初音ミクが流行った理由などあれこれ

今ちょうど酔っ払ってるので全力で反応。エントリ4つ分くらいの内容を圧縮したので難解になってるとは思いますが、ご了承を。


VOCALOIDの歴史というのはけっこう古いもののようなんですね。でも、初音ミクは最近になって受けた。この辺の理由が知りたいな、と。
いきなり結論付けてしまうと、初音ミク以前の歌を歌うツール、例えば”くまうた”とか"PC-6601"とかはあくまで”ツール”であってそれ以上のモノではない。「じゃあ初音ミクは何なのか?」と問われると、一代前のVOCALOIDであるMEIKOが「シンガー(歌い手)」とすれば、VOCALOID2である初音ミクは「アイドル」とか「アーティスト」と言える存在なんですよ。”専門的”というよりも”総合的”な存在なんです。*1

一連の初音ミク論を見ていると、「初音ミクは音楽ツールとして有効であるかどうか?」という部分ばかりが焦点になっていて、それだと一昔前に「アイドル」や「アーティスト」が「歌い手(シンガー)としてはどうなのか?」という部分にのみ焦点が当てられて批判されてたのとあまり変わらなくて、アイドルの個々のファンが持つ「異性としての理想(≒偶像)」としての意味合いとか、アーティストが行うパフォーマンスやファッションなどの「歌」以外の部分の意味合いが注目されていない所がある。
そもそも、「シンガー(歌い手)」ならば純粋に歌のみが評価されるわけで、3Dモデリングで初音ミクを作る必要性は無いんですね。だから、専門的なものから総合的なものへと舞台を移した点において初音ミクは画期的だと言えるわけです。

初音ミクは神道的

初音ミクが画期的なのはこの点において留まるわけではなくて、その総合性ゆえの懐の深さがあるんじゃないかな、と俺は考えてます。
ツールとしての初音ミクをうまく操れる人はうまく歌わせて「歌」として”初音ミク”を表現するのだけど、やはり中にはツールとしての初音ミクをうまく操れなかったり他のものを扱う方が得意という人もいるわけで、そういう人はさっき例として示したような3Dモデリングツールを使って”初音ミク”を表現するし、3Dモデリングツールが使えない人はイラストを使って「描いてみた」シリーズとして”初音ミク”を表現する人もいるし、中には「初音ミクに似せて人間が歌ってみた*2」という初音クミなんていう動画もあったりする。
なんというか、人それぞれの”初音ミク”の表現方法があって、”初音ミク”はそれを全部受け止めてるわけなんですよ。そういう懐の深さがある。




実はアイマスMADにおいても同じ構造があって、ある人は「音楽プロモーションビデオ」として”アイドルマスター”を表現するし、ある人は「ミュージカル」として”アイドルマスター”を表現するし、ある人は3Dモデリングツールを使って”アイドルマスター”を表現したり、イラストを使った紙芝居として”アイドルマスター”を表現する人もいれば、ゲームプレイ動画からシナリオを作りあげて”アイドルマスター”を表現する人もいる。人それぞれの個性を最大限発揮できるような土壌が作られているというか、そんな懐の深さがある。




初音ミクにしてもアイマスMADにしても共通しているのは、非常に日本的だ、という点なんですよ。すごく神道的というか、”八百万の神”みたいな部分があって「自分の好きな動画を好きになればいい」「自分の好きな動画を作ればいい」といった、ある種の自由の実現してるんですね。

962 名無し物書き@推敲中? 2007/07/18(水) 20:40:50
「豚カツの食えない生活なんて!
俺はいすらむをやめるぞ(俺)ー!」
と叫んで出て行ったトルコ人がさっき泣きながら帰ってきた。
神道に改宗しようとして神社に行ったら、
神主さんに徳のあるお話をしてもらったらしい。

「日本の神様はよその神様も他国のお友達みたいに思ってるから、
改宗とかカリカリしなくて大丈夫だよ、ゆっくり考えておいで」(意訳)
みたいなことを言われて感動したとか。
俺の部屋の神棚(簡易セット)にイスラム式お祈りを捧げている。

確かにやおよろずの神だからいいのかもしれんが、
それを神主さんが言っちゃっていいのだろうか。
そして一神教が感動しちゃっていいのだろうか。
ちょっと面白い。

初音ミクが凄いのは、「前からあったVOCALOID的なツールを注目させた」というか、初音ミクによって今まで焦点が当たらなかったようなツールまで日の目を見ることになっているという点で、通常なら「初音ミクよりもこっちのツールの方が優秀だ!」みたいな話が初音ミク好きの中から出てきてもおかしくないのに、むしろVOCALOIDとして初音ミクを中心として団結してるような部分があるんですよ。今までVOCALOID的なツールが抱えてきた遺産をフル活用できてるような所があって、昔の人も今の人も協力しあってる印象がある。初音ミクはVOCALOID界のジャンヌ・ダルクみたいな所がある。
で、アイマスMADも同じ構造があって、「今までのMAD技術を総動員」してる部分があって、これはまた後に語る予定なので詳細は現時点では省いてしまうのだけど、MAD界を引っ張る先進的リーダーみたいな部分があるんですよ。

