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photo from Musicradar.com | Mazen Murad
英音楽雑誌の公式サイト「Musicradar.com」にて、プロのマスタリングエンジニア Mazen Murad氏が語るTIPSが公開されていました。日本でもよくこうした記事は雑誌でよく見かけますが、なかなか海外一流のエンジニアの意見を実際に耳にする機会はないので、共有させて頂きます。
拙い英語力により意訳しておりますので、致命的な間違いがあった場合はご指摘ください。一部TIPSについては補足で説明をいれています。
まさに匠。マーゼン・ミュラド氏とは?
Musicradar編集部は下記のように記しています。
This might sound cliched, but we're going to say it anyway: what Mazen Murad doesn't know about mastering isn't worth knowing.
意訳:使い古された表現かもしれないが、これだけはお伝えしたい。マーゼン・ミュラド氏がマスタリングについて『知らない』というものがあるならば、そんなものを知る価値は無い。
マーゼン・ミュラド氏の手がける作品たるや多様ですが、マスタリング・エンジニアとして活躍する彼が手がけたアルバムは、今日のスーパースターたちの作品を多く含んでいます。
中にはすばらしい才能を持つBjorkからソウルフルな歌声でプラチナディスクを獲得したダフィー、グルーヴ・アルマダといった現在のクラブシーンの第一線級アーティストたちも居ます。
MusicRaderの編集部は、彼にマスタリングに関するTIPSを取材し、彼のアドバイスを含めてプロ級のマスタリングを目指すTIPSとして13の方法を紹介しました。
全体的に見ると、低音やMS処理、戒めや心得といったものが多いですが、セッティング例も提示されてますので、参考になればと思います。
低音、ベースの通りをよくするには
もしベースの音が濁ってしまっている場合、Mid/Side(MS)処理が可能なEQを試してみましょう。
マーゼン氏曰く、「ステレオ部分へほんの少し流れてしまってるようなものでも、MS処理ならば必要の無い帯域を取り除き、低音のみ取り出すことができます。」
ステレオの音場から乱雑さ・ノイズ等を低減すれば、中央の低音部分をよく通すことができ、またサイドの音に対して邪魔をしない音になっていきます。
コンプは2mixの音場に影響を与える
ステレオ的に音場が狭い、と言われるようなミックスに対しては、Mid/Side処理が効果的です。
MS処理によるコンプとゲインは、エフェクトの対象外になっている部分・周波数を強調する(コンプならば圧縮されていない側、EQなら下げていない側)、ということです。
ただ、ベースやボーカルのようにセンターに位置する重要部分を曖昧な音にしないよう、注意をしてください。過度に広げすぎたミックスは、結局中央部分のレベルを上げる必要にせまられることになってしまいます。
※補足:やってみると分かるのですが、サイド部分をあげると実際に全体の音圧も上がります。ただしやりすぎるとスッカスカな感じになってしまいます。
暴れがちなキックを処理する
もしバスドラ・キックの音をだいぶカットしているのにまだ下げる必要があるとき、早めのアタックか遅めのリリース(もしくは両方)を設定したコンプをつかってみましょう。
キックの音が十分に通っていない場合は逆に、遅めのアタック・早めのリリースを試してみてください。
マルチバンドコンプならば、キックに帯域をあわせて設定することができます。
※補足:よくあることですが、テクノ系4つ打ちなどキックが目立つ部分で、そこがネックになってしまう場合があります。マルチバンドコンプでキック部分に設定するのはかなり便利ですね。
出力にマージンをとっておく
MP3ファイルを作るとき、多くの場合0dBより若干低い出力レベルにマスタリングしたWAVから変換したほうが、より良い結果が得られます。
マーゼン氏のお勧めは -0.5dB。「自分自身でテストしてみたが、違いは信じられないほどでした」とのことです。
※補足:MP3のエンコーディングの都合もあって、出力時に0dBぴったりだとノイズが走ったりすることもあります。筆者は普段、MP3にする予定がなくても -0.5dB程度のマージンはとっておくことが多いです。
リミッターは複数にわけて使用する
「1つだけのリミッターを使用するべきではありません。私は2、3挿して、各々少量ずつかかるようにセッティングしています」
これは、リミッティングを段階的に行えるようになることを示しています。
同じ種類のリミッターを比較したとき、単にゲインリダクションを3dBで設定したリミッター1つと、ゲインリダクションを1.5dBに設定したリミッター2つでは、後者のほうがより大きくパンチのきいた音になります。
※補足:複数段階にリミッターをかけるという発想はありませんでした。面白いTIPSですね。
「大きいこと」は誇るべきことではない
マスタリングは音を大きくするものだ、というのは大きな誤解です。すべての曲を大きくしてしまうのは、どんなに良いミックスだったとしても曲の潜在的な良さが失われてしまいます。
