<
![endif]-->
当ブログをご覧頂きまして、誠にありがとうございます。
当ブログは、主に資本市場におけるM&A、ファイナンス&財務戦略などを、公認会計士が複合的目線(金融論と会計&税務、また関連する諸法令(金商法、会社法など)が入り混じったもの)で、公開情報を基に客観的分析を行い、様々な局面におけるリスク判断やリスクヘッジの考え方を整理することを指向しています。私なりに関心を有する事案で恐縮ですが、各テーマごとに分類し、自分自身の頭の整理を行いつつ、皆様の業務等に多少なりとも参考になることを期待して続けております。
【ご連絡】※当ブログへのご質問、その他(業務に関するお問い合わせも含みます)は下記までお願いします。
〒102-0074 東京都千代田区九段南3-8-10 COI九段南ビル3階
長谷川公認会計士事務所
TEL:03-6272-6902(代表) FAX:03-6272-6903
事務所ホームページ: http://www.haats.co.jp/
事務所facebook: http://www.facebook.com/haatsjapan
メールでのご連絡先: [email protected]
2008/12/29 Mon. 00:41:32 edit
今日はこの話題を取り上げることに。
12/25付けでビックカメラ(3048)(以下、”BC”)が『過年度決算の訂正について』との開示を行っている。既にYahooファイナンス掲示板や2ちゃんねるなどでは相当書き込みがされているようだが、割と言い放しの「不適切発言」ばかりで逆にそれを鵜呑みにすると本質が見えなくなってしまいそう。たまたま前回のブログで「不適切な会計処理」について考えてみたところ、今回はこのビックカメラの不適切な会計処理の問題が出たので、ちょっと詳しく分析してみた。少し長いけれども、興味があればご確認ください。
一応ディスクレーマー入れますので、よろしく。
<本分析は、現時点で利用可能な開示情報、公表資料、その他参考情報などを基に筆者の独自の見解を述べるものであり、記載された意見や予測等の正確性、完全性を保証するものではありません。また今後予告なく変更されることもあります。よって、ご自身の責任と判断のもと参照下さるようお願い致します。>
本件の経緯と検討ポイントは以下の通り。
以下が全体ストラクチャーの概要と思われる(ただし、豊島企画およびTKの詳細は不明なので、他の投資家あるいはレンダーなどが存在するかもしれない点は留意されたし)。
論点1:豊島企画の独立性
まず、問題として指摘されているのが豊島企画の独立性である。新聞記事(読売新聞12/25付)によると、当該豊島企画はBC会長名義の株を担保に(TK出資金)を借り入れるなど同社の親密な関係であることが判明した。このため、BCと実質一体とみなされ、いわゆる不動産流動化スキームにおける5%ルールに抵触したものと見られる。この点は、BC「過年度決算の訂正について」開示書類においてその論拠が示されている。
「豊島企画を、財務諸表規則第8条に基づき、H14年(2002年)8月期に遡り子会社とする」とのこと。ここでいう財務諸表規則第8条はいわゆる子会社の定義を行う条項で、恐らく実質基準にて豊島企画が子会社に該当すると判断したと思われえる。確かに、記事が正しいとするなら、関係の薄い会社に対してBC会長の保有するBC株を貸与することは、それがたとえ適切な貸株料を支払う契約であったにせよ、通常は考えられないと思う。実際に、豊島企画のバランスシートは、2007/5月時点で総資産78億円、純資産6億円程度だから、やはりTK出資金だけがほとんど唯一の資産であることが伺われ、そんな会社に(証券会社でもないのに)誰が好んで株を貸与するだろうか。BC会長と親密な関係があるからこそ、黙って株を貸しただろうし、銀行側も株担ローンとしてほぼ100%の掛目でTK出資金のための資金を供与したのだと思われる。
論点2:オフバランス要件とその取り消しについて
いわゆる不動産流動化スキームの要件として、オリジネーター(この場合BC)のEquity保有割合が5%程度に止めることが求められている。詳しくは「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針(会計制度委員会報告第15号)」にて規定されているが、要約すると、流動化された不動産のリスクと経済価値のほとんどすべてが、SPCを通じて他の者に移転していることが売却の認識要件となっているので、その要件を厳密に検討しろ、というもの。だから、Equity持分が大きくてリスクや経済価値がオリジネーターに割りと残ってしまったり、買戻し特約などがあって実質的にリスクが移転しないなどの取引においては、売買とみなさない(当たり前といえば当たり前の話だけれど)としている。
