新日1.4東京ドームに思う徒然

レッスルキングダム8 2014.1.4 TOKYO DOME【DVD+-劇場版-Blu-ray BOX】

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あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

これまでの柴田勝頼・後藤洋央紀の絡みは高校時代の先生まで巻き込んだ同級生同士による「なかよしプロレス」であり、同時にどういじくってもパッとしない後藤をどうにか使いものになるようにするための方便でもあったと思う。まったく後藤ときたら、顔も悪くない、体も悪くない、試合も悪くないのにいまひとつパッとしないという、90年代の飯塚孝之(現・高史)を彷彿とさせるナチュラルボーン中堅。ここに柴田との同級生ライバル物語という「スパイスを投入する」(堀田祐美子用語)ことで、とりあえずゼニのとれるカードに仕立てようという狙いはそう悪くないと思うのだ。

しかしわたくし、1.4の柴田・後藤戦はあんまり気に入らなかった。なかよしを超えた「やおいプロレス」を見せられたようで鼻白んだのだ。盤石の信頼関係のもとにご両人は気持よくハードヒット、そりゃあ現象を見てるぶんには面白いんだけど、この2人の関係性がいかにアレかを見せつけられてオレはどうすりゃいいんだという気分になったのは事実だ。

実はこの試合、評判が非常によかった。ドーム大会のベストバウトとする人も多い。オレは、この世間の反応に小さくない違和感を感じる。同時に、今の新日の栄華を見て文句ばっかり言うてるオレの如き昭和の老害はくたばるしかないんだろうなとも思う。ただまあ、くたばる前にちょっとブログ書くくらいはいいだろ。

試合後に柴田と後藤がリング上で交わしたという会話が凄いんだ。雑誌kaminogeで柴田本人が語ったところによると、

「プロレスってこれだよな? プロレスってこうだよな?」
「これだ、これだよ、俺はこれがやりたかったんだ」

もうお前ら一緒の墓に入っちゃえよ! という思いとは別に、彼らには悪いんだけど、正直言ってオレは「これがプロレス」だとはあんまり思わないのだ。プロレスの一部ではあるだろうし、こういうのがあってもいいとは思う。しかし盤石の信頼の上にいくら試合がスイングしても、それはそうだろうよと思うのである。ちなみにこのブログで「これがプロレス」を検索してみたところ、わたくしが過去に「これがプロレス」と評した試合が2つあった。まずは2009年の船木誠勝プロレス復帰戦。自分のエゴで相手も客も振り回す船木さんの傍若無人ぶり。そしてもうひとつ、2011年大晦日の桜庭柴田組。プロレスの枠内でアマ格闘家を自在に転がして恐怖を植えつける桜庭の実力。ともに「盤石の信頼関係」とは程遠い試合だ。

オレの友人は、柴田・後藤戦を「性善説プロレス」と評した。信頼関係という信仰を共有する者同士によって際限なくスイングしてゆく「いい試合」。対して、オレが「これがプロレス」だと思ったのは上記2つの「性悪説プロレス」だった。猪木育ちなもんで、こればっかりは勘弁していただきたいところである。

オレは、プロレス史の上では性善説プロレスの教祖は小橋建太ではないかと思う。現在の新日の輪郭を作り上げたのは、小橋の影響を強く受けたであろう棚橋弘至である。我々観客同様、プロレスラーたちにとっても小橋は特別な存在だったのではないだろうか。

性善説という面白みのない土壌からなぜか生まれた奇形の大輪の花・小橋は、オレにとっても特別な存在だ。あんなに面白くないレスラーは珍しい。同時に、あんなに存在そのものに感動してしまうレスラーも珍しい。小橋自身の個人史をあえて無視して言えば、プロレス界において小橋は明らかに「天然」だった。天然ゆえにかけがえのないプロレスラーだったのである。だからオレは、他のレスラーが小橋の影響を受けることをあんまりいいことだとは思わない。小橋にはなれないよ。

異常な職業倫理(プロフェッショナリズム)に支えられていた四天王プロレスの全盛期、三沢も川田も田上も、実に憂鬱そうな、切ない表情で入場してきたものだった。これから確実にしんどい試合をして確実にひどい目にあうんだから当然で、あれは実に人間的な顔だったと思う。でも記憶の中の小橋だけは、いつもやる気MANMAN吉田照美、充実した顔で入場してくる。究極のブラック企業・全日本プロレスが生み出した、史上初の純度100%の馬場直系プロレス人間、それが小橋だ。

ただ、そんな小橋にしてもハンセン、ウイリアムズ、ベイダーといった、場合によっては信頼関係を失いかねないカテエ相手との間にもプロレスを成立させてきたのだ。それも一切の近道を使わず、試合だけで自分を認めさせてきた。小橋は少なからずフィクションを含むプロレスという稼業を、フィクションとして演じきるのではなく、現実として生きてしまったように見える。だから引退した今、小橋は空っぽですよ。生まれたての赤ちゃんみたいになってるんじゃないだろうか。だから奥さま、どうか小橋のこれからをよろしくお願いします。

1.4に話を戻すと、意外によかったのがオカダ・内藤戦だった。オカダはメインを奪われた中邑・棚橋によるIC戦に試合内容で勝たねばならぬ、それがオカダの目線である。なのに肝心の対戦相手はどうにも使えない、箸にも棒にも引っかからない内藤先輩。内藤はウワ言のように「おれは、IWGPの、ベルトを、とる。しんにほんの、しゅやくに、なる。おれは、おれは、ゆめ、ゆめを、かなえる」などと口走るだけで、まるでアホの子だ。オカダとは目線が全然違う。こんな奴とのタイトルマッチで内容を問われるという状況がオカダにプレッシャーを与え、試合にはどこかオカダの苛立ちが透けて見えるのではないか… と、まあそのようなヨコシマな目線で見たところ、結構面白かったのである。内藤が信頼を裏切り仕掛けてくるかもしれない「危険な相手」だからではなく、むしろ内藤は一生懸命いい試合をしようとしてるんだけど、悲しいかな抜きん出て「できない相手」だったからこそオカダにかかる負荷を見出すことができたという、極めて倒錯的な面白さのある試合だったと思う。

オカダとかいう若造なんか全然わからんばい、と再三言ってきたわたくしですが、それでもオカダのツームストンパイルドライバーが出ると「あ、そろそろ終わりだな」と思ったりする程度には飼いならされてきており、何よりここ2年ほどかけて徐々に立場に追いつきつつあるオカダを見ることがまんざら不快ではなくなってきているのだ。とりわけブシロードのCMにおけるオカダは成長著しく、最初は無表情のデクノボーだったのが最近はセリフ回しの微妙なニュアンスまで表現しようとしており、結構いいですよ。でも、レッド・インクはいただけないな。あれ、技をかける過程ですごい内マタみたいになるでしょう。上記友人の嫁さんなんかアレを「ゴム飛びみたい」と評しており、ぼかー衝撃を受けた。業界の盟主・新日本のトップレスラーの技が女の子のクラシックな遊びを連想させるものであってはならないと思うのですが、どうでしょうか。