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12/05/2007

【ライヴ】三上ちさこ/CONDOR44/54-71 2007.12.4

20071204


三彩カフェ vol.3 三上ちさこ/CONDOR44/54-71
2007年12月4日(火)19:00〜 Zher the ZOO YOYOGI


久しぶりに三上ちさこがヘッドライナーを務めるイヴェント。前回のSAICOとのジョイントが圧倒的に素晴らしかったのに加え、fra-foa時代から ちさこと縁の深いバンド54-71も名を連ねているので、大いに期待して見にいった。


まず19時から54-71。ライヴを見るのは今度で3回目になる。最初は2002年6月、fra-foaライヴでのゲスト。大きな衝撃を受けて、その直後に出たメジャーデビューアルバムも購入した。2回目は2005年5月、新宿LOFTに4つのバンドが出るライヴで、その時は三上ちさこがトップバッター(fra-foa解散後、初のソロライヴだった)、トリが54-71だった。彼らの間に出演したのはGROUPとART-SCHOOLだから、今考えてもかなり豪華なメンバーだ。その割りには、意外と客が入っていないのが不思議だった。

このバンド、2005年のライヴではギターが脱退していたため、ヴォーカリストがキーボードとパフォーマンスを担当。インストオンリーの、以前とは似て非なるバンドに変貌していた。しかしキワモノと言っていいほどユニークな変態パフォーマンスと、リズムセクションの高度な演奏は、やはり類を見ないもので、ある意味最初のライヴ以上に強烈な印象を覚えた。

そして今回はギターが新加入。ヴォーカルが復活するのではないかと思っていたら、案の定ギター/ベース/ドラムス/ヴォーカルという編成に戻っていた。音楽的にも、2005年の「あれは何だったんだ」的変態性はだいぶ影を潜め、ファーストアルバムの頃に近いものになっている。

しかしそれは、あくまでも「前回のライヴに比べれば」ということであり、際だったユニークさはまったく色褪せていない。ライヴが始まった当初は、「今聞くと、昔のレッド・ホット・チリ・ペッパーズやレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンに似ているな」と思ったが、演奏が進むにつれて、何かに似ているようでいて何とも違う、彼らのワンアンドオンリーの個性がより明確になっていく。
ヴォーカルの異様な存在感もさることながら、やはり彼らの音楽を決定づけているのは、ベースとドラムスが奏でる奇妙極まりないリズムだ。何とも形容不可能な、実際に音を聞いてもらう以外にないユニークなサウンド。これをすでに十数年続けているのだから、凄いものだ。
新加入のギターは、曲の前半、同じフレーズをカッティングするばかりで、ずいぶん楽な演奏をしているなあと舐めていると、曲の後半になって突然ロバート・フリップとジョン・フルシアンテが混ざったような奇々怪々なフレーズを弾き出すから油断ならない。彼のギターに限らず、今回はそこかしこに70年代後期〜80年代前半のキング・クリムゾンの影が感じられた。以前はそんな印象は覚えなかったので、新しい傾向なのかもしれない。
ヴォーカルは相変わらずの不気味な存在感を発揮しているが、何しろ前回のパフォーマンスがあまりにもキワモノじみていたため、今回はずいぶんおとなしく感じた。歌詞は昔と同じで全部英語。しかし何を歌っているのか、さっぱりわからない。これは当方のヒアリング能力が低いためか、彼の英語の発音が悪いせいか、PAが悪いせいか、あるいは音声のインパクト優先で歌詞そのものにはほとんど意味がないせいか…その全てのような気がする。
長いこと聞いていないので、はっきりわからなかったが、メジャーデビューアルバムの収録曲もやっていたようだ。あのアルバムでは「doors」「what color」という比較的メロディアスな2曲が大好きなのだが、それらは残念ながら聞けなかった。

演奏時間は30分程度。もっと聞きたかったが、一瞬の緩みもない充実したライヴだった。考えてみると、fra-foa〜三上ちさこ絡みで3回もライヴを見ていて、3回ともハズレ無し。今度はちさことは無関係に、彼らを目当てにライヴに足を運んでもいいかなと思い始めた。

こちらのサイトで、彼らの音楽(ただしインスト時代)と、ヴォーカル入りに戻ってからの最新ライヴ映像が少しだけ見られる。インスト時代の変態映像は、さすがに発禁なのだろうか(笑)。
http://www.myspace.com/fiftyfourseventyone
(すぐに音楽が流れ出すので注意)

