最初にグラミン銀行およびムハマド・ユヌス氏のことを知ったのは、おそらく10年以上前、ある雑誌での紹介記事でした。
当時でも既に「貧困からの救世主」という扱いで、書いてあることがあまりにも理想的でかえってうさんくさいような気がしました。しかし、それから10数年。マイクロクレジットという手法は順調に拡大し、ユヌス氏はノーベル賞を受賞しました。
ここにきて、ようやく自伝を読む気になったのは、マイクロクレジットの実際は、10数年前の雑誌で読んだような、「かわいそうな女性に少額を貸し付ける」というイメージとは遠く、ほとんど江戸時代の「五人組」のような連帯制度をとっているらしいということを知ったことがきっかけです。
読んでみるとユヌス氏のパワフルなこと。なんせアメリカ留学中だったにもかかわらず、バングラディシュ独立運動にまで関係している。
徹頭徹尾「行動しなくちゃ意味がない」というスタンスなので、故国の大学教授となっても近隣の貧困が見逃せない。見逃せないので農業の生産性を上げてみたり、いろいろやってみてしまう。失敗だと思ったらまた別の方法を探す・・。
この調子でマイクロクレジットも実験的にはじまり、既存銀行に協力を求め、だめだと思ったら国に協力を求め、国ではだめだと思うと民営化して・・というように流れ流れて総裁になってしまう。その他にも、まぁいろいろ頼まれること頼まれること。
1972年がバングラディシュ独立なので、現在まで約35年。35年でここまでくるということはそれぞれのできごとは10年もかからずに起こっている計算になります。国営のものを民営化するのに、延々と議論のあげく、決定から実施まで年単位という日本とは時間の流れが違うのかも。
肝心のマイクロクレジットの手法ですが、やはり、昔の雑誌記事の印象とはかなり違う、相当厳しいものでした。
・対象は基本的に女性(基本的に底辺から25%の暮らしの人が対象)
・5人でグループを組む
・グループは、グラミンの仕組み、銀行の規則などを勉強する
・グループの一人一人が口頭で加入テストを受ける。
・正式にグループと認められても、月1回のペースで集会に参加しなければならない。
・ローンをうけるのは最初に2名。
・最初の2人が6週間以内に返済できたら次の2名。
・4名が返済できたら最後にグループリーダーへローンがおりる。
これは相当な覚悟がないと借りられないですね・・。グループリーダーの重圧もすごそうです。しかも、底辺から25%の暮らしの人が対象な理由の一つに「貧しすぎて逃げるあてがない、今いる場所から動けない」という点が強調されているあたりがなんとも複雑です。
しかしこれだけの手を考えて、訓練の手間もかけて、しかも1件1件が少額で、それでもビジネスとして成立している点はお見事です。ある意味「やっぱこれだけしないと商売にならないということか」と納得がいきました。
携帯電話事業「グラミン・フォン」のおかげでバングラディシュの携帯電話の普及率はかなり高いと聞いたこともあります。また、養殖漁業や電力やインターネットなどにも進出しているようなので、銀行にかぎらず、一種の財閥のような感じで拡大していくのでしょう。
これが継続的に貧困からの脱出に使われるとしたら、バングラディシュは相当なスピードで成長路線に乗ってくるかもしれません。今後も要注目です。
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