boogyman's memo

アニメーションと余日のメモ欄

話数単位で選ぶ、2024年TVアニメ10選

年間のベストエピソード振り返り企画「話数単位で選ぶ、TVアニメ10選」に今年も参加。詳細はいつもお世話になっている「aninado」でぜひ。

以下、コメント付きでリストアップ。

■『葬送のフリーレン』第26話「魔法の高み」

脚本/鈴木智尋 絵コンテ/斎藤圭一郎、原科大樹、岩澤亨 演出/森大貴 作画監督/廣江啓輔、瀬口泉、新井博慧、八重樫優翼 総作画監督/長澤礼子 総作画監督補佐/藤中友里 アクション作画監督/岩澤亨

「静と動」の対比がみごとなシリーズにあって、“動”の集大成といえるエピソード。対フリーレンパートは文字通り「アクション作画の高み」を容赦なく観客に叩きつける高密度運動の連続。フェルンの自信とそれを砕く練達の技、そして必要最小限の描写で語られる信頼関係。作画に負けず劣らず、演出力も光る名場面だ。

 

■『ダンジョン飯』第18話「シェイプシフター」

脚本/うえのきみこ 絵コンテ/雨宮哲 演出/成田巧 作画監督/桐谷真咲、坂本俊太、中島順、ハニュー、楠木智子、斎藤和也 総作画監督/竹田直樹

本作屈指のアイディア回である「シェイプシフター」に雨宮哲を当てるスタッフィングの奇想もみごとなら、ライオスの観察力への不安をアニメ的解像度ギャグにしてみせる機転も秀抜。大鍋一杯のユーモアを調理する、工夫と陽気に満ちたアニメーション。逸品。

 

■『響け!ユーフォニアム3』第12話「最後のソリスト

脚本/花田十輝 絵コンテ/小川太一 演出/山村卓也 作画監督/髙橋真梨子、引山佳代 総作画監督池田和美

“原作に寄り添う”映像化*1の旗手だった京都アニメーションが仕掛けてき超級のサプライズであり、原作の展開を譲るはずがないと高を括っていた懐へ投げ込まれた剛速球。予定調和に留まらない挑戦的な姿勢に賛否渦巻いていたが、個人的には絶賛したい。息を呑むほど美しい「泣き作画」も京都の真骨頂。

 

■『忘却バッテリー』第11話「俺は嘘つきだ」

脚本/池田臨太郎 絵コンテ/徳丸昌大 演出/徳丸昌大、増田桃一郎 演出補佐/橘内諒太 作画監督/徳丸昌大、井上修一小木曽伸吾、石塚理央、宮地聡子、中西優里香、陳品君、若狭賢史、三浦里菜、陳韋寧、飯田剛士、キム ヒョナ、パクソジョン、林梦贇 総作画監督/朴旲烈、島袋奈津希

後ろへ繋ぐ、たった一つの四球。その背景に隠された膨大な葛藤を描くことがこんなにも観る者の心を揺さぶる。アスリートのリアリティを追求しながら、アスリートに打ちのめされた人間の弱さを活写する。次第に熱を帯びていく千早瞬平役・島﨑信長のモノローグもいい。入魂の演技とはこういうものだろう。

 

■『ぷにるはかわいいスライム』第7話「Sweet Bitter Summer」

脚本/池田臨太郎 絵コンテ・演出/ちな Vコンテ/土上いつき 作画監督/今岡律之 総作画監督/田中彩

2000年代の水着回を彷彿とさせるハイテンポ・ギャグからワンピースの美少女と無人の画面に残る扇風機の叙情、そしてフラスコ分割の同ポ繰り返しという演出の開陳……その発想力もさることながら、何より娯楽短編としての魅力が素晴らしい。力を尽くしてアニメを楽しむ、そんな作り手の気概が嬉しい。

 

■『わんだふるぷりきゅあ!』第35話「悟の告白大作戦」

脚本/平林佐和子 絵コンテ・演出/広末悠奈 作画監督/廣中美佳

初回を観たときから気になっていた広末悠奈初のコンテ・演出回。冒頭から印象的な花のモチーフ、アイディアが横溢するコミカルな画作り、告白という悟の一大決心と作り手の足並みが揃い、明るさと不安、幸福と躊躇いの絶妙なバランスの上に成った一編。猫屋敷まゆのコメディエンヌっぷりも必見。

