あいむあらいぶ

東京の中堅Sierを退職して1年。美術展と映画にがっつりはまり、丸一日かけて長文書くのが日課になってます・・・

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【日本画ファン必見】藝大コレクション 2019・第2期展示の見どころを一挙紹介!【展覧会レビュー・感想・解説】

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かるび(@karub_imalive)です。

東京藝術大学大学美術館で開催中の「藝大コレクション展2019」に行ってきました。これまでも開催されたら必ず足を運ぶようにしていたのですが、今回はなんと、東京藝術大学の熊澤先生のご厚意で、なんと厚かましくも第1期・第2期とも、個別に取材させていただくことができました!

そこで、本レポートでは、展覧会後半となる【第2期】の展示内容についてレポートしてみたいと思います。明治~昭和にかけて活躍した日本画家たちの珠玉の作品群が味わえる、素晴らしい展示内容となっていました!

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【緊急まとめ】3分でわかる「トルコ至宝展」の3つの注目点!

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かるび(@karub_imalive)です。

国立新美術館で開催中の「トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美」も気がつけば会期終了の5月20日まであと1週間足らずとなりました。

本展は、2007年に開催された「トプカプ宮殿の至宝展」以来、約12年ぶりに開催された「オスマン・トルコ」時代の美術品を特集した展覧会です。展示された約170件の作品はほぼ全点が初来日作品となっており、僕も会期終了前にもう一度しっかり観てこようと思っています。

そこで、今回はまだ観ていない方のために、ポイントを3つに絞って「3分でわかる3つの注目点」をまとめてみました。

注目点1:やりすぎ?!贅を尽くした宝飾類の超絶技巧!

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「儀式用宝飾水筒」オスマン帝国、16世紀後半

本展の最大の見どころは、数百年にわたって繁栄した、オスマン・トルコの王様(スルタン)が造らせた、贅を尽くした王侯貴族の宝飾品や財宝です。まるでRPGゲームやマンガ、アニメのように、現代の我々が「金銀財宝」を想像した時に思い浮かべるようなキラキラの財宝が、まるで宝箱を開けてそのまま持ってきたかのような感じで展示されているのです。まさに圧倒的な美しさ。

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「ターバン飾り」オスマン帝国(インド様式の影響が見られる)、17世紀

巨大なエメラルド、ルビー、水晶、真珠などが嵌め込まれた儀礼用装飾品や、柄の部分が丸々エメラルドで造られた短剣など、呆れるくらい贅沢できらびやかな宝飾類を見ていると、かつて栄華を極めたオスマン・トルコ帝国の繁栄を否が応でも感じざるを得ません。

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「宝飾つるし飾り」オスマン帝国、18世紀末~19世紀初頭

深い鑑賞知識は一切不用で、誰が見てもわかりやすく美しい展示です。まずはこれらを思いっきり楽しんでみて下さいね。

また、ちょっと余裕があれば、単眼鏡を持っていって当時の名もなき一流の職人達が細部にわたるまで徹底的にこだわり抜いて作り上げた超絶技巧ぶりを確認するのも面白いですね。

注目点2:布系の展示はとにかく「チューリップ」を探せ!

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「クッション・カバー」オスマン帝国、17世紀(両方とも)

でも、今回はわかりやすいほどにきらびやかな金銀財宝類は意外と多くない印象。そのかわり、スルタンを始め王族メンバーが着用していた絹織物などの服飾類や靴、カバン、小物入れ、絨毯、テントといった「布系」素材の展示が多めになっています。

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ちゃんと靴にもチューリップの文様が入っています
「長靴」オスマン帝国、16世紀後半

入り口近辺に展示されている金銀財宝類に比べると、若干地味かな??と一瞬思ってしまうのですが、そこでガッカリしてはいけません!

