真っ白な館

思い付いたことを書きます。

レイナルド・アレナスを概観する(2019年初稿、2024年一部改稿)

ウェブ公開にあたっての前置き・補遺

この記事は2019年に『カモガワGブックス vol.1 非英語文学特集』へ寄稿した文章の再掲です。
whiteskunk.hatenablog.com
カモガワGブックスを主宰している鯨井さんは、『SFマガジン』2024年12月号(2024年10月25日発売)の「ラテンアメリカSF特集」の監修を担当されました。僭越ながら私もレビュー3本(『百年の孤独』『めくるめく世界』『コスタグアナ秘史』)の執筆で協力しています。

その鯨井さんが、先日こういう投稿をなさってました。
数年越しに思い出していただけるのは大変ありがたいことで、せっかくなので少しでも賑やかしになれればと思い、当時執筆した原稿を公開させていただきます。

補遺

執筆後の5年間での大きな変化としては、"El palacio de las blanquisimas mofetas"が『真っ白いスカンクたちの館』として邦訳されたことでしょう(2023年、インスクリプト社)。ペンタゴニア五部作のうち、これで邦訳は三作。残り二作も早く翻訳されてほしいところです。

誤字脱字や些末な言い回しを改めることは少し行いましたが、本記事内の内容は大筋の部分で2019年当時のままです。そのため、執筆当時未訳だった当該作品の内容は(読めていないので)あまり踏まえていません。ご容赦ください。なお、上記新訳の発売にあわせ、邦訳表記を『真っ白ないたちどもの宮殿』から『真っ白いスカンクたちの館』に改めました。
また、記事内の注釈にもある仏メディシス賞の件は、私の調査不足が原因でその後も詳しく調べられていません。当時の新聞記事などをサルベージすれば詳細を把握できるとは思うのですが、如何せんフランス語は不得手なもので……。もし詳細をご存じの方がいればご教示いただけますと幸いです。
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長谷川和彦『太陽を盗んだ男』(1979)観た

  • 東京を散歩するのが趣味なので、1970年代東京の町並みにまず目を奪われる。
    • 主人公の住むアパートは中央総武線がそばを通り、その線路は大きく弧を描いてるので、おそらく大久保あたりだろう。
    • カーチェイスは場所を特定できなかったが、車が転倒した湾岸のエリアはおそらく青海のコンテナ埠頭
    • 終盤のビルの屋上はパレスサイドビルが映り込んでいたので竹橋周辺なのはほぼ確実。
    • 一方、ラジオ放送が行われてる広場は見覚えがなく、再開発で消滅したエリアかと思われる。
  • 「原爆を作った男」の話という前情報のみ聞いていたので、冒頭のバスジャック事件に面食らう。
    • 天皇に直談判しようとする老人は、主人公と比較したときにまだ目的意識があり、警察への要求を持たない主人公とは対照的。
  • なぜ主人公は原爆を作ったのか、その動機は語られない。というより、動機がないのに作った男の、謎の衝動のみがこの映画では描かれる。風刺的で破滅的。
  • それはそうと、原子力発電所への侵入シーンがすごい。コマ送り的な演出が、モッサリしそうなアクションシーンをとても魅せるものに仕上げてる。

八鍬新之介『窓ぎわのトットちゃん』/北野武『首』観た

2024年は定期的に感想を残していきたい。

八鍬新之介『窓ぎわのトットちゃん』(2023)