 

■『ガールズバンドクライ』第11話「世界のまん中」

脚本/花田十輝 絵コンテ/酒井和男 演出/平山美穂 リードアニメーター/中村有希恵、香月誠亮

圧倒的なライブパフォーマンスと新たなテクノロジーによる未踏の地点への跳躍。井芹仁菜の解放的なステージングに気圧されたまま、いつの間にか見入っていた自分に気づく。彼女たちの感情が憑依しているかのような、途方もないカメラワークはまさに超絶。鬱憤も怒りも、音楽を通して発火する。年間ベストアクトを選ぶならこれだ。

 

■『MFゴースト』第18話「芦ノ湖スカイラインの悪魔」

脚本/山下憲一 絵コンテ/高橋成世、阿部雅司 演出/阿部雅司 演出チーフ/濱田翔 作画監督/石本英治 総作画監督恩田尚之

悪条件であればあるほど本領を発揮する片桐夏向の“ゴースト性”。その異次元のレーシングテクニックに驚く周囲のリアクションと映像的テンションが噛み合ったときの快感は唯一無二だ。また、この盛り上がりを受け取った19話、故・岩瀧智氏の仕事(作監込み第一原画)も覚えておきたい。

 

■『ダンダダン』第7話「優しい世界へ」

脚本/瀬古浩司 絵コンテ・作画監督/榎本柊斗 演出/松永浩太郎 副監督/モコちゃん 作画監督補佐/奥谷花奈

――稀に、すこし集中力を欠いていたり、何となく習慣的に観ているだけの時間の中で、ごく稀にこういう瞬間的にハッとさせられる一本に出会うことがある。思い出すだけで心が震えるような、TVアニメの真価と奥深さに打たれるような一本。夢想的なバレエのイメージと極めて現実的な金銭・暴力のカットバックが織り成す人生の凝縮。哀切、痛み、喜び、祈り。そのすべてがここにある。

 

■『ゴー!ゴー!キッチン戦隊クックルン』第969話「時間よ、とまれ」

脚本/竹村武司 出演/斉藤柚奈、藤本風悟、石塚七菜子、岡宏明 声の出演/外崎友亮 音楽/原口沙輔

のっけから「アニメーターさんが休めたって喜んでたよ」というセリフがあったり、制作現場で用いられているストップウォッチが登場したり、やりたい放題のメタの極致を闊歩する大問題(?)連作*2。プロデューサーの許可を得て、最大35秒間完全停止した画面を放送する実験は、「映像と時間」に連関する緊張を改めて問うもの。中々どうして、侮れない。

 

他方、特別枠で挙げておきたいのは、放送されるやいなや話題を独占したONE PIECE FAN LETTER』だ。東映時代の同期だったという脚本家・豊田百香とアニメーターの森佳祐、そして一気にスターダムを駆け上がった感もある石谷恵監督によるドリームフィルム。

その物語性も遊び心も作品へのリスペクトに溢れ、じつにアドレッセンス。劇中の少女のように、この作り手たちが果たして何処に向かうのか見届けたい、そんなふうに思わせてくれる至高のフィルムだった。

振り返ってみると、まだまだ取り上げたい作品はあった。『負けヒロインが多すぎる!』『NieR:Automata Ver1.1a』『逃げ上手の若君』といったA-1,Cloverの良作群、亜細亜堂の丁寧な仕事が光った『ゆびさきと恋々』、独特のこだわりが露出して止まなかった『義妹生活』、社会の暗さ(闇)を異世界人が緩く明るく照らした『変人のサラダボウル』、“冰剣”たかたまさひろ監督の『嘆きの亡霊は引退したい』など、いろいろと楽しませてもらった。「一年間、TVアニメを観る/触れる」という企画の趣旨に沿えるよう、来年も気負わずマイペースに観ていきたい。そういえば、今年はNetflix独占のアニメをいれなかった。意外だ。

