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2008年8月28日

まず日本政府が「再調査」を

※今日8月28日発行した調査会NEWS 677号に書いたものです。
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 前号のニュースに引用された新聞記事(下に掲載)にもありますが、政府(警察)は現在の
認定者以外に多数の失踪事件について拉致の可能性を認識しています。しかし現
実には9・17第一次小泉訪朝で曽我さんらが認定された後に政府認定されたの
は田中実さんと松本京子さんの2人だけ(他に警察断定が高敬美・剛姉弟の2人)
という状況です。

 これらからすると、誰が見ても政府が拉致事件を隠蔽していると考えるのが普
通でしょう。政府には少なくとも数十人の拉致が確実と思われるリストがあるは
ずで、10年ほど前には外電でも流れました。私自身記事を書いた記者さんに会っ
たこともあります。リストに記された名前は分かりませんが、その中にはおそら
く調査会の1000番台リストの失踪者、調査会ではまだゼロ番台だったり非公開だ
ったりする失踪者、あるいは調査会のリストにない失踪者も含まれているはずで
す。

 今、日本政府は北朝鮮に「再調査」を求めていますが、考えてみると、北朝鮮
に「再調査」させるより日本政府が日本国内に「(警察や外務省に対し)権限が
与えられた調査委員会」を作って、現在隠している拉致を明らかにすべきではな
いでしょうか。その方が北朝鮮のわけのわからない「再調査結果」を待つより遥
かに「進展」につながります。

 色々な状況から考えて、現在北朝鮮側は数人の拉致被害者については返す用意
があると思われます。問題はそれを日本政府が受け入れられないのではないかと
いうことです。たとえばその中に1000番台リストの人でも入っていれば「当事者
は刑事告発までしているのになぜ今まで認定すらしなかったのか」ということに
なります。北朝鮮も日本の政権を倒そうとするなら拉致を隠すより、未認定の拉
致被害者を出してしまうのが手っ取り早いのではないでしょうか。

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2002年12月5日付 福井新聞より抜粋

 「一九七四年か、七五年の夏だった。愛知県警からの連絡で、美浜の海岸に招集がかかった。北の工作員がボートで沖へ出ていくのを目の前で見ていた」
 福井県警の元公安警察官、西本(仮名)が重い口を開いた。心に引っ掛かっていたものを吐き出すような口調だった。
 西本ら数人は、波打ち際から数十メートルの砂浜に潜んでいた。沖からゴムボートが寄ってきた。一人の男が乗り込むと、静かに離れていった。
 「脱出するときは決まって朔(さく)(新月)の夜だ。真っ暗よ。あいつら何するか分からんぞ、と先輩に言われ恐ろしかった」。指示は出国確認だけ。手は出さなかった。沖で待機する小型工作船のものらしい「ウオーン」というエンジン音だけが闇に響いた。
 「北朝鮮の工作員は七○年代以前から日本への潜入と脱出を繰り返していた」と西本。公安警察はそれを把握し、彼らがだれと会うのか注視していたという。
 講師は「本庁の先生」と呼ばれていた。県警の施設で年数回開かれた北朝鮮関係の講習会。七九年か八○年には拉致がテーマに加わり、本部と各署の外事担当二十数人が参加した。場所、日時は極秘。四十歳前後の”先生”は警察庁警備局外事課三係から来た。
 西本はこの場で初めて拉致を知った。「福井、富山、新潟、秋田で事案があったと聞いた。鹿児島、宮崎も覚えがある。富山や秋田は失敗例だった。拉致とは呼ばず『工作員に連れて行かれた』という言い方だった」
 警察庁が現在、北朝鮮による拉致と認定している十件十五人のうち、七件十一人は七七年九月からの一年間に集中。富山では未遂事件も起きた。同庁はこれらの事件の遺留品、飛び交った暗号電波、手助けした人物の証言を分析。当時から北朝鮮による犯行との見方をしていた。
 「目的は日本語教育。北の仕業に間違いない」。”先生”の説明に西本は「小浜であれだけ山狩りやって、見つからないのはそういうことか」と納得した。