なぜ、敢えて一見地味めに思えるけれど、「布系」の展示が多いのか?それには、本展のテーマと深く関わる理由があるのです。

試しに、本展の英題を見てみてみましょう。「The Treasures and the Tradition of "Lâle” in the Ottoman Empire」となっていますよね。この中で注目したい単語は「Lâle(ラーレ)」、トルコ語で「チューリップ」という意味です。つまり、本展で主催者が鑑賞者に提案しているのは、数世紀にわたるオスマン・トルコが育んできた文化を「チューリップ」で読み解いてみませんか、ということなんですね。

そこで、本展ではぜひそういった一見地味に見える「布系」の展示物の中に散りばめられた、共通するモチーフ「チューリップ」を見てほしいのです。すると、展示アイテムの至るところにオスマン・トルコの国花ともいうべき「チューリップ」が文様やレリーフとして装飾に使われていることに気づかされるでしょう。

その出現頻度はまさに異常なほどです。日本人は「サクラ」が大好きですが、ここまで日用品にサクラづくしにすることはありませんよね。展示を見ていくと、トルコに生きる人々にとって、どれほどチューリップが大切な存在であるのかよくわかります。

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「チューリップ用花瓶(ラーレ・ダーン)」オスマン帝国、18~19世紀

これはちょっと文献やネットで調べてみるとわかるのですが、チューリップの発祥や原産地の一つが、現在のトルコ領土となっているアナトリア半島だと言われているのですね。

世界史の授業では、17世紀にオランダでチューリップ・バブルが起こり、その後もチューリップの一大産地として栄えたとしか教わりませんよね。だから、ついついオランダがチューリップ発祥の地だと思ってしまいがちです。僕もそうでした。

でも、そうではないのです。あくまで、オランダ人はトプカプ宮殿に美しく咲き誇っていた美しいチューリップを見て、これをヨーロッパに最初に持ち帰ったにすぎないのですね。

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「タイル」オスマン帝国・イズニク、16世紀後半~18世紀前半

とにかく、彼ら王族が身にまとった服飾品や、香炉、陶磁器などの日用品のデザインや柄をよーくチェックしてみて下さい。ほぼ全てのアイテムのどこかしらに「チューリップ」が配置されています。ちょっとした宝探し感覚で見ていくと、断然展示を見るのが面白くなってきますよ!

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梯子みたいなものにまで、ちゃんとチューリップ文様が入っています!
左:「梯子」オスマン帝国、19世紀
右:「サイド・テーブル」オスマン帝国、19世紀

注目点3:東西文化の要衝として栄えたイスタンブル

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会場内解説パネルより、トプカプ宮殿の当時の情景

トプカプ宮殿があったイスタンブルは、紀元前7世紀に「ビュザンティオン」としてギリシャの衛星都市として建設され、その後ローマ時代の「コンスタンティノープル」時代を経て、現在までずっと東西文化の要衝地として栄え続けています。

その特殊な地理的条件を反映して、オスマン・トルコ時代に歴代のスルタン達が収集した美術品も、東西文化それぞれの影響を受けたものがズラリ。ヨーロッパ文化の影響が色濃く反映された工芸品や絵画もあれば、中国・日本から輸入した陶磁器なども展示されています。まさに文化のるつぼ。様々な文化の影響を受けて形成されていったトルコ文化の面白さがたっぷり感じられますよ。

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ヨーロッパ風の七宝と鋼鉄製の細密工芸の傑作!
「香炉」オスマン帝国、19世紀

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歴代スルタンは、特に中国の陶磁器をこよなく愛したという・・・
左:「バラ水入れ」中国・清代、1700-25年/中:「急須」中国・清代、1700-25年/右
:「染付水差し」中国・明-清代、17世紀中期

展示最終コーナーでは、19世紀に日本とオスマン・トルコが交流した際、交流を記念して互いに贈りあった当時の美術品も展示されています。日本へ里帰りした江戸~明治時代に制作された花瓶や七宝、飾り棚や机なども展示されていました。

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日本からの輸入品にも、「チューリップ」がちゃんと描かれています!
左:「染付瓢箪型瓶」 瓶:日本・有田、1655-70年 銀製蓋:オスマン帝国、17世紀
中:「染付瓶」 瓶:日本・有田、1660-80年 銀製蓋:オスマン帝国、19世紀(?)
右:「染付カラック(芙蓉手)皿」 日本・有田、1670-1700年

