ずいぶん前のこと、ラジオ番組中で永六輔さんがこんなことを言ってました。「飛行機で大分空港に着くと、レストランのメニューにリュウキュウ丼っていうのがあるんです。 沖縄じゃなくて大分空港なのになぜ?」
永六輔さんが言うには、「食べてみたら、これはズケ(漬け)丼でした。」 だそうです。
私は10年間ほど東京近郊で生活していたのに残念ながらズケ丼を一度も食べたことがないので比べることができませんが、たぶんリュウキュウ丼とズケ丼は同じ様なものなのでしょう。
リュウキュウ丼
【リュウキュウ丼】

大分県の人なら誰でも知っているリュウキュウ(琉球)とはどんな食べ物なのか? ざっくりと説明すると、刺身や刺身の切れ端(生で食べられる魚の切れ端ならどんな魚でもOK)を醤油ベースのタレに漬け込んで、刻んだネギやゴマを振り掛けたものです。 各家庭によって、生姜やニンニクなども使い味付けは様々です。 これをご飯に乗せたものをリュウキュウ丼やリュウキュウ茶漬けなどと呼びます。
リュウキュウ
【魚屋で売られている『リュウキュウ』】

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いったいいつ頃からこの食べ物をリュウキュウと呼ぶようになったのかは知りませんが、私が食べた一番古い記憶は昭和40年代の頃です。
家庭用の冷蔵庫が小さかった当時、刺身の食べ残しは茶碗に集めて醤油に漬け込んで保存し、翌日ご飯に乗せてワサビを添え、お茶漬けとして食べていました。 その頃に父が「この茶漬けのことをリュウキュウって言うんだよ。」 と教えてくれました。

その頃、父の店では刺身の切り落としを集めたリュウキュウを『お茶漬け』という商品名で販売していましたし、他の魚屋でも『お茶漬け』や『リュウキュウ』として売っていたようです。 年配(80歳より上か?)の魚屋さんに、「リュウキュウっていつ頃から言うようになったか覚えてますか?」と尋ねてみると「あんたが生まれるよりずっと前からリュウキュウって言ってたよ」との事ですから、昭和30年以前からそう呼ばれていたのかも知れません。
平成12年(西暦2,000年)頃には、「リュウキュウを下さい」と言うお客さんと、「お茶漬けを下さい」というお客さんの割合は、半々だったように思いますが、私の店での商品名を『お茶漬け』から『リュウキュウ』に変更したのはその頃です。
今では99%のお客さんが『リュウキュウ』と呼んでいますし、他店でも大多数の店が『リュウキュウ』と表示しているようですが、たまに「茶漬けはありますか?」と言う客もいます。 県外から引っ越してきた人や、仕事で大分に滞在している人には、「リュウキュウ?って何ですか?」「どうやって食べるんですか?」と聞かれます。

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ところで、なぜこれをリュウキュウと呼ぶのか? 名前の由来には諸説あるようです。 
ある魚屋さんは「琉球(沖縄)の漁師が食べていた料理が大分に伝わってきたからリュウキュウって言うんだよ。」 と言っていましたが、それなら日本中にこのリュウキュウが沖縄料理として伝わっていても良さそうな気がします。

私は、ある日テレビで見かけた以下のような説が気に入っています。
刺身を切るときに、刺身の形を整えるために身の端を切り落とします。
この切り落とした部分を集めてリュウキュウを作るのですが、日本の一番端にある琉球と魚の身の端っこを引っ掛けたダジャレで誰かが琉球と呼ぶようになり、それが広まった。 というものです。

とにかく、最初の頃は刺身の端っこの切り落としを集めて作った賄い料理のようなものだったと思われますが、これは美味しいという事になり、これを求めてお客さんがやってくるようになると、そんなに端切れはたくさん出ませんから現在では普通に刺身用の魚を小間切れにして、それに刺身の切れ端を混ぜてリュウキュウとして販売しています。