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2008年8月24日

メタボリック・ブルーリボンの会

以下は冗談として読んで下さい。

 22日の「大発言会」の終わった後の懇親会で救う会神奈川の川添代表らと話していて、ふとアイデアがひらめいたのですが、「体重90キロ以上、胴回り100センチ以上、体脂肪率●●パーセント以上」とか、基準を設けてしおかぜネットワーク参加組織「メタボリック・ブルーリボンの会」というのを作ったらどうでしょうか。

 時あたかも対北朝鮮制裁の一部解除が迫っており、状況によっては座り込みやハンストということも考えられないわけではありません。その場合のハンスト要員として、多少食べなくても大丈夫な(というか、多少食べない方が良い)人を投入する、まさに一石二鳥です。

 まあ、極めて不謹慎と言われるでしょうが、今後様々な事態が起こることが考えられます。この会は別として、一定の覚悟はしておいた方が良いと思います。

 ちなみに、上記の基準で見ると、私は一時期かなり危ないところまで来ていましたが、家での厳しい監視体制により、現在は幸い不合格(?)で、このところたびたび「やせましたね」と言われるようになりました。もっとも女房にそういうと「その人は目がわるいんじゃないの」でおしまいですが。

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2008年8月21日

東京の窓から

 先日東京MXテレビ(UHF14チャンネル)の番組「東京の窓から」で石原慎太郎都知事と対談(正確には知事が司会のインタビュー)しました。最近新銀行東京や東京オリンピック誘致の問題で色々言われていますが、もともと「100人以上が拉致されている」と言う発言をしたのは石原知事が初めてで、当時は救う会の役員だった私自身が「まさかそんなに多いことはないだろう」と思っていました。また、対談の中でも触れていますが、日米関係や戦後体制と拉致の問題については意見の一致するところが多く、自分自身参考になりました。

 特に私自身は宣伝等しなかったのですが、後から「見た」というご連絡を色々いただきましたので、再放送の方をお知らせしておきます。ご関心がありましたらご覧下さい。

 8月24日(日)14:05〜15:00

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2008年8月15日

やはり「再調査」など認められない

8月15日付調査会NEWS 672号に書いたものです。

 昨日(14日)午後4時から1時間、内閣府で日朝実務者協議の説明が行われました。政府側は中山大臣と斎木外務省アジア大洋州局長ら、家族会は飯塚代表他10名、救う会全国協議会が藤野会長他2名、調査会が私と真鍋副代表の2名でした。

 時間が限られていたため調査会からの質問は真鍋が一回行っただけでしたが、全体を通して感じたことは、率直に言って「こりゃだめだ」というものでした。斎木さんは「協議の中で『再調査』という言葉は使わず、『調査のやり直し』と言った」と言っていましたが、いずれにしても「調査」自体が馬鹿げた話で、拉致をしていった側が「誰を拉致したか調べる」などという話はどう考えても理屈に合わないでしょう。

 唯一認められるとすれば北朝鮮のメンツを保つということで、まあそれでも何人か帰ってくるなら一定の成果はあったと言うべきでしょうが、それなら「調査委員会の設置」も「調査の進捗過程」の通報も全く無用です。例えば30日の期限を切って、「余計な説明は無用。それまでに全員出すこと。そうすれば制裁の一部解除を行う。しなければさらに制裁を強める」というのならともかく、途中の過程など、どうやったところで全くの作り話に過ぎないのですから、相手の話を聞く方が無駄です。

 逆に問題なのは、今回の合意からすると、北朝鮮側が例えば「調査委員会を作った。委員長は誰で委員は誰だ」とか伝えてくれば、それだけで日本は制裁の一部解除に入れるということです(もちろん世論の動向を見てでしょうが)。最初に制裁解除があって、それに理屈を付けているだけと思われても仕方がないでしょう。ちなみに4年前のとき出てきた調査委員会の責任者(?)は陣日宝という名前で、肩書きは「人民保安省捜査担当局長」でした。この名前の読み方「チニルボ」は「進一歩」と同じで、これは韓国語で「一歩前進」という意味です。これは実務者協議の日本側代表にわけのわからないオッサンを連れてきて「誠済矢目留」という名前にして出すのと同じことです。

 相手が中山大臣と斎木さんのため、家族会の人たちもかなり言葉を自制していましたが、福田総理が拉致問題解決のために強い意志を持っているとか、政府が一体となってやっているという二人の言葉を信じた人はいないでしょう。私たちはなおのことですが、その言葉が逆に二人に対する不信感を強めたことは間違いありません。そして、秋に満足のいく結果(すべての拉致被害者の救出)が出る可能性はほぼゼロです。たとえ数人が帰ってきても、逆に大部分は棚上げ(再調査の継続などの言葉でごまかすのでしょう)になるはずです。