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左:鏡(鏡枠)日本・明治時代 トルコ国立宮殿局コレクション
右:段違い飾り棚 日本・明治時代 トルコ国立宮殿局コレクション

もちろん、超一流の作品!・・・というわけではないのですが、こうした日本からの贈り物が今もトプカプ宮殿博物館で大切にされているのだと思うと、少し感慨深いですよね。

まとめ

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左:「備えつけ時計」ドイツ、18世紀末
右:「暖炉時計」フランス、1780~90年

近年、トルコにおける文化財保護についての法律が強化された影響で、以前に比べて文化財を国外に持ち出すのが難しくなっているそうです。そのため、2007年以来本当に久々の「トルコ展」となった本展。

東西文化の要衝として古来から栄えたトルコならではの、エキゾチックな香りのする美術品の数々は必見です。東京展は会期終了まであと1週間となりました。ぜひお見逃しなく!

それではまた。
かるび

※本エントリで使用した写真は、予め主催者の許可を得て撮影したものです。

展覧会情報

展覧会名:「トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美」
会場:国立新美術館 企画展示室2E
会期:2019年3月20日(水)~5月20日(月)
公式サイト:https://turkey2019.exhn.jp/

山種美術館「花・Flower・華ー四季を彩るー」展覧会レポート:めいこいとの初コラボが予想外の盛り上がり!【感想・解説】

かるび(@karub_imalive)です。

日本画の展覧会って、美術鑑賞を始めたばっかりの人にとっては、どうしてもどこかとっつきにくい感じのイメージがありますよね。ほぼ白黒の画面に、難しそうな中国語がばばーっと書かれていて、山の中で老人たちがダラダラしているような感じの絵が頭に思い浮かんでしまって「なんかよくわからないや」って感じてしまう人も多いかも知れません。

しかし、日本画の中にも、印象派の絵のように、直感的に心の赴くままにゆったり見て楽しめるジャンルがあります。それが、「花」をテーマに描かれた作品群です。

4月6日から山種美術館ではじまった特別展「花・Flower・華ー四季を彩るー」は、タイトルの通り、春夏秋冬のそれぞれの季節の花が描かれた作品を大特集した展覧会。詳しい予備知識や描いた画家のことを知らなくても十分楽しめる、非常に敷居の低い展覧会でもあります。

すでに始まってから2回観てきたのですが、内覧会取材時に撮らせていただいた写真を中心に、みどころを紹介してみたいと思います!

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。

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【レポート】抱腹絶倒のトークショー『杉全美帆子×青い日記帳:旧約聖書がわかると、絵画鑑賞が俄然楽しくなる!』【感想レビュー】

かるび(@karub_imalive)です。

西洋美術の展覧会に行くと、いつもなんとなくモヤーっとするのが、聖書や神話のいち場面を描いたとされるシーンの解釈です。キャプションを見て、「ふむふむなるほど」と一端は納得はするものの、再び顔を上げて絵画を見直してみると、なんとなく没入しきれず、消化不良な感じが残った経験ってないでしょうか?

特に、その中でも最難関なのが「旧約聖書」の世界です。同書は、キリスト生誕以前の、神とイスラエルの民の間で紡がれたストーリーで、ローカルな地域史が描かれているのですが、歴代の巨匠たちによって非常に多くのシーンが描かれてきました。しかし、よほど世界史を熱心に学んでいる人は別として、古代のイスラエル人の歴史は日本人に縁遠い世界の話です。たとえば、西洋絵画を見始めた初心者のうちは、「ダヴィデとゴリアテ」とか「ユディト」とか言われてもサッパリ感情移入できないですよね?!

しかし、そんな「旧約聖書」アレルギーを断ち切る時がやってきました!

その決定版となる初心者向けの入門書が、今回紹介させて頂く杉全美帆子(すぎまたみほこ)さんの6冊目となる新著「イラストで読む旧約聖書の物語と絵画」です。

実は今回、その新著「イラストで読む旧約聖書の物語と絵画」の出版を記念して、3月21日に東京・下北沢の本屋B&Bにて、記念トークイベント『杉全美帆子×青い日記帳 「旧約聖書がわかると、絵画鑑賞が俄然楽しくなる!」』が開催されたので、参加させて頂きました。書籍同様、非常に内容も面白く、あっという間の90分でした。

非常に面白いトークイベントでしたので、当日の会場の様子も含め、イベント内容を簡単にレポートしてみたいと思います!