もしあなたのミックスが市販の作品と比べ音量・音圧で劣っていると感じるならば、それはマスタリングではなくミックスが悪いためです。
Cut before Boost
マーゼン氏は示唆します。「あなたのミックスがあまりに音がこもってしまっている場合は、トップエンドを加えてはいけません。最初にいくつかのボトムエンドを取り除くことからはじめましょう。」
ミックスは音声ファイルという、スペースが限られているものに音を詰め込んでいく作業です。やり過ぎた一つの音の要素は、他の音を不明瞭にしてしまいます。
※補足:ミックス・マスタリングにおける常識「足す前に引け」ですね。EQやフェーダーで音量を上げたいときは、まずはカット方向で調整できないか試してみましょう
Know the limits
「ラジオなどでは、大きい音が優れている、とは言えないことがあります。」
「多くの人は、ラジオで曲を流した際に音量が大きすぎると感じるようなら、ミックス・マスタリングで音をリミット(処理)する必要があると考えるでしょう。私たちはすでにテストを行ってみましたが、マスタリングにてあまりに多くのリミット(処理)を行なったとして、ラジオの場合聴衆それぞれのオーディオ・システムから静かな音量で一度しか流れないのです。」
※補足:やれることには限界があり、そしてやりすぎは無駄に終わるかも、ということでしょうか。
ディザリング実行のすすめ
ディザリングは複雑なテーマですが、本当に知っておくべきことは、マスタリングの最後、すべてのプロセッサーの後に必ず適応しておくべきだということ。多くのマスターリミッターは、こういった目的のためにディザを含んでいます。
ディザは、曲の静かな部分でしか聞けないような非常に微妙な違いを作りますが、適用するのこと自体は簡単だし、実行しない理由はありません。16bitのWAV(たとえばCD用)にレンダリングするときは特にやっておくべきです。
※補足:ミックス・マスタリングに「絶対」と言えることは少ないですが、ディザリングの設定はその少ない「絶対」の一つだと言えると思います。
キックをノッチ(ピーキングEQ)で処理する
「キックを強調したいなら、シェルビングのEQを使ってはいけません」
マーゼン氏は警告します。「これを行うと、すべての倍音成分の部分も一緒にブーストしてしまいます。キックの音を制御するには、常にノッチングを使いましょう。EQとサイドチェインを使ってベースからスペースを作っておく、などのテクニックよりもキックを実際に強調するほうが大事です。」
ボーカルを際立たせるには
ボーカルの抜けが悪い場合は、マーゼン氏は下記のようにEQを使います。
「センター部分に、すこしミッドの音を加えていきます。ボーカルのトーンによりますが、2、2.7、3kHzあたりをブーストします。」
彼は、MS処理の可能なエフェクターで、センターチャンネル(Mid)部分を大きくしているようです。
慎みをもってのぞむ
「私はすばらしいツールの数々を持っています。しかし必ずそれらのツールを使用しなければならない、ということではありません。」
「もし音楽が”よいバランス”なら、多分私はエフェクター・プロセッサーの類が必要ない。ゲインの調整のみです。曲は良くすべきものであって、台無しにするべきものじゃないということです。」
振り出しに戻ってみる
あなたがエフェクトを使用して、それが過剰だとわかった時には、それはあなたがよくないミックスをしている、ということを見つめ直す機会です。
プロのエンジニアならば、こういったミスや気づきがあったとき、それらを最大に活用して納品しなければなりません。しかし私たちDTMerは、企画を再検討し、必要なように無理なく調整できるという贅沢を持っています。
だからこそ、マスタリングという作業は無理やり超えなければならない試練、ではありません。あなたのミックスを良いものする。それこそがマスタリングというものなのです。
元記事:13 pro mastering tips | Musicradar.com
当ブログ筆者のひとこと
いかがだったでしょうか?
常識的な戒めだったり、裏技的なTIPSをだったりという感じでしたが……私はそれ以上にマーゼン氏の音楽にかける愛情を垣間見た気がしました。
マスタリングエンジニアの主な仕事は、エフェクトをかけることが主でなく「調整」に終始します。正直、マスタリングで無茶をするような音源はミックスの時点で失敗しているのです。
その種類は様々なのですが、大きな部分を占めるのがアルバムトラック間の調整です。とくにDTMをやっている皆さんは、ほとんどがアレンジ制作からミックス・マスタリングまでひとりで完結できるます。そういった人はあえてミックスまで戻ったり、ミックスでも無理をしているならアレンジに戻ったり、という贅沢ができます。良い曲は音のバランスも元から良い、と言います。
マーゼン氏の挙げたこれらのテクニックも、調整程度にしたほうが良いということですね。何事も、ほどほどが良いのかもしれません。
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2012/01/16 | Comment (0) | Trackback (0) | HOME | ↑ ページ先頭へ ↑ |関連記事
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