要約(僕の主張)
- 篠原嘉一氏の講演内容には、IT関連の知識がない人にはわかりづらいウソや間違い、極論が多く含まれているため、適切な情報教育だとは言いがたい。よって改善を強く希望する。
- 学校側は「生徒をネットのトラブルから守りたい」という思いが優先されるため、ITエンジニアよりも「情報の正しさ」がないがしろにされてしまうのかもしれない。だが、ITエンジニアとして、そして保護者として、学校は子どもたちに正しい情報を伝える努力をしてほしい。
- 我々ITエンジニアも情報教育を学校に丸投げするのではなく、正しい知識を伝えるために、主体的に情報教育に協力していく必要がある。
はじめに
Image: http://www.mrf-ip.com/blog/0067/
先日、息子が通っている中学校で開催された情報教育講演会に参加してきました。
これは中学校の全生徒と、任意参加の保護者で、情報教育(主にSNSやスマートフォンのリスク)について、講師の話を聞く講演会です。
講師はNIT情報技術推進ネットワーク株式会社の篠原嘉一(しのはら かいち)氏でした。
僕はこの篠原氏という方を存じ上げなかったのですが、どうやら関西圏を中心に、毎日のように情報教育に関する講演会を行っている有名な講師の方のようです。
(2016年は800回以上の講演を行ったとのこと - 参考)
実際、ネットを検索してみると、氏の講演や執筆の実績が多数見つかります。
篠原氏はおそらく教育現場などでは情報教育の第一人者として認知され、引く手あまたの状態なのだと思いますが、僕個人はこの方の講演があまり良いものだと思えませんでした。
このブログでは普段、個人を批判するような内容は書かないようにしているのですが、今回のエントリではあえて、日本のIT業界に関わるITエンジニアの一人として、氏の講演内容について問題提起します。
そして、ITエンジニアから見た、情報教育のあり方について議論したいと思います。
このエントリを読んでもらいたい方たち
このエントリは以下に挙げる各方面の方々に向けて、次のような意図をもって書かれています。
- 学校の先生方
- 「毎年お願いしてるから」「有名な人みたいだから」といった理由で安易に講師を選ばずに、「信頼できる講演内容かどうか」という観点でじっくり講師を検討していただきたいです。
- IT関係に明るくない保護者の方や生徒さんたち
- 氏の講演を聞いて「よくわからないけど、ビックリした」「SNSって怖い」と思われたかもしれません。ですが、必ずしもすべてが真実であるとは限らないことを知っていただきたいです。
- IT企業に勤めるエンジニアのみなさん(特にお子さんがいる方)
- このエントリを読んでもらった上で、情報教育を学校に丸投げにせず、我々ITエンジニアも子どもたちのために何かできることがないか考え、行動に移していただきたいです。
- 篠原氏ご本人
- 講演内容のすべてを否定するわけではありませんが、ITエンジニアの視点から見て「その内容はいかがなものか」と思う部分が多数ありました。このエントリをご覧いただき、講演内容の改善を真剣に考えていただきたいです。
詳しい話はそれぞれ、このあとで説明していきます。
僕の自己紹介(このブログを書いている人)
僕はかれこれ15年ほど、日本のIT業界でプログラマをやってきている技術者(ITエンジニア)です。現在はWebアプリケーションを専門に開発しています。
「プロを目指す人のためのRuby入門」という技術書も執筆しています。
プロを目指す人のためのRuby入門 言語仕様からテスト駆動開発・デバッグ技法まで (Software Design plusシリーズ)
- 作者:伊藤 淳一
- 出版社/メーカー: 技術評論社
- 発売日: 2017/11/25
- メディア: 大型本
情報セキュリティの専門家ではありませんが、一般の保護者よりは知識はあると思いますし、IT関係のニュースや話題も日々チェックしています。
また、日本のIT業界の開発の現場の様子や、ITエンジニアの考え方にも(一般の人たちよりは確実に)精通しているはずです。
このエントリで議論する講演、および講演内容について
このエントリでは、2018年5月に兵庫県内の中学校で開催された篠原氏の情報教育講演会の内容を議論します(対象者は全学年の全生徒と、任意参加の保護者)。
同じ篠原氏の講演でも時期や場所によっては、講演のテーマや講演スタイルが異なる可能性があります。
また、このエントリで紹介している氏の講演内容は、講演後に僕が記憶をたどって書き起こしたメモをベースにしています。
録音の書き起こしではないため、実際の発言とは完全に一致しないかもしれません。
ですが、大筋の内容に違いはないとお考えください。
このエントリはかなり長いので、先に目次を載せておきます。
本編は以下の3つのパートに大きく分かれています。
- 第1部 篠原氏の講演の問題点
- 第2部 学校側の見解
- 第3部 ITエンジニアが子どもたちのためにできること
各パートで議論するトピックは以下のとおりです。
それでは以下が本編になります。
【第1部】篠原氏の講演の問題点
僕が出席した講演会における篠原氏の講演内容は、全部が全部、悪い内容だったとは決して言いません。
僕自身も「たしかにそれは一理ある」と思う点はいくつかありました。
特に「スマホは危険だから子どもに触らせるな」ではなく、「スマホは別に使ってもよい」「スマホに詳しい子どもよりも、何も知らない保護者の方がむしろ危険」と主張されていた点は僕も同意見ですし、評価できると思います。
また、「若者たちの間で今そんなアプリが流行っているとは知らなかった」と僕自身、勉強になった点もあります。
その一方で、毒と薬をまぜこぜにしたような話をされる点が気になりました。
ここでいう「薬」とは正しい情報(少なくとも僕から見て評価できる情報)のことで、「毒」とは誤った情報や、氏の勝手な憶測、極論、偏見のことです。
僕が聞いた講演の中で「これはおかしいのでは?」と感じた点を以下に列挙していきます。
中国製のアプリ(荒野行動やTik Tokなど)を使うと、個人情報が中国に流される?
