人間が変わる方法は3つしかない。
  1. 時間配分を変える。
  2. 住む場所を変える。
  3. つきあう人を変える。
この3つの要素でしか人間は変わらない。最も無意味なのは「決意を新たにする」ことだ。

このように大前研一さんが語っている。これらは即効性のある、短期的な変化を起こすためには有用だと考える。
時間の使い方であれ、住む場所であれ、付き合う人であれ、行動を変えるためには、まず現状を振り返ることが大切だ。例えば僕は毎年、過去1年のスケジュールを印刷して、誰とどのように過ごしたか、時間の使い方について振り返るようにして、翌年の過ごし方に活かしている。

それでは、もっと中長期的に、自分の人生を変えるためにいい方法があるのだろうか。

ハーバードビジネススクールと並ぶ名門校として知られるペンシルヴァニア大学ウォートン校で「人生を変える授業」として知られる「トータル・リーダーシップ」のコースでは、以下の作業を学生に課しているそうだ。

1.  まず、自分のこれまでの人生を振り返る。過去に起こった重要なできごとやエピソードを4,5つ思い出して書き出してみよう。

2.  自分が「ありたい姿」=ロール・モデルとなる、尊敬する人物がどのような人か、考えてみよう

3.  自分にとって大切な価値観は何か、書き出してみよう。それは出世?冒険?美意識?人間関係?豊かさ?家族?健康?ユーモア?知的好奇心?

4.  人生において大切な4つの領域、①仕事、②家庭、③コミュニティ、④自分自身 について、使っている時間のバランスはどうか?現状のバランスと、ありたい姿を考えてみよう。

5.  それぞれの領域において、自分に影響を及ぼしている人々は誰か、また4-5人の名前を書き出してみよう

6.  これらの人々が自分に期待してることは何か?自分が彼らに期待していることは?

7.  これをどうやって変えていけるだろう?これらの人たちと、面と向かって、腹を割って、語り合ってみよう


これらをやってみることで、日々の生活を変え、人生は変えることは可能なはずだ。一人でやるのが面倒であれば、親しい友人や勉強会の仲間たちと試してみてはどうだろうか。

この授業を受け持つスチュワート・D・フリードマン教授は、GEのジャック・ウェルチや歴代大統領にリーダーシップを指導したことで知られる。この講座で使われた教科書が、日本語となり我々の手元に届くことになった。

トータル・リーダーシップ 世界最強ビジネススクール ウォートン校流「人生を変える授業」
トータル・リーダーシップ 世界最強ビジネススクール ウォートン校流「人生を変える授業」

この教科書を日本に紹介しようと尽力したのが、訳者の塩崎彰久弁護士。彼はウォートン校で生徒会長を務めたのだが、米国のビジネススクールで日本人が生徒会長を務めることは並大抵なことではない。というのは、この生徒会長選では将来政治家を目指す米国人学生たちが大統領演説よろしく、巧みな弁論を駆使し、かつ人間力をアピールして選ばれるのだ。

ただ英語がうまいだけでも、勉強ができるだけでも、スポーツができるのでもダメで、コミュニケーション力と学生たちの信望が必要となる。いわば、日本人が大統領に選ばれるようなものだ。それを果たした塩崎氏は、将来が大きく嘱望される世界級のリーダー(の卵)だと言えよう。日本語で話すと温和なのだが、英語では別人格。彼と並んで英語でスピーチをしたことがあるのだが、彼の大統領然とした立派な演説の前では、自分のコンサル風「説明」はまるで大統領の脇に控える補佐官のように、小さく、小さく感じた。

そんな彼が、「自分の人生にもっとも大きな影響を与えた授業の内容を、ひとりでも多くの日本人に紹介したい」との意志のもと、明日から邦訳が発売されることになった。それが上記の書籍である。もっとも、この本はただ読むだけで身につくわけではなく、自分自身が頭と手を動かして、自分の内面を探求することが求められる。しかし、その自己探求の旅を終えた後には、新しい自分と巡り合えるような気がする。僕も、この本を片手に、塩崎氏と将来の自分についてもう一度語り合いたいと思う。

僕もハーバード留学中でもっとも印象に残ったのが、自分の内面を振り返り、自己探求をする作業だ。これを通じて自分がどこから来て、どこへ向かおうとしているのか再発見することができた。そしてその結論として自分が得た気づきが、

  人生は大陸を横断する鉄道の旅のようなものである

と いうこと。目的地に早く着くことが狙いなのではない。あえてゆっくりと道のりを歩み、窓から見える風景、入ってくる風、聴こえてくる音、たまたま居合わせ た旅行者とのたわいのない会話、これらの一瞬一瞬を楽しむこと、それ自体が目的だということに気がついたのだ。以来、自分のキャリアも焦ることなく、つら いときも楽しいときも、その時間を味わい、楽しむように心がけている。この気づきを得たことが、MBA留学でもっとも有意義な成果かもしれない。