※会場内は主催者の許可を得て撮影しています。

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巨匠のレア作品をかぶりつきで!加島美術「バック・トゥ・ザ・江戸絵画」が日本美術ファンにオススメ!

かるび(@karub_imalive)です。

日本美術の展覧会ってなんとなく地味で難しそうなタイトルが多いですよね。偉い先生が監修して、関係者の利害調整をこなしながら作品を集めたり、ターゲットとなる観覧者の客層を考えたりすることを考えると、地味なタイトルに落ち着いてしまうのも仕方がないのかもしれません。

しかし、そんな旧態依然とした日本美術界に風穴を開けるような面白いタイトルの展覧会が東京・京橋の画廊「加島美術」で始まりました。題して「バック・トゥ・ザ江戸絵画」

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チラシのデザインも含め、明らかに例のハリウッド映画からパク・・いや、オマージュとしてコンセプトを借りてきているのですが、考え抜かれた展示空間の演出も含めて、お客さんに少しでも画廊に入ってもらう敷居を下げようと努力されている姿勢、いつもながら素晴らしいなと思いました。

もちろん、集客に向けた斬新な取り組みだけでなく、展示作品の内容も充実。現在、東京都美術館でも盛り上がっている「奇想の系譜展」でも特集されている伊藤若冲、長沢芦雪、白隠慧鶴ら「奇想系絵師」を中心に、まだ【美術館には入っていない】巨匠たちの優れた作品を見ることができます。

素晴らしい展覧会だったので、撮影NGだったのですがその場で広報の方にお願いして、取材許可を頂いて展覧会の雰囲気をカメラに収めてまいりました!さっそく雰囲気をご紹介したいと思います。

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代表作続々!奥村土牛展は傑作・名作が目白押しの特別展でした!【展覧会レポート・感想】

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かるび(@karub_imalive)です。

2019年は、広尾の丘の上に美術館が移転してちょうど10周年。山種美術館では、これを記念して年間を通じて「広尾開館10周年記念特別展」が開催されます。

その第一弾として開催されているのが、戦前~平成にかけて日本画壇で息の長い活躍をした巨匠・奥村土牛の画業を総覧できる「奥村土牛展」です。早速行ってきましたので、詳細なレポートをまとめました。

※なお、本エントリで使用した写真・画像は、予め主催者の許可を得て撮影・使用させていただいたものとなります。何卒ご了承下さい。また、文中で紹介させて頂いている作品は、すべて山種美術館の所蔵作品です。

  • 1.なぜ山種美術館での「奥村土牛展」が見逃せないのか?
    • 理由1:山種美術館は、奥村土牛の作品を135作品も所蔵している!
    • 理由2:勝負作である「院展」出品作品が35点も一挙展示されている
  • 2.奥村土牛とは?
  • 3.展覧会での6つのオススメ鑑賞ポイントとは?
    • 鑑賞ポイント1:定番の人気作品はほぼ全て登場!
    • 鑑賞ポイント2:色とかたちで対象の「本質」を捉えるまなざし
    • 鑑賞ポイント3:動物たちがあざといくらいにかわいい!
    • 鑑賞ポイント4:写実的に描かれたリアルな植物 
    • 鑑賞ポイント5:下絵と実物を比べる楽しみ
    • 鑑賞ポイント6:キャリア中期~晩年にかけて変化していく作風
  • 4.その他非常に良かった作品をピックアップ!
    • 白と灰色で表現された「雨」に注目したい《雨趣》
    • 精緻に描かれた枇杷とコケシのような少女の対比が面白い《枇杷と少女》
    • 身近なモチーフを写生に基づき描いた《花》
    • 入り口最初に掛けられた一番人気の《醍醐》
  • 5.春を先取りできる華やかなグッズも注目
  • 6.混雑状況と所要時間目安
  • 7.まとめ
  • 展覧会開催情報
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人気美術史家の鋭い審美眼!美術読み物「未来の国宝 MY国宝」【美術書レビュー】