氏は「中国製のアプリ(荒野行動やTikTokなど)を使うと、個人情報が抜き取られて、全部中国に流されてしまう」というような話をされていました。
その理由は「中国という国家が主体となって、国内のインターネット(アプリ上の個人情報も?)をコントロールしているから」だそうです。
たしかにネットを検索すると、若干似たような話は出てきます。
ですが、「荒野行動やTik Tokも個人情報を横流ししている」という明確な情報は、僕が調べた限り確認できませんでした。
本当にそうなのであれば、根拠となる情報源を示してほしいですし、氏の憶測なのであれば、断定調の表現は控えるべきだと思います。
LINEは個人情報を抜き取っているから無料?
氏はLINEが無料である理由を「個人情報を抜き取っているからだ」と説明されていました。
これはあたかも、LINEの運営会社が個人情報を第三者に販売して、メインの収入源を得ているかのような表現です。
LINEの収入源についてはこのような記事がありました。
LINEの現在の収益構成は、コンテンツ41%、コミュニケーション24%、広告30%、その他5%となっています。「コンテンツ」はゲーム、「コミュニケーション」はスタンプが中心です。
LINEの強みと儲けのしくみ 上場控え、立ち入り検査の影響は=栫井駿介 | ページ 3 / 4 | マネーボイス
これを読む限り、ゲームやスタンプの売上がLINEの主たる収入源だと解釈するのが適切なのではないでしょうか。
もっと正確な情報が知りたい方はLINEのIR情報を確認すると良いでしょう。
百歩譲って、「個人情報を抜き取っている」という氏の主張に近い話をLINEのプライバシーポリシーから抜粋するとすれば、このあたりになるでしょうか。
利用者情報の第三者提供
LINE プライバシーポリシー
当社は、法令で認められる場合を除いて、利用者情報をお客様の同意なく第三者に提供することはございません。ただし、以下の場合は例外とします。
•お客様が第三者と連携したサービスをご利用される場合など、提携事業者による利用者識別のための必要最低限の情報を提供する場合
この場合、当社は必要最低限の情報(内部識別子、機器情報の一部(広告ID・言語設定等)、属性情報)のみを第三者に提供し、氏名や住所、電話番号等の提供にあたってはあらためてお客様の意思確認を行います。なお、提供先には外国の法人も含まれる場合があります。 また、上記に関してはそれぞれ「取得される情報及び利用方法>サービス利用情報>第三者が運営するサービスのご利用に係る情報」「広告について」もご参照ください。
ですが、上の文面を読む限り、好き勝手に個人情報を売り飛ばすような記述は見当たりません。
「LINEが無料なのは個人情報を抜き取っているから」というのはあまりにも乱暴なまとめ方で、生徒や保護者に「LINEは悪い企業だ」という誤解を与えかねません。
フライトレーダー系のアプリで、個人情報が丸見えになる?
氏は講演の中でフライトレーダー系のアプリ(フライトレーダー24か?正確なアプリ名は不明)をプロジェクタに映しながら、
「この地図のこの点が、私が今いる場所、つまりこの学校です」
「この画面には今、私たちの上空を飛んでいる飛行機が映っています」
「こうやってタップすると、飛行機の詳細な情報が一瞬で表示されます(と言いながら、下のような画面をプロジェクタに映す)」
イメージ画像: 成田空港の滑走路・誘導路にいるタキシング中の飛行機をフライトレーダー24で見る方法
「そればかりでなく、コクピットの窓から見える風景もこんなふうに丸見えです(と言いながら、アプリの風景シミュレーション機能を起動する)」
イメージ画像: YouTube
「みなさんの個人情報や周辺の様子もこのように丸見えになるんです!(会場がどよめく)」
というような話をしていました。
しかし、この主張は明らかにおかしいです。
フライトレーダー系のアプリで自分の位置情報と飛行機の公開情報が見えるのは、そういう機能が普通に提供されているだけなので全く問題ありません。
このアプリの機能と、全く見知らぬ第三者(=生徒や保護者)の位置情報や個人情報が丸見えになることには何のつながりもありませんし、当然ですが、このアプリにそんな機能はありません。
また、このアプリはとてもリアルな風景を描画していますが(2枚目の画像)、これは「今現在の実際の風景」ではなく、あくまでアプリ内で合成された画像です。
その点を説明せずに、この画面をぱっと見せてぱっと次のスライドに移ると、あたかも「上空から自分の周辺が丸見えになるアプリがあるんだ」と、生徒や保護者に誤解を与えかねません。
氏はなぜこんな無関係なアプリを使って、「あなたの個人情報もこんなふうに丸見えになるんです」と不必要に聴衆の恐怖心を煽ったのか、僕には全く理解ができません。
僕に言わせれば、これはインパクトだけを演出する、派手なパフォーマンスとしか思えませんでした。
AIが発展すると、3Dホログラムの美少女と結婚してしまう?
