ブログの特長であるトラックバックにちなみ、ブログ関連サービスに携わる方を次々に紹介していただき、ブログの世界をつないでいくインタビュー連載です。第3回は、メーラー型の「Headline-Reader」、ティッカー型の「Headline-Deskbar」など、数々のRSSリーダーを提供するInfoMakerの大倉貴之さんです。
大倉貴之(おおくら たかゆき) メーラー型のRSSリーダー「Headline-Reader」、ティッカー型のRSSリーダー「Headline-Deskbar」のほか、RSSを手動で作成できる「Headline-Editor」など、RSS関連のソフトを多数手がける。
□InfoMaker
http://www.infomaker.jp/
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■ 独自開発していた更新通知ソフトがRSSリーダーのきっかけ
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InfoMaker
http://www.infomaker.jp/
RSSリーダー「Headline-Reader」「Headline-Deskbar」、RSSエディター「Headline-Editor」を提供している
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メーラー型のRSSリーダー「Headline-Reader」(シェアウェア)。登録したRSSごとの更新時間設定やサイトのタブ表示など豊富な機能が特徴
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――本日はよろしくお願いします。まず、大倉さんがRSS関連ソフトを手がけることになったきっかけを教えてください。
大倉氏:新製品や新着情報などの更新通知ソフトをXMLで個人的に開発していたのが始まりです。ソフトがほぼ完成した段階で、配布方法を模索していたところ、RSSというフォーマットと、RSSリーダーというソフトが存在することを知りました。データ構造を調べてみると、自分が作ったソフトとほぼ同じだったのです。「RSSが世界標準になるのであれば、自分の作ったソフトも無駄になるだろう」と考え、自分のソフトは完成と同時に捨ててしまい、RSSリーダーの開発へ進んだというのが経緯です。
もともとそのソフトは、パッケージソフトのバージョンアップ情報やキャンペーン情報を配信するプラグインとして開発を進めていました。情報発信用の「InfoEditor」、受信用の「InfoClient」という2つのソフトを開発していたのですが、このうちInfoEditorの機能の一部分を抜き出して作ったのが、RSSを手動で作成できる「Headline-Editor」です。
――メーラー型の「Headline-Reader」は有料のシェアウェアですが、現在どのくらいのユーザーが利用していますか。
大倉氏:30日間利用できる試用版が1カ月に8,000ダウンロード程度で、現在までに約1,500本が有料登録されています。購買層の中心はビジネスや情報収集目的のユーザーのようです(※1,500本は月間ではなく、通算の数値です)。
有料での提供を決めるまでには、実際迷いがありました。無償で配布もしたい一方、シェアウェアで自分の実力を試してみたいという気持ちもありました。当初シェアウェアとして設定したかった価格と、無償配布の間を取ったのが、現在の1,500円という価格です。
――ティッカー型の「Headline-Deskbar」は無償で配布されていますね。
大倉氏:ソフトウェア開発を手がけている立場から、「サポートと保守に手間暇がかかるものは対価をいただく」という考えを持っています。Headline-Readerはサポート体制も整えていて、場合によっては操作説明にも対応できる環境を作っています。Headline-Deskbarの場合は、サポートがさほど必要ないだろうという考えと、元々Headline-Readerも無償配布したいという思いがあったことから、無償配布することにしました。
ティッカー型のRSSリーダー「Headline-Deskbar」(フリーウェア)。Internet Explorerのツールバー(画面上)やタスクバー(画面下)など、さまざまな場所に設置できる
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■ Headline-Readerではジェスチャー機能もサポート
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Headline-Readerの1.20ベータ版ではジェスチャー機能をサポート
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――Headline-Readerはメーラー型との位置付けですが、実際にはブラウザ機能も搭載していますね。ブラウザ機能の拡張は予定されていますか。
