女がマイホームにのぼせ上がってしまうと始末に負えない

 マイホームの税務相談会というのがある。若い夫婦が訪れてくるのだが、奥さんの独壇場だ。税金のこともよく勉強している。ダンナは子守役で口を差し挟むことは許されない。奥さんの後ろでウロウロしているばかりだ。「こんな安い給料でマイホームなんて論外でしょ」という言葉がのど元まで出てくる。
 サラリーマンは安い給料でこき使われ、いつクビになるか分からない「ハイリスク・ローリターン」の哀れな職業である。それなのにいまだにマイホームを買おうとするバカが多いのには呆れる。
 雨露さえ凌げればマイホームであれ、アパート住まいであれ、変わるところはない。「アパート住まいでは何年家賃を払い続けても“自分のもの”にならない」というが、マイホームといっても借金して買うのだから実態は“銀行借家”だ。借金を払い終わった頃には家はボロボロだ。“自分のもの”というのは錯覚にすぎない。金もないのに分不相応にマイホームを欲しがるから人生が狂うのである。
 たいていのケースはサラリーマン本人よりその奥さんがマイホームを欲しがる。
女がマイホームにのぼせ上がってしまうと始末に負えない。どこからあのようなエネルギーが湧いてくるのだろう。フツーの男では対処できない。資金調達から間取りや家具の選定、税金の相談にいたるまで、すべて奥さんの独り舞台である。
 念願のマイホームを手にして友人・知人を招いてバーベキュー・パーティーをするのは最初だけ。その後は借金の返済に追われバーベキュー・パーティーどころではない。
 念願のマイホームも実際に手にしてみれば“こんなものか”という程度で感慨は湧かない。それより借金のプレッシャーに押しつぶされそうになる。
 そのうち、ダンナの勤め先の会社の業績が悪くなって給料が下がる。家計は苦しくなり、奥さんはパートに出る。パートに出たところで大して家計の足しにはならない。アホな子供たちでも塾に通わせ、ますますお金は足りなくなる。そうして夫婦喧嘩が始まる。そのうち離婚だ。私は予想屋ではないが、はっきり見えてしまうのだ。


  一刻も早く貧乏人にマイホームの営業をしてはならないという法律を作らなければならない。利息制限法の改正より喫緊の課題である。
 私のような税理士はハウスメーカーの税務相談会の相談員はやらない方がよいな。
 自慢じゃないが、私はいまだにマイホームを持たない。ヤドカリ生活だ。マイホームが欲しいという人の気が知れないのだ。