氏は講演の中でAI(人工知能)の話を始めました。
最初はAlexaやGoogle Homeの話をしていたのですが、それから急に、Gatebox(好きなキャラクターと一緒に暮らせるバーチャルホームロボット)の画像を見せ始めました。
イメージ画像: YouTube
上のような画像を見せながら、
「みなさんは友達とのトラブルを自分で解決するようになってください」
「親に頼ったりしていると、こっちの世界に走ってしまいます」
「こっちの世界に走ってロボットと結婚すると言い出したら、日本は終わります(笑)」
というような話をしていました(ただし、"Gatebox"という商品名は出していませんでした)。
この話も僕にとっては意味不明でした。
まず、「Gateboxの女の子が好きになって、結婚したいと言い出す」なんていう話はSNSのリスクとは全く無関係です。
こんなどうでもいい話をせず、ちゃんと講演テーマに沿った話をしてほしいと思いました。
また、口調からして、「こんなの気持ち悪いですよね」という氏の偏見が透けて見えました。
Gateboxをどう思うかは個人の自由ですが、こういった講演の中で、自分の価値観を生徒や保護者に押しつける必要はないはずです。
さらに、Gateboxの開発者に対しても失礼な話だと思いました。
もし僕がGateboxの開発者で、なおかつこんな流れで自分が開発した商品が紹介されたら絶対許せません。
先ほどのフライトレーダーの件と同様、これも情報教育というよりは、単なるウケ狙いのパフォーマンスにしか見えませんでした。
Googleマップ移動履歴で、自分の位置情報がバレる?
他にも、氏はGoogleマップの移動履歴機能を見せながら、
「Googleマップが入っていると、こんなふうに移動履歴が毎日記録されます」
「みなさんが毎日どこからどこへ移動したのか、全部把握されます」(いったい誰に?)
「ですので、Googleマップの移動履歴機能はオフにしてください」
という話をしていました。
イメージ画像: [Å] 行った場所やルートがひと目でわかる!Googleマップ「ロケーション履歴」が自動記録で便利 | あかめ女子のwebメモ
もちろん、使わない機能なのであればオフにして無用なトラブルを避ける、という考え方は理解できます。
ですが、Googleマップの移動履歴機能はあくまでユーザー本人の移動履歴を記録・確認するための機能であり、決して不特定多数の第三者に自分の移動履歴を公開する機能ではありません。
その点を全く説明せずに、
「ほら、こんなふうに移動履歴が分かっちゃうんですよ!」
「ストーカーがこれを使えば一発であなたの居場所を特定できます!」
「実際にストーカー殺人事件も起きています!」
みたいな話を持ち出すのはかなり乱暴です。
これもやはりインパクトやパフォーマンス性を重視しすぎている気がします(実際、会場からは「うわ~!」というどよめきが起きていました)。
小学生が児童館職員をバットで殴ったのは「ゲーム脳」のせい?(2018.6.7 追記)
このエントリの公開後、コメント欄に投稿されたコメントの中に「ゲーム脳」というキーワードが出てきました。
篠原氏の講演手法はかつてブーム(変な意味で)となった「ゲーム脳の恐怖」著者、森氏の講演と同じですね。
偶然かもしれませんが、実は篠原氏の講演の中にも「ゲーム脳」という発言があったので、それも追記しておきます。
篠原氏によると、「神戸の児童館で小学生がバットで児童館職員を殴った事件はゲーム脳のせい」なんだそうです。
神戸市内の児童館で5月、20代の女性職員が、利用者の小学2年生の男児に頭部をバットで殴られ、片耳が聞こえなくなるなどの後遺症を負った。神戸新聞などが12月19日に報じた。
小学2年生がバットで女性職員を突然殴る、片耳に後遺症 神戸の児童館 | ハフポスト
篠原氏いわく、「小さい子が毎日ゲームに熱中しすぎるとゲーム脳になってゲームと現実の境がなくなり、嬉しいときや楽しいときですら感情表現の一つとして、ゲーム感覚で突然人を殴ったりけったりする」んだそうです。
が、これも例によって情報源がわかりません。
講演の中ではこの話も自信満々に断言されていましたが、僕がネットを調べる限り、この事件と「ゲーム脳」を関連付ける話は見当たりませんでした。
(そもそも「ゲーム脳」という考え方自体に、批判や反論が多いようです - 参考)
終始こんな感じで、根拠がはっきりしない話を次々と「断言」していくところが、氏の講演スタイルの大きな特徴です。
補足1:別の高校での講演内容
(2018.6.28 追記)
篠原氏の講演内容(具体的な発言)が比較的よくわかる記事がありました。
(注:2020年1月時点に確認したところ、以下のページは削除されたようです)
http://www.takii-h.oiu.ed.jp/re-news/archives/2018/06/220738.htmlwww.takii-h.oiu.ed.jp
この記事の中では次のような(真偽がよくわからない)発言が載っています。