かるび(@karub_imalive)です。

2017年9月~2018年9月にかけて、小学館から「週刊ニッポンの国宝100」という「国宝」をテーマとした分冊百科雑誌が発売されていました。2018年現在、日本国内には約1115件弱の「国宝」指定を受けている文化財がありますが、その中から週に2つずつ、50週の配本で合計100の国宝をビジュアル満載で紹介する分冊雑誌でした。 

「週刊ニッポンの国宝100」では、初心者でもわかるよう様々な角度から非常に優しく「国宝」について解説されていました。普段、分冊雑誌は買うのが面倒で数冊で投げてしまう僕に、50冊全て発売日に通読し、その後発売された3冊の総集編まで熟読させるなど、本当に素晴らしい内容でした。

その「週刊ニッポンの国宝100」には、毎回楽しみにしていた巻末のコラムがありました。それが、明治学院大学教授・山下裕二氏による「未来の国宝 MY国宝」というタイトルの連載です。

すでに分冊雑誌の配本中から、この連載がまとめられて1冊の単行本として出版される旨が予告されていたので楽しみにしていたのですが、2019年2月、予告どおり発売されました。早速入手して改めて通読してみたのですが、やはり山下先生の美術書は面白いです!

せっかくなので、読んでみた感想を簡単にブログにまとめておきたいと思います。

 「未来の国宝 MY国宝」とはどんな本なの?

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冒頭でも書きましたが、2019年2月現在、日本中に数多くある文化財の中で、最高峰のクオリティと認められ、「国宝」指定された作品はわずかに1115件しかありません。

文化財保護法第27条によると、

文部科学大臣は、重要文化財のうち世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるものを国宝に指定することができる。

と定められています。

文化庁の文化審議会において、有識者達による毎月定例の会議を経て国宝に指定されている文化財は毎年少しずつ増えてはいますが、本来は「国宝」に指定されてもおかしくないくらいの潜在的な価値を持つ文化財はまだまだ沢山残っています。

そこで、この「週刊ニッポンの国宝100」では、日本美術史界におけるキーマンであり、かつエッセイや読み物の筆も立つ山下裕二氏が、

・将来の国宝候補となる作品(未来の国宝)
・個人的に国宝にしたい作品(MY国宝)

という2つの観点から50作品を選定。縄文土器から現代アートまで、絵画、彫刻、漆工など様々なカテゴリから毎回1作品ずつ取り上げて、作品の魅力やなぜこれが「国宝」であるべきなのか(あるいは国宝にしたいのか)、それぞれの作品に対する思い入れたっぷりにわかりやすく解説してくれました。それが、「週刊ニッポンの国宝100」での連載「未来の国宝 MY国宝」のコラム内容でした。

なぜ「未来の国宝 MY国宝」はオススメなのか?

プロの「鑑賞眼」で見た、本当に価値ある文化財が選定されている

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山下裕二氏は、まだ美術史学生だった時から「とにかく作品を見る」ということを最優先に取り組んできました。それ以降約40年間もの間、日課のように展覧会やギャラリーを回り、時には国外を含めた遠方への遠征もまったく厭わない一方、美術に関する高額でレアな資料や画集・図録類をちゅうちょせず購入するなど、日々の研鑽を通じて鑑賞スキルを磨いてきた方です。

そんなプロ中のプロが、将来の国宝候補として選びぬいた傑作がまとめて50作品、解説付きで誌上にて鑑賞できるのですから、非常に価値があるわけです。少なくとも、山下氏が40年かけて磨いてきた独自の「審美眼」を学ぶことができるのは、自分にとっては非常に価値のあることでした。

ストーリーテラーとしても優秀な山下裕二氏。読み応え抜群のコラム集!

