オリジナル小説 『 ヒカリ☆ 』

28才の夏、森 享介は海沿いの街をさまよって、セーラー服の女子高生ひかりと出会う。

<4>最終章  ホントのこと 2

「享ちゃん、さよならぁ!」

 ひかりが両腕をしなやかに広げ、享介に

思い切って溶けこんでくる。胸を突かれる

空気の震えを残して、享介を通過して消え

てしまった。

「どういうことだ?」

「どうもこうもないわ、これが川嶋ひかり

のすべてなのさ」

 ケンジがイチョウの木陰(こかげ)から

立ち上がった。すでに園員の制服をなくし

て、ラフなTシャツ姿で、地べたの土汚れ

をはたいている。

「おまえは誰なんだ」

「へ? オレっちは悪魔だよ、ひかりは

ケンジ閣下だって決めつけていたぜ。

川嶋ひかりの悪魔っ娘(こ)としての将来

性に惹かれて、悪魔界デビューを目指した

のさ。

おもしろそうだろ? あれほど真っ直ぐな

バイオレンスって。まあ、オレっちは何て

言うか、ただそれだけなのさ」

 光の放出を安らかに終えていく、縦穴の

巨石に目をやりながら、気まずそうに鼻の

てっぺんを掻いた。

「あ~あ、とびっきりの悪魔っ娘にスカウ

トしようとがんばってたのに! 

じゃあ、オレっちも行くからさ。楽しかっ

たぜ、恋の落とし穴にはご用心ってね」

 ケンジも半透明になって、やがて姿が

なくなる。はしゃいじゃった後に見せる

笑顔を残して。

 遊園地には誰もいない。蝉の声がきこ

えた。享介は額の汗を意識した。光は高く、

熱気をはらんだ空気は、夏の景色をえがいた。

 肉厚の雲と伸びる空が苦しいんだ。


<終>

ご愛読ありがとうございました。

 (水城ゆうき)

 

<4>最終章  ホントのこと 1

「イチョウの樹の根が、ひかりをイジめ

ていたんだな」


 享介は走りだすと、イチョウの硬い

樹皮めがけて左右のパンチを効かせて、

くるりと後ろから腰をねじって回し蹴り。

けっして伝承のイチョウまでは届かない、

遠めの位置からの敵討ちって、やっぱり

ピントのズレた享介だった。

「なんて卑劣な! 森のイチョウ伝説」

「でもねワタシ、ずっと享ちゃんのそば

にいたんだよ」

 ふり返るとたんぽぽを思わせる笑顔。

ひかりは手を後ろに組んで、芝の広がっ

たゆるい傾斜を踏みしめてくる。

太陽の強い光を浴びながら、芝と土の

織りまざる蒸気の臭いに包まれていく。


「たまには思いだしてほしかったなぁ」


「やめろ! 空を飛ぶのはやめろ!」

 ひかりが落ちた穴の開口部は輝きだ

した。

巨石をのせただけの穴塞ぎから、まば

ゆい光があふれて輝度が満たされる。

「享ちゃん、さよならぁ!」

 ひかりが両腕をしなやかに広げ、享介

に思い切って溶けこんでくる。

胸を突かれる空気の震えを残して、

享介を通過して消えてしまった。

「どういうことなんだ?」

「どうもこうもないわ、これが川嶋

ひかりのすべてさ」

 ケンジがイチョウの木陰(こかげ)

から立ち上がった。

<4>最終章  ひかりのお腹の根 5

「さあ、悪夢をとっぱらおうぜ! 

ずっと俺はこの時を待っていた」

「それってやっぱりイチョウの木に、つながっ

ていくのか、とっても気になる」


「ありありだろ、満月の晩にイチョウの大樹に

祈願した恋愛カップルには、生涯ラブラブが

約束される、森のほとり伝説を忘れたのかよ」

「そのイチョウの木が遊園地に運ばれて、ワタ

シが落っこちた穴の近くに、植えられちゃった

のね」

 このままゴンドラが滑り落ちると、雲のように

青々と密集した、イチョウ葉に着地しそうだ。

「一本の懐中電灯と月明かりをたよりに、道の

ない森を近道したつもりだった。まるで赤い月

を追いかけて、森で迷子になり、ひかりが穴に

落ちて絶叫-っ、俺は走って走って、えーと、

走って転んで走って、は走ってってアレ?」

 これまでの緊張がとけて、やっと顔をほころ

ばせる享介を、ひかりは眩(まぶ)しそうに見ま

もっていた。

「あのね享ちゃん、ワタシね、ずっと穴の奥で

待っていてもよかったけど、ゆっくりしていら

れなくなったの。運ばれてきたイチョウの根が

生えるとチクチクって体が痛むから」

 ひかりは横腹を手で押さえて、腹痛とも吐き

気ともとれる姿勢で、じっとうつむいて耐えた。

「やっぱり教えてあげたいな。享ちゃんの知っ

ているイチョウの伝説はかなり違うのよ。そう

じゃなくって満月の晩、イチョウの木に触れた

カップルには、永遠の別れがやってくるだよ。

もうね、永遠のラブラブって、まったく享ちゃ

んらしいわ」

 ひかりはセーラー服のわき腹にあるファスナー

を、ジジジと引きあげた。あごをひっこめて前か

がみに、苦しそうな短い呼吸をつづけていたが、

こめかみから垂れた髪を優しく指でなぞって、

「約束だったよね。失くしたモノを返してあげる」

 セーラー服をヘソから持ちあげ、胸をふくらま

せて腹部ギリギリまで上着をめくっていく。

「これがあなたの十年よ」

「うわーっ! コレって根っこかよ!? マジに

おえぇぇーっー」

 ひかりの白いお腹に、木の根が育っていた。

腹肉にびっしり塊状の根を張らせ、起伏と陥没を

繰り返して渦巻いていた。どこから根をおろした

のか、あるいは食い破って腹部に定着したのか、

ただ動きのとれない根の先っぽがやわらかい肉

から顔をだして、静かに息ずいている。

「お疲れさまでした。またのご搭乗をお待ちして

おります」

 観覧車の乗り場に到着すると、ケンジが恭(うや

うや)しく声をかけながらドアオープンする。

あらためてゴンドラ内のカップルと、ずりあがっ

たセーラー服の腹部を見やると、やっちまったか

という、天に手を向けて肩をすくめる降参ポーズ

をとった。

ワタシ回転レコード

水城ゆうき

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