ネット対戦ゲームに慣れた子供たちは、言葉を使ってコミュニケーションをとる前に、プラスチックのバットで殴ったりキックやパンチでコミュニケーションをとるようになっている。
スマホに無料アプリをダウンロードするということは、ウイルスを取り込んでいるに等しい。(中略)無料アプリのほとんどは、ダウンロードした時にアカウント情報などの個人情報を盗まれており、その個人情報によって企業は儲けている
スマホの設定を変えなければならない。初期設定のままでは、どんどん情報が取られていく
僕が参加した講演会でも、これとほぼ同じ発言がありました。
補足2:被害者の方のその後がわかる関連記事
(2020.1.28 追記)
バットで殴られた被害者の方のその後の様子がこちらの記事に載っていました。
この記事を読んでもやはり「ゲーム脳」なる用語は出てこなかったです。
(追記ここまで)
僕が聞いた講演の中では、この他にも「なんかおかしい」「それは微妙」「なぜそんなことが断言できるのか」と思うような話がたくさん出てきました。
最初の方で「毒と薬」というたとえを出しましたが、僕の中では「毒が8、薬が2ぐらい」というのが正直な感想です。
ですが、問題点を全部挙げていくとキリがないので、議論を先に進めます。
講演後の生徒たちの感想
この講演の数日後、学校から配布された「学校通信」に講演を聞いた生徒さんたちの感想文がいくつか載っていました。
その中から、「もしかして、これって上で挙げたようなおかしな話をそのまま鵜呑みにしてしまったのでは?」と感じたコメントを一部抜粋します。
なお、文中の下線は、僕が「それは誤解、または確証のない噂話だよ」と思った部分です。
ずっとSNSは怖いと聞いていたけど、何か悪いことをしないと怖いことは起きないと思っていました。でも、今日話を聞いて、何もしなくても、位置や今しているアプリまでわかってしまうと知って、SNSは本当に怖いと思いました。
アプリが無料な理由を知ったり、情報のもれ方を知ってめっちゃ怖いなぁと思いました。
僕は1か月前から"荒野行動"を始めたけど、自分の個人情報が中国の方へ行っていると聞いてとても怖いと思いました。
このように、一部の生徒さんたちは氏が発信した真偽のハッキリしない情報を根拠にして、「SNSやゲームが怖い」という感想を抱いてしまっています。
篠原氏にお願いしたいこと
上に挙げたような問題点を踏まえ、篠原氏には今後、以下のような改善を求めます。
リスクをきちんと評価して伝えてほしい
氏は多くの場面で「〇〇〇すると、必ず位置情報がバレる、すぐにストーカーに狙われる」というような口調で話すのが気になりました。
しかし、僕としては「悪用される可能性はゼロではないし、実際に悪用されると怖いのは確かだが、とはいえ、そんなに簡単に悪用されるわけではない」「開発者や企業も個人情報や位置情報が悪用されないように、細心の注意を払って開発・運営しているはず」と感じたものがほとんどでした。
なので、スマートフォンやSNSのリスクについては、以下のような観点を押さえた上で、生徒や保護者に説明してもらいたいです。
- スマホやSNS、特定のアプリにはどんなリスクがあるのか
- そのリスクは現実化するとどれくらい危険なのか
- それはどれくらいの確率で起きるのか(または、どれくらい簡単に悪用できるのか)
- どうすればそのリスクを避けられるか
- その問題が実際に起きてしまった場合は、どう対処すればいいのか
上記の観点のうち、氏の講演では特に、3と5に関する言及がほとんどありませんでした。
無関係なアプリを使った派手なデモやパフォーマンスで無用に恐怖心を煽らないでほしい
前述の通り、氏はフライトレーダーアプリやGoogleマップの移動履歴をプロジェクタに映しながら、「ほら見てください!すごいでしょ!怖いでしょ!」と聴衆を驚かせていました。
しかし、適切な方法で利用すれば全く問題のないアプリを使って無用に恐怖心を煽るのは、正直いって、非常に悪質な演出だと感じました。
マジックショーやサーカスではないのですから、派手なパフォーマンスを見せる必要はありません。
情報教育の専門家なのであれば、ウソをつかず、正しい情報を提供してください。
断言するなら根拠を見せてほしい、根拠がないなら断言しないでほしい
「〇〇〇は個人情報を抜き取って横流ししている」というような話は、ある意味「あいつは泥棒だ」と断言していることに等しいです。
もし、自信をもって断言できるのであれば、その根拠を一緒に示していただきたいです。
そうでないなら、第三者の名誉を毀損するような発言は慎むのが、講演者としてのマナーやモラルなのではないでしょうか。
(そもそも、本当にそんな悪質な企業があるなら、講演でしゃべる前に篠原氏自らその企業を訴えてほしいです)
ちなみに、講演全体の印象として、「〇〇〇は〇〇〇だ」と断言する場面は非常に多かったにもかかわらず、その根拠となる情報源が示されることは数えるほどしかありませんでした。
スライドの中に小さくリンクを載せるだけでもいいので、「ここを見ればこの主張が正しいことがわかる」という情報源を明記していただきたいです。
開発者やIT企業をリスペクト(尊重)する気持ちを持ってほしい
