【調査会NEWS1036】(23.4.9)
■「山本美保さんに関わるDNAデータ偽造疑惑事件」意見書
この事件では平成16年3月5日に山梨県警が山本美保さんであると発表した山形の身元不明遺体について、体格や遺留品、遺体の状況などがことごとく別人であることを示しているのはすでにご存じの通りですが、警察の発表の唯一の根拠となっているDNA鑑定書はご家族の要望にもかかわらず非公開のままです。
そこでご家族・支援者は昨年11月11日付けで県に対し鑑定書の開示請求を求めましたが、同月22日付で県警本部長名不開示決定通知が伝えられました。これに対して1月18日、不開示決定を取り消すことを求める審査請求を県情報公開審査会に対して行いました。
その請求について3月4日、県情報公開審査会から諮問庁(県公安委員会)からの「不開示理由説明書」の写しが届き、その文書に「反論があるときは意見書を提出して下さい」となっていたため、4月7日、山本美保さんの双子の妹である森本美砂さんが意見書を情報公開審査会に提出しました。意見書作成にあたっては法律家の会の小笠原忠彦弁護士のご協力をいただいています。
以下意見書を掲載します。なお、3月4日に届いた不開示理由説明書の写し等は下に掲載してあります。
それにしても、山本美保さんと山形の遺体が別人であることはもう誰でも分かっているのに、警察は何でいつまでもシラを切り通そうとするのか、若干の寂しさを感じます。
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平成23年4月7日
山梨県情報公開審査会 会長 濱田一成殿
意見書
審査請求人 森本美砂
審査請求人は山梨県公安委員会の提出した不開示理由説明書に対し以下のとおり意見を述べます。
第1 不開示理由説明書第3項以下の事実に対する認否
1 不開示理由説明書3項(1)の事実は認める。
2 同3項(2)の事実は不知である。
3 同3項(3)の事実中、平成22年11月22日付け、梨備―情五第54号により行政文書不開示の処分がなされたことは認め、その余は不知である。
4 同3項(4)の事実は認める。
5 同4項(1)の事実は認める。
6 同4項(2)アの事実中、第1段落の事実は認め、第2段落の事実は否認する。
7 同4項(2)イ(ア)の事実は否認する。
8 同4項(2)イ(イ)の事実は認める。
9 同4項(2)イ(ウ)の事実は認める。
10 同4項(2)ウの事実中、本件文書が甲府市内女性行方不明事案に関する捜査の一環として、山形県で発見された身元不明死体について、その身元確認のため、当該行方不明女性の双子の妹との姉妹関係の有無についてなされた鑑定であること、本件行方不明事件は、平成16年1月29日、審査請求人が外国移送目的略取誘拐事件として山梨県警察本部に告発し、同年2月9日、これが受理された事件であることは認め、その余は不知ないし否認する。
11 同5項の事実中、昭和59年6月4日に失踪した山本美保が、昭和59年6月21日に山形県遊佐町の海岸で見つかったご遺体であると山梨県警が発表したこと、この根拠になった資料についての審査請求人の主張は概ね認め、平成16年4月7日に審査請求人が同人の訴訟代理人立ち会いの下で本件文書を閲覧したこと、平成23年1月6日に再度、審査請求人、代理人、訴訟代理人の3者が本件文書を閲覧したことは認め、その余は否認する。
12 同6項は争う。
第2 審査請求人の主張
1 山梨県情報公開条例第4条の趣旨は、刑事訴訟に関する書類及び押収物については、刑事捜査及び公判維持の必要性、刑事被告人の権利、被害者および関係者のプライバシー権保護のために例外的に公開の範囲外としたのであり、それが情報公開の例外である以上、条例第4条の趣旨及び文言は制限的に解釈されるべきである。
2 刑事訴訟法第53条の2は、行政機関の保有する情報の公開に関する法律及び独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律の適用の例外を定めるものであり、例外である以上、ここに規定する「訴訟に関する書類」とは、厳格かつ制限的に解するべきである。
3 山梨県情報公開条例は、その第1条が規定しているように「県政に関し県民に説明する責務が全うされるようにし県民の県政への理解と信頼を一段と深めるとともに、県民が県政に関する情報を適格に知る権利の尊重に資することにより、県民参画の開かれた県政を一層推進することを目的」としている。
審査請求人が本件文書の公開を求めたのは、まさに山梨県情報公開条例の目的とするものと同一である。従って、原則として本件文書を山梨県情報公開条例により公開するべきであることは当然である。
4 問題は、山梨県情報公開条例第4条の規定の適用があるかどうかである。山梨県公安委員会は、同条の適用があると主張する。しかし、これは誤りである。以下、詳述する。