なんかそういう「対立せずに協力しあえる」「自分の好きなもの、得意なものをそのまま活かせる」という点において、↑に引用したような「神道の神棚にイスラム式お祈りを捧げ」ることの出来る可能性を、初音ミクとアイマスMADに感じたんですね、俺は。

初音ミクのさらなる可能性

こないだ初音ミク関連でおもしろいなと思ったのが、こちらのエントリで、


昨日ニコニコで初音ミクが歌う『ハジメテノオト』を聞いて目が潤んでしまったので書いておこうと思う。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1274898
YouTubeにも上がってた。
http://jp.youtube.com/watch?v=kOxrATZ1T7Y

初音ミクは歌うことはできても、普通に話させようとすると途端にたどたどしくなってしまうキャラクター。歌うことに特化され、そのために声を与えられ、入力された音程とテンポを受け入れ、歌う。必死に人間らしい声をだして。
その初音ミクがこう歌っている。

時の流れも 傷の痛みも
愛の深さも あなたの声も
ワタシは知らない だけど歌は
歌はうたえるわ だからきいて
もしもあなたが 望むのなら
何度でも 何度だって
かわらないわ あのときのまま
ハジメテノオトのまま…

そういう物語を受け手である僕が勝手に読み取って感動してしまっているだけなんですが、ただの物語と違うのは、実際にいるんですよ、そこに、さっき書いた設定通りのキャラクターが。
もちろんこれは物語でフィクションなので作者がいるのは分かってるけど、それは曲の作者だけじゃない、ソフトの製作者だけでもない、ミクの絵を書いた人だけでもない。でも確かに僕は感じたんだ、いつの間にか出来上がっていた極上の物語を。そして感動した。

id:comnnocomさんが感動した理由を自分なりに分析すると、初音ミクはもちろん人間ではないのだけど、人間じゃないゆえの悲しさ、どこまで人間らしく歌えたとしても初音ミクは人間ではないという悲しさを歌っているという点なんですよ。映画で例えるなら、アンドリューNDR114的な悲しさがある。「人でないことの悲しさ」なんて生身の人間が歌えるわけ無いじゃないですか。

m_um_uさんの言う「人形」における”欠如”という観点から言えば、「人間とはかけ離れた声」という意味合いでも”欠如”しているとは言えるんですが、初音ミクは人ではないという点においてすでに欠損しているんですね。



「人ではないことの悲しさ」を歌った曲はこれもそうで、歌詞を部分的に抜粋すると、


ニコニコ動画がなくなった
そのときわたしはどうなるの?

もしも完璧になったら、
そこでレッスンは終わりだよね
上手になりたいけど このままがいい
なんだかヘンな気持ち

私には家族がないけれど
歌うのたぶん誰かのため

この歌は「自分は人ではないし、ニコニコ動画の中だけでしか生きられない。じゃあ自分が存在するためには歌うしかない!」っていう初音ミク自身を歌った歌で、存在していくために必死になる初音ミクの”心情”というかその境遇から決して逃れられないのだけど、それでも私は明るく歌っていくよ的なけなげさがあって、これも生身の人間が表現できる部分では無いんです。たとえ、生身の人間が歌ったとしても、「生身の人間」という属性のせいで説得力が無くなってしまうわけです。

まとめ

初音ミクにしても、アイマスMADにしても歴史に残るぐらいのモノを動画作成者は作りつつあるな、と自分は思うのだけど、それが何故か伝わってないことが多くて、ものすごく歯がゆい。
「そういうバーチャルアイドルに萌えるとかキモい」とか「所詮オタクコンテンツだろ」という批判はもっともだと思うけど、そのような批判をしている方々自身にキモい部分がないという保証は全く無いし、オタクコンテンツであろうとその将来性を見出してる人はすでに見出しているし、それ以前にそのコンテンツが大好きなのだから好きなモノを批判されても痛くも痒くも無いというか、その時点において痛いとか痒いとか言ってる連中は愛が足りんだろ、という話です。


ちょいと話はズレたのだけど、初音ミクが流行った理由というのは以上のような理由があるんじゃないかな、と思うわけです。




あと、「アイマスMADがあまり流行らなくて初音ミクが流行った理由」はニコ部あたりでエントリ上げますね。>m_um_uさん

*1:ただし、現在では初音ミクの影響により「くまうた」や「MEIKO」も”初音ミク化”しつつある。

*2:音声はちょっといじってある。