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山下氏は講演などでも、ユーモアや裏話なども交えた軽妙なトークが本当に面白くためになる一方、ライターとしても非常に「読ませる」一流の書き手なのです。ちゃんと素人である我々一般の美術ファンが読んでも楽しめるように、わかりやすく噛み砕いて解説してくれているんですよね。

本作でもその「読みやすさ」は健在。

しかも「MY国宝」を語る時、ご自身の昔の経験談やエピソードを交えてしみじみ語る語り口が味わい深くてよいのです。また、時には美術界を取り巻く諸問題に対してウィットの効いた批判精神が披露されているのも、「山下節」の面白さの一つかもしれません。

では、実際にどのような作品が取り上げられているのでしょうか?本書に網羅された作品を、6つのタイプ別に分けて紹介してみたいと思います。

選定されている作品をコンセプト別に紹介!

タイプ1:埋もれた作家・忘れ去られた作品

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狩野一信《五百羅漢図》のページ

日本美術では、現役時代は実力が認められ第一線で活躍していたものの、亡くなってから時間が経過するとともに忘れ去られ、埋もれていった作家がまだまだ山程います。山下氏は、それまでほとんど注目されてこなかった作家に注目し、展覧会なども企画・監修を務められるなど、日本美術史における「埋もれたアーティストたち」の復権に大いに貢献しています。そして、「未来の国宝、MY国宝」でも何人かの「埋もれてしまったけれど、実力ある作家の代表作品」を取り上げ、熱く「MY国宝」として紹介されています。

タイプ2:現在進行形で名品が出てきている分野

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縄文土器について熱く語ったページ

ここ数年、発掘の進展や分析技術の進歩によって、縄文時代~古墳時代にかけての、日本古代での「考古学」分野についての研究が非常に進んできています。実際、縄文時代に関しては、「国宝」指定が相次いではじまったのも21世紀に入ってからのこと。

2018年の夏に東京国立博物館で開催された「縄文展」では面白い造形をした土偶や芸術センスあふれる縄文土器が多数出展されていましたが、山下氏もこの「縄文時代」に積極的に注目。いくつかの「深鉢形土器」を6つ目の「国宝候補」としてピックアップしています。

タイプ3:海外に流出してしまった国宝級の作品

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惜しくも海外流出した狩野山雪の”奇怪な”梅の絵《老梅図襖》

明治維新後、廃仏毀釈運動や西洋文化の流入によって、浮世絵や日本画などの美術作品はずいぶんと海外向けに売り立てられ、国外へと流出してしまいました。有力なコレクターが所蔵していたり、美術館に収蔵されたりと、海外へと持ち出された美術品の大半は現地で大切にされているようですが、でも肝心の日本で簡単に観られないのは惜しいですよね。

山下氏も日々の研究過程でずいぶん欧米のコレクターや美術館を回って流出した美術品の検証作業を行ってきていますが、本書でもその中から特に思い入れがあり、クオリティの高い作品がいくつかピックアップされています。もし万が一日本に戻ってくることがあれば、その時は「国宝」指定されるのかもしれないと思うとちょっとロマンがありますよね。

タイプ4:「新しい」という理由で国宝化されていない明治期の作品

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美術展などで国宝作品を意識的に見ていくようになると気づくのが、国宝に選定されている作品の選定基準の一つとして「古さ」が重要な指標になっているのではないかということです。例えば、絵画部門で見てみると、一番新しい国宝は、幕末に渡辺崋山の描いた自画像です。その後に制作された明治時代、大正時代の作品については「重要文化財」止まりであって、1件も国宝指定されていないのですね。

山下氏は、まさにこういった明治時代以降の画期的な作品を多数取り上げ、そろそろ国宝にしてみてはどうですか、と提案しているのです。

タイプ5:宮内庁が管理する「国宝制度」の埒外の作品

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伊藤若冲《動植綵絵》は三の丸尚蔵館が所蔵する作品

先日、宮内庁の所蔵品を管理する皇居内の「三の丸尚蔵館」で開催された明治工芸を特集する展覧会を見てきたのですが、展示作品はどれも最高峰のクオリティで目を見張るものがありました。しかし皇室の「御物」や、三の丸尚蔵館や正倉院、桂離宮、修学院離宮といった宮内庁が管理する建物や作品に関しては、現在の「文化財保護法」で定められた国宝制度の適用範囲外なのです。(厳密な規定はないけれど、戦前からの暗黙の不文律となっている)

