福島事故後の「ステキな我が家」(田中優)
「いやぁ、お客さんも運のいい方だ。この家は新築したばかりでなんですけどね、急に引っ越しされて。それで格安で販売したところなんですよ。小さなお子さんを連れたご家族が住んでいたんですけどね」
と不動産屋が言った。
「そのご家族は?」
「なんでも西の方に越されたようですね」
「近隣にお住まいの人たちは?」
「みなさん静かに暮らしてますね、小さい子が減ったようで、保育園も空いていますし、住むんならこの土地は便利ですよ」
内閣府原子力委員会の「原発・核燃料サイクル技術等検討小委員会」は2011年10月25日、原発の事故リスクを試算した。
それによるとによると「電力1kWhあたり1.2円上昇する」程度とされ、東京電力福島第1原発事故を踏まえても、賠償試算額を5.7兆円とした。
ただし除染費用や、今後の賠償額、放射性廃棄物の中間貯蔵施設の建設費も十分考慮されていない。
それらがどこまで膨らむかは不明だとしている。
環境省は「追加被曝線量が年間1ミリシーベルト以上ある地域を国の責任で除染する」とした。
しかし、「東京電力福島第一原発の事故で放出された放射性物質による被曝線量が年1ミリシーベルト以上の地域は、8都県で約1万3千平方キロ(日本の面積の約3%)に及ぶ」そうだ。
(朝日新聞社集計2011年10月11日)
国土の3%が居住の基準に適さないほど汚染された。
ところが原発の賠償額には計算されない。
ということは電力会社の原子力事故の賠償に、「除染」は含まれないことになる。
当初の汚染は寿命の短いヨウ素131で、その後の汚染の半分弱を占めるセシウム134は半減期が2年だから、今のようにのろのろ除染していれば、いつの間にか多くの地域は基準内の汚染になる。
しかし被曝はする。
大きな影響を受ける小さな子どもたちは自主避難せざるを得ないが、それもまた賠償されそうにない。
その汚染された土地を、従来の価格で買おうと思う人はいないだろう。
つまり土地の資産価値は急落することになる。
日本に住むということは、すべての財産がパーになってもあきらめるしかない国に住むことだ。
しかも日本の金融機関は、担保価値の大きな部分を土地評価額に置いて融資してきた。
担保の根拠が失われる。
誰も買い手がつかない土地になるのだから。
経済は機能停止となり、信用力は汚染度によって左右される。
そもそも国土の3%を汚染した賠償額が5.7兆円なら、日本全土でもわずか188.8兆円だ。
こんなに安くて経済が成り立つのか。
「原発事故リスクは500年に1度」と言われるが、よくこの試算をみると違いがある。
まず500年ではなく、476年が正しい。
また、「476年」ではなく、「476炉年」なのだ。
「原発の原子炉が一年間働くことを一炉年」という。日本には54基の原発があるのだから、それで割ると8.8年に一度の事故が起こる確率になる。
つまり子どもが小学校に入って、中学校を卒業するまでには最低一回の事故が起こる計算だ。
「本当に静かなところですね。まるでチェルノブ…」
「しっ! お客さん、それは言いっこなしですよ」
「うん…今年が2011年だから、次の事故は2020年頃だよなぁ。それまで西の方に暮らした方がいいのかなぁ」
「お客さん、狭い日本、そんなに急いでどこに行くってなもんで、どこに行ったって原発があるんですから変わりないですよ」
「でも次の事故が起きたら、そのときに移転すればいいんじゃないかな」
「お客さん、事故になってからじゃ売れないんですよ、土地は。しかも原発の賠償金に、土地の評価損は入らないんです。だから事故前の土地ってのは、今後評価が落ちる土地ってことになるでしょ?ところがここはすでに下がっている。幸い半減期の短い放射能汚染ですから、次の事故のときには高く売れますよ、きっと」
「それまではこの汚染の中に暮らすのか…」
「お客さん、なんならカーポートもおつけしますよ」
男は妻を振り返って言う。
「なかなかステキな家じゃないか…」
妻は無言のまま。
男は困った顔をして、「おまえはどうだ?」と小さな子どもに聞く。
「…ぼくはモルモットじゃない」
そんな未来にするのが今回の事故リスク評価の結果だ。
これまで除染したものの保管場所に困ってきたが、これらが事故リスクに含まれないなら、今回の評価に反対をなさらなかった委員の方の土地にあったとしても問題ないはずだ。
そこに保管させていただくのはいかがだろう。
この試算評価が異常なことは、誰でもわかるのではないか。
原発の発電単価を他の発電方法より安く保つために、先に数字があって決められたものだ。
こんな評価をした委員たちは、未来を見通すことができないのだろう。
つまり委員には向かない。
未来を見通すことのできる人でなければ任せられない。
日本経済の根幹を壊してしまうのだから。
