小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第632回:レンズだけカメラ? ソニー「DSC-QX10/100」を試す
“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”
第632回:レンズだけカメラ? ソニー「DSC-QX10/100」を試す
画像はスマホで確認。行くところまで行った意欲作
(2013/9/25 10:00)
コンデジの次に来るもの
日本におけるコンパクトデジカメ市場は、2010年頃をピークに台数ベースでシュリンクし始めている。この頃からケータイのカメラが性能を上げてきたこと、さらにはスマートフォンへの移行が進み、写真の活用の仕方がソーシャルへ向かったことなどが要因と考えられている。
カメラメーカーとしては、そのぶんをミラーレスで補完しようとするが、ライトユーザーはスマホで十分と考え、むしろスマホのカメラの進化に期待する向きもある。コンパクトデジカメは、一部の商品が高級志向で成功したのを除けば、魅力不足は否めない。
そんな中、ソニーが「レンズスタイルカメラ」という新ジャンルを提案してきた。カメラ部分のレンズとセンサー、画像処理エンジンや記録系だけを搭載し、液晶モニターが無いカメラだ。Wi-Fiでスマートフォンと接続し、コントロールはすべてスマートフォンから行なう。
スマートフォンのカメラも進化はするものの、光学ズームがない、レンズ口径が小さい、センサーサイズも小さいといったマイナスポイントはどうしても付きまとう。少しカメラのことがわかっている人は、「まあスマホはスマホなので」と割り切っているが、多くのユーザーはスマホのカメラを拡張したいと思っていることだろう。
レンズスタイルカメラとして投入されるDSC-QX10とQX100は、そんなニーズへの回答であるようにも思える。どちらも10月25日発売で、店頭予想価格は前者が2万5,000円前後、後者が5万5,000円前後。
ユニークな発想の新スタイルを、早速テストしてみよう。
レンズ部分だけを切り出したようなルックス
まず大まかに概略を掴んでおこう。DSC-QX10は光学10倍ズームを備えた、いわゆるコンパクトデジカメ相当の能力を持つタイプ。DSC-QX100は高級路線で、カールツアイスレンズを搭載した、高級コンデジ相当の能力を持つタイプである。
ハードウェア的には、QX100のほうが長い&重いというぐらいで、構造としてはかなり似ている。重量はQX10が105g、QX100が179g。QX100は、鏡筒部の先にマニュアルリングがある。
電源ボタンは上部にある。出っ張っていないので、爪の先か指の腹で押し込むというスタイルだ。これは持ち歩き時の誤動作を避けるためだろう。同じく上部にはNFCと、ステレオマイクがある。
電源を入れると、レンズが飛び出してくる。ボディは小型だが、起動時には全長が1.5倍から2倍ぐらいに長くなると思っておいた方がいいだろう。
正面から見て右側には、ズームレバーとシャッターボタンがある。カバー内にはHDMIマイクロとmicroUSBの兼用端子がある。メモリーカードスロットは、QX100はマルチ端子の隣にあるが、QX10は背面のバッテリーカバーを開けた底部にある。
左側には小さなディスプレイがあり、バッテリー残量とメモリーカードの有無を表示する。その下はストラップホールだ。後ろのレバーは、スマートフォンに取り付けるためのアタッチメントをリリースするためのものである。
背面のフタをスライドさせると、バッテリが出てくる。バッテリーは薄型のNタイプを採用。フタの裏面には、スマートフォンにダイレクト接続するためのSSIDとパスワードが記してある。SSIDとパスワードは変更できない。
スマートフォン取り付け用のアタッチメントは、カメラの背面にバヨネット方式で止めるスタイル。フックを起こし、スマートフォンを挟み込むことで、コンパクトデジカメ同様の使い勝手となる。
挟めるスマートフォンの寸法は、幅54~75mm、厚みは13mm以下となっている。7インチのタブレットはさすがに無理だが、5インチぐらいまでのスマートフォンなら大丈夫だろう。
