ミルコ・小橋さん問題

ミルコが小橋さんのバーニング・ハンマーを喰らったら死ぬだろ、というのは意見ではない。現実である。ミルコが小橋さんのマシンガンチョップを喰らったら泣いちゃうのも、火を見るより明らかである。はっきり言って、こんな判りきった問題を考察するほどオレは暇ではない。バカにしないでいただきたい。
そんなことよりも考えるべき重要な問題がある。「果たしてミルコは小橋さんのチョップを受けるだろうか?」という疑問だ。いや、オレだってこの十数年間ずっとバカみたいに格闘技を見てきたんだ、受けやしないことは判っている。ミルコはチョップを受けない。たぶんよけて、パンチでも打つんじゃないかな。ワンツーとかいってな。
そこで我々に問われてくる、更に深刻極まりない問題とはこうだ。「小橋さんのチョップをよけるミルコは、いったい強いのだろうか?」
そりゃ強いだろ、という御意見が世の大多数であることは知っている。およそ格闘技というものは、相手の攻撃を喰らわずに自分は攻撃して倒すことが最高とされるからだ。ボクシングの試合後に聞く賛辞、「相手にボクシングをさせなかった」というのがまさにこれである。
オレは、ずいぶん以前からなんだけど、そうは思えなくなってきたんだ。いや、オレだってそういう価値を全然認めないわけではない。確かに、シウバの踏みつけは凄いよ。ヒョードルのぶんぶんパンチも凄いよ。ミルコのハイも凄いよ。それは判る。判るんだけど、それオレがガキの頃に憧れた強さ、かくありたいと感じた男、なんとなく目指すつもりになった何かとは、ちょっと違うんだよな。残念なんだけど、これちょっと違うんだ。
例えばハヤタが変身してウルトラマンになって、いきなりスペシウム光線を撃って一発で怪獣を倒し、それを毎週毎週続けたらどうだったろう。オレは、これほどウルトラマンを愛していただろうか。
小橋さんのチョップを、ウルトラマンはきっと受けると思うんだ。そしてウルトラマンの八つ裂き光輪を、小橋さんはきっとよけないと思うんだよ。さっきからキチガイみたいなことを書いているのは判ってるんだけど、でもオレはそう思うんだよな。
それはもう世間で言う「強さ」とは関係のない話かもしれないんだけど、オレはチョップをよけるミルコには、あんまり憧れないんだ。ミルコのファンは、小橋さんのチョップをよけるミルコの姿を見たいのだろうか。ミルコが小橋さんに何もさせずにハイキックで勝ったとして、嬉しいんだろうか。
以前、アレクセイ・イグナショフと殺人医師スティーブ・ウィリアムズが新潟で試合をした。あれは格闘技ファンにとっては勝ち負けのハッキリした明瞭な試合だったかもしれないが、オレにはとても消化不良の試合に見えた。イグナショフは「急いで勝とうとしている男」にしか見えなかった。オレは、そんなしょっぱいイグナショフに木戸銭を払えるほどの余裕はないんだ。
ミルコは本当に素晴らしい格闘家だと思う。しかし、なんでも受けて延々と闘う小橋さんの生き方のほうがねえ、客として観てて正直カッコイイんだよな。いまさら小橋さんがカッコイイなんて恥ずかしいこと言うのもバカバカしい限りなんだけど、だからオレは思わずこう言ってしまうんだ。ミルコなんか小橋さんの豪腕ラリアットを喰らったら40回死ぬって!

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