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最後のソニーストア? '17年春オープン「ソニーストア札幌」の狙いを聞く

 ソニーストアが2016年度内に3店舗を出店する、まさに「出店ラッシュ」の状況となっている。ソニーマーケティングでは、'16年4月のソニーストア福岡天神オープンに続き、東京・銀座のソニービルの立て替え計画に伴い、9月には銀座4丁目の交差点に誕生したGINZA PLACEの4~6階に、ソニーショールーム/ソニーストア銀座をリニューアルオープン。そして、2017年春には、ソニーストア札幌をオープンすることを発表した。2016年度内に3店舗を出店するというハイペースだ。

改装中のソニーストア札幌の前に立つ浅山執行役員

 ソニーストア福岡天神が、アップルストアの目の前の立地であったことは話題を集めたが、ソニーストア札幌は、アップルストア札幌の跡地への出店。さらに話題を集めることになった。ソニーストアの取り組みについて、ソニーマーケティングジャパン カスタマーマーケティング本部長の浅山隆嗣執行役員に話を聞いた。

ソニーストア札幌が出店する場所

アップルストア跡地に出店。隣は札幌三越。大規模改装でソニーストア化

――10月11日に、ソニーストア札幌の出店計画が明らかになりました。今年度はすでに新店舗を2店舗オープンしていましたから、札幌への出店は、もう少し時間がかかるのではないかと思っていたのですが。

浅山氏(以下敬称略):ソニーストアは、2004年に大阪・梅田に出店したのを皮切りに、2009年には東京・銀座に出店。そして、2010年には名古屋・栄に出店しました。まずは3大都市へ出店したわけです。実は、その頃から、ソニーでは、高付加価値製品が増えたこともあり、ソニーストアの店舗を通じて、実際に触っていただき、新たな使い方を提案していくという動きが顕著になってきました。ソニーストアの存在価値が高まり、ソニーファンを創出するために、これをもっと活用できないかという機運が生まれました。

 そこで、福岡や札幌にもソニーストアを出店したいと考え、この2つの店舗については、2015年度から出店の検討を本格的に開始しました。そうした意味でも、札幌へのソニーストアの出店は、我々にとって念願のものでした。東京・銀座のソニーストア銀座に、札幌のお客様が訪れ、「折角来たので、VAIOを購入して帰る」という方もいらっしゃいました。「ソニーストアが札幌にあったらいいのになぁ」という声は随分いただいていました。ぜひ早く出店をしたいと考えていたのですが、やはりいい物件に出会わなければ、その願いも叶いません。そこは苦労をしました。

ソニーストア札幌

――どんな条件の物件を探していたのですか?

浅山:JR札幌駅前にも多くの人が流れていますが、やはり大通近辺での物件を探していました。いい場所にあっても、器が小さくて、ソニーストアとしては狭すぎたというものも多かったといえます。やはり、30坪程度の物件では、ソニーストアは展開ができません。今回、ソニーストア札幌が出店する場所は、その点でも、納得のいく物件に出会うことが出来たといえます。近くには、ファストファッションの店舗もあり、若い人たちが集まっているエリアですし、それはソニーが狙うユーザー層とも合致します。また、隣が札幌三越ですから、シニア層の方々も多い。そして、アップルストア札幌の跡地といえばわかりやすいですし(笑)。

 残念なのは、地下街から直結していない点ですが、地下鉄からの便もいいですし、目の前の歩道は、このエリアでは、唯一、ロードヒーティング(融雪機能)となっており、雪が降っても歩きやすい環境になっているんです。これはメリットだと思っています。また、駐車場はビルにはないのですが、近隣に契約駐車場を用意したいと思っています。

隣には札幌三越があり、多くの人が訪れるエリア
現在、1階および2階の看板を撤去中。これはアップルストア当時のものだ
ソニーストア札幌前の歩道はロードヒーティング(融雪機能)となっている

――ソニーストア福岡天神では、アップルストア福岡天神と道を挟んで反対側でしたが、今度は、アップルストア札幌の跡地。狙いすぎのような感じもしますが(笑)

浅山:正直なところ、アップルストア札幌の跡地に、我々が入ることになるとは思ってもいませんでした。社員も驚いていましたよ。とはいえ、我々が出店したい物件の条件と、アップルストアが出店したい物件の条件は似通ったものでしょうから、こうしたことが起こることもあるのかと思います(笑)。

今はテナントが1社だけ。1階と2階にソニーストア札幌が入居する
地下1階への階段。アップルストアは1階と地下1階を利用していた

――社内では、「アップルストア札幌の跡地という言い方は禁句」というようなことはないのですか(笑)