カメラ的に違いのあるスペックは両者を比較した方がわかりやすいと思われるので、表にしてみた。
モデル名 | QX10 | QX100 |
レンズ | ソニーGレンズ | カールツァイス 「バリオ・ゾナーT*」 |
焦点距離 (35mm換算) | 25~250mm(4:3) | 28~100mm(3:2) |
開放F値 | F3.3~5.9 | F1.8~4.9 |
センサーサイズ | 1/2.3型 | 1.0型 |
有効画素数 | 1,820万画素 | 2,020万画素 |
フォーカスモード | AF/タッチAF | AF/タッチAF/マニュアル |
フォーカスエリア | マルチポイント9点 | マルチポイント25点 |
ISO感度 | 100~12800 | 160~25600 |
撮影モード | プレミアムおまかせオート おまかせオート プログラムオート 動画 | プレミアムおまかせオート おまかせオート プログラムオート 絞り優先 動画 |
性能的には、QX10は同社コンパクトデジカメの「DSC-WX200」とほぼ同等、QX100は「DSC-RX100M2」とほぼ同等ということである。DSC-RX100は1インチセンサーを搭載したハイエンドモデルで、以前レビューしたことがある。DSC-RX100M2はセンサーを裏面照射に変更した後継機だ。
共通スペックをまとめてみよう。画像処理エンジンはBIONZ。記録メディアはメモリースティック マイクロ(Mark2含む)か、microSDカード(SDHC/SDXC含む)である。
動画はMP4で、ビットレート12Mbps、解像度は1,440×1,080/30fpsの1モードのみとなっている。
画質はまったくデジカメ
ではさっそく撮影である。今回は動画性能があんまり大したことないので、新しいタイプの写真撮影ガジェットとして評価を行なっている。
まずスマートフォンとの連携だが、基本的にはWi-Fiダイレクトでカメラとスマホを接続する。NFC対応スマホであれば、カメラとスマホをくっつけるだけで接続設定が完了するが、基本的にはWi-Fiで繋がるだけなので、NFC非対応のスマホでもカメラが発信するSSIDに対してパスワードを入れてやれば、以降は自動的に繋がる。なお今回は、QX10とiPhone 4(iOS 6.1.3)、QX100とiPhone 5(iOS 7.0)という組み合わせで撮影している。
撮影のコントロールはPlayMemories Mobileというアプリを使用する。このアプリはアクションカムの「HDR-AS15」などでも使用しているもので、ソニーのカメラコントローラとしては汎用のアプリとなっている。
まずはQX10とiPhone 4(iOS 6.1.3)の組み合わせでテストしてみる。iPhone側がいささか古いが、Wi-Fiのパフォーマンスなどは変わらない。カメラ側とは2.4GHz帯のIEEE 801.11nで接続される。Wi-Fiで繋がったあとアプリを起動すると、カメラを認識するまでおよそ4~5秒かかる。
アタッチメントを使ってiPhoneとくっつけておくと、見た目は普通のデジカメである。カメラから送られてくる映像は、7フレームほどディレイしている。またフレームレートも10fps程度しかないので、使い勝手としては普通のデジカメのようにはいかない。
細かいことを言うと、カメラを動かした結果としての映像のフィードバックがディレイしているので、アングルを決めるのにもいったん行きすぎては戻る、みたいなことが頻繁に起こる。
撮影はレンズ本体横のシャッターボタンか、アプリ側のシャッターボタンで行なう。撮影されたフルサイズの写真はカメラ側のメモリーカードに記録されるが、スマートフォン側にも転送できる。スマートフォン側には、フルサイズの写真を送るか、2Mに縮小したものを送るかが選択できる。撮影したものをSNSに投稿するような場合は、2Mに設定した方が転送が速い。
QX10のメリットはやはりなんといっても、35mm換算で25mmという広角と、光学10倍ズームだろう。広角という点では最近のアクションカムは画角が170度ぐらいあるので、それには及ばないものの、湾曲を感じさせない広角の限界ギリギリで撮影できる。