 「再調査」の細部などどうでも良いことです。政府は「救出」と言わず「帰国」と言っていますが、些末なことを大げさに言い、言葉をごまかして拉致問題の全体像を少しでも矮小化しようとしているとしか思えません。国民の側の本質を見据えた姿勢、建設的緊張感が欠かせません。だめなものはだめと、はっきり意思表示をしていくことが必要不可欠だと思います。

 ちなみに調査会では緊急に下記の通りインターネットを通じて公開生中継を実施することにしました。ぜひ、今大事なことは何なのか、耳を傾けて下さい。
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公開大発言会のお知らせ

8月11日、12日に行われた日朝実務者協議では結局「再調査」の進行に合わせて制裁の一部解除を行うことが合意されました。誘拐犯が「私が誰を誘拐したか調べてみる」というなどまるで話しになりませんが、さまざまな形で最後のあがきを続ける北朝鮮当局をここで取り逃がすことはできません。私たちは様々な立場の人々の声をより多くの人に知っていただくため、次のような情報発信の場を設けます。全国・全世界の方々に対するアピールを、ぜひお聞きください。また、東京近辺の方は公開収録にぜひご参加ください。

1、 日時 平成20年8月22日(金)18:30~20:30

2、 視聴方法
(1)インターネットによる全世界同時生中継
(株)ネットライブのホームページ(http://www.netlive.co.jp)からご覧になれます。
(2)生中継の公開収録
会場:UIゼンセン同盟会議室UIゼンセン会館2階会議室
(東京都千代田区九段南4-8-16 tel03-3288-3549)
 ※JR総武線、地下鉄有楽町線・南北線・都営新宿線市ケ谷駅下車3分 日本棋院斜向い
http://www.uizensen.or.jp/doc/uizensen/access.html
※参加費500円・どなたでも参加できます。

3、 内容 
(1)今回の日朝実務者協議などに対する意見の発表
(2) 米国のテロ支援国家指定解除に対する意見の発表
(3) 北朝鮮人権問題に関する意見の発表
(4) 北朝鮮核問題に関する意見の発表

4、 発言者
(1)調査会及びしおかぜネットワーク関係者
(2)関係家族
(3)関連NGO代表・専門家等
1人5~10分程度の発言を行う(海外からのメッセージも含め)
最後にアピールを採択する。

5、主催 特定失踪者問題調査会

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2008年8月13日

レフコウィッツ特使

 本日早朝発信した調査会NEWS 671号に書いたものです。そのご一応結果らしきものは出て、明日14日夕方に説明を受けることになりました。
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 今日瀋陽でどうなっているのかは良く分かりませんが、ともかくいい加減な合意であれば「再調査、そんなの関係ない」ということになると思います。何人かの名前が出ていれば家族に連絡が行くはずですが、分かっている範囲ではその兆しは見えないようなので、普通に考えればこれでご破算でしょう。もっとも日朝とも政府当局はそういうわけにはいかないので、玉虫色の合意に屁理屈を付けてごまかそうとするのではないか、要警戒です。考えてみれば実務者協議の11日12日という設定もオリンピックに目がいっている時期を選んだのかも知れません。昨日も国会前で自然発生的な座り込みに参加しましたが、またやらなければならない可能性もあります。

 ところで、アメリカのレフコウィッツ・人権特使が14日に来日して家族会・救う会と調査会に会うことになっていました。家族会が役員数人、救う会と調査会がそれぞれ1人程度ということで(私が聞いた話では)、一応時間は空けておいたのですが、昨日になってキャンセルの連絡がありました。

 実はこれは前科があり、レフコウィッツ特使は先月の24日にも来るといっておいて日程を空けたら、これも直前にキャンセルされました。まあ、あちらにはあちらの都合があるのでしょうが、結局は日本の扱いはその程度のことなのかも知れません。テロ支援国家指定解除が結果的にどうなるかは分かりませんが、北朝鮮が核をやめるつもりがないこと、人権状況を改善させるつもりがないことを分かっていながらとりあえず大統領が決断したということは、結局米国にとって核の傘も、人権意識も、そして日米同盟の重要性もその程度の認識である証拠とも言えます。