大倉氏:最近では、「(タブブラウザの)『Sleipnir』に追いついて」という要望をいただいています。要望には頑張って応えなければと思っていますが、実のところ、あまり多機能ではいけないという考えも持っています。というのも、ブラウザの機能が豊富になればなるほどソフトが重くなってしまうからです。もちろんデータが増えれば重くなるのは当然ですが、基本的には「仕事の合間にちょっと立ち上げる」という位置付けのソフトなので、できるだけ基本的な機能にとどめておこうという方針です。
大倉氏:Headline-Readerの要望はジェスチャー操作とキーカスタマイズが多いのですが、キーカスタマイズをシェアウェアで導入するのは正直言って覚悟が必要です。パッケージソフトの開発に携わっていた時も、インストール直後に設定を変えていたのを忘れてしまったユーザーから「マニュアル通りの操作ができない」といったトラブルの対応をしたことがありました。こういったトラブルが一番解決が難しいので、初心者にも使えるソフトウェアである為にも、カスタマイズ機能はできるだけ少なくしたいという考えです。ただ、ジェスチャー操作はそれほど重くならないと思いますし、挑戦してみたいと思っています(※Headline-Readerの「ver.1.20」ベータ版では、ジェスチャー機能が搭載されています)。
ブラウザ機能もIE(Internet Explorer)コンポーネントを採用していますが、これは私が動作確認のために業務で使っていることに加えて、「標準的なブラウザを使う」という基本的な考えがあるからです。他のブラウザのコンポーネントを採用して欲しいという要望もありますが、それを使うと機能に制限が出てしまう可能性もあります。できるだけシンプルかつ使いやすいRSSリーダーを、というのが私の狙いです。
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Headline-Editor Lite版(フリーウェア)。RSS非対応のホームページでも手動でRSSを作成できる
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――Headline-Editorは現在Lite版ですが、今後の機能拡張の予定は。
大倉氏:もともとの製品だったInfoEditorはもっと高機能でした。プロジェクト管理やFTPのアップロード、HTMLの新着ページ作成といった機能も搭載していたので、この辺りの機能をサポートして、「Lite」という名称を外したいと思っています。Lite版はInfoMakerのサイトでも使っているのですが、データを保存・確認してからFTPツールでアップロードと、かなり手順が面倒です。データを入力してから新着情報のHTMLページまでを自動で生成できるなど、自分が面倒に感じている部分はすべて改善したいですね。
昨年から今年にかけてブログブームが起きて、企業サイトもブログシステムへとシフトしていくのでは、と予想していたのですが、実際にはすべてのサイトがブログになってRSSを自動で配信する、というわけにはいかないようです。Headline-Editorも、無償版のほかに、ビジネスでも利用できるような高機能のものを開発して、プラスアルファの有償版という形で提供できれば、と考えています。
RSSというと、ブログやCMSが更新されたついでに自動で生成されるというイメージが強く、RSSを手動で作成するHeadline-Editorは、存在そのものに疑問を持たれていたこともありました。けれど実際には、地方自治体や地域情報のコミュニティサイトといった情報発信の場など、意外なところで使われているようです。役所や公共団体といったところにこそ、地域に密着した情報を発信して欲しいし、そういった形で使っていただけると嬉しく思います。
■ InfoMaker第3のRSSリーダーも準備中
――現在予定されている新サービスはありますか。
大倉氏:RSS関連では、新しいRSSリーダーがアルファバージョンで進んでいます。現在のところメーラー型の「Headline-Reader」、ティッカー型の「Headline-Deskbar」と出しているので、残っている種類と言えばWeb型、ということになりますね。
機能面では、海外製のRSSリーダー「Bloglines」でもすでに実現されているのですが、データを蓄積してクライアント型RSSリーダーを中継できるような機能を搭載しようかと考えています。Bloglinesは非常に良くできているので、あれを見てしまうとなかなか開発が進まないのですが、シンプルで必要最低限な機能を搭載して、そこにクライアントとの連携を加えていきたいと考えています。
大倉氏:ただし、Web型のRSSリーダーは運営が難しいのでは、という不安もあります。現在アルファ版のWeb型RSSリーダーも、着手した当初は動作が軽快で、Bloglinesを追いつけ追い越せ、という気持ちでチューニングを重ねてきました。ところが先日Bloglinesにアクセスしてみたら、非常に重くなっていて驚いたのです。国内でもWeb型のRSSリーダーが提供されていますが、発表されてしばらくすると日増しに重くなっていく傾向が見られるようです。