浅山:社長の河野(ソニーマーケティングの河野弘社長)自らが、アップルストア札幌の跡地という言い方をしていますよ(笑)。わかりやすく伝わるのであれば、その言い方もありだと思います。もともとこのビルは古くて、かつては、隣接する札幌三越とも渡り廊下でつながっていて、札幌三越の社員食堂として利用されていた時期もあったようです。今回、ビルの建物内にはエスカレーターしか導線がなかったのですが、これを撤去してエレベーターに付け替えるリニューアル工事を行なっています。この工事は、1月末までに終わる予定なのですが、それと同時に、ソニーストア札幌の内装を同時に進めていくことになります。契約を結んだのはこの夏のことですから、これから、内部の空調はこのまま使えるのか、間仕切りはどうするのか、1階と2階のレイアウトをどうするのか、といったことも考えていかなくてはなりません。オープンまでに残された時間は、福岡天神のオープンよりも短いですね。

ビル内部はエスカレーターを撤去して、エレベーターに改装中
一番奥がエスカレーターがあったところだ

浅山:しかも、もうひとつ、懸念事項があります、実は、これまでのソニーストアはすべて、ビルが新しく出来たタイミングでの出店なのです。ですから、こちらの意見や要望も反映しながら店づくりをすることができました。しかし、今回は勝手が違います(笑)。導線ひとつをとっても、これまでにあるものを生かしながら、どうやって作るのかといった点で頭を悩ませています。

 2階フロアにはシアタールームおよびギャラリーを設置する予定なのですが、今のままでは、一度ストアの外に出ていただいてから、2階にエレベーターや階段を昇っていただくことになる。ストアのなかには、階段をつけることはできないのですが、ストアの奥から、2階にあがっていただけるようなレイアウトにしたいと思っています。

 また、2階には、札幌エリアの営業拠点であるソニーコンスーマーセールス札幌支店が入居することになります。ここはむしろ、お客様が入れないような形にしないといけません。福岡天神の店舗では、そのあたりはうまくレイアウトが出来たのですが、札幌では、これから検討していかなくてはならない部分ですね。

――ソニーストアと、ソニーコンスーマーセールスの拠点と場所を同じにするメリットはどこにありますか。

浅山:これは福岡天神の店舗からスタートしたものなのですが、営業にとって、大きなメリットがあることが実証されています。最大の違いは、商品の見せ方が変わるという点です。ソニーストアでは発売前の製品もいち早く展示しますから、支店の営業担当者が、お客様をその場に連れてきたり、ソニーストアで新製品の写真を撮って、すぐにお見せしたりといった活動ができるようになりました。商品の勉強会も、商品を触りながら出来るというメリットもあります。地域店の方々にも、自分の店に展示や在庫が出来ない高額製品については、ソニーストアを活用して商談をしてもらうといったこともできます。ソニーストアで見て、近隣の量販店での販売が増加するという結果も出ていますし、これまでにはない効果が出ています。札幌支店は約30人体制となりますが、ソニーストアと一緒になることを、札幌支店の社員もとても期待していますよ(笑)。

――アップルストアは1階と地下1階を使用していましたが、ソニーストアは、1階と2階ですね。これはなにかこだわりがありますか。

浅山:どちらの組み合わせでもいいということでしたので、地下1階に比べて、2階の方が、フロア面積が若干広かったので1階、2階の構成にしました。2階では、ギャラリーやシアタールームをきちっと作り、多くのお客様に来ていただけるようにしたいですね。実は、建物は結構奥行きがあるんです。これは福岡天神と同じ雰囲気ですね。

――アップルストア札幌の撤退時には、ビル全体のリニューアルが理由となって撤退が決定したのではないかといった憶測や、アップルに全フロアを使用するように提案があったということが原因だという噂も出ていましたが。

浅山:我々にお話をいただいたタイミングは、アップルストアが閉店したあとのことですから、どんなやりとりが行なわれていたのかわかりません。ただ、我々の契約においては、そうした話は出ていません。

約1,000点のソニー製品展示。札幌が最後のソニーストア出店?

――店舗の構成も福岡天神を踏襲するものになりますか。

浅山:構成は近いものになると思います。今、2階部分までの看板を撤去しているところですが、ソニーストアでは、ガラス張りの入口として、中が見やすく、入りやすい形にします。それとともに、雪対策として「風除室」を作ることになります。これも札幌ならではのものになりますね。また、フロアは木目調のものを考えているのですが、やはり雪を考えると滑りやすいものは駄目ですから、その点は検討をします。また、フロアに設置する展示台は、基本的には可動式のものにして、フロア変更を柔軟に行なえるようにしたいと思っています。

ソニーマーケティングジャパンの浅山隆嗣執行役員

 売り場づくりについても、基本的には、福岡天神の手法を踏襲しますが、札幌の地の利を生かして、αの魅力を、他の店舗以上に、もっと伝えていきたいですね。福岡はコミュニティスペースとしてギャラリーを活用するケースも多かったのですが、札幌では、写真をもっと積極的に展示したり、写真が好きな人に楽しんでもらえるようなスペースを作りたいと思っています。北海道は、これだけの自然に恵まれていますし、写真を撮影するにはすばらしい環境があります。被写体には事欠かない環境にあります。観光客だけでなく、地元に方々にも、もっと写真の楽しさを知っていただける環境があるわけですから、そうした方々に写真の楽しさをしっかりと伝えられる拠点でありたいと考えています。また、これから写真を始めるという方にも気軽に入っていただけるような店舗にしていきたいですね。写真を撮りたい、写真を見せたいという人に集まっていただいたり、活用してもらえる場にしたい。また、北海道在住のプロカメラマンにも使ってもらいたいと思っています。

