Q:以前、島本和彦先生が「岡田斗司夫さんの『遺言』という本を読んで、すごく感動して、話を聞きに行った」とおっしゃっていました。そこではいったいどんな話をしたんですか?
A:こんな話です。
この記事のポイント
- 朝、島本和彦から電話がかかってくるということ
- 岡田斗司夫は『アオイホノオ』には登場しないはずだった?
- イヤなプロデューサーとしての岡田斗司夫と、完敗した島本和彦
2010年11月27日岡田斗司夫のひとり夜話ex「富野由悠季を語る。」より
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┃朝、島本和彦から電話がかかってくるということ
僕が日曜日に寝ていたら、島本君からいきなり携帯電話に電話かかってきたんですよ。「吉祥寺にいるんだけど、今から会えないかッ!?」って。本当に言葉通りそういうふうな電話がかかってきて。……朝ですよ? 人間、朝、島本和彦から電話がかかってくることが、人生で何回あると思いますか?
で、ヤツは“漫画の吹き出しのような声”で喋るんですよ。どういうことかっていうと、普通、他人にですね、朝8時に電話かける時のテンションって、「岡田さん……?」ですよね? 島本は違いますよ。「岡田さんッッッ!!」みたいな。本当にこんな感じなんですよ。もう、「聞こえてますから」って電話中に何度言ったか(笑)
彼の話によると、ホテルの部屋で『遺言』を読んでたら……読み終わってから電話すりゃいいのに、読んでる最中なのに、「もう、読んでる場合じゃあないッ!」って本を放り投げて電話をしたと。それを聞いた僕は、「やっぱり熱いなあ、島本和彦は」って思って、もう、すぐに家の近所のルノアールに行って話をしました。

┃岡田斗司夫は『アオイホノオ』には登場しないはずだった?
そこで言われたのがもう恨み言です。「なんで俺がアオイホノオを書く時にこれがなかったんだッ!? これがあったらアオイホノオは変わってたよッ!」って。そういうことを散々言われて(笑)
島本さんは島本さんで、ガイナックスの庵野君とか赤井君とかに話を聞いたり、取材はもう十分に済ませていたので、もう大丈夫だろうと思ってたんですね。なぜかというと、僕自身がアオイホノオの中に登場する予定がないからです。
僕が彼と初めて会ったのは、島本さん原作のアニメ『炎の転校生』の打ち合わせの時で、学生時代には顔を合わせていないんですよ。
まあ、僕をモチーフにしたキャラは、“自分の作品をダメにするアニメ業界のイヤなプロデューサー”の役として、『燃えよペン』の方に出てくるんですけども(笑)
┃イヤなプロデューサーとしての岡田斗司夫と、完敗した島本和彦
だって、『炎の転校生』をアニメとして作っても、そんなに売れるとは思わなかったんだもん。まあ、本当に売れなかったんですけどね。なぜかというと、炎の転校生は“ギャグ”だからです。ギャグは売れないんです。それは、日本人が持っているメンタリティなんですけども。
そこで僕は「こうなったら“パンチラ”だ!」っていう話をしたんです。「無意味にしょっちゅうパンチラシーンを出して、登場人物がみんな鼻血を出して、この鼻血の勢いで空を飛ぼう!」と。で、そうやって鼻血で空を飛んでいる人間が、上空で本気の空中戦を繰り広げるんですよ。
そんな話をしたら、もう、監督もビクターのお偉いさんも大喜びだったんですよ。「岡田君、それは売れるよ!」って。そんな中で、唯一、渋い顔してたのが島本和彦だったんです。でも、その時の島本和彦の気持ちはよくわかる。
「なんか岡田だけがウケている」と。「俺は今までありとあらゆる打ち合わせで、俺以上にウケるヤツを見たことがない!」と。おまけに「俺はここでもっとウケる方法を知ってる! 俺にだってこの企画をもっと面白くするアイデアはあるッ!」と。「でも、それをすると俺のアニメがもっとダメになるッ!」と(笑)
島本君、打ち合わせでは「完敗だッ!」とか言って帰って、その日は泣いてカラオケをしたそうです。たぶん、あいつの性格ですから、本当に泣いてカラオケしたんだと思います。

なので、『アオイホノオ』に僕が出てくる予定はなくて。 本当に、彼が電話かけてくれたのは、『遺言』の中の話に物語性があったからだと思いますね。つまり、資料本とか、もしくは裏話とかエピソード集ではなくて、物語作家としての島本和彦が「これは物語になってるッ!」ってことで。
だから、俺と島本くんは、「この『遺言』、絶対にNHKの朝ドラでやるといいよな!」とか、「その時の俺の役は~」とか、「庵野の役だけは庵野本人にやらせよう!」とか、そんなことを話してました。
ライター:矢村秋歩(FREEex)
2010年11月27日岡田斗司夫のひとり夜話ex「富野由悠季を語る。」より
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