 さて、米国が頼りにならず、日本政府が北朝鮮と奇怪な合意をしようとしている現状をどうするべきでしょうか。結局日本国民の声でこの現状を変えていくしかありません。現状では政治が自ら決断することはあり得ませんが、国民の声がバックにあることによって必ず動かすことはできます。「北朝鮮に返させる」ではなく「北朝鮮から取り返す」に、政府の方針を変えなければなりません。

 ピンチの裏にはチャンスがあります。北は少なくとも数人は拉致被害者を返していいと思っているはずです。それが全面解決を阻むための術策であることは明らかですが、いずれにせよ必ず転機はやってくるはずです。

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2008年8月12日

宝島

Booktakarajima
 
 『別冊宝島 新・裸の自衛隊』で一人の予備自衛官として(結局拉致のことではありますが)、私のことを取り上げていただきました。私の記事以外のところは自分も知らないことが結構多く、参考になりました。特に私と同様取り上げられている陸上自衛隊東部方面総幹部広報室の佐野三佐は、10年近いおつきあいですが、本格的な映画のプロデューサーをしておられたというのは初めて知りました。映画を作っている話はときどき聞いていたのですが。全く防大卒に見えない(?)人で、自衛官としてもかなりユニークです。今度ぜひ見せてもらいたいと思っています。

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2008年8月11日

「再調査」など要らないのではないか?

8月11日付調査会NEWS 670号に書いたものです。

 再三書いていますが、政府は今日明日の日朝実務者協議で北朝鮮から何かの口約束を取り付けたことで制裁の一部解除に踏み切ろうとしているようです。

 報道によれば「北朝鮮による再調査の検証も重視する。途中経過の報告を求めるほか、関係者からの聞き取りなどを認めるよう北朝鮮に働きかける方針」(讀賣)とのことですが、2か月経って「再調査」の方法がどうとか言っているのであれば、そもそも「再調査」など求めても意味がないということではないでしょうか。実際、斎木外務省アジア・大洋州局長は家族会や救う会・調査会への報告の席で「(家族が再調査を)望まないならしなくてもよい」と言っていました。

 「再調査」に意味があるとすれば、ただ一つ、北朝鮮との間に何らかの合意があり、向こうから拉致被害者のリストを出させるのに、北朝鮮側のメンツが立つようにするということだけです。そもそも政府自身が「現体制下では(北朝鮮当局のある特定の部署により)拉致被害者の情報がしっかり管理されているだろうから、しかるべき人の『決断』さえ示されて『解決』に向かう方が、体制が転覆され大変な混乱状態の中でよりは、拉致被害者救出に現実として適する」(対策本部総合調整室長から認定者家族宛の手紙)と言っているます。私はその認識は間違っていると思いますが、それが正しいとしたら、問題は「しかるべき人の『決断』」にあるわけであって、再調査の方法をどうするかなど、何の意味もないことです。

 もちろん、巷間ささやかれている「何人かのリスト」を北朝鮮側がすでに官邸に提示しているなど、私たちの見えないところで何かが動いているならそれはそれで良いのですが、いずれにしても今回の実務者協議で「再調査の方法」を議論したりするなどナンセンスも甚だしいものですし、それで北朝鮮が「譲歩」したとして制裁一部解除などに至れば、これはまさに国民を愚弄したものと言わざるをえません。

 すでに「こうなったら座り込みでもするしかないのではないか」との話も出ていますが、今回に至っても北朝鮮が新たな拉致被害者の名前を出してこないなら、もう「再調査」など話題にもすべきでないと思います。そして制裁の一部解除どころか、さらに制裁を強めるべきです。もちろん「よど号」犯人の引き渡しなど取引材料にすること自体が問題外。政府は今自分たちのやっていることがどういうことなのか、しっかり考えるべきでしょう。

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危険な予兆?