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黒柳徹子の同名自伝小説の映画化。1940年~1944年頃に、自由が丘の学校に転校した「トットちゃん」=黒柳徹子の生活を描く。原作は未読。戦中ものとしては『この世界の片隅に』や『ジョジョ・ラビット』あたりと同じ箱に入る。
コロコロと表情を変え、活き活きと動き回るトットちゃんの天真爛漫な様子に魅了されざるをえない。その様子が同時に他人からすると多動性を連想させるところがあり、彼女を受け入れてくれるトモエ学園の皆のやさしさと情愛に心打つものもある。一方、ノンフィクションの映像化という事情もあって、1本の映像作品としては、「ストーリー的な物語の収まりの良さ」という尺度からすると歪なストーリーラインをしており、その歪さは本作独特の魅力として結実している。
シンプルにわかりやすいのは戦争の影だろう。真珠湾攻撃に関するラジオ放送を皮切りに、トットちゃんの生活は少しずつ戦中のそれへと変化していき、きっぷを切る駅員さんがいつの間にかいなくなる(その理由は明言されない)ところから、戦争の影は「死の影」へとその姿を変える。その生活背景が泰明くんの死とオーバーラップすることで、トットちゃんがスローモーションで町中を走るシークエンスにおぞましさが加わることになる。戦場に出征することを「祝う」行進を避けて入り混んだ路地裏では、ガスマスクをつけた子供たちが戦争ごっこに興じ、足をうしなった負傷兵や目の見えない老人の姿が垣間見える。
悲しむべき死が「祝われる」という倒錯を、トットちゃんがどう感じたかは描かれない。が、それを目の当たりにした視聴者にある種の恐怖を抱かせるのは間違いないだろう。

北野武『首』(2023)


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ブラックジョーク映画(……でいい気はするんだけど、こと男色に関してはその文脈で捉えるとあまりよくないと思う。が、意地の悪い見方かもしれないけど、本作における男色って大なり小なりユーモアを意図して描かれてるところあるよね?)。
本作の明確な狂人は織田信長と茂助で、それ以外の人間は、愚鈍か理性的かの違いはあれど、全員まともではある。で、彼らがいるからこそ、その周りにいる秀吉も光秀も、その言動がどこかおもしろく感じてしまう。秀吉がおもしろいのは明らかに演出的なそれなのだが、西島秀俊演じる光秀にユーモアを感じてしまうのは、光秀の愚鈍なキャラクター性が一周回って滑稽だからではあろう。
群像劇的な暴力映画という意味では『アウトレイジ』シリーズも同じ路線な気がするが、『首』の方がギャグ要素強めなのは不思議な気持ちになる。北野武は思い返すと意外と映画でギャグをやりたい人でもあるのかもしれない。
それはそうと、『首』のタイトルロゴ演出がすごくかっこいい(このロゴは公式に流れてるロゴとは異なる書体)。「首」の一画目の点が正に人の首を思わせるな……と思っていたら、まさにそこを横一文字に切り裂くエフェクトがかかる。グッド。

「恋の魔法」としての等身大の冒険 『すずめの戸締まり』感想

前回の記事で書いたとおり、7日(月)に『すずめの戸締まり』を観てきたので、本記事はその感想である。
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以下ネタバレあり(どうでもいいが予告編に対するネタバレ感想を注釈に書いた→*1)。
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*1:予告観返してみるとマジでストーリーに忠実に作ってるな。びっくりした。

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【ネタバレなし】『すずめの戸締まり』IMAX先行上映会はよくできたマーケティングだと思う

『すずめの戸締まり』IMAX先行上映会が11月7日(月)に実施された。
自分も応募して当選したから観に行ってきたのだけれど、販促を考えるとよくできた仕組みなのである。
以下、作品の内容には一切触れずのネタバレなしでその辺の感想をまとめておく。
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『リコリス・リコイル』におけるテーマと呼べそうなものに関するメモ

親離れの話であり、「自分なりの信念を持っていれば、その信念は社会正義と等価値になる」という話である。

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普通の人が起こしかねないミスで子どもが死んでしまった(かもしれない)おそろしい世界について

通園バス内に3歳女児 死亡確認 約5時間置き去りか 静岡 牧之原 | NHK
最終的な刑罰は司法の判断を待つ以外になく、それでもニュースで流れてくる限りでは幼稚園側が二重三重に確認を怠って、それが結果として死者を出してしまったということで、社会的に見ても許しがたいことだろう、と思います。
で、記者会見です。ブクマにこんな呟きが流れてきました。


この記事に自分は以下のとおりブクマしました(2022/09/08 19:54に以下コメントを削除して本記事へのリンクに書き換えてます)。

大きな企業だと記者会見の為にメディアトレーニングのプロ雇って社長に指導してもらう位には高ストレスの場での振る舞いって難しいので、あんまあげつらってもなーとは思う(この方への印象は実際最悪だし)

今日の日記は、なんでこういうコメント書いたかについて。

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