氏の講演は全体的に「ユーザーの個人情報や位置情報を抜き取って儲けるのが、ゲームやアプリの開発会社だ」と言わんばかりの内容でした。
ですが、少なくとも僕自身を含め、僕が知っているITエンジニアや開発会社は細心の注意を払って個人情報や位置情報を扱っている人たちばかりです。
Webサービスやスマホアプリから得られた個人情報や位置情報の扱いは通常、プライバシーポリシーに記載され、その内容に従って厳重に扱われます。
無差別に横流しして利益を得るようなことは(本当に悪質な企業や開発者でない限り)ありえません。
明確な根拠も示さずに「〇〇〇は怪しいアプリ」と語る前に、実際の開発者やIT企業ともちゃんと情報交換した方が良いと思います。
また、講演会で発言する際は必ず、「お父さんが〇〇〇に勤めている生徒さん」や「〇〇〇を開発・運営している保護者」が目の前に座っている可能性を念頭に置きながら、話していただきたいです。
そうでないと、生徒さんや保護者の方のプライドを大きく傷つけることになりかねません(実際、僕は氏の講演を聞いて、エンジニアとしてのプライドを傷つけられたように感じました)。
個人の偏見や好き嫌いをわざわざ講演に含めないでほしい
前述の問題点の中に、Gateboxを揶揄する話があったと書きましたが、他にもプログラミング教育に関する文脈の中で「プログラミングができる同級生」のことを「オタク」と呼んだりする場面もありました。
また、過去の講演の中にもアニメやオタクを否定するような発言があったみたいです。
日本橋つれてったらオタクきもいって言われるので現実見せてアニメ依存させない
篠原嘉一氏の講演を聞いてきた(情報モラルを考えている人に読んでほしい - 家庭内インフラ管理者の独り言(はなずきんの日記っぽいの)
なので、おそらく篠原氏はいわゆる「オタク的なもの」は好ましく思っていないんだろうな、と僕は推測しています(そもそもプログラミングをオタクっぽいと感じている点も納得がいきませんが)。
そう考えること自体は個人の自由なので別に構わないのですが、スマホやSNSのリスクを語る講演の中で、わざわざ「オタク的なもの」を攻撃する必要はないはずです。
がんばってプログラミングを勉強している生徒さんが、講演のあとに「オタク」と呼ばれていじめられたりするようなことは、絶対にあってはなりません。
ですので、講演のテーマを踏まえて、それはそれ、これはこれ、と話す内容をきっちり分別するべきだと僕は考えます。
誰かを傷つけてまで、面白おかしく話そうとする必要はありません。
質疑応答の時間を用意してほしい
僕が出席した講演会だけ、たまたまそうだったのかもしれませんが、今回の講演では質疑応答の時間がまったくなく、篠原氏は講演直後に急いで会場をあとにしてしまったのも非常に残念でした。
上で挙げたような問題点、疑問点について直接篠原氏に質問して、氏の真意を少しでも聞き出したかったのですが・・・。
今後は質疑応答の時間を確実に確保するようにしていただきたいです。
自社ホームページに所在地や連絡先を明記してほしい
篠原嘉一氏が代表を務める「NIT情報技術推進ネットワーク株式会社」のホームページには、所在地や電話番号、メールアドレスといった情報がどこにも明記されていません(2018年6月現在)。
ネット上のリスクやモラルを啓蒙する会社であるのにも関わらず、その会社自体はいったいどこにあるのか分からない、連絡先もわからない(ただし、講演依頼の申込みフォームだけは用意されている)というのは非常に不可解です。
もしかして、「スマホやSNSの利用時はみだりに位置情報を公開しない」という講演内容を、企業としても律儀に実践しているのでは?と無駄に勘ぐってしまいました。
(余談:まあ、所在地ぐらいは国税庁の法人番号検索ページで確認できるのですが・・・)
さて、ここまでは篠原氏の講演に関する問題点を議論してきました。
次に、今回の講演会に関する学校側の見解を少し紹介したいと思います。
【第2部】学校側の見解
この講演会が終わった後、僕は「来年以降も篠原氏の講演が行われて、生徒や保護者に誤った情報が伝わるのは困る」と思い、後日、中学校に連絡を入れて先生方(講演会を担当された先生と教頭先生)に話し合いの時間を設けてもらいました。
話し合いの中で、僕は先生方に対し、上に挙げたような氏の講演内容の問題点について、詳しく説明させてもらいました。
しかし、あれこれ講演内容の問題点を説明しても、僕の思いと先生方の受け止め方には少し温度差があるように感じました。
学校側の目的は、第一に生徒たちをネットのトラブルから守ること
僕が問題点を一通り説明したあと、先生方はこういった情報教育講演会の背景や目的を次のように説明してくれました。
- 講演会の主目的は生徒たちをネットのトラブルから守ることである
- また、生徒たちだけでなく、保護者も含めてネットやSNSの安全な使い方を周知したい
- しかし、学校側には専門的な知識がなく、勉強する時間もないため、外部の講師を招いて講演会を開いている(当然、講演内容の正しさも判断できない)
なるほど、この主張はもっともです。
少しでも効果があるなら、無意味な講演ではない?