 さらに、カメラのメンテナンスサービスもこまめに行なえるようにしたいと考えています。お預かりして修理をすると、その期間、カメラが使えなくなます。折角、札幌にソニーの拠点が出来るのですから、そうした対応策も積極的に考えていきたいですね。販売、セミナー、メンナテンスまでワンストップで提供し、とにかく、写真が好きな人に来ていただける場所にしたい。いまも、セミナーは支店で、毎週のように開催しているのですが、オフィスのなかですと、なかなか気分が盛り上げらないものも(笑)、ソニーストアで開催するとなると、やはり気分が違ってきます。スタッフも早くソニーストアでセミナーをやりたいといっています。そして、札幌での成功体験を、今度は、銀座や大阪、名古屋、福岡にもぜひ展開していきたいと思っています。

――ソニーストア札幌のマーケティングメッセージはなにか想定していますか。

浅山:まだ具体的なものはありませんが、「画」と「音」というのは外せない要素になります。体験型の店舗であり、新しい製品をいち早く展示することにもこだわりたいですね。αシリーズの場合、すべてのラインアップを展示することになりますし、レンズやアクセサリーもほぼすべての展示を行なう予定です。店舗全体では、約1,000点のソニー製品の展示が可能になる予定です。また、新製品も発表した翌日にはソニーストアに展示することになります。さらに、開発途中の製品も展示します。北海道の方々にも、いち早く、ソニーの新製品に触っていただく場ができます。

――ソニーストアの出店は、今回の札幌で終了になりますか。

浅山:札幌、東京、名古屋、大阪、福岡と5店舗体制になりますから、ひとつの体制が作られたと考えています。今後、新たな方針を打ち出すなかで、次の店舗を考えていくこともあるかと思います。

銀座の新ストア来店者数はソニービル時代の3倍に

――一方で、9月にオープンしたソニーショールーム/ソニーストア銀座の手応えはどうですか。

浅山:見やすくなった、広く感じるようになった、少ないフロアで見て回れるといった声が多く、その点でも手応えを感じています。数寄屋橋のソニービル時代に比べると、来店者数は、3倍という勢いです。もちろん、オープン直後ということはありますが、これまで以上に幅広い層の方々に来場していただいているという点も特筆できます。夫婦で土日に来店する方々や、ガジェットが好きな30代の男性層も増えましたね。土日は歩行天国になるのですが、銀座を散策しながら、そのついでに訪れる方や、1階、2階の日産自動車を訪れて、その後、ソニーストアに来られる方など、数寄屋橋のときとは異なる層の方々が訪れていることを感じます。

GINZA PLACEのソニーショールーム/ソニーストア銀座

 もちろん、今まで通りに、ソニー製品をご愛顧いただいている方々にも数多く来ていただいています。これは、銀座はショールームができて50年という厚みだともいえますね。オープンから1週間は新たなウォークマンとテレビに注目が集まりました。今後は、αの新製品も登場しますから、そちらにも注目が集まると考えています。

 また、新たなソニーストア銀座では、100型4K液晶テレビ「KJ-100Z9D」を展示したところ、その臨場感のある画質が話題を集めたのですが、「これは700万円です」というと一瞬引いてしまうのは事実です(笑)。しかし、その反対側には、100万円や75万円のテレビが展示されて、「あれならば手が届きそうだ」という話もでています。また、近くの量販店においても、「ソニーストアで100型を見てきたのだけど、こっちならば手が届きそうだ」と、100万円のテレビを購入していただいたケースも出ています。

 このようにソニーストアで新製品の良さを感じていただいて、購入するのは自分がよく行く量販店というケースも増えています。これは、ソニーストア出店による効果のひとつであり、札幌でもこうした動きが出ることを期待しています。

100型の4KテレビBRAVIA「KJ-100Z9D」

――今後のソニーストアはどう発展しますか。

浅山:ネットで商品の情報を掴んだ人が、実際の商品を見る場をどう提供するか。そこから購入に至るまでの仕掛けをどうするか。その点の精度を高めていく必要があると考えています。ソニーストアに来ていただくだけでなく、近隣の量販店にも来ていただき、活用するということも含めて、成果を積み重ね、これまでの取り組みを、ますます発展させていきたいですね。

大河原 克行

'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、20年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。 現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、クラウドWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、ASCII.jp (アスキー・メディアワークス)、ZDNet(朝日インタラクティブ)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下からパナソニックへ」(アスキー・メディアワークス)など