その代表格が、今や日本美術の代表格として海外に紹介されることも増えた伊藤若冲の最高傑作「動植綵絵」シリーズです。画家修業を終え、本格的にオリジナリティを確立した若冲が、約10年かけて制作したとてつもない作品です。これこそまさに堂々と「国宝」と呼びたいものですよね。

連載時、山下氏がいつ「動植綵絵」を取り上げてくれるのかな~と思って楽しみにしていたのですが、やはりしっかり言及してくれたのでした。

タイプ6:山下氏の思い入れ1:奇想の系譜に連なる作家たち

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2016年末の回顧展で人気爆発!鈴木其一の代表作《夏秋渓流図屏風》

コラムのタイトルが「未来の国宝 MY国宝」とあるように、山下氏の特にお気に入りの作品も多数「MY国宝」としてコラム内で取り上げられました。ただし、40年以上にわたる研究歴の中で、作品を見続けてきた山下氏の確かな目が選んだ「MY国宝」なので、そのクオリティは折り紙付き。

そんな山下氏が特に思い入れが強いと見られるのが、山下氏の師・辻惟雄氏が激賞する「奇想の系譜」に連なる江戸時代の個性派絵師たちです。1970年に発売され、50年以上読みつがれてきた美術書のレジェンド「奇想の系譜」で取り上げられる前は、彼ら奇想絵師たちはみな、完全に歴史の谷間に埋もれていました。しかし、辻氏の粘り強い啓蒙活動や、それに続く山下氏の著述活動の中で取り上げられたことによって、現在の隆盛があるわけですね。

本書では、この江戸絵画の「奇想の絵師」が手がけた作品が全部で実に10作品(コラム含)も取り上げられています。(※伊藤若冲、長沢蘆雪、曽我蕭白、鈴木其一が各1作品ずつ、岩佐又兵衛、白隠慧鶴、狩野山雪が2作品ずつ)

タイプ7:山下氏の思い入れ2:現代美術の作家たち

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「琳派」作品から本歌取りした日本美術のDNAを引く作品。会田誠《紐育空爆之図》

日本美術に深い造詣がある山下氏ですが、日本人の現代作家たちにも目線が行き届いています。2017年~2019年にかけて国内を巡回中の「ドラえもん展」でもキュレーションを担当されるなど、優れた現代アーティストの発掘にも余念がありません。本書で山下氏が取り上げた現代作家たちは、特に「未来の国宝・・・」というより「MY国宝」という側面が強く、古美術作品に比べると書き方がより「主観的」で、作品への惚れ込み方がよりわかりやすく反映されています。

将来、本当に「国宝」に格上げされるかも?!

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連載初回に掲載されたところ、2018年に見事国宝へと格上げされた《日月山水図屏風》

「未来の国宝 MY国宝」で山下氏が選んだ作品は、いずれも何らかの理由によって国宝に選定されていない名品ばかり。しかし、第1回の連載で取り上げられた江戸時代のデザインセンス溢れる名品「日月山水図屏風」が、2018年4月に実際に「国宝」指定を受けるというちょっとしたサプライズが。改めて、山下氏の選球眼の鋭さを証明する形になりました。

冒頭でも書きましたが、本書は特に「国宝」というキーワードにとらわれず、本当に優れた作品を日本美術の中から見つけ出すための「目」を養うために非常に役に立ちます。それぞれのコラムでは、山下氏がなぜその作品を「未来の国宝」または「MY国宝」に選んだのか、わかりやすく解説してくれています。

ぜひ、美術鑑賞の「目」を一歩深めるためにも同書を活用してみてください。もちろん僕もこの機会にしっかり読み直して、実際に美術館・博物館へと作品に会いに行きたいと思います!

それではまた。
かるび

関連情報

「未来の国宝 MY国宝」

「リアル書店で置いてない!」という声もちらほら聞こえてきますが、そういう場合はネット通販が頼もしい味方です。Amazon、楽天から購入できますので、こちらからぜひどうぞ。

奇想の系譜展で山下氏のキュレーションがたっぷり楽しめる!