以下、8月8日付調査会NEWS 669号に書いたものです。

 明日明後日の全国統一行動は「制裁解除反対」がメインスローガンですが、実際には米国のテロ支援国家指定解除が関心の中心になっているようです。

 しかし、ここにきて何かキナ臭い雰囲気が漂い始めています。それは同日に行われる2か月振りの日朝実務者協議を契機に日本政府が制裁解除に踏み切るのではないかという懸念です。すでに外務省はその線で動いているようですし(真相はやはり「藪の中」ですが)、官邸も制裁解除したくて仕方ないというところでしょう。

 そうすると、テロ支援国家指定解除自体がどうなるかは別として、北朝鮮が何かを出してきて、それを理由に日本政府が制裁一部解除に踏み切るというのは既定路線のようにも思えます。何を出してくるか。もちろん、斎木・アジア大洋州局長が言ったように「これから再調査のやり方について協議する」などというものでは国民世論が許すはずはありません。2か月のブランクに何をしていたのか、6月の合意はそもそも何だったのかという批判が集中するでしょう。「調査に日本の警察を入れる」などという合意も到底受け入れられるものではありません。残り1年の福田内閣にとってさらに袋小路に追い詰められる結果となることは目に見えています。

 そうすると世論をごまかせるのは北朝鮮当局が拉致被害者(今まで名前が出ていない人とか、自分で勝手に行った人とか)を何人か出してくるということしかありません。少なくともそれなしに「再調査」のやり方を詰めたとか何とかいう屁理屈でごまかすのであれば、これほど国民をばかにした話はないでしょう(もっとも斉木さんは「北朝鮮がリストを提示したことはない」と言っているのですから、それを真に受ければすでにばかにしていると言えないこともありませんが)。いずれにしてもこの動きは要注意です。

 そしてもう一つ申し上げておきたいのですが、私たちが「日本人拉致の問題だけをやっていてはいけない。北朝鮮の人権問題を取り上げなければならない」と繰り返し言っているのはこれらの術策を打ち破るためという、ある意味功利的なこともあるということです。

 もちろん、私は日本という大国の責任と誇りにかけても北朝鮮の人権問題に関心を持ち、その改善を目指すべきだと思っています。そしてそのための活動もしていますが、極めてテクニカルな意味でも、日本人拉致だけでやっていると、カード(人質)を持っているのは北朝鮮なので、主導権は結局握られ続けるということがあるのです。そこに取引の余地が生まれます。もちろん、取り返す(返していただく、ではなく)ことが喫緊の課題ですから、取引も時と場合によっては必要ですが、最終的にすべての拉致被害者を救出するためにはあの体制との妥協はありえません。

 その最終目的を達するためには取引という場に引きずりこまれないことが必要で、そのためには収容所や脱北者の問題など、北朝鮮の人権問題全般で押していくことが必要不可欠です。

 いずれにしてもこの数日が一つの山場です。本筋をしっかりつかんでおくよう、皆で注意していきましょう。

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2008年8月 3日

「再調査」はどうなったのか

本日3日付の調査会NEWS 666号に書いたものです。

 今日の「産経」には元山から最近脱北した人が「北朝鮮向け短波放送「しおかぜ」など外国放送を90%の市民が聞いている」との記事が掲載されていました。この情報は前にも聞いていましたが、あらためてその責任の重さを痛感しています。

 同時にふと思ったのは、「しおかぜ」の、特に朝鮮語放送では北朝鮮の体制転換についてことあるごとに放送の中で取り上げているのですが、多くの人が聞いているということが明らかになったら日本政府の「ふるさとの風」が「日本政府は北朝鮮の体制を変えようなどと思っていません。『しおかぜ』の内容はでっち上げです」とか言わないかな、ということです。もっとも、そう政府がいってくれればくれるほど北朝鮮当局は「きっとそうに違いない」と思いこむでしょうが。

 それは冗談として、ところで6月の実務者協議の「再調査」はどうなったのでしょう。もうふた月近くになります。

 私は前のニュースでも書いたように、北朝鮮側は何人かの拉致被害者(これまで「死亡」「未入境」などの発表をしていない人)の名前を色々なルートを使って官邸に伝えていると思っているのですが、六者協議の報告のときにも斎木さんはその説を明確に否定していました。

 もしそれが本当なら、6月の実務者協議で我が国は北朝鮮の口約束に乗せられただけということになります。それで一時は制裁一部解除を直ぐに実行しようとしていたのですから、政府の言ったことを信じるなら政府は国民を裏切ったことになります。もし名前が出ていて(北朝鮮は拉致のことに蓋ができるなら数人出しても構わないような状況にあると思います)、それを前提にした「再調査」、つまり形だけ調査したことにして出してくるというのであればもうとっくに出てこなければいけないはずです。

