NATROMのブログ

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ホメオパスになるためのコスト

ホメオパシーによる被害者は、レメディによる治療を受けた人だけではない。ホメオパス自身も被害者となりうる。ホメオパシージャパンの関連団体にホメオパスを養成する学校がある。学長は由井寅子氏だ。


■ホメオパシー統合医療専門校 カレッジ・オブ・ホリスティック・ホメオパシー


患者だけではなく、「ホメオパスになりたい人」も、ホメオパシージャパンの顧客なのだ。カレッジ・オブ・ホリスティック・ホメオパシー(CHhom)には複数のコースがあるが、たとえば、「プロフェッショナル・ホメオパス養成コース」は、4年かけて、「日本ホメオパシー財団日本ホメオパシー医学協会(JPHMA)認定ホメオパスの受験資格」を得ることができる。もちろん、「JPHMA認定ホメオパス」は国家資格ではない。一民間団体の資格に過ぎない。私の見るところでは、「JPHMA認定ホメオパス」の資格には何の価値もなく、CHhomのやっていることはただの資格商法である。

ビタミンKを与えられず代わりにレメディが投与された乳児がビタミンK欠乏性出血によって死亡した件で、損害賠償を求める訴訟を起こされた山口市の助産師は、JPHMA認定ホメオパスである。報道によれば、この助産師は「錠剤には、ビタミンKと同じ効用があると思っていた」そうである。もちろん、錠剤には何の効用もなく、だから乳児は死亡した。この助産師だけの問題ではないことは、JPHMAおよび関連のウェブサイトからわかる。「JPHMA認定ホメオパス」であることは、最低限の現代医学の知識を持っていることの保証にならないだけでなく、むしろ積極的に間違った知識を持っていることの目印になるだろう。さて、この「JPHMA認定ホメオパス」の受験資格を得るためにいくらかかるか?





ホメオパシー統合医療専門校 カレッジ・オブ・ホリスティック・ホメオパシーのページ*1から引用

「4年制パートタイムコース」では、入学金15万円、年間授業料95万円(一括なら90万円)。4年制というから、15万円 + 90万円 × 4 = 375万円といったところ。金額だけでなく、授業時間等の、時間のコストも支払うことになる。安くはない。以前、ホメオパスを目指す人のブログを読んだことがある。「学費は高いけど、頑張ってホメオパスになる」とあった。なけなしのお金を出してホメオパスになった人もいるだろう。

ホメオパシー団体の中にいたら、ホメオパシーの明るい未来しか見えないかもしれない。しかし、ホメオパシーは、代替医療の中でも、「効かないという証拠がある」レベルのものである。本場のヨーロッパ諸国でも、公的保険から外される動きが出てきており、日本でも乳児が死亡した事件で耳目を集めつつある。ホメオパスの資格で食っていける保証はどこにもない。また、報酬を得て他人を「治療」していれば、損害賠償のリスクもある。けれども、何百万円も出して資格を得た以上、彼らは容易にホメオパスを辞めるわけにはいかない。「てんかん(癲癇)と生きる」というブログの■今ホメオパシーから離れつつある人たち。「私はこれから一体どうしたらいいのだろう」の声。というエントリーでは、いったんホメオパシーにはまった人が、ホメオパシーから離れることの困難さが論じられている。「ホメオパスになるために費やしたコスト」が、その困難さの理由の一つとなるだろう。


*1:URL:http://www.homoeopathy.ac/03courses/part-time_jp_uk.php