*1:自社展開するKAエスマ文庫原作・原案作品は、逆にかなりの変更点がある。

*2:968話「暗闇から手を伸ばせ」も実験作であり、11月は「再会、父よ…」「忍者キャプチャー」などパロディ回ばかりだった。

中野英明虎王伝説『英雄教室』と「碇谷式虎王」

何か予感めいたものはあったかも知れない。中野英明が副監督を務めた『英雄教室』はそんな予感の的中したTVアニメとなった。

数々のアニメで竹宮流の奥義「虎王」を(無理矢理)披露してきた来歴については下記の記事リンクを参照。

執念深く、長期に渡って「虎王」や板垣恵介マンガのパロディを捻じ込んできた「実績」を鑑みて、今回も繰り出してくるだろうと予想していたのだけど、『英雄教室』はコメディの職人・川口敬一郎監督の下、暴走機関車のようだった『SKET DANCE』時代を思い起こさせるパロデイの雨あられ

たとえば、絵コンテ・演出を担当した第2話「ソフィ」は冒頭からこのありさまだ。

元ネタは宮本武蔵が愛刀「無銘 金重」を手にする御存知『刃牙道』109話の試し斬りパート。ほぼ完全コピーといっていい出来栄えだが、これを手始めに続く話数では武蔵との試合で回転が間に合わず斬られた烈海王、またぞろ会食で中華料理を頬張る烈という強コンボ。

第9話でソフィの攻撃を見切るブレイドはかなり通好みだが、『餓狼伝』20巻で神山徹の踏み込みを見切った姫川勉の一連のパロディだろう(元ネタ画像はこちら)。

そしてついに解禁された『英雄教室』版虎王は、アーネストが仕掛け「完了」の直前に合気のような追撃が入る新パターン。完了キャンセル版虎王といったところか。

7,9話共に中野英明は絵コンテのみで演出に入っていないためか、全体的に若干“緩く”、完成度は歴代の虎王からすると甘めかも知れない。とはいえ、これだけ好き放題に板垣パロディを繰り出せるシリーズは珍しく、愛好家の身からすると充分といえる。

他方、近年は「刃牙」シリーズのアニメ化が進み、Netflixオリジナルアニメシリーズとして配信された「地上最強の親子喧嘩編」『範馬刃牙』37話では、範馬勇次郎に対して息子・刃牙が虎王を「プレゼント」している。

こちらは原作ママの虎王パートを効率的に再現。本家「刃牙」シリーズは動きの細かさよりも迫力を重視した作りであり、同じ虎王であっても(アニメ的な)思想がまるっきり異なる。そういった点を見比べるのも面白いだろう。

さらに直近ではNetflixがもう一方の“本家”である夢枕獏の小説『餓狼伝』を原作とするアニメ『餓狼伝: The Way of the Lone Wolf』を配信開始。藤巻十三を主人公とする外伝的・現代アレンジされたシリーズで、監督は『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』9話のリアルなマーシャルアーツが話題を攫った碇谷敦。格闘的映像的なセンスはともかく、“獣臭”漂う『餓狼伝』とスタイリッシュな監督の作風がマッチするのか一抹の不安を持って見守っていたのだけど、いざ蓋を開けてみると、想像以上に「虎王」がフォーカスされ、さながら嵐の如し(とくに後半は虎王祭り)。

「碇谷式虎王」の特徴は積極的なスローと緩急によるメリハリ。間合い取りや打撃など、一般的な格闘シーンはかなり現実的に描かれているが*1、奥義である虎王だけはいくつかの「中野式」と同じく、アニメーションならではのカッティングで“必殺感”が高められている。このあたりの工夫も見どころのひとつ。

そして『餓狼伝: The Way of the Lone Wolf』最大の虎王的サプライズは最終話(8話)の「碇谷式虎王破り」だ。これはぜひ、自分の目で確かめてみてもらいたいが、個人的には『グラップラー刃牙』へのリスペクトを大いに感じた。最大トーナメントの決勝で範馬刃牙がライバル達の技を使ってみせた、あの興奮。刃牙が幼年時から愛用する胴回し回転蹴りカウンター……夢枕獏はもちろん、板垣恵介への多大なる尊敬の念が込められているように思えてならなかった。

板垣版の女性受けしない印象の藤巻と違い、意外なほど女性に縁のある新・藤巻十三。原作以上に「虎王」を物語のキーテクニックに置いた展開。なかなかどうして、こんな『餓狼伝』もありだと思わせてくれる。「碇谷式」、侮るなかれ。

