ヒップホップで学ぶ日蓮

 日蓮というと、創価学会や日蓮正宗や顕正会などの大本となった仏教者で、もちろん日蓮宗の大本でもあるわけですが、創価学会や顕正会は知っていても、日蓮自体はよく知らない人も多いと思います。「良く分からんが立派な人だったんだろうな」と思ってる人も多いでしょうが、まあ立派かどうかは個人の価値観なのでさておき、かなりエキセントリックな人物であったことは間違いありません。僕は個人的にはギャングスタラッパーのような感じで理解しています。こういうこと書くと日蓮信者とヒップホッパーを同時に敵に回しそうな気もしますが、まあ気にせず、ラッパーとしての日蓮像を紹介したいと思います。


マジでリアルな修行時代

・まず、日蓮の生まれですが、彼自身は「賤民の子」であると自称しました。生まれの貧しさや裏街道を歩いてきたと主張するのはギャングスタラッパーの基本ですね。ちなみに、日蓮は漁師の子だとか、さる高貴な血筋の方だとか色々と説がありますが、実際のところは「中流階級くらいじゃないか?」と言われています。

・修行中の日蓮は「釈迦は一人なのに、教えは念仏、禅、真言と様々に分かれている。どれが真実なのだろう」と考えた挙句、「法華経だけがリアルだ」との結論に至ります。そして、浄土宗を早速ディスり(悪口)はじめたのです。この時の日蓮は「マジでリアルな法華経の行者はオレと最澄だけ」と考えていたらしいですが、もう最澄なんてとうの昔に死んでますから、「自分だけがリアルなラッパーだ」と主張しているわけですね。他のラッパーを偽物(フェイク)扱いするのもラッパーの基本です。

・ちなみに、日蓮は天台宗(比叡山)で学んでいましたが、天台宗は「一番素晴らしいのは法華経ですよ」と言ってるところなので、彼の「法華経だけがリアル」はそこでの影響を受けたものと思われます。

 しかし、比叡山は当時の総合大学ですから、もちろん法華経以外にも色々と教えていました。「HIPHOPが最高ですよ」と言っておきながら、ミクスチャーもポップスもクラシックもやってたわけです。マジでリアルな日蓮には、そんな比叡山の態度が許せなかったのでしょう。「比叡山はリアルじゃねえ(この山は濁れる山なり)」と言って山を降りてしまいました。


ドゥープでハーコーなディス時代

・さて、時は流れ、MC日蓮にも初めてのクラブデビュー(説法)の日がやってきました。そして、日蓮はこの初ライブにおいて「リアルなのは法華経だけ」「念仏を唱えるワックは地獄に落ちる」と激しくディスります。ですが、これには会場に来ていた念仏ラッパー(浄土信者)たちが大激怒。日蓮は寺を出禁(追放)になります。

・寺を出禁になってしまっては仕方ありません。ストリートライブです。日蓮はストリートでゲリラライブ(辻説法)を行い、相変わらず禅や念仏をディスり続けます。激怒した通行人に殴りかかられたりもしますが、次第にファン(弟子)も増えてきます。他の宗派の人にMCバトル(問答)を挑まれることもありましたが、これも撃退し、MC日蓮は着々とファンを増やしていきました。

・そして、勢いに乗った日蓮は次々とアルバムをリリース。アルバム『守護国家論』では「いま世に起こっている天変地異の原因は浄土教のせいだYO!」と痛烈にディスり、アルバム『立正安国論』では「禅や浄土教を迫害しないと外国が攻めてくるYO!」といった過激なリリックを披露します。まあ、日蓮はあれでピースなラッパーなので、迫害と言っても暴力的なものではなく、「禅や浄土教に寄付するのをやめよう」と呼びかけた感じです。「HIPHOP以外のアルバムの不買運動を政府に呼びかけた」と考えて下さい。


サグライフなアンダーグラウンド時代

・と、そんなヤベえリリックばかり書いていた日蓮。当然、敵もわんさかできますから焼き討ちに遭います。政府からも「あまりにディスがキツすぎるから」という理由で伊豆に流罪にされます(「悪口の咎」)。

・しかし、もちろん焼き討ちに遭おうと流罪になろうとMC日蓮に一切反省の色はありません。むしろ、「末法に法華経を広めると必ず難に遭うと書かれてるYO! オレがちゃんと法華経を実践してる証拠だYO!」とすごいポジティブシンキングで自己の自信へと繋げます。

・ちなみに、「なぜ迫害されている自分を神々は助けてくれないのか」という問題を日蓮は次のように理論化しました。

1、自分は前世で法華経の悪口を言ったからこんな目に遭っている。
2、そして、いま迫害に遭うことで、前世での自分の悪業がチャラになっている。チャラになれば自分は成仏できる。
3、てことは、いま自分を迫害してるヤツラも、将来オレみたいに迫害される側になって成仏できるんじゃね?
4、じゃあ、オレはいま迫害されることで迫害してるやつらも救っているわけか!
5、つまり、迫害されるくらい激しく布教すればいいってことだな!

