カレントアウェアネス-E No.242感想

今号は7本,うち外部原稿が4本ですか.



E1459 - DSpaceコミッター就任の鈴木敬二さんにインタビュー

→別エントリ「専門性とかシステムズライブラリアンとかどうでもよくて(E1459感想)」をご覧ください.



E1460 - イタリアの図書館と比べて感じたこと:インタビュー後編

アンニョリさんインタビュー後編.「日本の図書館や図書館員についてはどう思いましたか。」という質問に対する回答として,日本とイタリアの図書館のあいだの異なる点,似ている点について書かれている.一番ぐっときたのは「イタリアでも日本でも,たいていの図書館は本が多すぎます。」というフレーズ.なかなか言えることじゃないなぁ,と.次が「残念ながらどちらもとても硬直した階級的な官僚主義に陥っていることです。」.翻訳の加減もあってかちょっとぎょっとする表現で,「管理職ポストの方とお会いした際に男性ばかり」だったことが批判されています.



E1461 - 京都府立総合資料館トークセッション「新資料館に期待する」

我らが福島さん登場.2016年オープン予定の新館をテーマに開催されたトークセッションの報告記事.このイベントは申し込んではいたものの某発表準備のためにさぼったのでした……ごめんなさい.必要な要素を過不足なく押し込んだタイトルがぴたり上限の28文字になっているのに軽く感動する.

何よりもまず

新施設は官が作って官が運営する公立機関でなく,市民との共同で作り上げる公共機関とならなければならない。そうであればこそ,現状認識を厳しく持ちつつも,市民の力量という「『虚妄』に賭ける」という姿勢がわれわれの活動を支える。そして,それは根拠のない「虚妄」ではない。われわれは京都の潜在力に日々驚かされているのだから。

という最終段落がかっこいい.「虚妄に賭ける」は丸山眞男の発言が元にあるそうで(かろうじてどこかで聞いたことがあった;).ところで,61名の参加者のうち「市民」はどれくらいいたんでしょう.おそらく少なかったろうとは思うんですが,「市民との共同で」というのならそこには触れて欲しかった.

自分は新資料館に対して何を期待するだろう…….とりあえず「京都に関する質問が来て分からなかったら全部振ってもいいですか?」っていう感じかなあ.となると,京都府立図書館との棲み分けとか気になるわけですが,本記事とみんつーくんの記録を見るかぎりその点は言及されなかったのかな.最近個人的には正直なところMLAã‚„MALUIに対する興味関心が薄れていて……新館は京都府立大学附属図書館と合築になるみたいだけど,図書館システムどうするだろうっていうのが一番気になることだったりする.



E1462 - ニューヨーク公共図書館の改修計画をめぐって

菊池さん.なんかNYPL揉めてるなあというくらいのチェックしかしてなかったので,こうして経緯をまとめて,論点をクリアにしてもらえるとありがたいですね.

「資料も増えてスペースも増えるという,いいことずくめのようにも思える計画の何が問題視されているのか。」……でも,ざっくりいうとやはりスペースを取るかコレクションを取るかというはなしなんじゃないのかな.記事中に直接的には書いてないですが「大閲覧室の下にある書庫資料」というのは人文・社会科学系のコレクションなのかな.SIBLの資料を移してくるよりも,それらを残してほしいという声が強くあるということだと理解しました.ちゃうかな.

恣意的な見方かもしれませんが,「コレクションが分散することによって研究図書館としての機能が減じられかねない」というのは,アンニョリさんのインタビューで出てきた「たいていの図書館は本が多すぎます」と対照的だと感じました.

また,「図書館の中の図書館」という表現が,バッグインバッグみたいで面白くて気に入りました.原文の対応箇所は“library within a library”かな? 具体的には「研究図書館の中の貸出図書館」という意味ですよね.



