企業内でのコピーに30条は適用できるか

たまたま見つけたこのエントリーを読んだ。

企業法務マンサバイバル:【雑誌】BUSINESS LAW JOURNAL No.14 5月号―著作物の社内/部門内コピーという現実に対する法務パーソンのスタンスを問う - livedoor Blog(ブログ)
http://blog.livedoor.jp/businesslaw/archives/51780524.html

企業内での文献のコピーの問題が私の著作権についての原点なので、早速BUSINESS LAW JOURNAL No.14を買った。

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2009年 05月号 [雑誌]

BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2009年 05月号 [雑誌]

同号の「特集1」が「うっかりミスでは許されない! 法的リスクの見落とし事例」で、その中に「気をつけているのになぜ? 著作権等侵害トラブルはこうして起きる」という解説記事が載っている。書いているのは弁護士の宮川美津子氏と升本喜郎氏。
著作権に関わる6つのケースを取り上げているが、その1つめで雑誌記事を研修用に複製することについて解説している。
その中で、

企業その他の団体において業務上利用するために著作物を複製する行為は、私的利用目的複製にはあたらないとした判例もあります。

としつつも、

社内での文献等のコピーが著作権侵害になるとして一切許されないということにも抵抗を感じます。

と述べている。
私が複写と著作権の問題に取り組むようになった原点は、まさにその抵抗感からだったので、大いに共感を覚えました。
そして宮川氏と升本氏はさらに踏み込んで次のように述べている。

会社内の同じ部署の人たちが、数人程度の小規模な会議や研修会の資料として文献等をコピーする場合には、同項*1の「これに準ずる限られた範囲内」に当たると解釈することも無理ではないのではないかと思います。

このような見解が出されることは、とてもありがたい。


これまでも、企業内でのコピーに30条の適用の可能性があると言っている人はいた。
例えば、前に小倉弁護士のブログのエントリーにコメントしたときに、小倉弁護士から

私は、30条1項柱書を文理解釈しますので、複製物を「限られた範囲内」で使用することを目的としている限りにおいて、その複製が通常の業務活動の一環としてなされたとしても、30条1項の適用を受けられると解しております。著作権法の解説書を見ると、会社等における内部的利用のための複製行為は30条1項の適用を受けないとする方が多いようですが、それでも法律事務所における文献コピー等は30条1項の適用を受けるとするものがあったと記憶しています(法律事務所だけ特別に扱う理由はないと思いますし、業務活動の一環として行われる複製は30条1項の適用を受けられないというのであれば、職業的研究者が学術論文を執筆する際の資料として文献を複製する場合も30条1項の適用を受けられないとすべきだと思うのですが、そこまで断言する著作権研究者はおられないようです。)。

benli: 「Theo(テオ)」のグランドオープン

著作権法の解説書を見ると、企業内における複製には著作権法30条1項の適用がないとするのが多数説ですが、それは文言解釈上無理があるし、現行法制定時の議論を見ても難しいのではないかと思います。

benli: 「Theo(テオ)」のグランドオープン

との返事をいただいた。
また、田村善之先生は著作権法概説の中で企業内での複製について

たとえば,社長のために秘書が購入してきた英語の雑誌記事を日本語に翻訳する行為であるとか,あるいは,既に部署で購入してある数冊の書籍から現在の企画に関連する部分だけをコピーして一冊のファイルにする行為や,部署で購入済みの書籍につき遠方の会議に出席している部長からの問い合わせに答えるためにファックスで関連頁を送る行為(受け手のところで「複製」がなされている)などに関してまで,著作権者の許諾を得なければならないと解する必要はないであろう。


田村善之.著作権法概説.第2版.東京,有斐閣, 2001,p.200.

と、著作権の及ばない例をあげている。
私が知っている範囲では、この2例だけだったが、今回のBUSINESS LAW JOURNALの記事で3例目だ。
このような解説が増えてくることを望む。

*1:引用者注:著作権法第30条1項