「本人よりも本人に詳しい」といわれるプロインタビュアー・吉田豪さん。その知識の源でもあるタレント本収集は宇宙一(たぶん)レベルです。そんな豪さんの蔵書の中から、ご自身が解説をつけた文庫本のベスト8をご紹介いただきました! それと、最新刊『聞き出す力』についてもおうかがいしました。
--まず、豪さんの文庫本解説の特徴をお聞かせください。
基本、ボクの解説は著者とのバトルなんです。同じ題材を使ってどっちがおもしろく料理できるかっていう、タチの悪い解説。著者も知らないことを盛り込んだり、間違いを見つけて突っ込んだり。丸々新しいインタビューが入っていることもあるので、それだけで買う価値があると思います。クオリティは高いんですけど、そんなことをやりすぎて最近依頼が減ってきました(笑)。
--なるほど(笑)。では早速、豪さんのオススメを教えてください!
1冊目は『俺、勝新太郎』、超名著の文庫復刻版。勝新さんの文章はリズムが独特すぎて、梶原一騎にも通じる文体の美しさがある。ただ、誰もが知りたい「パンツ事件」の情報が薄いとか、映画『影武者』降板事件などの重要事項がごっそり抜けてるから、ボクが解説で全部補っておきました。
2冊目は山城新伍さん『おこりんぼさびしんぼ』の復刻版。山城さんが、大好きな若山富三郎・勝新太郎兄弟のことを書いた本です。このむちゃくちゃ面白い兄弟が時代と合わなくなっていく寂しい本なんですが、そこに山城さんご本人が時代に合わなくなっていく様も見えてきます。解説では、若山さんの「賭けマリオブラザース」のこととか補足しておきました。
3冊目はボクの大好きな内田裕也さん『俺はロッキンローラー』復刻版。表紙も写真も完全復刻、写真だけでお金取れるような最高の1冊です!でもこの解説はひとつ手違いがあって、復刻で唯一カットされた「二人で●ナニーを」って章に触れちゃってるんです。「裕也さん、これは恥ずかしかったんだ」と意外でしたけど(笑)。
4冊目は大槻ケンヂさんの『我が名は青春のエッセイドラゴン!』。これはオーケンさんが書いた黒柳徹子さんとアントニオ猪木さんの奇跡的な試合(対談)について、ボクが間違いを正しつつ、さらに細かく解説を書いています。猪木が『徹子の部屋』に出演したとき、プロレス知識ゼロの徹子が「プロレスってアレでしょ?本気でやってないんでしょ?」とか失礼な発言を連発して、最後はあの猪木を数秒間絶句させるに至るという、徹子が最強なことがわかるエピソードを完全再現してみたという(笑)。
5冊目は斎藤美奈子さんの『誤読日記』。斎藤さんはタレント本に冷たい書評家なんですよ。そこで、「あなたの読み方は間違っている」と解説ガチバトルを仕掛けてみました。二谷友里恵本批判とか横山ノック事件被害者の本の解説スタンスなど、関連書も読んで立体的に批判したりと、これだけのリスクを負って書評バトルやってるんで、ぜひ読んでほしいです。
6冊目は根本敬先生の『因果鉄道の旅』です。これは本当に好きな本なので、解説を書くのもすごいプレッシャーでした。ダイノジ大谷さんがブログに「因果〝応報〞の旅は永遠のバイブル」って書いていたんですが、ボクがそこに「永遠のバイブルなのにタイトル間違えるなよ!」と突っ込むという余計な戦いから始めて、いかにみんながこの本に影響を受けているかを書いていった解説です。
7冊目、中島らもさんとミスター・ヒトさんの対談集『クマと闘ったヒト』。編集者さんがプロレスに無知で、らもさんとヒトさんは言っていいことと悪いことの区別がつかないっていう(笑)。そんな3人でプロレスの連載をやってるから、たとえば「●●さんが死んだとき●●の●●●が…」とかいうプロレス業界のタブーが満載で。そこでボクが用語解説と内容チェックを頼まれたんです。文庫化にあたって、ボクのヒトさんインタビューもつけてあります。もちろん、らもさんとのバトルの意味で!
8冊目は、川村カオリさんの自叙伝『ヘルター・スケルター』。すごく面白い本なので絶賛したら、文庫化にあたって彼女にインタビューをすることになったんです。すでに(乳がんの治療で)片胸がない写真が載ってるくらいの時期ですね。それなのにぜんぜん悲壮感がなかった。亡くなられる前にじっくりいい話を聞かせてもらえて、感慨深いです。
--どれもすっごく面白そうですね! ではでは、最後に吉田豪さんの『聞き出す力』についてもお聞かせください!
えっと、これ読んで聞き出す力を学べると思ったら大間違いですよ(!)。単に面白エピソード集っていうか、吉田豪初心者向けです。浜崎あゆみのもらい事故みたいなのとか、どーでもいい話しかしてないし。でも、人間関係とかには役立つと思いますよ。「面倒な人でもおもしろがる技術」って意味で(笑)。
--なるほど!ではさっそくじっくり読んでみます!!ありがとうございました!
※本記事は毎月25日頃、各店舗で配布している『VVマガジン』最新号からお届けしております吉田豪さん
1970年・東京都出身。言わずと知れたプロ書評家&インタビュアー、ライター。「本人よりも本人に詳しい」と称されるほどの徹底した事前調査で取材対象に迫る姿勢は、他の追随を許さない。
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