また、タッチAFも可能だ。カメラから離れたスマートフォンの画面をタッチして、それでAFができるというのはなんとも不思議な感覚である。
画質としては、昨今のデジカメらしいパリッとした絵作りだ。背景はそれほどボケないが、幅広い範囲でフォーカスが合うので、近くも遠くも問題なく撮影できるという強みがある。ただワイド端では、若干周辺落ちが感じられる。
一方QX100とiPhone 5との組み合わせでは、鏡筒部がかなり長いので、割と取って付けた感がすごい。まあ実際取って付けてるわけだが、従来あり得なかったコンパクトカメラのスタイルとなる。
ポイントとしては、やはりこちらはある程度マニュアル撮影が可能なところだ。絞り優先モードでは、深度表現を活かした撮影が可能になる。絞りの設定は、画面左下にある絞りの数値をタップして、スライダーを表示させるというスタイル。±3の露出補正も可能だ。
フォーカスモードがAFの時は、マニュアルリングはズーム操作となる。マニュアルフォーカスにすると、リングは自動的にフォーカス操作に変わる。リング動作をユーザーが指定することはできないのは残念だ。
画質はツァイス特有の、あまり硬くなりすぎないがしっかりした芯のある絵になっている。深度の浅さがあるため、立体感のある表現が可能だ。スマホのカメラではまず撮れないタイプの写真である。
なおQX100はワイド端では近接5cmまで寄れるが、テレ端では55cmまでしか合わない。深度を浅くするためにテレ側で撮影しようとすると、結構被写体から離れないとフォーカスが合わない。ズーム倍率が3.5倍しかないので、小さいものを撮影しようとすると、テレ端でも寄り足りず、近寄ればフォーカスが合わないというジレンマに陥りがちだ。
未来感と現実の狭間
まずこのカメラのコンセプトを知ったときには、革新性よりも、妥当性のほうを強く感じた。“スマホに押されるコンデジ、どうすれば?”というマーケティングからみても、まさにここが落としどころなのである。
フル解像度の写真はメモリーカードに残し、小さいサイズの写真をスマホ側に自動転送してSNSで活用、という、実に美しい多段活用を備えている。そしてそれは実際にうまく働くのだが、問題がないとも言えない。
それは、カメラとスマホ間の接続がWi-Fiの、しかも2.4GHzという、現在もっとも広く使われている周波数帯域であると言う点だ。写真撮影にとって、ファインダーの絵がみられることは、非常に重要だ。だがQX10とQX100での撮影では、たびたびこのファインダー表示に相当するライブ映像が途切れてしまい、イラッとする。
例えば普通の住宅地でも、各家庭からWi-Fi電波が漏れ出してくる。街中や駅のホーム、イベント会場などでは、もっと大量のWi-Fiアクセスポイントが見つかる。Wi-Fiのアクセスポイントはチャンネルによって分けられ、ぶつかったチャンネルは自動的に避けて空いたチャンネルに逃げる機能があるが、逃げる隙間がないほどアクセスポイントが林立している場所では、ぶつかるしかない。
このようなケースでは、カメラとスマートフォンがなかなか接続できないということが起こる。これは、スマートフォンとカメラの距離は関係ない。カメラよりも高出力のWi-Fiが沢山出ていれば、それに負けてしまう。
また、2.4GHz帯はWi-Fiだけが使うのではなく、多くの無線機器が利用している。例えばワイヤレスの監視カメラの映像伝送や、小電力トランシーバー、電子レンジなどもこの周波数帯を利用しており、混雑も甚だしい。繁華街であればあるほど、あるいはモバイルルータを利用するような人が多く集まるようなイベントでは、カメラとスマートフォンの接続は難しくなるだろう。
もう一つの問題は、撮影するためには必ずスマートフォンと接続が必要という点だ。いやシャッターボタンは本体にあるので、ノーファインダでよければ撮影はできるが、誰もがそういう写真を撮りたいわけではないだろう。
例えば街中を撮影するとして、スマートフォンとカメラの電源を両方入れっぱなしにしておけば、常時接続されたままなので、すぐに撮影できる。だが実際にはどこかへ出かけて撮影しながら散策とはいっても、3分歩いて2枚、5分歩いて3枚と言った調子で、その間ずーっと電源を入れっぱなしというわけにはいかない。カメラはそこでバッテリーがなくなっても、撮影終了であれば構わないが、スマートフォンは帰り道でも必要だろう。
