NATROMのブログ

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「タバコを吸うとガンになる可能性は3分の1以下になる!」。何が何だか分からないよ!

もう武田邦彦はお腹いっぱいだよと思っている人も多かろうとは思うけど、もうちょっとだけ。ナマモノだから早目に調理しないといけないネタ。武田邦彦先生は、喫煙が肺癌の原因であると主張する人たちの資料は曖昧で、事実をそのまま示しておらず、自分の都合のよいデータだけを選んで出していることがわかっちゃったんだそうだ。さすが武田先生!以下が、武田先生の「そのまま示された事実」です。■人の健康をダシに??政策に絡む研究のいかがわしさ(武田邦彦) - BLOGOS(ブロゴス)より引用した。






実は「タバコを吸っても吸わなくても肺がんは同じ」ということなのです。

意味わかんないでしょ?私も最初、意味がわからなかった。しかし、ちゃんと読んだら一応は「タバコを吸っても吸わなくても肺がんは同じ」と判断した理由が書いてあるのです。武田先生は円グラフの数字を「各疾患での死亡者中の喫煙者の割合」と考えたのです。武田先生の思考過程はおそらく以下のような感じ。


「肺がんで死亡した人のうち喫煙者は69.2%だ。この数字はいかにもタバコを吸うと肺がんになると思わせるが、対照群と比較しなければならない。タイムラグを考慮して20年前の日本人男性を対照群とみなすと、そのころの喫煙率は70%である。肺癌死亡者中の喫煙者の割合と、対照群中の喫煙者の割合に差がないため、タバコを吸っても吸わなくても肺がんのリスクは変わらない」


疾病群と対照群とのそれぞれの群で暴露状況を比較するという手法は、症例対照研究といって疫学の手法の一つである。肺癌死亡者中の喫煙者の割合と、対照群中の喫煙者の割合を比較するのはまっとうなやり方だ。円グラフの数字を「各疾患での死亡者中の喫煙者の割合」とする前提が正しくないから結論も正しくないけど。





おそらく「タバコを吸うと胃がんが10分の1になる」というぐらいの数字が出てくるでしょう。

胃がんや全がんについても同じである。対照群での喫煙者の割合が70%なのに、胃がん死亡者での喫煙割合が25.2%であれば、喫煙が胃がんに防護的に働くと推測される。厳密にやるなら年齢調整などを行わないといけないが、大雑把な推測としては妥当だ。円グラフの数字が「各疾患での死亡者中の喫煙者の割合」だという前提が正しければの話だけど。





つまり、タバコを吸うとガンになる可能性は3分の1以下になるということで、これもまた驚きです。

「喫煙者が100人に70人もいるのに、ガンになる人は約12人なのに、タバコを吸わない人は30人に対して18人もガンになったということです。その比率は3.5倍ということになります」って部分、意味わかる人いる?私にはわかる。どんな武田邦彦ファン以上に、武田氏の主張を理解している自信があるよ。武田先生の思考過程はおそらく以下のような感じ。


「全死因のうちの癌死の割合は30%である。人はいずれは必ず死ぬので、100人の日本人男性のうち、30人は癌で死亡し、70人が非癌死する。また、円グラフより癌死亡者のうちの喫煙者の割合は約40%である。よって30×0.4=12人が喫煙者かつ癌死者。30-12=18人が非喫煙者かつ癌死者。

また、喫煙率は70%であるから、100人の日本人男性のうち70人が喫煙者。70-12=58人が喫煙者かつ非癌死者。100人の日本人男性のうち30人が非喫煙者。30-18=12人が非喫煙者かつ非癌死者。
相対危険(喫煙に対する非喫煙)は、(18/30)/(12/70)=3.5。よってタバコを吸わないことは、タバコを吸うことに対して、がんで死ぬリスクは3.5倍になる。逆に言えば、タバコを吸うと癌で死ぬ可能性は3分の1以下になる」


驚くべきことにこの推論は細部はともかくとして概ね正しい。オッズ比を計算したら確かに3.5になる。前提が間違っているから結論は間違っているけど。

さて、武田先生の間違いは、円グラフの数字を「各疾患での死亡者中の喫煙者の割合」としてしまったところである。いつものように武田先生は引用元を示していないが、元図と思われる図を見つけた。





■保険適用4年目を迎えた禁煙治療の現状と今後の展望より引用。


ちゃんと「喫煙の人口寄与危険割合」と大きく書いてある。「がんの原因のうち喫煙がどのくらいの割合を占めるかを表す指標(%)」のことである*1。たとえば全がんでの喫煙の人口寄与危険割合が38.6%ということは、がんで死んだ人のうち38.6%が喫煙が原因であったということである。

疫学の指標はたくさんあるから人口寄与危険割合がなんだかわからなくても仕方がない。しかし、せめて「人口寄与危険割合」で検索してみるぐらいの知恵はないのだろうか。大学教授なんだよ。百歩譲って、「人口寄与危険割合」を「各疾患での死亡者中の喫煙者の割合」だと勘違いして計算していくうち「タバコを吸うと癌で死ぬ可能性は3分の1以下になる」なんて結論が出た時点で、「いやいや、おかしい。なんか間違っている」と気付かないものだろうか?