BC開示書類に記載のある「実務指針第40項リスク負担割合の規定に基づき」とは、いわゆる5%ルールを指しており、オリジネーターのEquity持分が概ね5%程度ならば売却処理を認めるとするものである。ただし、本件では、豊島企画とBCが一体であると看做されることから、オリジネーターのEquity持分は30%となり、結果として実務指針第40号の5%ルールを遥かに超過してしまう結果となったのである。
それにしても、このストラクチャーを構築したときに、豊島企画の独立性についてきちんと専門家の検証を行ったのだろうか。12/25付け読売新聞の記事によると弁護士に相談して問題ないと判断したとのことだが、それにしても脇が甘すぎた。もっとも、当時は今と比較しそれ程連結会計の範囲について厳格さがなかっただろうから、当時の解釈では大丈夫と判断したのかもしれない。
結果的に子会社化が要求されることから、本取引は売買処理から借入処理として修正されることになるが、問題は売買処理時に計上した売却益が決算修正においてどのくらいの影響を及ぼすかという点ではないだろうか。 もっとも、今期の損益計算には影響しない(剰余金の修正のみ)だろうから、BC開示書類にいう「今回の会計処理見直しは進行年度のH21(2009)年8月期の決算における損益への影響は軽微である見込みです」とのコメントは分からないでもないが、結構苦し紛れの言い逃れのような気がする。
論点3:買戻し価格について
筆者がもっとも気になっているのは、この買戻し価格311億円についてである。何故なら、2007年8月期の決算書を見ると以下のような記載がリスク情報の項目にあるからだ。
<平成14年に実施した本証券化に際し、当社は劣後匿名組合への出資(14.5億円)を行っております。本証券化のスキーム上、本出資につきましては、配当金及び弁済金が劣後部分以外の債権者に劣後して支払われることになっておりますが、対象物件の価格下落等により、本スキームが終了するH19(2007)年10月には当社に31.5億円程度の損失が発生する見込みとなったことから、平成17年(2005)8月期において会計手当(未収配当金に対する貸倒引当金17億円、出資金に対する評価損14.5億円)を行っております。>
過年度(2005年8月期)においてSPCに拠出した不動産(以下、”本件不動産”)に対して31億円もの損失見込みを引き当てていたにも拘らず、その2年後の2007年10月には、逆に49億円ものTK清算配当金を利益として計上している事実が、開示情報だけではどうにも読みきれない。
そこで、限られた情報ではあるが、本件不動産の一連の取引における数字の流れを以下の前提条件にて求めてみた。
ざっくりだが、311億円でSPCより買戻した価額につき検証してみると、何とか説明がつきそうなレベルになっている。とはいえ、CAPレートや賃料水準から見て、相当無理した値付になっているような気もする。穿った見方をするならば、やはり当期に何としてでもTK清算配当金を取り込みたいから、多少無理してでも311億円で買戻したとも取れなくはない。いずれにしても、2005年8月時点で不動産価額の下落を見込んでいた(290億円→258.5億円へと31.5億円の下落)にも拘らず、2002年8月の売却時よりも高い値段で買戻した点については、今後出てくるであろう調査報告書においてもきちんと説明されるべきだろう。
更にもう少し分析(というか逆算になるのだが)を進めて、なぜ49億円ものTK清算配当金が生じたかを考えてみたい。以下が、その流れを示している。しつこいようだが、この部分については(TK枠組み等について)現時点でなんら開示された情報がないので、筆者の勝手な推測になる点は理解頂きたい。全体として言えるのは、5年掛けて借入を弁済することで自然Equity価値は増大するという点である。弁済条件が分からないので、とりあえず賃料から経費を支払い残額を全て金利および元本弁済に当てるとして、5年後のTKがどのようなバランスシートになったかを示している。借入残額を5年後に一括弁済するタームが本件において成り立つのかは議論があるところだが、とにかくBCが最終的に311億円で買戻しているのだから、311-290億円=21億円のTK清算配当金が生じるのは間違いないだろう。
