている鉱山に対して抗議行動が届きにくいのだ。

オーストラリアの現状も非常にショッキングだった。オーストラリアのイメージは豊かな自然というものだったが、実際にはかなり荒廃しているようだ。地理的条件がそもそもあまりよくなかったのに加えて、英国からの移民が英国のライフスタイルをオーストラリアに持ち込んだことが豪州の環境破壊につながっている。そしてそのライフスタイル(または英国と同一視する価値観)が環境保護の妨げになる現状も紹介している。豪州では中規模の都市に住むことが非常に難しく、5大都市(シドニーやパースなど)に人口がどんどん流入しているという。しかし政治では過疎部に住む農民達が大きな発言力を有していることから、国全体では生産性の低い農産業に資源が投入され続けている。

環境破壊の現状だけではなく、なぜ社会は環境破壊を引き起こし、自らの存続さえも脅かすような意思決定を行うのかという問題も分析している。ここではいくつかの問題に分割できる。まず環境破壊事態を予想できないという問題(最初は適切だと思っていても後になって大きな問題を引き起こすことがある)。予想しても楽観的な見通しのもと対策を行わないという問題。技術的に解決する方法が存在しないという問題。このようにいくつかに分けることが出来る。
意思決定を分析する箇所は、環境保護に関する書籍とは思えない。集団思考や群集心理など社会心理学の書籍のようだ。集団思考で著者が指摘していたケネディ大統領のエピソードが興味深い。ビッグス湾事件で間違った意思決定を行ったことを反省して、キューバミサイル危機では意思決定過程の改善を行ったという話だ。


キューバミサイル危機を描いた映画がこれ。

13デイズ<DTS EDITION> [DVD]

13デイズ [DVD]

BNPパリバのエコノミストである河野龍太郎氏も確かレポートで推薦していた。レンタルしてこよう。

環境保護を訴える著者は結構楽観的だと思えた。かなり困難な課題が山積しているのだが、技術的に解決不能なものはなく、意思さえあれば変えることが出来るものだという。ただ様々な利害関係を有する人たちが存在しているので意思を集約するのもかなり困難だと思う。短期的な利益(環境保護に対して投資しないことで高い収益を得る)と長期的な利益(環境保護に投資することで汚染を除去するコストを引き下げることができる)をいかに近づけることができるか。現在の天然資源の価格自体に、環境保護のためのコストが適切に反映されていないことが短期的利益と長期的利益が乖離してしまう原因のように見える。

世界中で環境保護に対する機運が高まる一方で、発展途上国を中心に経済成長(つまり環境破壊)も実現している。発展途上国に対して先進国と同じようなライフスタイルを目指すのをやめろと主張するのもできない以上、先進国のライフスタイルを引き下げる必要があるのかと感じる。

将来は技術が進化して、環境破壊問題も解決するというのはかなり楽観的な見方であるようだ。私もそう思っていたのだが。確かに技術の進歩により環境保護が推進される場合もあるが、逆に技術の進歩により問題が拡大してしまう場合もあるためだ。フロンガスも最初は危険なアンモニアに依存しなくて済むため、環境保護に貢献すると考えられたというのが意外。それ以上に意外なのが、自動車の誕生時のエピソードだ。自動車はそれ以前の交通機関である馬車と異なりクリーンな交通手段と考えられたらしい。糞を路上にすることもなく、うるさい鳴き声もなかったためだ。将来を予測するのは難しい。


あと、メモ。

  • 革命、クーデター、権力者の失墜、大量殺戮などの「国家破綻」の最良の予測因子は乳児死亡率の高さ、人口増加率の加速、10代後半から20代の人口比率の高さ、就労不能の若年層人口の軍隊への流入など。

これに限らずこの本には人口圧力に伴う問題が多く紹介されている。環境破壊も人口問題が引き起こすという側面も強い。日本も無理に人口を増やす必要はないのではないかと思った。