*1:プロシーンで活躍する選手を「実写ユニット」として撮影し、アクションの参考や動きの描き起こしに活用しているようだ。

『響け!ユーフォニアム3』2話のキャットウォーク

「信頼」という点でこれほど安心感に満ちたシリーズもないだろう。『響け!ユーフォニアム3』は京都アニメーションの表現力と精密さにおいて、ソフィスティケートされた技の光る作品だ。「久美子3年生編」である今作の肝は、強豪校から転校してきた新たなユーフォニアム奏者・黒江真由。彼女に対する処遇やかかわり方が大きく物語を揺るがすことになるのだが、アニメはいかなる描写で「黒江真由」という人物に臨むのか、原作を読んだときから気になっていた。

感心したのは石原立也監督が絵コンテ・演出を務めた第2話「さんかくシンコペーション」のBパート、体育館での一幕だ。

サンライズフェスティバルの練習を体育館2階のキャットウォーク(ギャラリー)から見守る久美子と真由のシーン、じつは部分的に設定が変わっている。まず練習場所がグラウンドから体育館になっており、真由の着ている体操服も原作では「買ったばかりの体操服」とあるように北宇治のものだったはずだが、おそらく異物感、あるいは“異邦人”な意味合いを高めるためだろう、清良女子の体操服姿のまま。

そこへパート練習が始まると告げにくる“体で”わざわざやって来るのが久石奏だ。そのカット内で一瞬だけ真由の方へ視線を向ける芝居が入る。セリフにもある通り、久美子と自分の関係性をアピールしつつ、真由へ小さな牽制を行っているのだろう。面白いのはこれが「キャットウォーク」で行われていることだ。川島緑輝が恒例の動物シリーズで奏を「猫って感じ」*1と評しているが、作中の表現を考慮した、まさしく猫のような警戒心が漏れ出た芝居といえる。

また、固定されているタラップを使ってキャットウォークから降りる場面を描くのもアニメでは珍しい。自然に舞台を下へ移す必要があったとはいえ、わざわざタラップを使ったのは、奏と真由の会話の微妙な危うさを示すためかも知れない。通常なら大して危険でも何でもないが、足を踏み外したり、滑ったりする可能性もある。そんな極小のリスクを孕んだ会話をタラップという装置で比喩的に見せておく、深読みするならこんなところだろうか。

舞台装置を有効活用している点でいえば、釜屋すずめが姉を慕うあまり、暴走気味に直談判を決行した体育館脇のスペースも見逃せない。

石原立也回らしい身振り手振り(すずめは石原監督好みなが気がする)も楽しく、久美子の気苦労が窺い知れるが、ここに「物置」があることによって落語でいう「サゲ」に近い効果を生んでいる。本来心に留めておくべき感情を、あろうことか部長に直接開陳してしまう。要するに自分の意見を「収納しておけない」わけだ。久美子はそんなすずめの勘違いを解き、つばめの言うことをもう少し信じてあげてと優しく諭すが、「さんかくシンコペーション」はこうした「信頼」を巡るプロットで構成されている。そのクライマックスが久美子にとって特別な存在である高坂麗奈を照らす光だったというのは、最早必然と呼ぶほかない。メッセージ性の高い、象徴的なシーンだ。

京都アニメーションの表現力とそれを十全に生かす原作への解釈力。キャットウォークのくだりはほんの一例に過ぎないが、自分にとって信頼すべき一例だった。真由をみる奏の視線のような発見が、まだまだあるに違いない。

*1:アニメ第3話。原作では「甘え方をよく知ってる飼い猫みたいな感じ」。

話数単位で選ぶ、2023年TVアニメ10選

歳末の慣例行事、年の瀬のアニメブログ企画「話数単位で選ぶ」に今年も参加。干支が一周しても、企画はつづくよ、どこまでも。企画主旨・集計はいつもお世話になっている「aninado」でぜひ。

以下、簡易コメント付きでリストアップ。

■『お兄ちゃんはおしまい!』第1話「まひろとイケないカラダ」

脚本/横手美智子 絵コンテ・演出/藤井慎吾 作画監督/今村亮

ちょっとアブノーマルな性転換モノの原作を藤井慎吾監督がアニメ化。盗撮風構図の多用、男→女への変身と画面上の意味を込めた二重”境界”のギャップ、フェティッシュでコミカル、あの驚きのエンディングへ突入する流れも初回ならでは。文句なし本年度ベスト第1話。

 

