グーグルの買収申し出を袖にするなど、破竹の勢いで成長を遂げているグルーポンですが、アメリカ本国でライターを大量に採用するのだそうです。昨今の新聞社の消滅を考えると、再就職先が出来て良い話なのかなと思ってましたが、どうもそうではないのだそうで…。

gigaom.comが報じています(2010年12月20日午後5時投稿)。
「グルーポンはライターを雇った。しかしそれはジャーナリズムとは呼べない」(Groupon Hires Writers, But Don’t Call It Journalism)と、見出しからしてきつい調子。

グループ買いサービスのグルーポンでは、多くの注目を浴びているが、その部分的な理由としては、驚倒させるようなグーグルの60億ドルもの買収提案を蹴ったからだ。しかし、一方グループ買いの人気が成長の大部分を占めていると説明がなされる中で、グルーポンがメールで提案するに当たっての書き手の才能が、成長の鍵だとする支持者は多いとgigaom.com。

アトランティック誌が最近、「ジャーナリズム学部を忘れ、グルーポン・アカデミーに入ろう」(“Forget Journalism School and Enroll in Groupon Academy”)と題した記事を載せています。その中でグルーポンが100人以上のライターや編集者、事実確認担当者(校閲に当たるのかな)を採用した事に注意を寄せ~人数規模で言えば中の上クラスの新聞社に相当~「ジャーナリズム専攻生は喜ぶべきだ」( “journalism majors should rejoice”)、この会社が雇用し、トレーニングしてくれるのだからと付け加えていますが、gigaom.comでは果たして喜べる話なのかと疑義を呈しています。

アトランティック誌は、記事の中でグルーポンがメディア業界の中で「代わりうる記事の流し手」(“alternative storytellers”)の代表格となっていると見る何人かの専門家がいており、同社が購読者に送るグループ割引きの魅力的で上手なコピーをどう書くかを教えてくれる事に、ある意味感謝したいとしています。

そしてグルーポンのハンドブックには、決まり文句を使い回ししたり、能動態(以前「Refrigerator Journalismとは何か?(3)」の中にも出てきましたが、英文で記事を書く場合、能動態って余りよくないようですね)や馬鹿げた比較をして笑いを取ろうとしたり「偽物の歴史」(“fake history”)といった手口などを使わず、より興味を引くような書き方の秘訣が記されているのだそうです。

しかし、そうであったとしても、オフライン、オンラインの如何を問わず、ジャーナリストがやるべきであるとされている事と、グルーポンのやっている事とは遙かにかけ離れているとしています。

グルーポンの提案の背景には、メールを受け取った人が何か買おうと決めさせ、それが値引きの引き金となるに十分であるだけの人を集め、取引を申し出ていた小売業者に支払うという事情があるからだそうです。

言い換えれば、広告であり、パンフレット作成や市場キャンペーンの類いだとしています。これには明らかに幾ばくかの書く才能が要求されるものの、 書く事の目的が大変違った所にある。ジャーナリズムとは通常は何かを売る事を目的としておらず、特定の問題の見方やアイディアを売る所にあるからだそうです。

オンラインメディアが今後ますますマーケティング重視するのは間違いなく、ガウカー・メディアのような機関で働くライターが、自分達の投稿を「売り」(“selling”)多くのアクセスを可能な限り稼いで同社が運営するビッグ・ボードに表示させる事に懸命にならねばならない現状となっています。

グルーポン・スタイルのコピー書きでの魅力ある機知に富んだ文章は、明らかに既存のジャーナリズムでも重宝されるだろうが、向上心に燃えるジャーナリストが既存のジャーナリズムの替わりにグルーポンに職を得る事を祝すべきなのか?とgigaom.comは問いかけます。

ちなみに、上記のアトランティック誌によると、グルーポンのライターの40%がジャーナリズムの経験があり、入社の動機は「書きまくって腕を磨きたい」(“eager to churn out prose and study the craft.”)からなのだそうです。

gigaom.comでは、しかし、書く内容の10の内8つはカップケーキや衣料の販売に関するもので、これがジャーナリズムの訓練となるのか? 多くの既存報道機関がスタッフを削減しており、雇用の受け皿になっているのは、AOLのPatch.comだけ。ここではライターが地域ニュースについて似たような仕事を分担するよう期待されるものの、フリーランサーとしてなら1本当たりの記事に50ドル、編集者なら年間4万ドル稼がねばならない。そう考えるなら、グルーポンの仕事は、やり甲斐ある機会のように見える。もし単に書く事で生活したいだけであればグルーポンは虹の彼方にある金のポットのように見えるだろうとしています。

その昔、昭和の初めに「大学は出たけれど」という言葉が流行しました。90年代には就職氷河期という言葉が生まれ、21世紀にリバイバルしてしまいました。アメリカでも、ことジャーナリズム専攻の学生さんには同様の事態が起きているようですね。

気の毒としか言いようがない。同時にそれは、失職したジャーナリストにも言える事です。gigaom.comの指摘する点には頷けますが、生きていく為には仕方の無い所もありますし…本当に、紹介していて重たい話です。