そして、この主張を拡大解釈していくと、「講演内容に多少の問題点はあろうとも、ネットのトラブルを回避する効果が少しでも期待できるのなら、無意味な講演だったとは言えない」という、ややポジティブな評価に至ります。
そうなんです。氏の講演内容は1から10まで全部デタラメというわけではないので、「全く役に立たない」とまで言い切れないのが、今回の問題のもどかしいところです。
また、「誤った情報が一部に混在していたとしても、それで生徒や保護者がスマホやSNSの怖さを理解してくれたなら良しとする」という、「毒を以て毒を制す」的な解釈もできるかもしれません。
ただし、注意していただきたいのですが、実際に先生方が上のような発言をされたわけではありません。
これはあくまで先生たちとの会話の雰囲気を通じて汲み取った僕個人の解釈です。
こういう内容を書くと、僕と同じITエンジニアの方は憤りを覚えるかもしれませんが、先生方の立場に立つと必ずしも非難すべき話とは限らない気がします。
なぜなら、先生方の中では「正しい情報を伝えること」よりも「なんとかして生徒たちを守りたいという気持ち」の方が勝ってしまうからです。
むしろ、先生方とお話をしていると「内容がおかしいぞー」「情報源がないぞー」「ツールの利用目的が間違ってるぞー」というこちらの主張の方が、どちらかというと、ITエンジニア側の視点に寄りすぎているのかな、という気も少ししました。
(エンジニアは職業柄、物事の「正しさ」にこだわりすぎる傾向があるので・・・)
利害のズレがそのまま感情のズレにつながっている
このように考えていくと、「我々ITエンジニアがこれだけ怒っているのに、どこか涼しい顔をしている先生方はおかしい」と主張するのはちょっと筋違いかな、という気がします。
先生方と我々ITエンジニアの間で温度差が生じてしまうのは、お互いの利害(もしくは物事のプライオリティ)が微妙にズレているのが原因だと思います。
そしてそのズレが、そのままお互いの微妙な感情のズレにつながっているんだなと、僕は理解しました。
とはいえ、先生方もこちらの主張を突き放してきたわけではなく、対応自体はとても丁寧で、僕の話もしっかり聞いていただきました。
また、僕が説明した問題点についても「そんなにおかしな部分があったとは気づかなかった」と普通に驚いておられました。
ですので、決して先生方を敵視するつもりはありません。その点にはご注意ください。
とりあえず、「何か困ったことがあればお手伝いするので、いつでも気軽に声をかけてください」とお伝えして、この話し合いは終了しました。
先生たちとお話しさせてもらったことで、学校側の見解はある程度分かりましたが、かといってこのまま今回のような講演を毎年続けられるのは全く本意ではありません。
学校側も、ITエンジニア側も、生徒や保護者のみなさんも、そして講師の方も、みんな幸せ(win-win-win-win)になるような情報教育のあり方を模索する必要があります。
【第3部】ITエンジニアが子どもたちのためにできること
では最後に、これまでの内容をふまえ、我々ITエンジニアの立場から子どもたちのために何かできることはないかを考えて、この議論を締めくくろうと思います。
なお、ここでは篠原氏の講演だけを議論の対象にするのではなく、学校で開催される「情報教育講演会 全般」を議論の対象にします。
我々ITエンジニアができることは、大きく分けると以下の5つになるのではないかと思います。
- 積極的に学校の講演会に足を運んで、子どもと一緒に講演を聞く
- 講演内容について、自分の子どもと話し合う
- (必要に応じて)自分が話を聞きたいと思う講師を探して提案する
- エンジニア間で講演会の内容について情報交換する
- エンジニアが情報教育を提供する側に回る
それぞれについて、以下で説明していきます。
1. 積極的に学校の講演会に足を運んで、子どもと一緒に講演を聞く
このエントリを読んでいただいたエンジニアのみなさんはお分かりになったと思いますが、「情報教育の専門家」といっても講演内容は千差万別です。
自分のお子さんが学校でSNSやスマートフォンの扱い方や個人情報のリスクについてどんな教育を受けているのか、ぜひ、自ら足を運んで確認してみてください。
保護者が対象になっていない講演会でも、学校側に事情を話してお願いしたら出席させてもらえるかもしれません。
また、明らかに「なんか変だ」と思う内容があれば、その場で直接講師に質問してください(僕の場合は質疑応答の時間がなかったため、質問できずじまいでしたが)。
「きっとちゃんと教えてくれるだろう」と学校側に任せっきりにせず、自分の目と耳で講演内容を確かめましょう。
2. 講演内容について、自分の子どもと話し合う
講演が終わって家に帰ったら、お子さんと一緒にお互いの感想を述べ、講演内容やSNSの付き合い方について話し合ってみてください。
子どもの視点・大人の視点でそれぞれどう感じたのか、講演の内容は本当かどうか、他の見方はないか、といった観点で親子であらためて議論してみましょう。
ちなみに、僕も息子と篠原氏の講演内容についていろいろしゃべりました。
