“5,000円を切る”地デジチューナを繋いでみた
-ジャスコやサティでブリスターパックで販売
2011年7月24日のアナログテレビ停波まで後684日と、残された時間は2年を切った。地上デジタル放送受信機の普及世帯数は2009年3月に60.7%(3,035万世帯)と初めて6割に達し、目標としては2009年末に77%(3,850万世帯)、2011年4月に100%(5,000万世帯)が掲げられている。
地上デジタル放送対応テレビの価格も、購入しやすい水準に下がってきているが、今後の普及拡大のためにはさらなる低価格化が求められる。同時に、全ての人がテレビを買い替えるわけではなく、古いテレビにデジタルチューナを接続して継続使用する人も多いと見込まれる。リビングに地デジテレビがあるという家でも、各部屋はアナログテレビのままという状況も少なくないため、“低価格な地デジチューナ”も、普及率100%を目指すための重要な鍵となる。
そのため、総務省の情報通信審議会では以前から「5,000円以下の簡易チューナが早期に市場投入される事が重要」とし、各メーカーに低価格化への努力を要請。1万円や7,000円を切るモデルが登場しはじめた2009年5月の第6次中間答申でも「5,000円以下の簡易チューナの実現に向けて、一層環境を整備すべき」と、“5,000円以下”という価格に強いこだわりを見せている。
そんな中、遂に“5,000円以下”を実現したチューナが登場した。イオンが、ジャスコやサティなど481店舗で9月19日に発売する「PRD-BT102-PA1」だ。価格はズバリ4,980円。
地デジ普及に向けた価格破壊を象徴するとも言えるチューナ。製造したピクセラから一足先にお借りできたので、使ってみた。
【7月24日】“地デジ完全移行2年前”イベントで草なぎ&地デジカ登場
-北島三郎が歌う「地デジで元気音頭」も披露
http://av.watch.impress.co.jp/docs/news/20090724_304668.html
■ ブリスターパックで販売
前述のように、このモデルはイオンがピクセラに商品を提案し、ピクセラが製造した機種となる。そのため、使われているブランド名は、ピクセラの民生AV機器向けブランド「PRODIA(プロディア」だ。
ピクセラでは既に1万円を切る「PRD-BT100-P00 」を販売しているが、イオン販売モデルの違いはパッケージ段階で一目瞭然。コストダウンの一環として、ブリスターパックが採用されているのだ。店頭で“吊し”で地デジチューナが売られるというのは斬新な印象さえ受ける。
パッケージはブリスターパック | 背面には地上デジタル受信の基本が解説されている | 日本製をアピール |
同梱品はシンプルで、ACアダプタとAVケーブル(コンポジット/アナログステレオ音声)、リモコンとリモコン用の単4電池2本のみ。後はB-CASカードと説明書が付属する。B-CASカードは地上デジタル放送専用タイプであるため、カードの色は青。底面のスリットに挿入する。説明書には大きなイラストが豊富に使われており、AV機器に詳しくない人にもわかりやすそうだ。
内容物の一覧 | 付属のACアダプタも小型 | B-CASカードと説明書が付属する |
B-CASカードは地上デジタル専用なので青いカードになる | カードは底面のスリットに挿入する | 説明書には接続方法などがイラスト入りでわかりやすく書かれている |
付属のリモコン |
端子類も最低限で、コンポジット出力とアナログステレオ音声(RCA)出力が各1系統。後はアンテナ入力しかない。前面のボタンも電源ボタンのみで、操作は全て付属リモコンから行なう。
リモコンには中央に決定ボタンを供えた十字操作キーと、テンキー、チャンネルの順送り/戻しボタン、番組表ボタンなどを装備。地上デジタル放送の切り替えスピードは3秒弱と標準的。テンキーでのダイレクト選局もできるのでストレスは無い。
本体に備えているボタンは電源のみ | 背面。出力はコンポジットとアナログステレオ音声(RCA)のみだ |
メニューやEPGの番組表表示も高速だ。EPGの表示文字サイズは3サイズ用意しており、小さなテレビと接続して文字が見えないという場合に切り替えられる。番組を選択して決定ボタンを押せば詳細情報が表示される。データは8日分受信可能。なお、視聴予約機能は備えていない。リモコンに独立した「裏番組表」ボタンを供えているのがポイントで、同じ時間帯に放送している他局の番組名が一覧表示できる。
表示画面モードは「ワイド」と「4:3レター」、「4:3パンスキャン」を用意。リモコンの画面モードボタンで切り替える。メニューからは緊急放送自動切換や、無操作自動電源OFF機能などの設定ができる。字幕表示、音声切換にも対応。データ放送には対応していないが、小さめのテレビと組み合わせるなら、必要な機能は網羅されていると言っても良いだろう。
初回起動時はチャンネルスキャンがスタートする | メニュー画面 | 画面モードは3種類から選べる |
EPGの表示モードは3種類 | ||
番組の詳細表示 | 裏番組表示画面 | 設定メニュー |
出力はコンポジットのみで、当然ながらハイビジョン解像度での表示はできない。文字のテロップや右上に表示されるテレビ局のロゴマーク、人間の髪などで解像度の低さを感じさせる。人肌も情報量が不足した平面的な描写になるが、肌荒れも克明に描くハイビジョンより“アラ”が目立たない、ソフトな映像とも言える。
大画面テレビに拡大すると厳しいが、20インチ台までなら必要十分な画質。アナログ放送のようにゴーストやチラつきが出る事は無いため、比較的安定した映像が得られるのもデジタル放送の利点だ。家のアナログ放送(VHF)の受信状態が悪く、地デジ(UHF)が良好に入る環境ならば、ハイビジョン解像度は楽しめないものの、画質の改善が図れるケースも多いだろう。
字幕表示にも対応するが、データ放送には非対応 | 液晶テレビに表示したところ。NHKの右上ロゴ部分。解像感は甘くなるが必要十分な画質だ |
■ イオン主体の価格破壊
総務省は補助対象事業として、経済的に困窮度の高い世帯に(NHK受信料全額免除世帯)に対し、簡易地デジチューナの配布を予定している。その製品納入メーカーとして、アイ・オー・データ機器とバッファローが選ばれたのは既報の通り。総務省によるチューナの落札額は2社合計で最大約25億円で、これを配布予定の最大数60万台で割ると、1台あたりのおおよその納入額は約4,166円となる。今回のピクセラのチューナは、これらの製品とほぼ同レベルの価格を一足先に実現したものと言える。
地デジアンテナ(UHF)の環境さえ整えば、家に残るアナログテレビをとりあえずデジタル対応させる4,980円のチューナコストを“妥当”と感じる人は多いだろう。また、この価格とサイズならば、田舎のおじいちゃんおばあちゃんの家に帰省がてら、近所のジャスコでチューナを買ってきて取り付けてあげる……という事も気軽にできそうだ。
低価格なチューナは“世帯普及率100%”に不可欠であり、今後はAV機器や家電にあまり興味が無い人達にどのようにアプローチしていくかが重要になる。そういった意味で、家電量販店ではなく、ジャスコやサティなどを有するイオンが主体となって実現させた“価格破壊”は、象徴的な出来事と言えそうだ。
(2009年 9月 8日)
[AV Watch編集部 山崎健太郎]