注目すべきは、BCが2006年8月期の決算において、TK出資金14.5億円に対し全額投資評価損を引当計上している点である。すなわち、投資簿価が2008年度の期初から既に0円(厳密には備忘価格1円だが)になっているTK出資金に対する清算配当だから、2008年2月中間決算および8月本決算におけるその金額的効果は絶大なものがある。
また、豊島企画とBCとの間のTK配当金分配の取り決めを見ないと正確なことはいえないから、上記推定では豊島企画への分配が少なくなってしまっている点は筆者も違和感を感じる。もしかしたら、豊島企画のTK出資はメザニン的なものでEquity分配が制約されているものかもしれない。この点も、やはり調査報告の開示を待つほかはないだろう。
以上より、本件取引においては、過年度における投資評価損失引当の論拠、買戻し価格の妥当性、またTK清算分配金の算出根拠など、取引一連の流れとそれを裏付ける取引諸条件などがきちんと開示されない限り、いわゆる「決算操作」的な数字の疑惑を晴らすことは難しいと思われる。野次馬的見解から粉飾疑惑を言い立てる輩とは一線を画すつもりであるが、冷静に一連の流れを分析していくと、やはり不透明感の強い会計処理がなされているような印象を筆者は受けるのである。
論点4:会計インパクトについて
論点2でも述べたが、果たして本当に損益インパクトは軽微なのだろうか。筆者的には、軽微であるとの前提は、あくまで買戻し価格311億円が正しいとするならばと考える。もう少し説明するならば、売買処理を取り消して借入処理にすることは、当初の帳簿価格290億円をそのまま維持すべきであり、いわゆる資産のステップアップ(評価替え)は行うべきでないのではないか、という素朴な疑問がある。つまり、連結子会社に売却した資産を高値で買戻し、その差額分だけ簿価上げするのは理論的に矛盾しているのではないだろうか。従い、そうであるならば、本件取引における修正仕訳は次のように行われる可能性がある。
もちろん、過年度修正やら、借入処理やら複合的に修正仕訳が入るので、上記の処理はそのまま適用されないから、観念的にこういった修正があるべきではという考えを示したに過ぎないのでご留意頂きたい。
論点5:資本市場へのインパクト
さて、最後の論点となるが、果たして本件取引は監督当局等からどのような最終判断を下されることになるだろうか。この点は、筆者も迂闊なことはいえないので、むしろ状況証拠などを列挙して、資本市場に与えたその影響度合いがどの程度かを客観的に見てみることにする。
ということで、筆者的には、本件取引の訂正に関する財務諸表に対する金額的インパクトはそれなりにあると感じており、その意味では有価証券報告書虚偽記載による資金調達(とりわけ本年5月の120億円について)についての取扱いは監督当局等にとっては重要な関心事なのではないだろうか。
重要なのは、一連の取引を当事者がどのような意図を持って行ったか(つまりは悪意の有無を同判断するか)にあると思われる。例えば、そもそもなぜ不動産流動化スキームを組成したのか(資金調達の必然性やSPC/TKスキームのメリットは何だったのか)、豊島企画を連結除外にした根拠はどこにあったか、またどのような経緯で連結除外判断を行ったか、期中の会計処理(投資評価損計上など)の妥当性に関する根拠とその判断経緯、更には買戻しを行うに至った背景や買戻し時の価格妥当性、などなどを一つ一つ検証していく必要があるだろう。その上で、やむを得ない(あるいは情状酌量のある)決算訂正であるかの判断が下されることになろう。
終わりとして
それにしても、最近の会計処理や監査厳格化の流れを受けて、このように過年度の決算を修正する会社がどんどん出てくるかもしれないのが気がかりである。当時は見逃された会計処理について、今更『アウト』と言われても会社側も困るのは事実だろう。だが、こういった話は、くどいようだが、きちんと調査報告等で事実関係を明らかにしてけじめを付けることが肝心だと考える。
果たして筆者の分析が的を得たものかは、調査報告が出てからのお楽しみではあるが。。。
« ブログ再開です | 不適切な会計処理に関するあれこれ »
| h o m e |