(1) まず、山梨県情報公開条例第4条は、「刑事訴訟に関する書類及び押収物について」は、この条例の規定は適用しないとしている。しかし、前述のとおり、本来、山梨県情報公開条例第1条の目的からすれば、本件文書は原則として公開されるべき行政文書である。それが例外的に同条例第4条により、公開されないとすれば、その第4条の適用については、厳格かつ制限的に解釈されなければならない。
(2) ところで、山梨県情報公開条例第4の趣旨は、刑事訴訟に関する書類及び押収物については、起訴前においては捜査の密行性が重要であること、関係者のプライバシーの保護の必要が高いことがあげられる。この点で、本件文書は形式的には起訴前の刑事訴訟に関する書類であると言えなくはない。
しかしながら、本件文書により、山形のご遺体と行方不明女性の双子の妹の姉妹関係について姉妹関係があり、昭和59年6月4日に失踪した山本美保が、昭和59年6月21日に山形県遊佐町の海岸で見つかったご遺体であると山梨県警が発表しており、捜査の密行性については本件文書に限っては捜査実施機関である山梨県警の公表により否定されていると言っても過言ではない。
また、関係者のプライバシーの観点からもプライバシーが侵害されるのは、行方不明女性及びその家族と山形のご遺体の家族やその関係者であるところ、本件文書の開示を求めている審査請求人は行方不明女性の双子の妹であるから、審査請求人に開示されたからと言って、行方不明女性及びその家族のプライバシーが侵害されることはない。
その上、本件文書は鑑定書であり、その鑑定結果が行方不明女性と山形のご遺体が同一であるとの結果である以上、これを公開しても山形のご遺体の関係者のプライバシーが侵害されることはありえない。
従って、本件文書が形式的には「刑事訴訟に関する書類」であったとしても、その例外の趣旨からすれば、本件文書は実質的には例外とする「刑事訴訟に関する書類」には該当しないと言うべきである。
(3) 捜査公判に関する国の活動は司法機関である裁判所により図られるべきであるとの理由について
山梨県公安委員会は、捜査公判に関する国の活動は、司法機関である裁判所により図られるべきであることを不開示の理由としている。
しかし、刑事についての司法警察活動は、都道府県公安委員会の所管の下で都道府県警察が行っており、司法機関である裁判所が刑事手続きの基本的な適正確保を図るのは原則であるが、山梨県民が県政に関する情報を適格に知る権利に基づいて、県政に関し説明を求め、県政においても県民の理解と信頼を得るために、情報の公開を行うことはこれと全く矛盾するものではない。
さらに、具体的な情報公開決定について争いがある場合には最終的には、司法機関である裁判所が判断することになるのであること、ことは山梨県情報公開条例4条の解釈の問題であって、個々の刑事手続きの問題ではないのであるから、この点についての山梨県公安委員会の主張には理由がない。
(4) 本件文書の性格について
本件文書は鑑定書であり、客観的かつ科学的で学術的な文書である。そこでは、客観的かつ科学的に正しい鑑定であるか否かが問題になるだけである。鑑定書が客観的かつ科学的に正しいものか否かは、公開されて他の専門家の分析を経る必要がある。従って、それが公開されることは、むしろ適正な捜査、公判に資することはあっても、それ以外に弊害が生じることはない。
現に、刑事訴訟法47条で厳しく非公開とされている起訴前の捜査記録も、これまで民事訴訟による権利行使のために実況見分調書や写真撮影報告書等の客観的証拠について、原則として代替性の有無にかかわらず、閲覧・謄写が認められてきた。しかも近年、被害者からの事件の内容を知りたいという強い要望に応えて、事件の内容を知るという目的のためにも客観的な証拠については原則として閲覧を認めるというより弾力的な運用が相当であるとして平成20年11月19日付で法務省の通達が全国の検察庁になされている。
このような起訴前の明白な捜査記録でさえ、客観的な証拠であれば、民事訴訟目的あるいは事件の内容を知るという目的のために刑事訴訟法上で閲覧が許されているのであるから、客観的な証拠である本件文書を被害者の遺族である審査請求人に対して公開することはまったく問題がない。この意味で、本件文書のような客観的な証拠は、一面で民事訴訟の追行や被害者が事件の内容を知るための文書であるとも評価できるので厳密な意味での訴訟目的のためだけの文書とはいえず、山梨県情報公開条例の趣旨や行政機関の保有する情報の公開に関する法律の趣旨から制限的に解釈すれば、山梨県情報公開条例第4条の規定する「刑事訴訟に関する書類」ではないといえる。
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