■『トモちゃんは女の子!』第8話「夏祭りの夜/二人の距離感」

脚本/清水恵 絵コンテ/小林一三、駒宮僅 演出/塚田拓郎、駒宮僅 作画監督/駒宮僅、谷口元浩、高星佑平、中和田優斗、二宮奈那子、赤尾良太郎 総作画監督谷口元浩

淳一郎が智への感情の変化を自覚する夏祭り、その心情の変化に敏感なみすず視点で進行する後半という構成もいいが、Bパートの主役は数々のモチーフを駆使し、叙情的なレイアウト、ライティングに個性を感じさせる演出の瑞々しさだろう。これほど際立った仕事をする駒宮僅とは何者か。要注目のひとりだ。

 

■『ツルネ -つながりの一射-』第12話「繋がりの一射」

脚本/横手美智子 絵コンテ・演出/山村卓也 作画監督門脇未来 総作画監督/丸木宣明

清冽な試合会場の空気、ピンと張り詰めた極限の緊張感。全神経を次の一射に集中させる、圧倒的な描写力と画面の張力。「繋がり」をテーマに共鳴した皆の思いは、京都アニメーションを取り巻く世界そのものだったようにも思える。暗く鈍い感情に支配されていた二階堂永亮の”解放”はその象徴だったのかも知れない。

 

■『スキップとローファー』第6話「シトシト チカチカ」

脚本/米内山陽子 絵コンテ/篠原俊哉 演出/平向智子 作画監督/天野和子、小島明日香、田中未来、中山みゆき、斉藤和也、岩崎亮 総作画監督/梅下麻奈未

美津未と志摩聡介のギクシャクをどんより重い梅雨の空模様に落とし込み、紫色の空に湿度の上がった恋模様が走り出す。ついに美津未の物語が動き出すのか、そんな期待と予兆を感じさせるラストシーンの余韻が堪らない。篠原俊哉恒例のプロップ、ポッキーも見どころ。

 

■『アイドルマスター シンデレラガールズ U149』第11話「大人と子供の違いって、なに?」

脚本/村山沖 絵コンテ・演出/小林敦 演出協力/廖程芝 作画監督/井川典恵、栗原裕、明滝吾郎、岡崎滉、槙田路子、須川康太、矢永沙織、佐々木啓悟、高妻匠 総作画監督/井川典恵

実像と鏡像の間を彷徨う橘ありすによる、都会の中の「鏡の国のアリス」。非常に手の込んだ反射や映り込みが印象的に配置され、金魚まで出てくるとさながら押井守の世界に思えてくるが、そこはアイドルマスター。どこぞの迷宮物件とは違い、救いの涙も、優しさもある。一安心だ(?)。

 

■『名探偵コナン』第1089話「天才レストラン」

脚本/浦沢義雄 絵コンテ/加瀬充子 演出/吉村あきら 作画監督/津吹明日香、牛ノ濱由惟 作画監修/須藤昌朋

「駄菓子のすもも漬」「思い上がり」「オムライスの死体」など、のっけから理解を拒む謎のキーワードが頻出し、「地獄の特製お子様ランチワールド」と名を変えた浦沢ワールドが展開されるアニメオリジナルエピソード。白昼夢に襲われるかのような不可思議きわまる話にもかかわらず、キレの良いアクションが繰り出される豪勢なパートもあり、さらに混乱すること請け合い。『名探偵コナン』の懐の深さをあらためて思い知らされる一話だ。

 

■『呪術廻戦 懐玉・玉折/渋谷事変』第41話「霹靂-弐-」

脚本/瀬古浩司 絵コンテ・演出/土上いつき、伍柏諭、山崎晴美 作画監督/山﨑爽太、矢島陽介、石井百合子、青木一紀

以前から作画好きを公言している原作者・芥見下々の器を借りた宿儺vs魔虚羅の一大決戦は、今年一番といっていい作画回となった。呆気にとられるほど膨大な表現の洪水であり、原作以上に破天荒に描かれた宿儺の呪術はTVアニメの臨界点だったかも知れない。また、死地に向かう七海建人で引く静けさもいい。動と静、それぞれについて回る「死」の気配。『呪術廻戦』の醍醐味はそこにあるのだから。

 

■『陰の実力者になりたくて!2nd season』第7話「大切なもの」

脚本/加藤還一 絵コンテ・演出・アクション作画監督/中西和也 作画監督/陳達理 総作画監督/飯野まこと

本シリーズにおいて、中西和也監督はシャドウであり、アルファだ。全話コンテの達成、アクション作監、演出の兼任など様々な責任を負いながら、同時に個性のバルブも開く。7話は「特定の登場人物と観客が共有する秘密」のすれ違いが一度ピークに達する回。落ち込むアルファのかわいらしさ、空回りするシドの必死さと情けなさ。笑いあり涙あり、そこに中西和也あり。藺相如もびっくりの「完璧」だ。

