Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

最近の日銀と金融政策について

エイプリルフール記事を除けば、4ヶ月ぶりの更新です。


この間に日銀審議委員人事が2回あり、原田泰氏と布野幸利氏が選ばれました。
原田氏は岩田副総裁と並ぶリフレ派の代表的な経済学者であり、これまで政策委員会の票数確保に苦しんできた執行部にとって、これ以上は望めない人選だったと言えるでしょう。その見識も確かであり、今後金融緩和政策を進めてインフレ目標を目指す上で、大きな力になることは間違いありません。
布野氏はトヨタ自動車の出身で、いわゆる「産業枠」での人選でした。ただ、これまで審議委員だった森本宜久氏が東京電力出身で、輸入産業側の立場だったのに対し、トヨタ出身の布野氏は輸出産業側の立場です。従って、この人事も金融緩和政策にマイナスになることはないでしょう。


ただ、その一方で、2%のインフレ目標達成は2年で実現できず、達成時期を16年度前半ごろに遅らせることになりました。

日銀の黒田東彦総裁は30日の金融政策決定会合後の記者会見で、物価安定の目標とする消費増税の影響を除いた消費者物価指数(CPI、生鮮食品を除く)の上昇率2%の達成時期について「(エネルギー価格の影響がほぼなくなる)2016年度前半ごろ」と、これまでの「15年度を中心とする期間」から後ずれさせた。物価の中心的な見通しについては「不確実性が大きく、下振れリスクが大きい」とした。


日銀総裁、2%の物価目標「16年度前半ごろに」  :日本経済新聞 日銀総裁、2%の物価目標「16年度前半ごろに」  :日本経済新聞 日銀総裁、2%の物価目標「16年度前半ごろに」  :日本経済新聞

こうなってしまった要因としては、消費税増税と原油価格下落が考えられます。
前者については、もし黒田総裁が財政再建など財政政策への発言を控え、消費税増税賛成発言を繰り返していなければ、インフレ目標未達の要因として消費税増税があったと主張できたでしょう。
また、後者については、エネルギー価格を含む「コアCPI」ではなく、エネルギー価格を除いた「コアコアCPI」をインフレ目標の指標とすべきでした。そうすれば、「原油価格下落は経由に良い影響を与えるのに、なぜ金融緩和をするのか」という批判を受けずにすんだでしょう。
これらはいずれもリフレ派が以前から指摘していた点であり、黒田日銀の金融政策はリフレ派の主張から逸脱した部分でボロを出してしまいました。
これらの点で逸脱していなければ、今回のインフレ目標未達についても、はっきりと説明責任を果たすことができたと思います。


さて、このどちらが主要な要因だったかについてですが、高橋洋一氏はインフレ率がマネタリーベースの推移と消費税増税の影響でかなり説明できると分析しています。

 2%インフレ目標がすぐには達成できないのは明らかである。その理由として、黒田総裁は、物価上昇の基調は変わりないものの、原油価格下落で当面のインフレ率が伸び悩むと説明していた。

 黒田日銀が2年たったので、その前の2年とあわせた4年間における、インフレ率(消費者物価指数総合の対前年同月比)の分析をしてみよう。それによれば、インフレ率は、マネタリーベース対前年同月比(3ヵ月ラグ)と消費増税(半年ラグ)でかなり説明できる。


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インフレ率=−0.68+0.044*マネタリーベース対前年同月比(3ヵ月ラグ)
      −0.54*消費増税(半年ラグ)
相関係数0.94

 やはり、消費増税の影響は大きかったと言わざるを得ない。もし消費増税が行われなかったら、2%インフレ目標は2015年度の早い段階で確実に達成できただろう。


「2%インフレ目標未達」の批判は誤解で的外れ|高橋洋一の俗論を撃つ!|ダイヤモンド・オンライン 「2%インフレ目標未達」の批判は誤解で的外れ|高橋洋一の俗論を撃つ!|ダイヤモンド・オンライン 「2%インフレ目標未達」の批判は誤解で的外れ|高橋洋一の俗論を撃つ!|ダイヤモンド・オンライン


また、片岡剛士氏によると、消費者物価指数に対するエネルギー価格の寄与は、2014年は減少しているもののまだプラスであり、2015年になってからマイナスになると予測しています。

インフレ目標政策−その正しい理解のために− | 片岡剛士コラム | 片岡剛士のページ | レポート・コラム | シンクタンクレポート | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング インフレ目標政策−その正しい理解のために− | 片岡剛士コラム | 片岡剛士のページ | レポート・コラム | シンクタンクレポート | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング インフレ目標政策−その正しい理解のために− | 片岡剛士コラム | 片岡剛士のページ | レポート・コラム | シンクタンクレポート | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング

(このレポートはPDFファイルなので、具体的な内容は6ページ以降を参照して下さい)


これらの分析から考えると、やはりインフレ目標未達の主因は消費税増税であったと見なすのが適切でしょう。
従って、黒田総裁が金融政策の責任者でありながら、財政再建の持論のために財政政策に口を出して、消費税増税を支持する発言を繰り返した結果、インフレ目標未達の理由が消費税増税であったと認められなかったことは、今回の事態における日銀の説明責任を不十分なものにしたと思います。

この点については高橋洋一氏が手厳しく批判していますが、僕もこの通りだと思います。

4月7〜8日(2015年)、日銀の政策決定会合が行われた。その後の記者会見では、毎度のことであるが、昨年4月からの消費増税の影響はほとんど語られていない。このため、最近の物価の見通しについて、かなりトンチンカンな説明になっている。

消費増税の影響を除いた消費者物価対前年同月比は「当面はゼロ%程度で推移する」というものの、なぜそうなったのかの説明がないので、今後の展開や追加緩和の見通しがはっきりしないのだ。

筆者なりに説明すれば、消費増税によって需要が落ち込んだが、1年経過してその影響が和らぎつつあるので、需要が盛り返し、物価も上がるということだ。

この単純さに引き替え、黒田総裁の説明は複雑だ。個人消費は賃上げなどで雇用・所得環境が着実に改善している、設備投資も企業の景況感がいいから期待できる、海外も経済回復している、と消費増税という言葉を使わない。海外要因を除くと、国内要因の根っこにあるのは消費増税の影響がなくなりつつあることなのだが、根っこを説明しないで、枝葉を説明するから、まどろっこしくなる。

黒田総裁が、消費増税を需要落ち込みの原因と言えないのは、黒田総裁自身が消費増税に積極的で、消費増税の影響は軽微であると言ったからだ。その影響は軽微どころではなく、黒田総裁の見通しは大外れであったが、それを認められないということだ。

記者会見に出ているマスコミも、消費増税に賛成した大手紙などは、今さら消費増税の影響が大きかったとは言えない。だから、4月8日の記者会見では、消費増税の話を避けて、お互いが話すので、第三者からみれば、かなり滑稽な会話になっている。しかし、当事者はそれぞれ過去を背負っているからか、滑稽だということすら気がついていない。


高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ 日銀の物価見通し説明はトンチンカン 消費増税の影響、マスコミなぜ避ける : J-CASTニュース 高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ 日銀の物価見通し説明はトンチンカン 消費増税の影響、マスコミなぜ避ける : J-CASTニュース 高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ 日銀の物価見通し説明はトンチンカン 消費増税の影響、マスコミなぜ避ける : J-CASTニュース