 政府はあの「再調査」が何だったのか、何時までに北朝鮮は答えを出すのか(これから再調査の仕方を北朝鮮と話し合うなどというのは問題外です)テロ支援国指定解除の問題や、中山拉致担当相就任に目を奪われることなく、冷静に全体を見渡すことが必要でしょう。

 次の「しおかぜ」収録のときにはこの「再調査」のことに触れてみようと思います。

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2008年8月 2日

中山議員の拉致担当相就任について

※本日8月2日付の調査会NEWS 665号に書いたものです。

 中山恭子・総理補佐官が拉致担当相に就任しました。家族会の皆さんは概ね歓迎ということのようです。しかし私にはそうは思えません。敢えて警告しておきたいと思います。

 今回の人事は政府との一体化路線見直し(特に家族会の)に対するつなぎ止めのためのものです。もともと9.17の後中山さんを引っ張ってきたのは福田官房長官(当時)ですし、その当時から家族会と政府のクッションという役割が担わされていたのは間違いないでしょう。安倍政権から「居抜き」で引き継いだ内閣で、政府と救出運動の関係も一体化の路線が続いていたわけですが、先日の実務者協議などを契機にこの路線が変化し始めていました。

 今回の「中山拉致担当相」はその権限も明確でなく、物理的にもできることは極めて限られていると思います。ご本人が猟官運動をしたという話もありませんから、本人が拉致問題を自分の力で進展させるという思いでなろうとしたのではなく、福田政権への国民の風当たりを抑えるための風よけではないか、きつい言い方をすればそういうことです。

 中山さんの名誉のために言っておけば、その制約の中でも何とか事態を前に進めたいという思いがご本人にあったことは間違いないと思います。まだ「支援室」になる前の「中山参与室」と言っていた当時、私は救う会の事務局長でしたが、「始めて政府と同じ方向を向いて仕事をした」と感じたこともありました。そして、どんな話だったかは覚えていませんでしたが、補佐官になった後中山さんの口から、事態を前に進めようとすると後ろから弾が飛んでくるといったような趣旨の発言を聞いたこともありました。

 中山さんは今参議院議員ですが、補佐官を続けたままでしたから、事実上政治家としての仕事はほとんどしていません。基本的には官僚が議員バッジを付けただけです。ご本人のホームページもずっと閉鎖されたままで、政府方針を越えては拉致問題に関する自分の見解の発信もしていません。これまでの経過からすればおそらく今後もできないでしょう。

 安倍政権になったとき、家族会の人たちが「このときを逃したら拉致の解決はない。だから安倍政権を支える」という思いになったのは仕方ないことだったと思います。しかし、その「政府と一体」路線は結果的に失敗でした。安倍さんに本当に拉致問題を解決しようという思いがあったとすれば、その一体化路線自体が運動質的・量的低下を招き、結局は安倍さんの足かせとなったと、私は思っています。

 同じ過ちを犯すべきではありません。それは時間だけが経過するだけではなく、ずるずると制裁を解除し、拉致問題を棚上げして国交正常化に向かう路線につながります。一体化になっていればそのとき救出運動まで道連れにされる懸念もなしとしません。記者会見で中山さんは「全力をあげて帰国させるように努力していく」と言っています。やはり「取り返す」とは言っていません。その意味では政府の方針は変わっておらず、放っておけば今後も同様でしょう。

 中山さんが本当に全ての拉致被害者を救出したいと思っているのであれば、拉致担当相として力を発揮してもらうためには運動をする側は「支える」のではなく可能な限りの注文を付け、国民世論によって政府の方針を変えるようにしなければなりません。おそらく中山さんは直ぐに家族会の人たちと会ったり、政府が一所懸命やっていることをアピールするでしょう。特定失踪者のご家族にも会うかも知れません。しかし、救出へ向けての具体的な動きがないのであれば、それはまさに福田政権としてのポーズでしかありえず、認められるものとは言えません。

 せっかくの大臣就任に水を差すようなことを言えばまた各方面から嫌われるでしょうが、先日大沢孝司さんのお父さんも亡くなりました。時間の余裕はなく、国際関係の激変も予想されます。安倍政権のときの失敗を繰り返してはいけないと、切実に思います。

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