 

■『MFゴースト』第8話「音声カウント」

脚本/稲荷明比古 絵コンテ/高橋成世 演出/安藤健 演出チーフ/濱田翔 作画監督佐藤哲也、長谷川圭、石井しずく 総作画監督恩田尚之坂本千代子、油井徹太郎

原作者をして「嫉妬してしまうレベル」と評された恩田尚之のキャラクターデザイン・作画力と目の離せないレースシーンの相乗効果が素晴らしかった本作。第8話は伝説のダウンヒラーを継ぐ男・片桐夏向渾身のコーナリングをノリのいい劇伴、スーパースローで盛り上げる演出のアドレナリンが一気に増幅。とくに「ヤジキタ兄妹」をオーバーテイクするパートは格別の仕上がりで、解説・実況のテンションが視聴者に乗り移ってくるようだった。

 

■『川越ボーイズ・シング』第8話「いつかのアイムソーリー」

脚本/川越学園文芸部 絵コンテ・演出・作画監督・原画/武内宣之

練習中に突然強盗が乱入してくるギャグのような前回の流れから、何故だか武内宣之回が降って湧いてくる。違うアニメを観ているのか?と疑いたくなってしまうくらい、凄まじい隔たりに困惑してしまったが、スタイリッシュなトメや超アップを使ったアヴァンギャルドなカッティング、アオリの切れ味は最高で、頭に大きなはてなを浮かべたまま観る至高の武内回という体験はおそらく二度とないだろう。サブタイトルがやたらと格好良いのもポイントだ。

他、候補としていた話数の一覧。

■『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』第7話(なんで春日影やったの!?)

■『事情を知らない転校生がグイグイくる』第4話(原作に対するアニメ的足し算)

■『天国大魔境』第10話(五十嵐海&竹内哲也回)

■『ONE PIECE』第1072話(ギア5に石谷恵)

■『英雄教室』第2話(中野英明のパロディ炸裂)

■『久保さんは僕を許さない』第11話(沖田博文デート回)

■『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』第4話(大島克也回)

■『薬屋のひとりごと』第4話(ちな&もああん回)

■『葬送のフリーレン』第8話(言っておくけど私、強いよ)

2023年は話題作が10月期スタートの新番組に集中した向きもあったが、蓋を開けてみると、あまり注目していなかった『MFゴースト』が尻上がりに調子を上げていき、穴馬的に盛り上げてくれたり、寿門堂制作の『ポーション頼みで生き延びます!』のチープさに逆説的な魅力を感じてしまったり、大粒小粒揃ってこそTVアニメだと深く感じ入ったクールだった。また、『百姓貴族』『オチビサン』『幼女社長R』といったショートアニメ群も楽しく、例えば『幼女社長R』21話「でんとう」は『美味しんぼ』の海原雄山を模したキャラを「息子」である大塚明夫が演じていた。リストには挙げていないが、こういったアニメも記録に残しておいた方がいいのかも知れない。

個人的に奇妙な執着を覚えてしまったアニメでいうと、『Buddy Daddies』がそうだ。殺し屋ふたりの子育て・バディもので、アイディアはいいが肝心の殺し屋部分をイマイチ上手く扱い切れていない。そんな風に思っていたのだけど、銃撃戦を『DARKER THAN BLACK』の岡村天斎に任せる差配であるとか、ロバート・ベントン監督の名作『クレイマー、クレイマー』のオマージュであろう繰り返し登場するフレンチトースト、P.A.WORKS出身の大東百合恵が手掛けるエンディングアニメーションの愛らしさなど、語弊はあるが欠点に目を瞑って贔屓したくなるアニメだったのだ。

飛び抜けていい話があるわけでなく、アイディアやテーマの結実には疑問も残る。しかし執着したい作り手と要素がある。そういう珍しいタイプの記憶に残しておきたい作品になったなと思う(『クレイマー、クレイマー』が思い出の映画だったということも多分に関係している)。

それでは、この先もいろいろなアニメに出会えることを願いつつ。来年もTVアニメを観よう!