続いて19時50分頃に登場し、20時30分過ぎまで演奏したのはCONDOR44。ART-SCHOOLとプリファブ・スプラウトを足して2で割ったようなネオアコ系ギターロックバンド。全般にクオリティは高いのだが、印象的な歌メロが欠けているのに加え、ヴォーカルや楽器の音色が、ことごとく自分の好みからはずれているのが致命的。ドラムスなど、よく聞けば、けっこう好きなリズムパターンを叩いているのに、まるで燃えない。同じリズム、同じフレーズを演奏しても、音色が違うと、ここまで心に響かないものなのかと、ある意味感心した。客観的に言えば、決して駄目なバンドではないのだが、とにかく自分の好みにはまったく合わず、正直なところ後半は早く終わってくれないものかと思い続けた。あくまでも「自分の好みではなかった」ということなので、ファンの方には悪しからず。


その後セットチェンジ。音合わせで室田憲一がドラムスを叩いたときには、「そう、今自分の聞きたいサウンドはこっちなんだよ」と心底ホッとした。

そして19時50分後から、いよいよちさこのライヴが始まる。バンドメンバーは、藤井一彦(g)/三浦カオル(b)/室田憲一(ds)の3人。藤井、室田は8月のライヴから続投で、ベースのみ高間祐一から三浦カオルに交替している。

オープニングは意外な選曲。ファーストソロ『わたしはあなたの宇宙』の1曲目「バカで結構」。こういう始まり方もたまには面白いと思うが、やはり何度聞いても出来の良い曲だとは思えない。かつては同じような印象だった「ファンダメンタル」は、その後ライヴで磨き抜かれ。今では素晴らしい曲になっているが、この曲はまだ到底その域に達していないようだ。
ちさこはfra-foa時代に着ていたのと同じものか、白いスリップのような衣装。それに毛皮のショールを羽織り、後でわかったことだがハイヒールまで履いていたようだ。曲調も含め、まるでクラブ歌手のごとき雰囲気。う〜ん、これは新生面を出したつもりなのか?と少々首をひねる。

しかし次の「相対形」で、一挙にエネルギーが爆発。まさしくいつも通りの、いや以前よりもさらにパワーアップしたちさこ。fra-foa時代とは比べものにならないほど、よく声が伸びる。ちさこも乗りに乗っているようだ。素晴らしい。

しかし文句なしに盛り上がったのは、この曲だけだった。

3曲目は知らない曲で、新曲だろうかと思ったら、fra-foa時代に作ったナンバーで、ファーストアルバムに入れられなかったボツ曲だそうだ。確かにあの曲調ではファーストには合わないだろう。決して悪い曲ではないが、どことなくたどたどしい感じもあり、ボツにしたプロデューサーの判断は正解だ。

この曲が終わった辺りから、やたらと曲間が長くなる。珍しくちさこがMCでいろいろ話をしているのだが、内容は切れ切れで、あまり面白いものではない。
この辺りはまだ良かったのだが、もっと後になると、その間延びした曲間が次第に疎ましくなり、早く演奏を始めろと言いたくなってきた。もちろん以前のライヴでも、すぐに呼吸が乱れる彼女のため、曲間が長くなることはあったが、その時間はもっと緊張感に溢れたもので、呼吸の調整さえライヴの一部として機能していた。ところがこの日は、不思議なほど緊張感が感じられず、ライヴのノリを寸断しているだけだった。

4曲目はfra-foaの「daisy-chainsaw」。残されたスタジオ録音ではカスのようなプロデュースのためほとんど魅力が失われているが、ライヴでは最高の魅力を発揮するナンバーだ。今回ももちろん盛り上がるのだが、どこかfra-foa時代に比べると醒めた印象を受ける。今のメンバーだったら、もっとグルーヴ感溢れる白熱の演奏になってもいいはずなのに、何故かそれほどでもない。バンドの演奏は、非常にカッチリしているのだが、8月のライヴで感じられた問答無用のエネルギーは発していない。

続くfra-foaナンバー「Edge Of Life」でさらに違和感は募る。fra-foa時代にあった何か大切なものが欠け落ち、その代わりとなるものも見つかっていないような状況だ。

続く5曲目「Hole」も「ここで他にやるべき曲はあるだろうに、何故この曲なんだ?」という疑問が消えず、ますます心は冷えていった。

今日のちさこは、最近の純音楽的な姿勢から、昔の八方破れな危なっかしいパフォーマンスへと回帰しているようだった。そしてfra-foaのバンドメンバーは、優れたテクニシャン揃いではなかったが、後先考えず突っ走るちさこを、時には包み込むようにフォローし、時には一緒になって突っ走り、彼女の自由奔放なキャラクターを生かすことにかけては最高のバンドだった。しかし現在のバンドは、演奏力に関しては文句なしだが、ちさこの八方破れなパフォーマンスをライヴの文脈で生かし切ることには、まだ習熟していないように見える。fra-foaが「まず ちさこの個性ありき」だったのに対し、彼らはあくまでも他のバンドから集まってきたセッションメンバーであり「最初に音楽ありき」なのだから、仕方のないことだろう。いくら室田憲一が優れたドラマーだと言っても、彼女とのライヴはまだ2回目なのだ。
fra-foa時代のちさこは、とことんエネルギーを使い切り、声が出なくなってしまうことまで表現の一環としていた。しかしソロになってからは、次第に純音楽的な姿勢を強め、あくまでもヴォーカルによって全ての思いを伝えようとするストイックな道を歩んでいた。その方向性ならば室田や藤井を擁したバンドが適任であることは、8月のライヴで証明されている。しかし今日のようにfra-foa時代のスタイルを意図的に再現するようなパフォーマンスでは、ちさことバンドの方向性が明らかな食い違いを見せている。その食い違いは、演奏中だけでなく、ちさこが息を整えている長い曲間に、バンドとしての「気」を高めることも妨げていたように思う。