――サービス提供側がサーバーなどの設備を増設していくという面では、Web型の運営は大変そうですね。
大倉氏:広告収入という方法もあるとは思いますが、設備投資の面から考えれば、対費用効果が悪すぎるのではないかと思い始めました。以前はクライアント型よりもWeb型のリーダーが優位なのではないかと考えていたのですが、今ではWeb型はひょっとしたら消えて無くなってしまうのではないか、もしくはWeb型のRSSリーダーが多く登場することで負荷が分散され、何とか運営していけるのではないか、と考えています。
――実際にWeb型のRSSリーダーを提供できる見込みはありますか。
大倉氏:現在は私のみが利用できる実地テストを行なっていますが、ユーザー数に制限をかけなければ提供は難しいのではないかと見ています。今は負荷を分散させるためにサーバー3台で構成しようと考えていますが、それでも数千人規模のアクセスには耐えられないかもしれません。
Web型のRSSリーダーは例えるなら、検索サイトで検索ボタンを連打しているイメージですね。RSSリーダーもこまめにみれば記事は数えるほどですが、データベースに何度もアクセスすることで検索エンジンを連打しているようなイメージになります。検索エンジンよりもサーバー負荷は高いのではないでしょうか。
――Web型のRSSリーダーは有料での提供になるのでしょうか。
大倉氏:課金する方法が難しいので、結局は広告収入のような形になるのではないかと見ています。ただし、1台のサーバーで対応できるユーザー数は限られてしまうので、広告主から「1サーバーでどれだけの会員を処理できるか」と言われてしまった段階で成り立たないかもしれません。正直なところ、堂々巡りしながらも検討を進めているという段階です。
■ 新たな検索エンジンとしてのRSSの可能性
――RSSは今後どうなっていくでしょうか。
大倉氏:RSSは完成されたフォーマットで、拡張はできるけれど情報を増やす程度のものですから、RSSで何かすごいことができるか、というとそうではないと思います。RSSデータから情報を収集するといった使い方が、一番ポピュラーなのではないでしょうか。
ただ、極端な話をすれば、世の中のサイトがすべてブログになったとすれば、従来のロボット型検索エンジンは必要なくなってしまうかもしれません。ロボットが一生懸命に情報を探すのではなく、更新した側が更新情報を検索エンジンに通知するというPingサーバーのような形で検索エンジンが構築できるので、そういった形でRSSは広がっていくのではないでしょうか。RSSにはタイトルも付いているし、きちんとした概要も付けられるので、精度の高い検索エンジンが作れると思います。
※Pingサーバー:ブログの更新情報を収集し、まとめて提供しているサーバー。ユーザーがブログ更新時に送信したPing情報がPingサーバーに反映される |
大倉氏:あとは日本最大のPingサーバーを誰かに作っていただきたいですね。この分野にはビジネスモデルがないと言われますが、Pingサーバーに蓄積されたデータ解析や提供といったビジネスモデルもあるのではないかと思います。ただ、国内最大級のブログ検索エンジンが始まれば、そこには必ずPingサーバー的な機能が必要になるので、誰かが気合いを入れてブログ検索エンジンを立ち上げてくれれば、自動的に国内最大級のPingサーバーができあがるのではないか、と予想しています。
――InfoMakerのビジネスモデルはどのようになっていますか。
大倉氏:今は有料提供しているHeadline-Readerと、ソフトのOEM供給ですね。OEMについては問い合わせもしばしば受けています。今後はアルファ版のWeb型RSSリーダーに加えて、RSSを取得するエンジンを提供することも検討しています。実際のところは知名度アップの段階でしょうか。しばらくはRSSに特化したソフトで行こうと考えていますが、パッケージ系のソフトでも開発できます。
――RSSリーダーのパッケージ販売の予定はありますか。
大倉氏:どこか別のところが扱う可能性はありますが、InfoMakerとしては考えていません。時おり量販店などでパッケージ販売されているRSSリーダーを見かけるのですが、販売店としてもRSSリーダーの扱い方に悩んでいるように見えるのです。パッケージソフトはDVD関連ソフトのようなホビーユースのソフトウェアの人気が圧倒的なので、今のところRSSリーダーはまだ店頭で買うまでには至っていないのかな、と感じています。
――本日はありがとうございました。
■ URL
InfoMaker
http://www.infomaker.jp/
(甲斐祐樹)
2004/11/19 11:25
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