小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第677回:1万円台でも簡単&安全、Parrotミニドローン
第677回:1万円台でも簡単&安全、Parrotミニドローン
驚異の安定飛行Rolling Spider、爆走動画Jumping Sumo
(2014/9/3 09:45)
高度化する「空飛ぶおもちゃ」
最近、クワッドコプター周りの技術革新がめざましい。数年前にジャイロセンサーが小型・高度化して以降、ホビー向けのヘリが急激に増えた時期があったが、そこからまた一段世代が上がったのが今である。
最近1万円前後で売られている小型クワッドコプターの性能は、かなり良くなっている。以前はホバリングさせるだけでも相当練習しなければどこに飛んでいくかわからないので、狭い室内で飛ばすなど論外だったものが、最近の機種は非常に安定するようになった。
そんな中、Parrotが発売するミニドローンシリーズは、さらにもう一段階段を上ったガジェットだ。「Rolling Spider」は、室内でも安定した飛行が楽しめる小型クワッドコプター、「Jumping Sumo」はその技術を応用したラジコンカーである。
オフィシャルサイトでは未だ近日発売予定のままだが、Amazonではもう販売されている。9月2日の時点ではRolling Spiderが11,635円、Jumping Sumoが17,998円だ。ホビーショップでもすでに販売しているところはあると思われる。
Parrotと言えば、AV機器では高級ノイズキャンセリングヘッドホン「Parrot ZIK」がよく知られているところだが、クワッドコプターでは「AR. Drone 2.0」というモデルで注目を集めるフランスのメーカーだ。
今回お借りした2モデルは、「AR. Drone 2.0」と比べると“おもちゃ”の領域ではあるものの、将来的には手軽な空撮やドリー(動く被写体をカメラが追いながら撮影する)など、撮影技術に応用できるはずだ。今回は両方のモデルをお借りして、その技術な見所をチェックしてみたい。
誰でも安全に楽しめるRolling Spider
まずは小型クワッドコプターのRolling Spiderを見てみよう。ボディ本体としては、手のひらに乗る程度のサイズで、ホビーでは1万円前後でこれぐらいのサイズのものが沢山売られている。
ユニークなのは、両脇に大きな車輪が付けられるところだ。この車輪で天井を走らせたりすることもできるわけだが、これにはプロペラのガードとしての役割もある。取り付けると機体はどこにも接触しないので、室内では安全のために取り付けた方がいいだろう。
なお、この車輪は簡単に着脱できるようになっている。屋外では車輪があると風の影響を大きく受けて機体が安定しないので、かえって危ない。屋外では外して使うほうがいいだろう。
前面は顔のようなデザインになっており、目の部分のLEDで機体のステータスがわかるようになっている。背面にバッテリースロットがあり、専用バッテリーを差し込むと、勝手に電源が入る。
また背面にはmicroUSB端子があり、本体でバッテリの充電を行なう。多くの製品では機体を軽量化するために、充電機能は省いて別途USB充電器を付けるものが多いが、その点では珍しいタイプと言えるだろう。
底部にある大きなシルバーの部材は、超音波センサーだ。これにより地面の反射音を測定して、低空での高度を測定する。高度が上がると、今度は気圧センサーで高度を感知する。
また垂直下向きにカメラを備えている。これは静止画も撮影できるが、地面を撮影することで機体のズレを検知し、一定の位置で静止する用途として使われている。また機体の速度計測もこのカメラで行なう。なお、動画撮影はできない。
コントローラはハードウェアではなく、iOS/Android用のアプリ「FreeFlight 3」で行なう。機体とスマホ間はBluetooth接続だ。操作範囲は約20mだが、高度は3m程度しか上がらないようになっているようだ。
驚異的に安定した飛行
ではさっそく飛ばしてみよう。機体にバッテリを装着し、正面のLEDがグリーンに点滅したら「FreeFlight 3」を起動する。自動的に機体と接続され、コントロールが可能になる。
このアプリは機体と接続できないと、延々と動画のプロモーションを繰り返し見る派目になるので、スマホのボリュームは絞っておいた方がいいだろう。こういうアプリの作りは、すでに実機を購入したユーザーにとってはしつこいだけで、マイナスだろうと思う。
画面下の「TAKE OFF」をタップすると、自動で50cmほど浮上した状態で静止する。普通1万円前後の機体では、同じ位置にホバリングさせるためには細かいコントローラの操作が必要だが、本機の場合は手放しが基本だ。屋外で風があっても、カメラで常時自分の位置を捕捉しているので、多少は流されても元の位置に戻ってくる。ここまでの安定性は、同価格帯のクワッドコプターにはない。
