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IoT開発をふつうにする「ソラコム」の破壊力~何を破壊し、何を作ろうとしているのか


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 日本におけるAmazon Web Services(以下、AWS)の初代エバンジェリスト 玉川憲氏が立ち上げたスタートアップ「ソラコム」が今、熱い注目を浴びています。本稿では、玉川氏のAWS入社時から(パートナーとして)AWSの事業推進を共に行い、そしてソラコムのパートナーとしても名乗りをあげたサーバーワークスの代表を務める筆者が、「ソラコムの破壊力とは何なのか? なぜここまでアツい視線が送られているのか?」について私見を述べたいと思います。

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ソラコムのサービスとは?

もう様々なところで紹介されていますのでサービス詳解はそれらに譲りますが、ソラコムのサービスを一言でいえば「MVNO(正確に言えばMVNE)[1]」です。ただのMVNOと違うのは、それがソフトウェアで実装されたMVNOだという点に尽きます。

注

[1]: MVNO(Mobile Virtual Network Operator:仮想移動体通信事業者)は、他社が持つ移動体(携帯端末など)の回線網を使って通信事業を行う事業者のこと。「格安」を売りにする事業者が多い。MVNE(Mobile Virtual Network Enabler)は、業務を請け負うなどしてMVNOの事業を支援する事業者。

ハードウェアベースのMVNOの限界

これまでのMVNOは、交換機というハードを購入してサービスを提供するのが一般的でした。このアプローチでは、どのMVNO事業者も、ごく限られたメーカーの同じような機種を使わざるを得ませんので、結局似たようなコスト構造に収斂し、同じようなサービス料金のプランに落ち着くことになります。また、サービスのラインアップを増やそうにも、サービスそのものがハードウェアメーカーの実装する機能に制限されますので、独自のサービスを作り出すということが非常に難しかったわけです。

Software-defined MVNO

これに対して、ソラコムはMVNOの心臓部をソフトウェアで実装しています。これにより、以下の大きな、破壊的ともいえる3つのメリットをMVNOの世界に持ち込みました。

1. コスト低減

高額なハードを購入する必要がありませんから、オペレーションコストを低く抑えることができます。これがサービス料金にも反映されています。

2. サービスの自由度

ハードを購入するモデルでは提供サービスの内容に制約を受けてしまいますが、ソフトウェアで独自に実装すれば、自分たちの提供したいサービスを独自に開発・提供できます。これによって、リアルタイムに通信速度を変えたり、上り下りを非対称の価格にしたり、またSORACOM Beamの様なサービスを提供したりといった、これまでのMVNOでは実現できなかったサービスを実現することに成功しています。

3. AWSとの「疎にして密な」結合

ソラコムは全てのサービスをAWS上で実装することで、IoT利用の最大の障壁である「セキュリティ問題」を解決しています。これでなぜセキュリティを確保できるかというと、「IoTサービスをAWS上で実装すれば、通信が一切インターネットに出ることなくAWS内で完結する」からです。もちろん、ソラコムー顧客システム間は疎結合ですが、AWSで密にすることでセキュリティ問題を解決するというアプローチは大変ユニークだと思います。

AWSとの類似性

AWSの利益の源泉は「プライシング」という名前の金融工学にあります。100のハードウェア投資に対して、あの手この手(EC2でいえばオンデマンド、リザーブド、スポットなどの購入オプション)で150も200も使ってもらうことで、非常に低価格でありながら数百億円という利益を上げることに成功しているわけです。

ソラコムの事業も、ハードウェア投資が存在しない代わりに「回線」という大きな投資が発生します。しかし、高度なオプション設計によって上り下り、時間帯などをバランスよく販売し、通常のMVNOよりも効率よく大きな利益を得られるようにしたのだと推測します。この事業モデルはAWSのそれと非常に似ています。AWS事業のド真ん中にいた玉川氏だからこそ実現できる事業だといえるでしょう。

APIの公開で惹きつける

そして、独自のソフトウェアで実装することによって得られる最も大きな恩恵は、APIの公開だと思われます。APIが公開されていますので、パートナーが独自に自分たちのサービスに組み込んだり、プログラムから操作したりといったことが自由に実現できます。実際、AWSも立ち上げ初期はこうした「Infrastructure as Code」としての面白さにディベロッパーが集まってきたわけですが、ソラコムは「Mobile network as Code」という面白さを、APIを経由してディベロッパーに与えることに成功しています。