もう一つ大きな問題は、ちさこがそういう八方破れのパフォーマンスを、ある程度意図的に、演出としてやっていたように見えたこと。もし意図的でないとすれば、かつての彼女にあった強烈な初期衝動が薄れてしまった、あるいは何か違う方向に進んでしまったとしか思えない。

それが最悪な形で出たのが、ラストの「月と砂漠」。笑いながら歌っているような、フェイクなのか何なのかわからぬおかしな歌い方は、音楽的に聞けば醜悪そのもので、感情の発露として聞けばわざとらしすぎて気持ち悪いだけ。8月に聞いた「月と砂漠」が、fra-foa時代まで含めても最高の出来だったのに対し、今回は間違いなく最低の出来だ。かつてfra-foaやちさこのソロライヴを見て、これほど白け、心が冷えてしまった経験はない。

終了は21時30分。アンコールを求める拍手が延々と続いたが、ついにアンコールはなかった。
アンコールを拒否することを美学にしているバンドもいるが、ちさこがこれまでにアンコールを拒否した記憶はない。ライヴハウスに終演時間を電話で尋ねた時には、21時40分だと言っていたので、むしろ予定よりも早く上がっている。したがって時間の問題でもない。僕は、これ以上やったところで、ちさことバンドとの息の合わなさが露呈するだけなのでアンコールを拒否したのではないかと見ている。それほど今日のライヴは違和感ばかりが募るものだった。


また、終演後振り返ってみて、あらためて気づいたのはセットリストの酷さだ。

1.バカで結構
2.相対形
3.(fra-foa ボツ曲)
4.daisy-chainsaw
5.Edge Of Life
6.Hole
7.月と砂漠

良い曲が少なく、「バカで結構」など、どうでもいい曲が多いという点もさることながら、この曲目と曲順では、一体何をやりたいのかライヴの方向性が見えてこない。アルバムと同様、ライヴでも曲順というのは極めて大切な要素であり、優れた曲順によっては、それまで地味な印象しかなかった曲から思いもかけぬ魅力が引き出されることもある。しかしこの日の曲順は、ラストにお約束の「月と砂漠」が来る以外、ちさこの持ち歌をシャッフルしてランダムに並べただけのようだ。

ちなみに8月のSAICOとのジョイントライヴは、以下のようなセットリスト。

1.解放区
2.処方箋
3.Yes
4.ファンダメンタル
5.咲かない花
6.月と砂漠

こちらはかなりはっきりした狙いと流れが感じられる曲順だ。この2つのセットリストを比べて、上の方が優れていると思う人は、ごく希だろう。

ついでに言えば、今回はfra-foaの曲を演奏すると事前にHPで発言していたが、常に演奏している「月と砂漠」を別とすれば、演奏されたのは「ボツ曲」「daisy-chainsaw」「Edge Of Life」の3曲。この選曲もいかがなものか。「青白い月」「澄み渡る空、その向こうに僕が見たもの。」「小さなひかり。」などの代表曲を正面切って歌いあげ、fra-foa時代以上の感動を与えてこそ、ファンとちさこ自身をfra-foaの足枷から解放することになるだろうに、これではあまりにも中途半端だ。

なお、ちさこ自身は終始上機嫌。ライヴ中の表情は、今までで一番明るかったかもしれない。しかしこれまでの経験から言っても、彼女が妙に明るいときはライヴはイマイチという傾向があるようだ。そういえば8月のライヴは、SAICOとのジョイントだというのに、楽しげなMCなどほとんどなく、殺気のような緊張感がステージに漂っていた。やはりああいう状態のちさこの方が、良い歌を聞かせてくれるようだ。


今回は期待を大きく裏切る最低のライヴだったが、次に何をやらかすかわからない彼女のこと、次回は突然最高のライヴを披露して「前回のあれは一体何だったんだ?」という話になるかもしれない。そう言えば途中で「バンドをやりたい。バンドを作ります。すごくかっこいい名前も考えてあるんだ」などと言っていた。どこまで現実に進んでいる話なのかよくわからないが、そちらにも期待してみよう。


(2007年12月)

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