コントロール画面左のホイールの上下をドラッグすると高さ、左右が旋回だ。前後左右の進行は、右の小さいアイコンを押しながらスマホを傾けると、その方向に進む。前後左右の移動は、スマホのジャイロセンサーを使ってコントロールするわけだ。
飛行速度は最大時速18kmということで、結構速い。指を離すと逆方向にブレーキをかけながらすぐその場に止まるので、イキオイでどこかに激突することはない。また機体に何らかの衝撃が加わると、ぶつかったと判断してすぐにローターが停止する。作りとしてはかなり安全だ。
アプリには、いくつかの曲芸飛行のパターンがプリセットされている。回転のパターンを選び、右の操作アイコンをダブルタップすると、回転動作が実行される。回転で位置がずれても、ゆっくり前の場所に戻ってくる。
ただホイールを付けた状態では、横回転はモーメントがかかりすぎるのか、あんまり上手くいかない。ホイール装着時は前後回転だけにしておいたほうが無難だろう。
ホイールを付けると、天井に貼り付いて車のように走行させることができる。ただ、あまり激しく天井にぶつけると、衝突したと関知してローターが止まり、落ちてしまうので、そっと天井にあてるような操縦が必要だ。
天井で遊ぶのは新しいとは言えるが、普通は中央に照明器具があるので、だたっぴろい空間というわけではない。どこかへ貼り付いているより、中空に浮いているほうがあきらかに楽しいので、正直この機能はそれほど面白いとは思えない。
一応静止画も撮影してみた。コントローラのカメラボタンを押すと、本体内蔵メモリに静止画が記録される。それをあとでスマホ側に転送して表示させる、という流れだ。
カメラスペックとしては30万画素しかないので、640×480ドットのVGAサイズである。写りも昔のCMOSカメラ程度の性能で、そもそも真下しか撮れないので、撮影機能としてはあまり期待しない方がいいだろう。
1本のバッテリでのフライト時間はおよそ8分。バッテリ残量が15%以下になると、コントローラ側に警告が出る。「TAKE OFF」ボタンが「LANDING」に変わっているので、これを押すと自動的に着陸する。
とにかく手を離せばその場で止まっているので、変なところに飛んで行ってしまう心配がないのは、初心者にも易しい作りだ。一方ある程度操縦できる人にとってはやることが何もないので、あまり面白くはないだろう。
コントローラの機能としては、機体の撮影モードがある。これはスマホのカメラで飛んでいる機体を撮影しつつ、同時に画面で機体を操作することになる。このときスマホ側のジャイロセンサーは使えない(カメラで機体を追わないといけない)ので、右手の前後左右進行操作は、左手と同じようにドラッグ操作となる。
GPSを使わずシンプルな構造でありながら、ソフトウェアの力で安全で安定した飛行が可能なRolling Spiderは、クワッドコプターの次世代を示唆している。
爆走動画が撮れる! Jumping Sumo
続いて車タイプのJumping Sumoを試してみよう。本体はテニスボールぐらいのサイズで、後ろからジャンプ用の機構が伸びている。左右のタイヤと、この3点で走行するというスタイルだ。
左右のタイヤは、横幅を調整できる。屋外では広げた方が、安定した走行ができるだろう。狭めればそれだけ小回りが効くようになるので、室内でメリットがある。
前面の目に相当する部分にはLEDライトが仕込まれており、ステータスがわかるようになっている。また内部にスピーカーを内蔵しており、数パターンの電子音で応答を返すようになっている。
前方にはカメラが仕込まれており、動画と静止画を撮影する事ができる。ただ解像度は動画、静止画ともに640×480ドットで、フレームレートは15fpsと、いまどきの搭載カメラスペックとしてはかなり低い。
前方にはmicroUSB端子があるが、これはバッテリの充電に使用するほか、動画撮影には別途microUSBメモリをここに挿す必要がある。これは最近スマートフォン用の拡張メモリとして売られているもので、いわゆるUSBメモリなのだが、先端がmicroUSBになっているものだ。多くの製品は反対側が標準のUSB端子になっており、PCとスマホ間のデータのやりとりに使えるようになっている。
上部には電源ボタンがある。10秒ほど長押しして手を離すと、電源が切れる。バッテリは背面から挿入するようになっているが、ものすごく装着しずらい作りになっている。おそらく本体の動きが激しいため、バッテリーが簡単に外れないようになっているのだろう。
これも同じく、スマホのFreeFlight 3でコントロールする。ただし本体との接続は、Wi-Fiだ。2.4GHz帯と5GHz帯の両方に対応する。5GHz帯に設定したものの、うまく接続できなかった場合は、電源ボタンを3秒押すと強制的に2.4GHzに戻る。