ソラコムだからできること

ソラコムのサービスを使うことで、今まで不可能だったことが実現できるようになります。

1. ハードウェアデバイスにSIMをインストールして販売

たとえば家電です。インターネットに接続されることが前提になっていない冷蔵庫や掃除機なども、SORACOM AirのSIMを挿して販売することで、ネット接続対応家電にできます。こうすれば、冷蔵庫の中身をスマートフォンで見る、掃除機のフィルターが汚れてきたら自動的にフィルターを注文する、といったサービスが提供可能になり、製品の差別化も図れるようになります。

従来の通信サービスでは基本料金が高く、家電1つ1つにSIMを挿すような運用は現実的ではありませんでしたが、ソラコムのサービスであればこうしたことが実現可能です[2]。

2. 即席通信サービス事業者

もちろん、届け出など必要な手続きはありますが、その気になれば社員1名でも「モバイル通信サービス事業」を展開することができます。ソラコムのサービスを使えば、全てAPIで操作できますので、運用負荷を低く抑えながら独自の料金体系で独自のサービスを提供できるようになります。

注

[2]: ソラコムのSIMは1000円前後でAmazon.co.jpで購入できます。

ソラコムの未来

ここまで述べたように、ソラコムはソフトウェアで心臓部を実装し、そしてクラウドらしい価格・契約体系と事業モデルを構築することで、AWSがクラウドで実現したことと同じようなプラットフォーム事業をIoTの世界でも推進しようとしています。この延長線上に、著者は以下の様な未来を想像しています。

1. IoTプラットフォームのデファクトスタンダードという未来

ソラコム自身「IoTプラットフォーム」を標榜しており、IoTで問題となる通信やセキュリティの問題を解決するためのベストなソリューションだと、著者は考えています。特に大規模なIoTシステムの場合、現実問題としてAWSを利用するケースは多くなると予想され、ソラコムのメリット(AWS内で通信を完結できること)がますます活きるものと思われます。

また、小規模なプロジェクトでも「スモールスタートができる」というメリットがありますので、クラウドらしい「全てのスケールでフィットする」プラットフォームとしての躍進が期待できます。

2. SDNの本命として

そして、これらを突き詰めていくとソラコムがSDN(Software-defined Network)としても本命なのではないか、と著者には思われます。ソラコムの通信サービス(SORACOM Air)を使えば通信がAWS内で完結できるため、Amazon VPC(Virtual Private Cloud)を使って適切なネットワーク設計をすれば、「企業の全端末にSORACOM AirのSIMを挿し、ネットワークはAWSで設計する」ことも夢ではありません。

たとえば、VPCからインターネットへの出口にプロキシを設置すれば、「モバイルかどうかを問わず、会社の全端末の通信履歴を残す」ことも可能になりますし、そもそもモバイル網で繋がっているのでVPNゲートウェイのようなものを設置する必要もありません(もちろん、社内のLANを敷設する必要もなくなります!)

著者の会社では、社内の業務用WorkSpaces端末をSORACOM Airで使っていますが、「全てこちらに移行すれば、管理が面倒で不安定な社内の無線LANをなくすことができるのではないか」などと話しています。

*     *     *

このように、ソラコムはSoftware-defined MVNOとして、クラウドがITに与えた影響と同じことを通信サービスの世界でも実現しようとしています。そして、少なくとも最初のサービスは、そうした野望の実現を予感させるに値する、素晴らしい内容になっています。

みなさんもソラコムのサービスを使ってみて、このサービスが世の中に与えるインパクトを確かめてみてはいかがでしょうか?

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この記事の著者

大石 良(オオイシ リョウ)

株式会社サーバーワークス代表取締役。AWSやクラウドサービスを組み合わせることで「作らない」SIを実現すべく奔走中。「プレゼンで得るものが無ければ切腹します!」という切腹プレゼンスタイルでも知られ、デブサミ2013「『SIの未来ってどうなのよ?』SIer大淘汰時代にAWS専業で新しいSIの形にチャレ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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