E1463 - 若者の図書館利用習慣と図書館への期待

依田さん.Pew Research Centerのレポートの紹介.ここでいう若者とは16〜29歳.……あれ,記事に調査対象の母数が記されてないですね.レポートp.12によると総数は2,252人で,そのうち若者に該当するのは470人と比較的少ない.記事を読むかぎり,若者/それ以外で正直そんなにパッとした違いはないという印象を受けました.16〜29歳という区分がちょっと粗いんじゃないんだろうか.「さらに細かい区分(16-17歳,18-24歳,25-29歳)」で分析するとよりくっきりと差が出たりしないんだろうか(原文は読んでません).

ちなみに調査結果のうちいちばん驚いたのは,若者が図書館に対して「絶対に実施すべき」と回答したもののうちトップタイだったのが「学校図書館との連携(87%)」という点.これ,日本で同じこと聞いたら絶対こうはならないんじゃないか.日米の図書館文化の違い(あんまり「差」とは言いたくない)を改めて感じました.

なお,Pewは図書館関係のレポートを継続的に発表して(そしてそれをカレント-Eでも紹介して)いますが,だれか同様の調査を日本でやってみて欲しいなぁ.安直だけどそれなりに研究になるんじゃないだろうか.



E1464 - オンライン資料収集制度(愛称:eデポ)の開始

クレジットは電図課(誰が書いたんだろう).この手の記事は感想が述べにくいですね…….愛称の「eデポ」は,「国立国会図書館デジタル化資料」のシステムが「デジデポ」と(内部で?)呼ばれていることを受けているんだろうか.「れきおん」といい,愛称づいてますね.

大学図書館的には「私立大学」「機関リポジトリ」といったキーワードも出てきます.先生方から納入がめんどくさいので機関リポジトリに入れたい,とか言われたりするのかなあ.でも「オンライン資料については紙媒体と同一版面であれば納入義務はない」ということなので,実際はほとんど関係ないのかも.

そうそう,個人も納入義務者なんですよね.でも @egamiday によって出版されたこのオンライン資料はKindleフォーマットだしそもそも有償だから対象外,か.

対馬にて・201209

対馬にて・201209



E1465 - 大学図書館における電子書籍サービスに向けて<文献紹介>

安原さん.国立大学図書館協会によって6月に出されたレポートのひとつをコンパクトに紹介している.ん,「文献紹介」にしたんだ.これもダイジェストという色が強いので記事自体への感想は述べにくいですね…….自分にもこういうレポートを書くお仕事がまわってきませんかねというのがいちばん強く思うことだったり.

もう一方の「学術情報流通の現状と課題の整理のために‐検討の報告‐」ではなく,電子書籍のほうを取り上げた理由が気になったりします.レポート本体をざっと眺めてみると,大学図書館に関する調査レポートで公共図書館についてもがっつり書かれているのは珍しいかも,え,J-CASTニュースとか参照するんだ,というのがいちばん気になったところです.

日本では,公共図書館もそうですが,電子書籍サービスにおけるベストプラクティスと言えるものが少ないんでしょうね.先日の #NIIウェブ研修[*1] で同じ班にいた沖縄科学技術大学院大学(OIST)の方が「Safari Books Onlineの利用が多い」と言ってました.不思議ではありません.自分でもSafari Books Onlineは電子書籍のなかでまず導入すべきだと思っています.自分でも使いたいと思えるコンテンツだから,利用者さんにも薦めやすい.ずいぶんむかし導入を提案したことがあったんですが,買い切りじゃないから難しいと言われてそのときはうやむやな感じになったんだっけ.

ここ数年で個人でも電子書籍を買って読むというひとが増えてきたでしょうし,自分も紙と電子の両方があるなら基本的に電子版を買うようにしています.特にまんがはほぼiPhoneでしか読んでいません.状況も変わったし,久しぶりに電子書籍サービスについてちゃんと向き合ってみようかなと思いました.

*1:よく考えたら「電子書籍」班だったのにこのレポートのことを忘れていたのは不覚でした.