フライトレーダーが出てきたあたりは、息子から見ても「なんかおかしい」と違和感を覚えたそうです。
3. (必要に応じて)自分が話を聞きたいと思う講師を探して提案する
講演内容が適切なものであれば問題ありませんが、そうでなければ学校側にフィードバックを返してください。
単純に「あの講師はダメだから、次回から変えてくれ」と言うだけでは学校側も困りますし、また別のおかしな講師を連れてきてしまうかもしれません。
なので、できれば「この方をお呼びするのはどうですか?」と、講演内容に期待できそうな講師も一緒に提案したいところです。
【課題】
とはいえ、僕を含めて多くのITエンジニアは良い講師に関する情報を持っていません。
どうやって良い講師の情報を集めるのかが課題になります。
4. エンジニア間で講演会の内容について情報交換する
上の課題を解決するための一つの方法は、エンジニア間で講演会の内容について情報交換することです。
「あの講師の講演内容は評価できる」「この講師の方もオススメです」といった情報が集まれば、エンジニア側から学校側に良い講師を紹介しやすくなります。
【課題】
しかし、残念ながらこの点も現時点では理想論であり、「ここに行けばエンジニア同士で情報交換ができる」という明確な場所があるわけではありません。
ただ、最初はFacebookグループを作ってその中で情報交換する、とかでもいいのかもしれません。
5. エンジニアが情報教育を提供する側に回る
ここまでは「他の講師に頼む」という前提で議論してきましたが、我々エンジニアが講師になったり、教材を作ったりする側に回る、という案も考えられなくはありません。
「文句を言うなら、お前がやれ」を自ら買って出るということも、やろうと思えばできるはずです。
【課題】
とは言うものの、この案は実際にやろうとするとかなりハードルが高いと思います。
本業が別にあるエンジニアが講演の準備をするのは大変でしょうし、あっちこっちの学校に移動して講演するのも難しいと思います。
講演内容も責任を持って考える必要があるので、IT系勉強会でLT(ライトニングトーク、5分程度の軽いスピーチ)をするのとはわけが違います。
とはいえ、人に任せられないのなら、自分でなんとかしたい、という気持ちも個人的には少しあります。
2019.7.29追記:僕自身が講演してきました
この講演の翌年に、中学校から僕宛てに講演の依頼があったので、僕自身が同じ中学校で講演してきました。
このときの様子は以下のエントリにまとめているので、興味がある方はこちらもご覧ください。
(追記ここまで)
さて、ここから後のセクションでは参考情報として、情報教育に関するオススメ書籍や、情報教育の講師に関する情報源を紹介し、それから最後のまとめに入ります。
参考1:情報教育に関するオススメ書籍
このエントリを書いている最中に、「11歳からの正しく怖がるインターネット」という本があることを知り、早速買って読んでみました。
この本は非常に良かったです!
ITエンジニア視点で見ても適切な知識が説明されていましたし、それだけでなく、SNSとの付き合い方について僕が普段思っていることもほぼ網羅されていました。
たとえば、「スマホやSNSの怖さは、包丁や自動車の怖さと変わらない(怖い部分もあるけど、必要な道具だからそれを理解した上で使うだけ)」という話は、まさに僕が普段思っていたことそのものです。
また、篠原氏の講演ではほとんど触れられなかった、「そのリスクはどれくらいの確率で起きるのか」という点や、「その問題が実際に起きてしまった場合は、どう対処すればいいのか」といった点についても言及されています。
対象読者は学校の先生や保護者の方、そして中学生の生徒さんなど、ITの専門家ではない普通の人たちですので、特別な予備知識はいりません。
文章が平易で親しみやすい点も、本書の良いところです。
生徒や自分の子どもにSNSやネットの付き合い方についてどう教えればいいか、そして自分自身もどうすればいいのか困っている方は必読の一冊です。
11歳からの正しく怖がるインターネット: 大人もネットで失敗しなくなる本
- 作者:小木曽 健
- 出版社/メーカー: 晶文社
- 発売日: 2017/02/18
- メディア: 単行本
参考2:情報教育の講師に関する情報源
ITエンジニア視点で情報教育の善し悪しをまとめてくださっている方は残念ながらほとんど知らないのですが、現時点で唯一頼りにできるのが「子供とネットを考える会」というコミュニティを運営されているはなずきんさん(@hanazukin)です。
ちなみに、はなずきんさんも僕と同じように、篠原嘉一氏の講演内容をブログに公開されています(みなさんにはぜひ、こちらのブログもご覧いただきたいです)。
たとえば、はなずきんさんが執筆された以下の記事は、情報教育の講師を探す際の良い参考情報になると思います。
実はこのエントリを執筆する前に、はなずきんさんとやりとりさせてもらい、「兵庫県内であれば」と、以下のような団体をオススメしてもらいました。
みなさんも関西近辺で講師を探される場合は、こういった団体や取り組みをチェックしてみると良いかもしれません。
兵庫県サイバー犯罪防犯センター「サイバー犯罪被害防止教室」