モニターしながら走行可能
ではこちらも操作してみよう。電源を入れると、ファミコンの起動音のような音がして、左右に一度ボディが振れる。このアクションでジャイロセンサーをリセットしているのかもしれない。
Wi-Fi接続はパスワードもなにもないので、誰でも繋がるアクセスポイントみたいな構造だが、アプリで接続してコントロールできるスマートフォンは1台なので、それで排他仕様にしているようだ。
Wi-Fiによる接続は、筆者の環境では安定せず、接続したと思ったらすぐに切断されるなどの現象が見られた。2.4GHz帯は最近混雑しているため、スマホが対応していれば5GHzに変更したほうがいいだろう。
操作としては、左のレバーで前進・後退、レバーを押さえながらスマホを左右に傾けると左右に回転する。右側の十字は、上下にスワイプすると180度方向転換、左右スワイプで90度方向転換だ。
右側に様々な機能を実行するショートカットが並んでいる。上から動画・静止画撮影、2段目は一括アクションのマクロボタンだ。3番目は前方へジャンプ、4番目は上へジャンプ、一番下は上下反転である。
Jumping Sumoの操作では、前方のカメラで常時映像が送られてくる。後方を確認したいときは、一番下のボタンをタップするとボディの上下がひっくり返るので、後ろが確認できる。カメラは自動で上下反転する。
通常のラジコンカーと違うのは、ジャンプ機能があることだろう。背面の前方と上方に、およそ80cmほどジャンプできる。これで障害物を自動で飛び越えたりといった動作が可能だ。
着地はドタバタして綺麗ではないが、タイヤが衝撃を防止し、本体にダメージがないような構造になっている。また内蔵のジャイロにより、着地後はすばやく進行方向に向き直るため、ジャンプした後操作がわけわからなくなるということはない。このあたりは、クワッドコプターの技術が生かされているようだ。
今回は屋外の駐車場で動画を撮影してみた。あまり路面のコンディションが良くなかったので、かなりガタガタだ。それもそのはずで、JUMPING SUMOはジャンプ用の機構を引きずるような格好で走行する。この機構にはタイヤが付いてないので、路面のコンディションによっては思ったような方向に進まない事がある。どちらかというと室内使用が前提なのかもしれない。
ただ、撮れた映像は思いのほか迫力があって、なかなか面白かった。ガタガタなのもまた良かったのかもしれない。高速スピンやジャンプの時は、撮ってもツライかなと思っていたが、動きのほうが早過ぎて、15fpsではほとんど写っていない。それもまた、丁度いい塩梅になっている。
録画に使用するmicroUSBメモリーは、長さの短いものがいいだろう。今回使用したタイプでは、前方に角みたいに突き出す格好になってしまうので、ボディの回転時に地面に引っかかって、正常に正対できなくなってしまった。
さらにその発展形として、動作を事前にプログラムすることもできる。何m前進、回転、そこで写真を撮るといった必要な動作をリスト状に並べていき、ロードマップを作ると、その通りに動作させることができる。障害物を綺麗に乗り越えてまで絶対位置に到達するわけではないが、実行プログラムの考え方を学ぶ教材として、なかなか面白い。
総論
今回はAV Watchでは珍しく、玩具を取り上げた。一応写真や動画は撮れるので、ギリギリAV製品と言えなくもない。すごい映像が撮れるというよりも、すごい映像を撮るための前段階のテクノロジーを体験するという格好である。
双方ともに、本体内の制御機能が非常に高度だ。特に姿勢制御については、これぐらいのオモチャ価格のものでも、その性能の高さに驚く。もちろんこれらの技術は、単なるオモチャとして終わるわけではない。あと1~2年もしたら、これらの技術を応用したハンディ撮影用のスタビライザーやジンバル類が登場することだろう。
一方、気軽に撮影ができる製品としては、これまでオモチャレベルのカメラを搭載した製品はいくつもあったが、Parrotのサイトには同じく近日発売予定として「Bebop Drone」なる製品もお目見えしている。ルックスからすると、正面のアクションカム的なカメラで空撮を可能にする製品のようだ。これまでは、そこそこ鑑賞に堪えるクオリティの最低限が、先日ご紹介した「Phantom2 Vision+」であっただけに、この製品にも期待が高まるところだ。
もちろんこのような製品群は、ただ空撮するだけに留まらず、将来は危険区域の監視や捜索といった用途でも発展が見込まれる分野だ。ホビーから業務ユースまで、幅広いニーズに応えられるという意味では、かつてのネットワークカメラやUSBカメラの発達と重なるところがある。
今後も動かせるリモートカメラとしての遠隔操作ガジェットには、注目していきたい。
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