事故前までのような「お飾り」ではないのだ。
「いやぁ、お客さんも運のいい方だ。この家は新築したばかりでなんですけどね、急に引っ越しされて。それで格安で販売したところなんですよ。小さなお子さんを連れたご家族が住んでいたんですけどね」
と不動産屋が言った。
「そのご家族は?」
「なんでも西の方に越されたようですね」
「近隣にお住まいの人たちは?」
「みなさん静かに暮らしてますね、小さい子が減ったようで、保育園も空いていますし、住むんならこの土地は便利ですよ」
内閣府原子力委員会の「原発・核燃料サイクル技術等検討小委員会」は2011年10月25日、原発の事故リスクを試算した。
それによるとによると「電力1kWhあたり1.2円上昇する」程度とされ、東京電力福島第1原発事故を踏まえても、賠償試算額を5.7兆円とした。
ただし除染費用や、今後の賠償額、放射性廃棄物の中間貯蔵施設の建設費も十分考慮されていない。
それらがどこまで膨らむかは不明だとしている。
環境省は「追加被曝線量が年間1ミリシーベルト以上ある地域を国の責任で除染する」とした。
しかし、「東京電力福島第一原発の事故で放出された放射性物質による被曝線量が年1ミリシーベルト以上の地域は、8都県で約1万3千平方キロ(日本の面積の約3%)に及ぶ」そうだ。
(朝日新聞社集計2011年10月11日)
国土の3%が居住の基準に適さないほど汚染された。
ところが原発の賠償額には計算されない。
ということは電力会社の原子力事故の賠償に、「除染」は含まれないことになる。
当初の汚染は寿命の短いヨウ素131で、その後の汚染の半分弱を占めるセシウム134は半減期が2年だから、今のようにのろのろ除染していれば、いつの間にか多くの地域は基準内の汚染になる。
しかし被曝はする。
大きな影響を受ける小さな子どもたちは自主避難せざるを得ないが、それもまた賠償されそうにない。
その汚染された土地を、従来の価格で買おうと思う人はいないだろう。
つまり土地の資産価値は急落することになる。
日本に住むということは、すべての財産がパーになってもあきらめるしかない国に住むことだ。
しかも日本の金融機関は、担保価値の大きな部分を土地評価額に置いて融資してきた。
担保の根拠が失われる。
誰も買い手がつかない土地になるのだから。
経済は機能停止となり、信用力は汚染度によって左右される。
そもそも国土の3%を汚染した賠償額が5.7兆円なら、日本全土でもわずか188.8兆円だ。
こんなに安くて経済が成り立つのか。
「原発事故リスクは500年に1度」と言われるが、よくこの試算をみると違いがある。
まず500年ではなく、476年が正しい。
また、「476年」ではなく、「476炉年」なのだ。
「原発の原子炉が一年間働くことを一炉年」という。日本には54基の原発があるのだから、それで割ると8.8年に一度の事故が起こる確率になる。
つまり子どもが小学校に入って、中学校を卒業するまでには最低一回の事故が起こる計算だ。
「本当に静かなところですね。まるでチェルノブ…」
「しっ! お客さん、それは言いっこなしですよ」
「うん…今年が2011年だから、次の事故は2020年頃だよなぁ。それまで西の方に暮らした方がいいのかなぁ」
「お客さん、狭い日本、そんなに急いでどこに行くってなもんで、どこに行ったって原発があるんですから変わりないですよ」
「でも次の事故が起きたら、そのときに移転すればいいんじゃないかな」
「お客さん、事故になってからじゃ売れないんですよ、土地は。しかも原発の賠償金に、土地の評価損は入らないんです。だから事故前の土地ってのは、今後評価が落ちる土地ってことになるでしょ?ところがここはすでに下がっている。幸い半減期の短い放射能汚染ですから、次の事故のときには高く売れますよ、きっと」
「それまではこの汚染の中に暮らすのか…」
「お客さん、なんならカーポートもおつけしますよ」
男は妻を振り返って言う。
「なかなかステキな家じゃないか…」
妻は無言のまま。
男は困った顔をして、「おまえはどうだ?」と小さな子どもに聞く。
「…ぼくはモルモットじゃない」
そんな未来にするのが今回の事故リスク評価の結果だ。
これまで除染したものの保管場所に困ってきたが、これらが事故リスクに含まれないなら、今回の評価に反対をなさらなかった委員の方の土地にあったとしても問題ないはずだ。
そこに保管させていただくのはいかがだろう。
この試算評価が異常なことは、誰でもわかるのではないか。
原発の発電単価を他の発電方法より安く保つために、先に数字があって決められたものだ。
こんな評価をした委員たちは、未来を見通すことができないのだろう。
つまり委員には向かない。
未来を見通すことのできる人でなければ任せられない。
日本経済の根幹を壊してしまうのだから。
事故前までのような「お飾り」ではないのだ。