脅しすぎず、正確な情報で正しいサイバー防犯知識を伝えてくれる取り組みだそうです。学校であれば費用も無料とのことです。
ひょうご教弘「情報モラルセキュリティ研修会」
京都府警ネット安心アドバイザーも兼任されている講師の方が、兵庫県下の小中高を対象に情報モラル・セキュリティの話題を無料で講演してくださるそうです。
申し込む場合は下記ページの「情報モラルセキュリティ研修会」申込書を使ってください(募集は年1回だそうです)。
http://www.kyoko-hyogo.or.jp/download/
ソーシャルメディア研究会
兵庫県立大学の竹内和雄氏が中心になって立ち上げられた、「ネット問題等を入り口に、スマホ時代の子どもたちへの支援方策を探る研究会」だそうです。
下記ページに講演申込用紙があります。
http://sma2.jp/
GREE 啓発講演
先ほど紹介した「11歳からの正しく怖がるインターネット」の著者である、小木曽健氏による出張講演です。
謝礼や交通費なしで全国に出張してくださるそうです(すごい!)。
下記の案内ページでは無料の啓発動画を視聴することもできます。
https://corp.gree.net/jp/ja/csr/statement/internet-society/educational-activity/seminar/
子供とネットを考える会 山口あゆみ氏
講師の情報を提供してくれたはなずきんさんご自身も、本名の「山口あゆみ」名義で講演活動をされています。
情報教育の方向性では僕と考え方が一致しているので、間違いなく信頼できる講演をしてくださるはずです。
一般財団法人インターネット協会 竹内義博氏
これははなずきんさんの情報ではなく、僕が提供できる唯一の情報です。
2年ほど前、息子が小学生だった頃に、小学校でも同じような情報教育講演会がありました。
このときに講演されていたのが、一般財団法人インターネット協会の竹内義博氏です(そしてこの方も京都府警ネット安心アドバイザーだそうです)。
竹内氏の講演はエンジニア視点でもほとんど違和感を感じることもなく、むしろ「わかりやすくていいお話をされているなあ」という感想を持ちました。
・・・と、こんなふうにITエンジニア視点で「この講師は良かったよ」という情報が共有されると、僕も安心できます。
こういった情報を日本各地で展開していけたらいいのになあ、と思います。
参考3:啓発教材自己チェックリスト
(2018.6.4 18:30追記)
はなずきんさんからの情報で、安心ネットづくり促進協議会によって作成された「啓発教材自己チェックリスト」というチェックリストがあることを教えてもらいました。
このチェックリストには、
- 取り上げるリスクに関して、適切かつ具体的な解決策を導き出せる内容になっているか。
- 提供する情報の真正性が維持されているか。
- 提供する情報の出典元が明らかになっているか。
- 提供する情報が特定の事業者・団体やサービスについての宣伝や中傷になっていないか。
- ネットの利活用を妨げる内容となっていないか。
といったチェック項目(全11項目)が定義されています。
将来もし、みなさんが情報教育の講演をするときが来たら、このチェックリストをぜひ活用してください。
教材チェックシートの作成と公開について | もっとグッドネット - 安心ネットづくり促進協議会
(追記ここまで)
まとめ
この長いエントリを最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。
本エントリの締めくくりとしてあらためて、冒頭で挙げた各方面の方々にお願いしたいことをまとめておきます。
- 学校の先生方
- 派手なパフォーマンスをしたり、無用に生徒たちを怖がらせたりする講師ではなく、「正当に怖がらせる」講師を選んでください(そして、学校としても講師に対し、「生徒たちをむやみやたらに怖がらせること」を依頼しないようにしてください)。
- IT関係に明るくない保護者の方や生徒さんたち
- SNSやスマートフォンの付き合い方について、終始脅迫めいた内容を話し続ける講師がいたら、デマや誇張が含まれる可能性を疑ってください。
- IT企業に勤めるエンジニアのみなさん(特にお子さんがいる方)
- 第3部に書いた通りです。学校任せにせず、まずは自ら直接、講演を聞きに行ってみてください。
- 篠原氏ご本人(および情報教育に関わる方々)
- 第1部に書いた通りです。派手なパフォーマンスや根拠に乏しい憶測や極言で、無用に生徒を怖がらせることは慎んでください。
このエントリをきっかけに情報教育の善し悪しに関する議論が進み、子どもたちが安全に、そして不必要に怖がることなく、SNSやスマートフォンを扱える社会になることを強く願います。
謝辞
本エントリを公開する前に、内容のレビューや講師に関する情報源について、情報セキュリティや情報教育に詳しい、はなずきんさん(@hanazukin)とohesotoriさん(@ohesotori)のお二人にご協力いただきました。どうもありがとうございました。
参考文献
本エントリを執筆するにあたり、以下の記事と書籍を参考にさせてもらいました。