すると現実的には、少し撮影してはカメラの電源を切り、スマホは2~3分でスリープ状態になる。その状態で次の撮影スポットを見つけたとしても、まずカメラを起動、スマホを起こしてパスワード入力してロック解除、Wi-Fiの接続完了を待ち、アプリでカメラへアクセス、という手順を毎回踏むことになる。
Wi-Fiの接続がすんなり行けばいいが、途中でスマホがどこかのアクセスポイントを拾ったりすれば、いちいちWi-Fi設定を開いてカメラへ繋ぎ直し、そこで10秒ほど待たされてアプリとカメラの接続で5秒待たされて……となると、撮影する気力がすっかり萎えてしまう。シャッターチャンスがあっても、確実に取り逃がすだろう。
このような在り方は、スマホカメラと全く対極にある。スマホでは撮れない写真が撮れるのは事実なのだが、これならデジカメにEye-Fiを入れて持ち歩いた方が早いのではないか。
逆に言えば、このスマホとの同期問題が解決すれば、こんな使いやすいカメラはない。モニターと分離するので、ハイアングルでもローアングルでも、無理のない姿勢で撮影が可能だ。カメラだけ持って手を伸ばせばいいだけである。
これは案外、動物撮りに威力を発揮する。ネコは人が体ごとガバッと近寄っていくと怖がって逃げてしまうが、カメラだけ持って手を伸ばすと、なんだろうと逆に近寄ってくる。ネコ目線での撮影が可能になるわけだ。
ただ、PlayMemories Mobileの横倒しの画面上では、シャッターボタンが常に右側にしかないので、左手でスマホを持ったときにはシャッターが押しにくい。これ、上下をひっくり返せば映像はローテーションするが、ボタン位置はそのまま本体の向きにくっついていったほうがよかったのではないか。
また撮影に使わなくても、リモートカメラとしても活用できる。例えばカーテンレールの上にどれぐらい埃が溜まってるのかなとか、AVアンプの裏側はどこの入力が余ってるのかなとか、見えにくいところが手が届く範囲なら簡単に見えるのは便利だ。できればカメラ側にLEDライトも欲しいところである。
総論
個人的にデジタルカメラの未来は、限りなくレンズのみに近づくと予想していた。電気デバイス部分は小型化できても、光学部分は物理現象であるため、小型化できないからである。今回のQX10とQX100は、小型化の成果でこうなったわけではないが、そんな未来のデジカメの姿を予感させるものとなっている。
スマートフォンは、すべての機能を飲み込みつつある。映像、音楽、写真といった楽しみが、すべて1台に集約する。一定のコストで多くの人にこれらの楽しみを与えるという点では、大きなイノベーションであると言えるが、そこから外に出るにはどうすればいいのか。まずその第一歩を踏み出したのが、今回のQXシリーズであろう。
これは突然現われたものではなく、これまでのデジカメの流れを見ていれば当然の結論ではある。だが、誰もここまで大胆にやらなかったのもまた事実で、その点では“ソニーが最初にやった”と後々言われるであろう製品である。
その一方で、コンセプトはOKだが現在の技術では上手くいかない部分もある。まずWi-Fiのダイレクト接続は、さらに高速化する必要がある。また汎用性の高い2.4GHz帯ではなく、利用が少ない5GHz帯、さらに今年Wi-Fi Allianceとの統合が発表された60GHzを使うWiGigなど、より高速で近接距離接続に有利で、利用者の少ない周波数帯へ向けて真っ先に進んでいく必要がある。
もちろんスマートフォン側がついてこないと意味ないのだが、今もっとも動きの速いガジェットがスマートフォンであり、最新技術はまず先にここから投入されてくるので、問題ないだろうと思われる。
女性にとってみればQX10でもまだ大きいだろうし、今のWi-Fi運用では、繋がらなかった時に何が問題なのかが見えない点で、まだ難しいだろう。だがコンパクトデジカメの一つの潮流を作る可能性は大いにある。
ソニー DSC-QX10 ブラック | ソニー DSC-QX10 ホワイト | ソニー DSC-QX100 |
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