2011年09月25日

 9月25日の『読売新聞』の「地球を読む」にフランシス・フクヤマ氏が「中国モデル」についてエッセイを発表しており、大変興味深かったので、これについて少し。

 氏は中国モデルには「政治と経済の二つの側面がある」としています。政治面では、権威主義的国家でありながら、他の独裁国家にない次のような制度が取り入れられていることを指摘しております。

① 制度化
 指導者の任期が10年と定められていることや、党員の昇進は能力主義に基づくこと。党中央政治局内の意思決定は厳密な集団的意思決定体制が取られていること。

② 民衆に対する融和策
 ネットなどから報告された役人の行為があまりにひどい場合には、それなりの処分を行っていること。


 経済面では以下のような指摘を行っております。

 輸出主導型の成長モデル。為替レートを低く抑え、輸出産業を保護。国営企業による景気刺激策の受け皿化。

 その上で、民主主義国家が法の支配と民主主義的な説明責任により、様々な制約を受けるのに対して、中国は権威主義的国家であるが故に「大規模な経済政策の決定を迅速に、そしてかなり効果的に行える」という利点を指摘します。

 これだけを見ると、あの『歴史の終わり』を書いて、西欧民主主義、資本主義の勝利をたかだかに歌い上げたフクヤマ氏がという感じですが、実際、彼はイラク戦争を巡ってブッシュ政権への批判を行うなど、既に方向転換を行っており、西欧民主主義礼賛を棄てております(『アメリカの終わり』等を参照)。



 むろん彼の言いたいことは単なる中国礼賛ではなく、後半部では、最高指導者の政策が間違っていた場合どうするのかと言ったことや、世界的不況の中で外需依存型の経済が今後高度経済成長を維持できるか、という中国の問題点を指摘しています。

 実際中国がリーマンショック後の景気刺激策で使った金がかなり無駄金となってしまっているのではないかという記述もあります。更には、政治参加という点でも教育水準が上がり、豊かになった国民が自分たちが意思決定に参加できない権威主義的体制に満足できるかという問題を「中国の政治制度の欠陥」と述べ、これを最も重要視しています。

 そして彼の結論は、現在の自由主義的国家にも問題があるが、中国のような権威主義的国家にも問題があり、この2つの体制の「競争」でどちらが魅力的かということで決まると述べています。大変興味深い指摘です。

 実際、現在の資本主義体制にしてももともとは夜警国家的発想から、自由競争が重視されていたわけですが、これが弱者切り捨てとの批判をうけ、社会主義的思想を生み出しました。その社会主義との「競争」の中で、資本主義は社会保障や社会福祉の考えを取り入れ、いわゆる修正資本主義として、弱者にも配慮する資本主義体制を作り上げ(フクヤマも指摘しているヘーゲルの弁証論的発想)、社会主義(共産主義)国家との「競争」に勝ち残ったわけです。

 今回、思うに民主主義体制は、政策決定の遅さ、調整に時間が取られすぎるという点等で権威主義的国家から挑戦を受けているわけですが、これをどのように現在の民主主義体制の中に取り入れるかとなるとかなり難しい問題です。というのは、民主主義はある意味、独裁による弊害をなくすために、できるだけ多くの者の同意がとれる体制としてスタートしたものですから、調整に時間がかかるのは仕方がない面あります。

 また、民主は平等と結びついている以上、個人の権利を主張されると無視できない面もあります。かといって、国民の福祉を充実させていけば金がかかるのは間違いなく、慢性的な財政悪化を招くのは当然だからです。おそらくフクヤマ氏もここいらのことは十分にわかっており、本来であれば、以前の様なヘーゲルの弁証法的止揚を用い、新しい体制の提言をしてまとめたかったのでしょうが、難しいので、「競争」という言葉で、ここまでの結論にしたのではないかと考えます。

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凜amuro001 at 22:25│コメント(0)トラックバック(0)中国政治 │

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