山下裕二氏といえば、2019年2月9日~4月7日で東京都美術館で開催されている「奇想の系譜展」を監修しています。本書で「未来の国宝」として取り上げられた作品も、以下の5作品が出展されています。

・白隠《達磨像》
・曽我蕭白《群仙図屏風》
・岩佐又兵衛《山中常盤物語絵巻》
・鈴木其一《夏秋渓流図屏風》
・岩佐又兵衛《洛中洛外図屏風・舟木本》(コラム)

僕も寄稿先の和樂Webマガジン「INTOJAPAN」でレビュー記事を書きました!もしよければこちらもチェックしてみてください!

ムンク展の裏話や鑑賞のポイントが満載だった!銀座蔦屋のトークイベント「銀座美術夜話会」参加レポート

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かるび(@karub_imalive)です。

蔦屋銀座のアート書籍コーナーの一角で行われているトークイベント【銀座美術夜話会―第14話「ムンク展ー共鳴する魂の叫び」開催×『いちばんやさしい美術鑑賞』刊行記念 ムンク展でひらく美術館のとびら! -美術館で絵画と共鳴する。】に行ってきました。

いよいよ1月20日に終了となるムンク展ですが、もっともっとムンクのことを深く知りたい!というアートファンのために、1月9日夜、アート鑑賞の達人・Takさん(アートブロガー)と、「ムンク展」を担当した東京都美術館の学芸員・小林明子さんの対談イベントが開催されました。

今回、主催者の許可を得て特別にイベントの写真を撮らせて頂くことができましたので、イベントでの写真を交えつつトーク内容をまとめてみたいと思います。

  • トークイベント「銀座美術夜話会」とは?
  • 「蔦屋銀座夜話会」登壇者のお二人を紹介! 
    • 東京都美術館学芸員・小林明子さん
    • 青い日記帳・Takさん
  • ムンク展をより楽しく鑑賞する7つのポイントとは?
    • 鑑賞ポイント1:オリジナリティあふれる「版画」制作
    • 鑑賞ポイント2:繰り返し好んで描いた「浜辺の女性」
    • 鑑賞ポイント3:定番の「叫び」について
    • 鑑賞ポイント4:ムンクはゴッホに作風が似ている?
    • 鑑賞ポイント5:肖像画にも見どころが一杯!
    • 鑑賞ポイント6:「連作」を意識した作品制作・展示
    • 鑑賞ポイント7:こじらせた自画像も面白い!
  • ムンク展についての裏話も?
    • なぜこんなに予想外にお客さんが入ったのか?
    • 自由なグッズ制作に寛容なムンク美術館
    • 6年も前からスタートしていた展覧会企画
  • 小林学芸員が担当する次の展覧会「クリムト展」は必見!
  • まとめと感想
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2019お正月のAmazon初売りセール・おすすめ商品の解説!【年末年始・新春のお得なバーゲンまとめ】

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【2019年1月4日最終更新】

かるび(@karub_imalive)です。

2019年、新年あけましておめでとうございます。

さて年始といえば、Amazonでの初売りが楽しみですね。サイバーマンデーに比べると注目度はそれほど高くありませんが、大型タイムセールや「福袋」などが登場する見逃せないセールなのです。

そこで、本エントリでは、2018~2019年の年末年始にAmazonで開催中のセール情報について、オトクな商品とともに簡単に紹介してみたいと思います。それでは、早速行ってみましょう!

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【ネタバレ有】映画「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」の感想とあらすじ・伏線の徹底解説!/何度リピートしても楽しめる名作ライト文芸の映画化!【ぼく明日】

かるび(@karub_imalive)です。

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【2019年12月2日最終更新】

12月17日公開となった映画「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」(略称「ぼく明日」)を見てきました。2015年の大ベストセラーで、ライト文芸の代表的作品となった七月隆文の原作に沿って忠実に映画化された作品です。1年前、偶然に帰省中の新幹線のキヨスクで購入して、シンプルながら非常に心動かされ、映画化されると聞いて、非常に楽しみにしていました。

「僕は明日、昨日の君とデートする」、通称「ぼく明日」、早速初日に気合を入れて見てきましたので、以下感想を書いてみたいと思います。

※後半部分は、かなりのネタバレ部分を含みますので、何卒ご了承下さい。

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