ゲノム研究から見た血液型占い

血液型占いはあたるかどうか、という話。まあもちろん「あたりませんよ」と言いたいわけだが、その根拠についての話である。まあ赤子の手をひねるような話ではあるが、こういうつまらない話は例によってウケは悪いのでしょうが・・・

血液型は、ヒトゲノム上の遺伝子によって決定される

血液型というのはヒトゲノムによって決定されるものである。正確には、ゲノムDNA上にコードされているのは糖転移酵素で、赤血球上のH抗原をA抗原に変えるタイプの転移酵素と、B抗原に変える酵素と、酵素の機能が失われているためH抗原のままおかれるタイプが、遺伝子レベルでコードされている。ヒトによって、ゲノム上に持っている酵素のタイプが異なり、これがA、B、Oの血液型の原因となる。たとえば遺伝子型AOというのは、片親由来の染色体上にAに変える抗原を持っているが、もう片親由来の染色体上の酵素は機能が失われている。結果としては、Aに変える酵素が働いて、その血液型はAになる。別にAO型の人の血中では、AA型の人と比べてA抗原の数が半分になるわけではない。このような遺伝様式を優性遺伝と呼んでいる。

性格の遺伝性について

さて、血液型占いによって性格をあてることができると言われている。この「性格」というものにはある程度の遺伝性が証明されている。遺伝性、というのは、「一卵性双生児の性格は、二卵性双生児よりも似通っている」といったものだ。一卵性双生児であろうと二卵性であろうと、双子ならば教育や環境は同等のはずだ。しかしそれでも一卵性双生児のほうが似通った点が多いとするなら、それはDNAによって決まっている部分があるからだ、と考える。たとえば以下の論文によれば、5つの性格的特性それぞれについて遺伝性を調べたら、いずれも50%前後の遺伝性を認めた。この値の解釈についておおざっぱにいうと、肥満と同じくらいの強さである。身長と比較すると半分くらいだ。背の高い親から背の高い子どもが生まれる確率ほどには遺伝しないが、太った親から生まれた子どもが太る程度には遺伝する、という結果である。

http://www.psych.umn.edu/courses/fall06/yoonh/psy3135/articles/Jang%20et%20al_1996.pdf

したがって、性格はある程度遺伝するということができる。

血液型と性格との関連性について

血液型占いを否定する際、「そもそも血液型によって性格が決まるなどというのは非科学的だ!」とする向きがある。しかしこれはさすがに言いすぎだ。たとえ赤血球による直接の脳への影響については否定的だとしても、血液型が遺伝的に決定されていることを考えると、例えば血液型遺伝子と連鎖不平衡にある遺伝子があって、それが性格を規定するという可能性がありうるからだ。この場合、血液型遺伝子と性格遺伝子が、親から子へと一緒になって伝達されていく。A型対立遺伝子と几帳面な性格を決定する対立遺伝子が連鎖不平衡にあれば、当然A型のヒトは几帳面なひとが多いという結果になることはあるだろう。少なくとも性格の遺伝性は証明されているので、この考え方は充分可能である。あとはこれが証明できるかどうかだ。

ゲノム研究という視点

性格には前述のように遺伝性がある。また、血液型は、遺伝的に決定されるものである。この二つを合わせれば、血液型と性格との一致は、遺伝子を調べるゲノム研究によって当然検出されてしかるべきである。

幸いなことに、最近はやりのゲノムワイド関連研究は、「ヒトゲノムすべてを包括的に調べる」という、なんとも素晴らしいコンセプトの上に動いているのだ。ヒトゲノム全てであるからには、当然ABO遺伝子も含まれているはずである。事実、現在世界中で使われているスタンダードな解析チップ上には、対立遺伝子型Bを決定することが可能な多型と、Oのうち半分を決定する多型が含まれている(Oのもう半分、配列欠失型については残念ながらチップではわからない)。したがって性格と血液型が関連しているなら、このABO遺伝子領域が、関連領域として検出されるはずだ。

そして、残念ながら(笑)性格との関連ではないが、ゲノムワイド関連研究によるABO遺伝子の検出はこれまですでに行われている。血液型と明らかに関連することがすでに分かっているものとして、血液検査値のアルカリフォスファターゼ(ALP)というものがある。ALPについてのゲノムワイド関連研究は、たしかにABO遺伝子領域を関連領域として検出しているのだ。もし本当に血液型と関連するなら、ゲノムワイド関連研究によって検出されるという実績がすでにあるということだ。

では性格についての大規模ゲノム研究が行われているかというと、それはある。なんと2万人ものサンプルが参加した超大規模研究だ。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21173776

結果から言うと、Openness to Experienceという性格特性と関連する候補遺伝子RASA1と、Conscientiousnessという性格特性と関連するKATNAL2が発見された。

つまり、ABO遺伝子領域と性格との関連は、発見されなかった。

これで、血液型と性格との関係は完全に否定、というわけではない。効果が弱い遺伝子については、たくさんのサンプルを用いないとその効果は検出できないことがあるからだ。これは「統計学的検出力」の問題と言われる。しかし、それでもこれだけは言うことができる。

血液型と性格との関連は、もしあるとしても、2万人ものサンプルを用いても検出できないほど弱い関係である。

この程度の関係性では、例えば目の前の人の性格を血液型だけで言い当てられるようなことには到底成り得ない(それくらい強力な効果は、100人、1000人以下のサンプルですら検出されるはずである。例えば関節リウマチのHLA遺伝子、アルツハイマー病のAPOE遺伝子などがそれにあたる。さらにいえば、ここまで強力な結果ですら、目の前の人が将来アルツハイマー病になるかどうかについて、低めの確率でしか言うことはできない)。数万人ではわからなかったが、何十万人も集めたなら、血液型で性格傾向が別れるというのはあるかもしれない。しかしそれはまだわかっていない。これが結論。

一応留保を述べておくと、欧米では血液型B型が少ないらしく、B型の性格特性については2万人というサンプルサイズから想像されるよりは検出力が小さい可能性はある。それでも、A型、O型については検出できなかったことは充分判断材料になるであろう。

さいごに

まあこんなような統計は、心理学の人などが何度もやっていることではあるんだろうけれど、全ゲノム研究なのでちゃんと検出された遺伝子があるにもかかわらずABOは検出されなかったというところが面白いかと。あとまあ全ゲノム研究はかなりお金かかりますので、性格特性などはちゃんと力入れてきちんとデータとっていると思います(ここは憶測)。