 というわけで、日蓮系の宗教は時折周りからブーブー言われるくらい激しく折伏(布教)してるらしいですよ。

・さて、そのMC日蓮。伊豆流罪が許されて地元に帰ると、地元有力者が徒党を組んで襲ってきます。弟子が何人か死んで、日蓮も重症を負います。なんというギャングスタライフ。

・また、その頃、政府へ蒙古から国書が届きます。日蓮は「オレの言ったとおりだYO! 蒙古が攻めてくるYO! 速く法華経に帰依するんだYO!」と幕府に言いますが、当然無視されます。

・あんまり無視されるんで、当時の仏教界のビッグネームに「MCバトル(問答)でケリをつけようぜ」と挑戦状を送りますが、当然無視されます。

・あんまり無視されるんで、高僧が雨乞い祈祷しているところに行って、「7日以内に雨が降らなかったら、お前はフェイクってことだYO!」と言い出します。高僧はたぶんすごい迷惑だったと思います。結局、雨は降らなかったので、日蓮は「雨降らなかったから、あいつ悔し泣きしてたYO!」とか言い出します。おいおい。

・そんなことやってるので、また逮捕されて、今度は佐渡に流罪になります。

・なお、この護送中、八幡菩薩に向かって、「なんでオレを護らないんだよ、このワックやろう!」と大声でディスりました。リアルすぎる。

・ファン(信者)たちからも、「もう少し穏やかなリリックを書いた方がセルアウトできますよ(もう少し穏やかに教えを説けばこのような難にあわずに済んだのでは……)」と忠告されますが、「難に遭ってるということはオレがリアルということだYO!」と言い返しました。日蓮、止まりません。


ヤバすぎるスキル時代

・「法華経には『法華経を広めるものは迫害に遭う』と書かれているが、実際に迫害にあったのはオレだけだYO! MC最澄すら迫害にはあってないYO!」と言い出して、ついに、「リアルなのはオレと最澄だけ」から、「リアルなのはオレだけ」の高みへと至ります。

・ちなみに晩年には、「オレは菩薩のリーダー(上行菩薩)の生まれ変わりかもしれないYO!」とまで言ったと伝えられてますが(日蓮a.k.a.上行菩薩)、これは文献学的には怪しいところで、「弟子が自分を上行菩薩の生まれ変わりと見ていたことは黙認していたが」「自分を上行菩薩と考えていたというのは流石にないのではないか?」といった意見もあります。とはいえ、文献学的にはどうであれ、信仰の世界(日蓮系の宗教)では「日蓮は上行菩薩であることを自覚していた」ことになっています。

 これはたとえば、キリスト教の信者は「イエスは自分が神の子であると自覚していた」と考えますが、実際はイエスにはおそらく神の子の自覚はありませんでした。それと同じように日蓮系の信者も「日蓮は自分が上行菩薩の生まれ変わりであると自覚していた」と考えている(実際の日蓮は自覚していない)という感じかと思われます。しかし、日蓮のリアルさを考えるに、ガチで自覚していた可能性もありそうな……。

・なんだかんだ言って今まで日蓮の予言は当たってたので、幕府に召喚されて、「次に蒙古はいつ来るの?」と聞かれます。日蓮は「すぐ来ます! マジヤバイから今すぐ禅や念仏を迫害しましょう! 今すぐ!」と言いますが、幕府もそんなわけにはいきませんから、「それは無理。地位と名誉あげるから、蒙古調伏の祈祷してくんない?」となだめにかかります。しかし、日蓮はマジでハーコーなので「てめえ、オレをセルアウト呼ばわりする気か!」と怒って身延山に引きこもったのでした。おわり。


 ***

 うん。良くも悪くもマジでリアルな人ですね! ちなみに、鎌倉仏教では日蓮ばかりがエキセントリックでマジヤベえ印象が強いですが、浄土宗の法然もあんまり変わらないくらい過激な人だったらしいですよ。


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